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Virtual World

1 :  :01/11/01 19:23 ID:YNenIrJD
シリアスな小説です。
とりあえず前編。

2 :- 1 -:01/11/01 21:01 ID:DWLVgY2L
-1-

 薄暗くて狭い密室。

 その中で繰り返される唾棄すべき行為。

 きっとここは仮想空間。

 全てが虚構で現実に存在する何かを溶かしていく。

3 :- 1 -:01/11/01 21:03 ID:DWLVgY2L
 人から発する熱で蒸された雄と雌の匂いがたまらなく臭いけど、その分カ
ラダを刺激する。
 降り注がれるのは”愛”と称した粘質液。

「好きだよ‥」
 男の乱れる息遣いの中からは価値一つない言葉。
 私にはそんな感情なんかカケラもない。
 でもこの感覚はたまらなく好きなんだ。

「あんたなんて、どうだっていいんだ」
 うっすらと目を開け、上下に揺れる汗まみれの男の額を見ながらつぶやいた。
だが、男の耳には届かなかったようで、その恍惚に埋もれた軟弱な表情を変
えはしない。
 終わりを告げる液体の生温さが下の感部から脳細胞に伝わってくる。

「最高‥だったよ。うさぎちゃん‥」

4 :- 1 -:01/11/01 21:07 ID:DWLVgY2L

 男はイモリのような顔をしてネバネバした声で囁く。黒ブチの分厚いメガ
ネをかけ直し、私の首筋に色の薄い唇でキスをする。私のはだけた小振りの
胸は未だに乳首がツンと立っていて、その先が男の胸毛に触れている。毛の
間から汗が浮いており、ぬるっとした感触は感じるというより気持ち悪い。

「ねえ、アレ言って‥」
 男は萎えたカラダを私から離してそう言った。淫猥に満ちたその目は常人
には決して理解できないほど偏屈している。
 私はすぐに何を言ってほしいのかがわかる。数分前に半分脱がされたきら
びやかなドレスを着直す。

 立ち上がり、ぐったりしている男を見下ろして、単二電池が2本入ったバ
ンダイ製の変な棒を振り回した。真ん中の赤色のライトが貧弱に光り、棒に
からは町内放送のようなくぐもった効果音が流れる。

「月に代わっておしおきよ!」

 私は1オクターブ高い声を男に向かって発した。
 男は絶頂の表情を見せた。
 さっきのフィニッシュの時よりも、明らかにイっている。

 変態だ。

5 :- 1 -:01/11/01 21:15 ID:DWLVgY2L

 ココロの中でツバを吐いた。
 もしかしたら、最初からこのセリフを言っていれば、何もしなくても仕事
は終わったんじゃないか。
 そう思うと、シーツにべっとりと付着した白濁液の生々しい匂いが鬱陶し
くなる。

 私は何人もの変態を知っている。こんなことをしていると様々な性癖の人
に出くわす。
 自分のペニスを全く見せようとせず、ただ大小さまざまなバイブで私をイ
カせようとするやつ。
 服を着せたまま、じっと見つめるように指示し、オナニーをはじめるやつ。
 逆にオナニーを強要するやつ。
 SMプレイ。
 制服プレイ。
 幼児プレイ。

 いろんな人のいろんな性癖に私は付き合ってあげる。

 ま、一番の変態は私なんだけどね。

6 :- 1 -:01/11/01 21:17 ID:DWLVgY2L

 ココロは幼い頃に憧れとして見つめていた遥か遠くの星へと消えていった。
 カラダはタールのようにドス黒く溶けていく。

 性の奴隷。
 そのニュアンスはあまりにも適しすぎていて、口に出したら笑っちゃいそう。

 引き裂かれそうなココロとカラダ。
 私はその乖離を求める。
 だってあの子が求めているから。
 私のカラダなんて、ホントは携帯電話の月額基本使用料より安いんだから。
 それを高値で買ってくれる人たちには感謝すべきことなのかもしれない。

7 :- 1 -:01/11/01 21:23 ID:DWLVgY2L

 私は手を差し出した。
「5万ね」
 男のダブついた腹や、汗でベトベトの髪の毛を見ると、私はこんな人間とヤ
ったんだ、と一応、相応の罪悪感を覚える。しかしそれは本当に一瞬で、す
ぐに水酸化ナトリウムに塩酸を混ぜたようにいつもの状態に中和されていく。

 男は脱いでいたズボンから財布を取り出した。フケが付着していそうなボロ
ボロの黒い財布だ。尻の形に合わせて歪曲になっており、四隅にはほころびが
見える。どう見てもブランド物ではない。その財布から2、3度、慣れない手
つきで枚数を数えて私に渡した。
 大抵の人間はこの動作を慌てながらする。それを全身裸でやるのだから滑
稽な光景だ。
「ねえ、最後に‥フェラして‥」
 ボソボソと伺うように男は言った。私がお金をしまい、自分の制服に着替
え終え、無香臭のデオドランドスプレーをカラダ中に吹きかけている時だっ
た。男は下腹がたるんだ醜い裸体を見せたまま懇願しているので乞食のようだ。

「いいけど、別料金だよ。プラス3万」
 乾いた声に男は少し驚く。
「でも‥まだ時間が‥」
「さっき、お金の受け渡ししたでしょ?だから、それで終わりなの。また何
かするんだったらまた新たなお客さんだよ。だからホントは5万なんだけど、
そこを3万にしてあげるって言ってるんだから感謝してよね」

8 :- 1 -:01/11/01 21:28 ID:DWLVgY2L

 私はさっき男が5万円を出した時、財布の中を覗きこんでいた。もう男に
は3枚の札しか残っていなくて、その一枚は間違いなく千円札だった。つま
り、男は3万円を持っていないことを知っていたのだ。

 本当は別にしてあげてもよかったんだけど、フェラはキライだ。
 私には何にもメリットがない。例の感覚に襲われることもない。
 感じる人もいるらしいけど、私の口の粘膜には性感帯がないようだ。それ
にさせられている最中は男の奴隷になっているようで、とことん後味が悪い。
同じ理由で騎乗位もキライだったりする。私が奴隷になるのは、”性”であ
って決して”男”ではない。

 もちろん、普通の時間にやってくれと言われるとやるしかないけど、極力
避けるようにしている。
 だから、3万円という請求は単なる拒絶の意だった。

9 :- 1 -:01/11/01 21:31 ID:DWLVgY2L

 この客のように未練たらしく「最後に‥」と言ってくるやつはたまにいる。
 客によってはカッとなって、襲いかかる奴もいることはいるが、この男は
抵抗しないだろう。経験よりそのタイプでないことはわかる。

 日常生活は臆病で、上司にもOLにも妻にもあまつさえ子供にもへりくだ
るような侮蔑すべき人種。分厚いメガネの向こうの何の力もない目を見れば
一目瞭然だ。

「じゃあ、いいや‥」
 悔しそうに半立ちのペニスを無意識に自分でしごく男。家に帰ったらまた
私の裸体を想像しながらオナニーでもするのだろう。
 いや、セーラームーンのビデオでも見ながらするのかもしれない。

10 :- 1 -:01/11/01 21:35 ID:DWLVgY2L

 なんて愚鈍な生物だ。
 人間という崇められるべき種に明らかに反旗を翻す性に囚われた野獣たち。
 臭い息を吐き散らし、精神が歪められた欲望に支配され、最重要項目とし
てその悦楽に溺れる。

 男の数時間後の光景を思い浮かべ、下らないことを妄想しちゃったと自分
を嘲る。

「本当によかったよ。また指名していい?」
「ごひいきに」
「名前‥何て言うのかな?」
 私は大げさなため息をついた。
 この男に限らず、ここに訪れる客はよく聞いてくる。こんな場であっても
あたかも私を本当の恋人にでもしたかのような錯覚を覚えているらしいのだ。
 名前を聞き、それを反芻し、”幻想”に近いこの場を”現実”のものに固
めようとしていく。人によっては架空の恋人として数少ない友達に触れまわ
るやつまでいるらしい。

「それも別料金だから」
「いくらなの?」
 男は財布の中に手をかけた。
「う〜んと、2万1千円」
 中途半端な数と1シーン前に刻まれた記憶の数字が頭の中で合致したのだ
ろう。男は札を出そうとする手を止める。そして、中を見ると予想通り万札
が2枚と千円札が1枚。ピッタリだ。
 と、男の考えていることは伝わってくる。

11 :- 1 -:01/11/01 21:38 ID:DWLVgY2L

 中身を見ていたんだ。

 そんな言葉を言いたげに男は私を見た。まるで詐欺にでもあったかのよう
に、情けなく眉を「ハ」の字にして、口をポカンと広げていた。私はその時
も別に勝ち誇った気持ちにはならない。余りにも哀れで、同情の目を男に向ける。

「ウソだよ。あんた指名する時に名前見なかったの?入口前にちゃんと書い
てあるから、帰りにでも見ていったら?」
 入り口には手のひらサイズのポラロイド写真が貼ってある。それを見て、
客は相手を選ぶ。そのポラロイドの下の余白には名前が一言添えてあるはずだ。

「いや、君の口から聞きたいんだ。1万あげるから‥」
 男は万札1枚を差し出した。あらためて侮蔑の念を込めて、私は一度肩で
息をする。そしてそれを人差し指と中指で強奪するように素早く受け取った。

12 :- 1 -:01/11/01 21:40 ID:DWLVgY2L

「サヤカ。上の名前は言わないよ」
「サヤカちゃんかぁ。いい名前だね」
 人の本質の中の汚い部分を凝縮したような笑みを浮かべ、私はゾッとした。
「ありがと」
「本名?」
「んなワケないじゃん」
「ま、いいや‥。サヤカちゃんは僕の2番目の好きな人になったんだから。こ
れからもよろしくね」

 2番目‥。なんか具体的だな。

 そっか、1番目は「月野うさぎ」か。

 昇格ありがとう。
 でもそんな地位はいらないから。
 できればもう来ないでね。

13 :- 1 -:01/11/01 21:45 ID:DWLVgY2L

 男が服を着始める。
 私の”偽愛”を受けたカラダを皺だらけのカッターシャツが包み込む。
 時間が迫っていない限り、大抵の人間はこの動作は鈍い。

 ある人は、幸せを噛みしめているのかもしれない。
 ある人は、奥さんへの背徳感を募らせているのかもしれない。
 ある人は、私のカラダの味を思い出しているのかもしれない。

 このただ立ち止まるだけの数分間。私の最もキライな時の一つだ。
 混沌とした感情の群れはひたすら私を刺激する。時にはカラダの外側
に表出する。

 目をつぶって、私はその内側からの猛攻に耐えた。
 そして、思った。
 私ってキライなことばかりやっている。

 いつまでこんなことを続ければいいのだろう?

14 :  :01/11/01 21:56 ID:DWLVgY2L
-1-(今回)>>2-13

1ヶ月前まではMSeekで主に書いていたんですが気まぐれでこっちに書くことに
しました。かなりある人の影響を受けてますがオリジナルです。
このままこの板で書ききれるとは思いませんが、よろしく。
当分、自己保全だろうな‥。   作者

15 :  :01/11/02 21:04 ID:kRbsk0Bj
じこほぜ

16 :- 2 -:01/11/04 04:26 ID:TznP0Q/o

-2-

「おつかれさま」
 今日一日の仕事を終え、この店のマスターが声をかけてきた。いつもあまり
表情を変えずに言うこの言葉には感情が欠落しているようで、最初はゾッと
したものだ。しかし、夜の猫のように妖しく光る目の向こう側の優しさを私は
知っている。”尊敬”なんて愚かな表現では決してないがそれに近いものを負
の要因ながら感じている。

17 :- 2 -:01/11/04 04:32 ID:TznP0Q/o
 マスターといっても女だ。周りには男がもちろんいるがみんなこの女の指示
を仰ぎ、従っている。なぜ、この女が一番の権力を握ることになったのかわか
らない。バックによほどの権力者がいるのか、それともこの女の過去に理由が
あるのかもしれない。どういう理由にしても私にとっては断じて脅威の対象で
はなかった。

 この店の名は”マリア”と言う。看板はおろか店の内部のどこにもそんな名
前は付いていない。”マリア”はこの店ができる前の小さなパブの名前のこと
らしい。名前に無頓着だったこの支配人は俗称としてこの店のことを”マリ
ア”と呼んでいるというワケだ。たまにパブと間違えて来る人もいたりして紛
らわしいから、「名前を決めたら?」と提案したことがあったが敢え無く却下
されたことがある。

「今日はどうだった?」
「いえ。別に‥」
「ははは、野暮なこと聞いちゃったね。ごめんごめん」
 ”女だから”と舐められたくないのか、この支配人は常に髪をリーゼントに
し、その髪の流れは常に固定されている。宝塚の男役に出てきそうな出で立ちだ。

18 :- 2 -:01/11/04 04:35 ID:TznP0Q/o
 この支配人は「ケイ」と呼ばれている。もちろん偽名だろう。その由来をさ
りげなく聞くと、
「男みたいでカッコいいじゃん」
と言っていた。

 口元にあるホクロを吊り上げるようにニヤリとする。本人は28と言ってい
るがきっと二十歳前後の年齢だろう。ケイは黒くて重い過去を背負っていると
いうような翳を持っていて、すごく大人びた風采だ。だから28と言われても
違和感はない。しかし、私にはその奥にある隠し切れない若さが見えている。
ケイが28と言い張るのは他人、特に働き手の私たちに舐められたくないため
だろうが少なくとも私にはバレバレだ。

「明日は入ってたっけ?」
 私は首を縦に振る。
「久々に連チャン。ケイちゃん、それぐらい覚えといてよ」
 親しみを込めてケイを私は”ちゃん付け”をする。最初は「気持ち悪いから
やめて」みたいなことを言っていたがまんざらでもないようで今は普通に受け
入れている。

「サヤカも随分、小慣れてきたわね。結構結構」
 ケイは成長した娘の姿を喜ぶような口調で私を誉めた。実は”サヤカ”は本
名だったりする。単純に他の名前で呼ばれることがイヤだったからなのかもし
れない。それとも、もしかしたら”サヤカ”という本名を捨てたい自分がいる
のかもしれない。
 この”マリア”はかなり人の流れは激しい。6ヶ月ももつ従業員なんて珍し
い。現に今、私より前に入っていた人たちは全員辞めているようだ。

19 :- 2 -:01/11/04 04:38 ID:TznP0Q/o

 ”マリア”は何でもアリのソープとイメクラを合体させた不法な風俗店だ。

 生や中出しは基本的にはノーとなっているが店のほうは黙認していて、それ
を知っている常連客は来るたびに思う存分出していく。
 客がフロントで相手の指名と要求プレイのリクエストをし、私たちはそれを
忠実にこなす。もちろんエイズチェックはあるが結構曖昧で、もし感染させら
れたしたとしてもあまり文句を言えない立場にある。
 客の種類も選ばない。どんなに酔っ払っていようが、バックにヤクザが付い
ていそうな容姿の人間であろうがケイを含めた店側は差別なく受け入れる。そ
のせいで危険はかなり高い確率で伴う。Sをあそこに塗られて、通常のセック
スでは到達できない頂点にイカされて頭がおかしくなった従業員も過去にはい
たらしい。
 こんな肉体的にも精神的にもリスクが大きい店なため、働き手はあまり長続
きはしない。こういう商売は得てしてそういうものなのかもしれないが、ここ
は特に従業員の入れ替わりが激しいところだろう。
 それに最近、外国人が多くなってきた気がする。あまり他人には興味はない
し、パッと見では日本人かそうでないか区別がつかない人種だっているので正
確なことはわからないがそんな気がする。
 客の大抵は日本人を選ぶ。理由は外人の免疫が少ないからということと、病
気を恐れているからだろう。外国の売春婦は実際に病気もちの人間が多いのは
事実だから仕方がない。

20 :- 2 -:01/11/04 04:43 ID:TznP0Q/o

 だから、純日本人の一人である私は結構売れっ子だった。
 他のお店で働いたことがないのでわからないが給料は高いと思う。相場は5
万だが、もっと吊り上げても構わない。それに店側にもいくらか払っているよ
うだから、客にとっては5万プラスアルファを最低用意しなければならない。
私はこんな商売に身を染めているせいでお金の価値に鈍感な方だと思うが、そ
れでも高いと感じる。

「別にお金に困っているワケでもなさそうなのにねぇ」
 ケイは私の身なりを見ながら呟く。こんな低俗かつ因果な商売をしていて、
決して派手になって、同じような子と遊び呆けたりしない。
 そんな私を不思議そうに見つめていた。

21 :- 2 -:01/11/04 04:45 ID:TznP0Q/o

 ケイ曰く、こういう店で働きたい人間のタイプは二つに分類されるらしい。
 一つは、ただ遊びたいだけの人。もう一つは、借金等で苦しみ、仕方なく働
く人。もちろん、遊びすぎて借金を作って働かざるを得なかった人もいるので、
その境界線ははっきりしているわけではないが、大方はその二つに分かれるら
しい。前者はどんどん派手になっていき、常におかしいくらいのブランドの服
や宝石を身につけ、遊びまくるため寝不足が重なりそれを隠すように化粧が濃
くなってゆく。後者はどんどん罪の意識が膨らみ、鬱に落ち込んでいく。顔が
やつれ、生きながら死んでいるような人間になったりするやつまでいるようだ。

 最初、ケイは私のことを後者の人間だと思っていたらしい。しかし、一向に
罪悪感に駆られていく気配を醸さない私を見て、それも違うと思うようになっ
たらしい。かといって贅沢に足のつま先から頭のてっぺんまでブランド物を纏
うような人間にもなっていないからケイは不思議に思っているようだ。
 私は街中を歩けば、普通の人から見れば、こんな世界のことなど知りもしな
い年相応の若者のはずだ。

「それじゃあ、私帰るね。今日は疲れた」
「アンタいつもそれ言ってんじゃん。おつかれ」

22 :- 2 -:01/11/04 04:46 ID:TznP0Q/o

 社交辞令に近い雑談を終え、帰ろうとした時に一人の女が”プレイルーム”
から乱暴に扉を開けながら飛び出してきた。
 その突然の音に私とケイちゃんは反射的に目を向ける。その女の子は上半身
裸のまま大きな涙をボロボロと流している。体躯の割に大きな胸。釣鐘型でつ
んと尖っている。その頂上には小ぶりの桃色の乳輪と立っていない乳首がある。

 私はその子を知っている。つい三日前に入ってきた新人だ。
 名前は何て言ったっけ?と思いながらポラロイドが貼られた壁に目をやる。
 ヒトミと書かれた汚い字がその子の下に書かれてある。
 ああそうだ、ヒトミだ。やけに臆病に「ヒトミといいます‥」なんて言って
た記憶がある。

「どうしたの?」
 ケイはヒトミの元に駆け寄り、心配そうに眉根を寄せながら言った。でも、
決してヒトミの身を案じて言っているワケではない。ああ従業員がまた一人減
っちゃうなあ、なんて店保身のことを考えているに違いない。
「だって、だって‥できませんよぉ‥」
 声を詰まらせながら、ヒトミはケイに訴えていた。

23 :- 2 -:01/11/04 04:47 ID:TznP0Q/o

 私は17だ。法律では18以上で風営法には引っかからないと聞いたことが
あるので18と言っても大丈夫だとは思ったが、念のため20とウソをついて
ある。もちろんこの営業の存在自体が不法なため、所詮は気休めにしかならな
いのだが。

 この子もココでは20と詐称しているだろう。実際は私と同じくらい、いや
もっと下かもしれない。すらっと伸びた肢体に、あどけなさの残る顔つきは将
来美人になることを確約しているようだ。そして、何といってもまだ性の混濁
としたものに毒されていないような純潔な瞳が一番私の目を奪う。これは決し
て20過ぎの女性には出すことのできないティーンズ独特のものだ。

 ケイもヒトミが15、6であることをわかっていながら採用したに違いない。
この子よりもずっと大人っぽい私にさえ、私がまだ青臭い10代であることを
知っているかのような扱いをする瞬間があるくらいだからそういう識眼は優れ
ている人間だと思う。

「おい、何やってるんだよ!!」
 ”プレイルーム”の内側から太い怒声が飛んできた。慣れているとはいえ、
決して心地の良いものではない。声から判断すると筋肉質で強面のあんちゃん
ってところか。

24 :- 2 -:01/11/04 04:49 ID:TznP0Q/o

 私はイヤな予感がした。
 しかし、その予感に気付くのが遅かった。ケイは私の方をねだるように見て
いる。

 私は肩で息をついた。
「特別料金‥つけてよね」
「オッケー」
 ケイは右の親指と人差し指で丸を作りウィンクをする。私は持っていたバッ
グを投げるようにケイに預けて、その”プレイルーム”に入った。

25 :  :01/11/04 04:55 ID:TznP0Q/o
-1-(前回) >>2-13
-2-(今回) >>16-24

26 :名無し。:01/11/04 05:07 ID:Ce9WkjnV
ごち。

27 :ねぇ、名乗って:01/11/04 07:01 ID:Fq22iB5c
ふむ。
続編期待。

28 :名無しさん:01/11/05 07:05 ID:aWfyJKcp
保全

29 :- 3 -:01/11/05 21:55 ID:wpjB+Vf7

-3-

 1ヶ月近くも干していない硬い布団にくるまり、私は穏やかに眠っていた。
 誰かの声が揺らめきながら聞こえる。次元を超えた遠い世界から引っ張り出
されるような不思議な感覚だ。
 ワープとはこれの延長線上にあるものなのかもしれない。

「ん‥」
 抵抗とばかりに寝返りを打つも、徐々に目が覚めていく。
「起きよ〜よ〜」
 私のカラダを揺さぶりながら相手は父親とキャッチボールをすることを約束
していた子供のように幼稚に言った。
「もうちょっと寝かしてよー。昨日も遅かったんだから‥」
「この不良娘が。夜遅くまで何やってんだか‥」
 私は薄目を開けて、視界に広がる相手の顔をゆっくりと確認した。小さい顔
にあどけない輪郭が残る顔の上には、厚めの化粧がのっていた。アイラインや
精巧に造られた眉の形は完璧でそれが逆に違和感を覚えた。それに何といって
も日本人の気質の全てを消し去ったような鮮やかな金髪が西洋の人形のように
激しくカールされているのが目立つ。

30 :- 3 -:01/11/05 21:57 ID:wpjB+Vf7

「どっちが不良よ‥たまにしか帰ってこないくせに‥」
 目を擦りながらゆっくりと腰を曲げる。脳にまで血液が流れていき、脳細胞
が「起きろ」と命令してくる。
 そんな中、相手は極端なダミ声をあげた。

「すっごい、香水くさい」
 大げさに顔をしかめながら、鼻を抑えていた。
 私は異常に反応した。脳内の活性物質が急速に活動し、みるみるうちに目が
醒めていった。
「そ、そう?」
「強すぎ。布団にまで染みついちゃってるんじゃない?初めての香水?」
 鼻をつまんでいるため、くぐもった声になっている。
「そうだ、寝ぼけてこぼしちゃったんだ」

31 :- 3 -:01/11/05 21:59 ID:wpjB+Vf7

「私は洗濯しないからね」
 相手は呆れながら言う。
「自分でやるから。朝食食べた?」
「うん。ついでにサヤカの分も作った」
「ホント?サンキュ」
「だから早く起きて食べてってよね。学校行かなきゃ」
「食べとくから。私のことなんか気にしないで行けばいいじゃん」
「何を〜。それが作ってくれた人に言う言葉か?」
 茶目っ気たっぷりに睨みながら、小さいカラダを懸命に伸ばし、私の腕を
掴む。そして、布団からひきずり出した。

32 :- 3 -:01/11/05 22:01 ID:wpjB+Vf7

 私は今、この幼なじみのヤグチマリと同居している。
 年は私より一つ上の18歳。大学の1年生だ。
 マリとは物心がつく前からほとんど一緒に行動していて、私たちのことを知
らない大人には「仲の良い姉妹」とよく間違えられたものだ。

 とは言っても、この17年間、ずっと一緒だったわけではない。
 空白の年月を経て、今二人は一緒にいる。

33 :- 3 -:01/11/05 22:14 ID:wpjB+Vf7
 トーストエッグに温められた牛乳がテーブルの上に置いてある。朝から強い
方ではないので、この少量の朝食が丁度いい。

「牛乳入れてくれたんだ、珍しい」
 鼻に洗濯バサミをつけながら牛乳を温めているマリを想像してふっと笑った。
「だって、賞味期限ギリギリなんだもん。もったいないでしょ」
 マリは牛乳が嫌いだ。
 だから牛乳は一度買うと全部私が飲まなければならない。私も好きという
ほどではないので毎日飲むことはなく、大抵賞味期限ギリギリまで残ってしまう。

「マリは食べたの?」
 テーブルの上には一人分しかない。そして、洗い終えた食器が台所の横の簡
易食器置き場立てて並べられている。
「うん、もう行かなくちゃ」
「大変だね。大学生ってラクできるって聞いたことがあるんだけどなぁ」
 トーストの焦げたミミの部分にかじりつきながら何の気なしに言うと、マ
リは少し過敏に反応する。
「そういう学校もあるけどね。ヤグチんところは特別に大変」
 ”特別”のところを強調していた。マリはぷーさんのパジャマからお気に
入りのレモンイエローのワンピースに着替えていた。この服は”勝負服”に
できるほどかわいい。もし、サイズが合うのであれば絶対何回かは借りてい
ただろう。

34 :- 3 -:01/11/05 22:17 ID:wpjB+Vf7

 牛乳は砂糖がよく溶けていて甘かった。
 台所に目をやると凹凸に刻まれたまな板を置くところにスティックシュガ
ーが”L”の形をして置いてある。マリが半分だけ入れてくれたのだろう。
 朝の目覚めにはちょうど良い甘さだった。日常の何気ない幸せを一滴、ポ
トリと垂らしてくれたことに感謝しながら、小学生みたいに部屋をバタバタ
と行き来するマリを見ると、つい昔を思い出してしまう。

 私たちが疎遠になったのは決してケンカをしたからではない。
 年が一つ違うという運命上、必然だったのかもしれない。
 マリは背が小さく、今も145センチしかない。小学3年生の頃には身長は
私のほうが大きくなり、二人で遊んでいると周りには、私のほうが姉のように
見られ、それが段々マリにとってはイヤになっていったようだ。

 しかし、直接のきっかけはマリが中学生になったことだろう。学校が違うよ
うになってから1年間、私たちはほとんど会わなくなった。ずっと積もり続け
たマリの身長に対するコンプレックス、そして、中学生になって新しい友達が
増えたことで、マリは私から離れていった。

 私が中学生になった時、つまり1年後にはすっかり他人になった。
 廊下ですれ違ってもお互い無視した。幼なじみなんてたまたま近くに生まれ
ただけであって、時の流れによって容易に淘汰されていく浅薄な関係なのかも
しれない。
 若干12ながらにしてそう思ったものだ。

35 :- 3 -:01/11/05 22:20 ID:wpjB+Vf7

 再び、二人が近づいたのは私が高校を辞めてからだ。
 高校はサルでも入れるような私立を選んだ。同級生は授業を全く聞かず、ホ
ントにサルのようにゴムのように伸び縮みする髪の毛をいじったり、性に囚わ
れた視線の交換をし合っていた。
 高校一年の終わりごろになるとほとんど学校には行かなくなった。そんな中、
両親が離婚をした。もともと二人の関係は冷え切っていたし、私と二人も同等
なくらい冷えていた、というかお互い嫌っていたので何のショックもなかった。

 ただ、これは一つの転機になった。どちらに引き取られるかの選択を迫られ
た際、私は両者を拒絶した。二人とも顔が安堵の色に染まっていくのを見て、
ふふふと感情のない笑みがこぼれた。
 その後、私は二人が逆に青ざめるような要求を持ち出した。一つは絶縁する
こと、そしてもう一つは多額の養育費の請求。二人が青ざめたのは当然養育費
の方で私が二つの要求をゆっくり口に出す変遷で顔色がカメレオンのように変
わりゆく様はおかしくて仕方なかった。

36 :- 3 -:01/11/05 22:22 ID:wpjB+Vf7

 結局、二人は私の要求を承諾した。
 私は家を飛び出し一人暮らしを始めた。
 それから二人が私の生活に介入することは今まで一度もない。当然通うこと
に何のメリットもなかった高校も辞めた。
 私は少し大きめのマンションを借りた。二つ部屋があってベランダも台所も
広い。バスとトイレは当然セパレートで、リッチな大学生あるいは同棲したい
学生が住むようなマンションだった。

 半年間は絶縁金がしっかり振り込まれたがそれ以降はなくなった。しかし、
それも私の予想の範疇で何のムカつきも感じなかった。訴えたらいくらかは分
捕れそうだったが質面倒くさかったので結局しなかった。それに元々、テレク
ラなどの非合法バイトで結構お金を稼いできていたので、何とかなると思って
いた。

 そんな時、マリはどこから情報を仕入れてきたのか、ひょいと現れた。

37 :- 3 -:01/11/05 22:26 ID:wpjB+Vf7
 唖然としていた私にマリは「よお」とまるで昨日まで毎日会っていたかの
ように、軽い調子で私に呼びかけた。そしてすぐに「しばらく泊めてくんない?」
と言ってきた。それはあまりにも自然で私も「うん」と言ってしまった。

 昔のマリとは外見が随分昔とは違っていた。
 優等生タイプで黒い髪をショートに決め、ほとんど髪型が変わることがなか
ったマリがパーマをかけて、金に染め上げているという事実を目の当たりにす
るだけで驚きだった。

 しかし、マリが今大学生だということを知って、中身はあんまり変わってな
いんだ、と察した。私と違い、ちゃんと高校も卒業して、ちゃんと受験勉強し
て、ちゃんと大学に行ったのだと。人の道の一番真ん中をちゃんと進んだ人間
なんだ、あいかわらず優等生なんだ、と。

 冷静に考えると、外見は変わるのは当たり前だ。金髪の大学生なんて‥むし
ろ黒髪のままの大学生の方が少ないのかもしれない。昔のイメージがあまりに
も強い私は違和感を拭えることはできなくても、「仕方ない」と思うように
なった。

 最初からの予定だったのかはわからないが、マリは結局「泊まる」のではな
く「住む」になった。家賃も半額になるし、それにマリは一度疎遠になったと
はいえ、別に喧嘩別れをしたわけでもなかったので、私は別にそれでよかった。

38 :- 3 -:01/11/05 22:27 ID:wpjB+Vf7

「じゃあ行くね」
 マリには大きすぎるベージュのハンプトンズ・トートバッグを右肩に掛け
ながら、牛乳を飲んでいる私に声をかけた。

「今日何時に帰ってくる?」
 私は大した意味もなく聞いた。
「今日?う〜ん、予定あるからどうなるかわかんない。御飯だったら作らなく
ていいよ。適当に食べとくし」
「彼氏んとこ?」
「まあね」
「いいなぁ〜」

 マリは不思議そうに目をパチクリさせた。そしてすぐにちょっとだけ嘲笑す
るように唇の端を歪めた。
「ホントはそんなこと思ってないくせに」
「へへへ‥」
 私は見透かされたことが恥ずかしくて慌てて目を下にやり、少し焦げ付いた
トーストをほおばる。
「じゃ、行ってくる!」
「ってらっさ〜い」
 トーストを口に目一杯含みながら私はマリに手を振った。

39 :- 3 -:01/11/05 22:28 ID:wpjB+Vf7

 扉が閉まる音を聞いて、私は「彼氏か‥」とつぶやく。

 私たちは幼なじみかつ同居人だが、お互いの生活をよくは知らない。
 私が今のマリについて知っていることは、文学部の1回生であること、彼氏
がいること、マリ以外の家族は仕事の関係で京都に住んでいることぐらいか。
とはいえ、それらでさえも表面上のことにすぎず、学校で具体的にどんな講義
を受けているのかとか彼氏がどんな人間だとかはわからない。少なくとも彼氏
の写真ぐらいは見せてほしいものだけど、「見せて」と言っても見せてくれな
かった。結構な秘密主義だ。

40 :- 3 -:01/11/05 22:30 ID:wpjB+Vf7

 でもこれは私にとっても好都合だったりする。私が今やっている仕事を言う
必要がないからだ。別に頑なに秘密としているわけではないが言わないで済む
ならそれに越したことはない。
 だからもし何らかの形でバレたとしても、私の表情が変わることはないだろ
う。
 「それがどうかしたの?」で終わり。

 それでマリが「不潔」と罵るのならそれでも構わない。

 私たちはそんな関係なのだ。
 一度離れた二人はもう昔とはどこか違っていた。表面上は近くにいる二人だ
けどその実、全然違う世界で生きている。今はただ方向の違うベクトルがたま
たま交叉しているだけなのかもしれない。

41 :- 3 -:01/11/05 22:32 ID:wpjB+Vf7

 昔は今とは対照的に何でも話した。
 今日見た夢だとか、クラスであったこととか下らないことから真剣な悩みま
で包み隠さずマリに話した。
 マリもそうだったと信じたい。
 だから、マリだけが知っている私の事実は星の数ほどある。

 再会した時、その夜にマリはいろんな昔話をしゃべりはじめた。自然隆起し
た二人の間の障壁を壊そうとする思いが最初はあったようで、楽しかったこと、
嬉しかったこと、悲しかったことを楽しげに話しあった。
 私がどうしても思い出せないこともペラペラと喋りだすマリを見て、驚くと
ともに嬉しくもあった。

42 :- 3 -:01/11/05 22:38 ID:wpjB+Vf7

 あの時、そんな話の流れの中でマリは思い出したように聞いてきた。

「サヤカは昔話していた夢をまだ見ているの?」

 私はマリが何を指しているのかはすぐわかる。だって再会の日の前日も見
ていたから。あの時はしょっちゅう見ていた。今思うと、あまり見なくなっ
たのはマリが来てからかもしれない。

「うん、しょっちゅう。でもよく覚えてるね」
「サヤカと語り合ったことは大体覚えてるよ」
「ありがと」
「じゃあ」
「うん?」
 マリは一つ間を貯めて言った。

「じゃあ、サヤカは絶対彼氏を作らないんだね」

「そういうことだね」
 私は素直にうなずいた。

43 :  :01/11/05 22:43 ID:wpjB+Vf7
-1-     >>2-13
-2-(前回) >>16-24
-3-(今回) >>29-42

レスありがとうございます。しばらくはひっそりと行くつもりですが、
よろしくお願いします。しかし、倉庫逝きってマジ怖いなぁ。

44 :1:01/11/06 03:27 ID:hTt0tc5o
http://www.idisk-just.com/fview/czkobBR_GOTZuCmfc58KL6hLn3UdbLMWCQbVFJrBVfZNn4bCsCxJN1nvW5Hui3QFspg7a86wGAGqHPn1MN1pRHj0WyLfuPCNOGYm9KyVL9o.mpg

45 :百合哉:01/11/06 04:01 ID:lQjMKDZm
面白いです。頑張ってください。

46 :ねぇ、名乗って:01/11/07 20:23 ID:vkUpuMyO
続き期待してます、保全

47 :ねぇ、名乗って:01/11/08 04:36 ID:sr+uTeK8
面白いですね。
下のほうにあったんで一応保全の意味も含めてage

48 :- 4 -:01/11/08 07:37 ID:LWzI/SV4

-4-

 マリが用意してくれた朝御飯を食べて、めざましテレビとエクスプレスをリ
モコン片手に交互に見た後、適当な小説とかを読み、また寝る。昼寝には少し
早い。”朝寝”といったところか。こういうことは久しぶりだった。

 基本的にはマリが寝ている時間に私は働き、私が寝ている時間にマリは学校
に行くので本来顔を合わせるなんてマリの学校がない土日ぐらいしかない。
 何とか昔のような深い関係になろうとしたのか、マリは私が朝に無理矢理一
度起きることで一緒の時間を作ろうと提案した。
 この案はマリ自身には何の被害もないものだったのでなんて身勝手なことだ
ろうとは思ったが私はしばらくそれに従った。マリに依存している部分がどこ
かにあったからだろう。

49 :- 4 -:01/11/08 07:39 ID:LWzI/SV4

 とはいえ、このルールももう過去の遺物になっている。
 マリは彼氏ができ、朝帰りが多くなったからだ。帰らない日もできた。
 土日ぐらいいてくれてもいいとは思うのだが、そんな私のささやかな願いは
全く届かずにマリはほとんど彼氏のところにでかけている。もうこの家はマリ
の寝床程度にしかならなくなっていた。

 だから今日みたいにマリが起こすのはたまにしかなく、目を開けるとマリが
いると、なんでマリがいるの?とさえ思ってしまう。たまたま実行される約束
に、活動を休止していた私のカラダは否応なく付き合わされる。
 本当はマリの気まぐれのルールなんて付き合う必要はないのだが、なぜか妙
な義務感に駆られ、マリの言うとおりにしてしまっている。

50 :- 4 -:01/11/08 07:41 ID:LWzI/SV4

 私は風俗以外に、カラオケボックスでバイトもしている。
 こっちはいたって健全でただフロントに立って、客を部屋に入れるだけ。大
した刺激も何にもない。大抵は昼の1時から入って6時まで働き、それから漫
画喫茶やインターネットカフェで時間を潰してから”マリア”へ行く。収入的
には、ほとんどお小遣い程度しか稼げないのでやらなくてもいいのだが、私は
どうしても辞められなかった。どこか違う世界に身を置いておきたいという気
持ちがあるからだろう。

 しかし、今日はそのバイトもなく眠ることに時間を費やした。
 私は半分夢を見ることを期待した。

 昔は毎日のように見た甘い匂いと身の毛のよだつ恐怖を含有させた夢を。

51 :- 4 -:01/11/08 07:43 ID:LWzI/SV4

 目が覚めたのは太陽が沈みかけた午後5時だった。この部屋の西にある唯一
の窓からオレンジ色の陽射しが布団と私を穏やかに突き刺し、私にとっての一
日の始まりを告げる。
 天国に誘われたような錯覚を覚えながら私は目を覚ました。
 頭を2、3度振って、夢を思い起こして見る。
 しかし、何にも浮かばなかった。

 今日も見なかったのかな?

 前に進むことができない自分の中身に向かってため息をついた。
 周りがシーンとしているところを見るとマリはまだ帰ってきていないようだ。

 そっか、彼氏んところだったっけ?

 昨日のマリの言葉をおぼろげに思い出しつつ、私はとりあえずシャワーを浴
びることにした。

52 :- 4 -:01/11/08 07:45 ID:LWzI/SV4

 戸張の降りた夜の道を私は歩く。スカイブルーのラムレザーに幾何学柄のブ
ラウスという派手でも貧乏臭くもない取り合わせで影を薄くする。化粧も当然
薄くした。
 アーケードがついている商店街を突きぬけると、一転して華やかな歓楽街に
出た。そこではこの質素な身なりはやや浮いている感じがしないでもないが、
私はこれ以上の派手な服をプライベートに着ることはしたくなかった。最近オ
リジナリティと称した奇抜な服を見ると吐き気さえ覚える。

 休息を忘れ疲弊した街を、非難するように足音を立てて歩いていると、その
先には閉まったヒットショップのシャッターを背もたれにして金髪を自慢気に
たなびかせる3人の男が私を見ていることに気づいた。私の足の爪元から頭の
てっぺんまでを吟味するように眺め、獲物とばかりに乾いた唇を一度舌で舐め
ている。
「今暇〜?」
 薄汚い橙色のヒップホップ系の服を着て、の〜んとした、ちょっとカッコツ
ケも入ったような口調でナンパしてくる。その時のヘラヘラ顔を見るとこいつ
らに顔の筋肉があるのか?と思ってしまう。
「仕事があるから」
 吐き捨てた感じで言い、寄ってくる男達をハエのように払う仕草をすると、
その手を一人の男ががしりと掴んできた。
「え〜、いいじゃん。さぼっちゃおうよ」

53 :- 4 -:01/11/08 08:04 ID:LWzI/SV4

 足蹴に断られたのが男のプライドに触れてしまったのか、少し恐喝めいた口
調で私に言ってきた。掴まれた手で一瞬苦痛を浮かべるがそれすら憎くなる。
私は大きく息をついた。

「いいけど‥ココで遊ぼうよ」
 そう言いながら掴まれていないもう片方の手でバッグを開き、名刺サイズの
紙を見せた。
「ココで働いてるの。安いかどうか知らけど楽しめるは確実だよ」
 その紙は”マリア”を紹介するチラシだった。”マリア”とも書かれていな
い、電話番号もないもので広告として成り立つのか?と思う。とにかく見れば
一目で風俗店の広告だとわかるもので、大した意味もなく私は一部だけケイか
らもらっていた。
 男は私の手を離した。
「な、なんだ、風俗女かよ‥」
 後ろと前から同時に舌打ちする声がする。
「寄ってく?5万からだけど。特別4万にしてもいいよ。相場制なんだ」
「いいよ。やめとく」

54 :- 4 -:01/11/08 08:06 ID:LWzI/SV4

 男たちはさっさと退散していった。
 その後ろ姿を見て私はまたふっとため息をつく。
 男ってそんなもんだ。
 しょっちゅう、風俗に行き、性欲を吐き捨てていくくせに、そこで働いてい
る人間を最低の中でもさらに最低な人間だと思っている。
 風俗に客として入る人間とそこで働く人間のどっちが低俗だろう?
 どっちも変わらないはずだ。

 別に認められたいなんて思っていない。
 むしろ逆だ。ひっそりとその底辺の世界に隠れて棲みたいと思っている。
 だけど、ココロの見えない部分から悔しい思いが滲み出る。

55 :- 4 -:01/11/08 08:08 ID:LWzI/SV4

 お店に着くと、いつも通りの薄暗い照明と一人の人間が迎えてくれた。
「おはようございます」
「おはよう、今日も時間きっちりだね」
 今日もハードジェルをたっぷりつけたケイが本物かどうか定かではないロレ
ックスをちらりと見て言った。
「今日はラクだといいなぁ」
 低い声で唸ると、ケイは途端に謝るような仕草をして、
「昨日は本当にごめんなさいね」
と妙におしとやかに言う。
 私もそれを言わせたくて言ったようなもんだ。
 それが単なる”フリ”の域を超えない仕草だとはいえ、言ってくれるのと言
わないとではやはりどこか違う。
「ホント、香水一本使っちゃったよ。経費で落とせない?」
「ははは、私がおごるよ。ああいう客はめずらしいからね。専門店でやれっ
つーの、ったく‥」
「でもお金は弾んでくれたからね。ところであの子は辞めたんでしょ?また
忙しくなるなぁ。早く新しい子、採ってよね。ちゃんと日本人のね」

56 :- 4 -:01/11/08 08:09 ID:LWzI/SV4

 ケイは少し気難しそうな顔をした。そして顔を横に振った。
「どうしたの?」
「辞めてないよ。ていうか今入ってる」
 親指を立てて、奥の部屋に指差した。
「マジで?」
「うん、何かとりつかれているように、『もう一度やらせてください』って頼
むもんだから。よっぽどお金に困ってるのかねぇ。とにかく私心配で心配で」
「心配そうじゃないじゃん」
「そりゃあ、だって‥」
 ケイは私の方をじっと見る。
 私はため息をついた。今日これで何度目のため息だろう、とココロの片隅で
思った。

57 :- 4 -:01/11/08 08:10 ID:LWzI/SV4

「‥じゃあ待機してるね」
「助かる!こんなことサヤカにしか頼めないから」
 つまり、もし何かあったら私が身代わりになるっていうことだ。

「ケイちゃんがやればいいのに」
 半分冗談、半分本気でポツリと言った。

「28にもなったオバサン、どうやったら代わりになるっつーのよ?」
「ケイちゃんは若いよ。磨けば‥そうだなぁ、ハタチぐらいには見える」
 ケイは一瞬目をそらした。無意識だろうけど鼻のてっぺんをポリポリと掻い
ていた。多分、ウソがバレたときの癖なんだろう。私はあえて無視する。
「ま、もうすぐ終わるから‥。大丈夫だとは思うんだけどね」
「とにかく、着替えてくるわ」
「うん」

58 :- 4 -:01/11/08 08:22 ID:LWzI/SV4

 私は一応支給されている上下ピンク色でミニスカートの服に着替えた。
 「一応」というのは、当然客のリクエストに応えるためにセーラー服を着たり、
ナースの服を着たりいろいろ変えるからだ。

 着替えを終えるとケイの隣りに女の子がいた。化粧のせいかで昨日や最初に
出会った時とは少し顔が違うようにも見えたが間違いなくその子はヒトミだった。

「ああ、無事に終わったんだ」
 私は安心して二人の元に駆け寄る。ヒトミはナイロン性の青い服に帽子を被っ
ていた。そして下はギリギリまで食い込み、恥部の形状がうっすらと見ているよ
うな特製の短パンだ。つまりは漫画で良く見る警察官の露出度が大きいタイプ。
こんな服、警察官は絶対着ないはずなのになんで男という種のイメージ上には
統一されて存在しているのだろう?

「ありがとう、サヤカ。無用の心配だったみたいだね」
 ケイはテーブルに両肘をつけたラフな態勢で言った。
「うん、じゃ心おきなく稼がせてもらうわ」
 トイレをしようと背を向けた時、
「昨日はありがとうございました」
と、ヒトミの高い声が響いた。
 私は振り返る。
「いいっていいって。フレッシュさんにはキツすぎる依頼だったからね」
 ウィンクをすると、もう一度ヒトミは深くお辞儀をしていた。

59 :- 4 -:01/11/08 08:24 ID:LWzI/SV4

 今日はいたって普通の日だった。
 普通といってももちろんやることはやるんだけれど、あんまりキチガイな
プレイを強要する人間はいなかった。
 最初の人間はただセックスして終わりだった。キライなフェラチオはあった
けどそれは仕事上仕方がない。私は別にそういう肉体の快楽が欲しくてやって
いるわけでもないし。
 次の人間は、短小包茎だったけど別に臭くはなかったし、フツーに終わった。
 3人目の人間はどうやら彼女持ちみたいで私のカラダを愛撫している時に告
白してきた。それを聞いていじわるく、
「彼女に悪いと思わない?」
と悪女たらしく侮蔑を込めて言うと、下半身だけ裸だった男はペニスともども
カラダ全体が萎縮した。
 私は最初この男はMでそう意地悪く言いまくることによって快感を得る人間
だと思ったので意外だった。必死でなぐさめていると、突然私に襲いかかって
きた。

60 :- 4 -:01/11/08 08:25 ID:LWzI/SV4

 がしりと掴まれた両肩の痛みに顔をしかめながら、逆上するタイプか?と思
い、レイプシーンに移行する流れを滑らかに想像したが、男は予想に反し、突
然の自分の行動を自分でも驚いているようにハッとし、押さえつけていた肩を
外し、
「ごめん」
と言ってきた。
「‥いきなり‥なんなの?」
 動揺を全身に浮かべ、息を乱しながら私は尋ねた。襲いかかってくることは
よくあることだったので実はそんなに動揺はない。演技をかなり加味していた。
「実はお願いがあるんだ‥」
 気弱な調子のまま、男は私に口を開いた。

61 :- 4 -:01/11/08 08:32 ID:LWzI/SV4

 どうやら彼女は普通のセックスしか許さないようで、体位もほとんど正常位。
そんな彼女に不満があったようだ。確かにそんな女、私が男だったらイヤだなぁ、
と思い、同情が小さいながらも生まれた。
 結局今日の目的はいつもと違うセックスをしたいということだったので、
69とかをやってあげた(これもキライなんだけど)。
 どっちにしろ、全部私が主導権を握っていたので、気楽だった。

 仕事を終えてシャワールームへ行き、カラダに付いた男の唾液や精液を洗い
流す。部屋から出るとヒトミが待っていた。
「どうしたの?」
 てっきり帰ったと思ったので、目の前に映るヒトミの姿を見て少し戸惑った。
それよりもこの世界の中で待ち伏せされるのは初めてだった。
「昨日は‥本当にありがとうございました」
 もともと伏せ目がちだった顔をさらに下げる。長い黒髪の先がヒトミの目の
前に落ちる。
「もういいって。お金もたんまりもらえたし」
 ヒトミの横をすれ違う。そして、震える肩をポンと叩いた。
「じゃあね」
「あの!」
 ヒトミは顔を上げ、振り返り背中越しに叫んできた。「何?」と聞く私に、
「御飯‥おごります‥」
と言う。

62 :- 4 -:01/11/08 08:34 ID:LWzI/SV4

 私は眉をひそめた。そわそわと落ち着かない表情には全体的にうっすらと赤
みを帯びている。
 私は同業者とはほとんど付き合いがない。そもそもヒトミを知っていたのも、
たまたまケイに用が会ってケイの部屋を訪れると、ヒトミが面接を受けていた
からだった。

「こちらは今度入ることになったヒトミちゃんです。みなさん仲良くしてやっ
てね」
なんていう馴れ合いはここではない。

 私の知らない間に、誰かが入り、名前も顔さえも見たことのないまま辞めて
いく人間だっている。
 御飯を食べに行くなんていうのは少なくとも私には論外の世界だった。

「別にいいよ。私あんまりココの人たちと付き合わないようにしてるんだ」
「でも‥私の気が済まないし‥」
「いいって」
「いやです」
 結構ガンコな子だ。そして、こういう子なら確かに辞めないかもねとも同時
に思った。
「わかった。じゃあおごってね。ちょっと用意するから待ってて」
 そういう主義ってだけで取り立てて理由も見つからなかった私は仕方なく付
き合うことにした。

63 :  :01/11/08 08:43 ID:LWzI/SV4
〜 -2-    >>2-24
-3-(前回) >>29-42
-4-(今回) >>48-62

保全、どうもです。2日いなかったのでどうかな?と思ってましたがほっとしました。
まだ序盤ですが長くお付き合いいただけたら幸いです。
ということで遅刻です(w(連続投稿規制め‥)

64 :ゆんそな:01/11/08 17:40 ID:ZIgHUWmu
面白いよ!頑張ってや!

65 :ねぇ、名乗って:01/11/10 01:36 ID:ZaXGWuHp

保全しとかなきゃね

66 :- 5 -:01/11/10 09:58 ID:iXYPpdN9

-5-

 時刻は朝の5時を過ぎている。
 この付近でこんな時間に空いているのは24時間営業の牛丼屋かラーメン屋
かコンビニぐらいしかない。
 私たちはあまり人がいなさそうなラーメン屋に入った。
 路地裏のさらに裏に構える”琥福”という名のこの店は夜の10時に開き、
朝の7時に終えるというヘンなお店だ。
 中に入るとやはり誰もいなかった。こういう隠れたところにある店は得てし
て「誰も知らないおいしいお店」「玄人が好む通な店」みたいに思われがちだ
が、そんなことはない。
 味も量も別に変わったことは何一つない。だから人が入らない。だから私は
好きだったりする。

67 :- 5 -:01/11/10 09:59 ID:iXYPpdN9

「嬢ちゃん、今日はめずらしく一人じゃないんだ」
 店長(といっても従業員は店長と奥さんの二人しかいないみたいだけど)が
私に声をかけてきた。
 私は客の絶対数が少ないこともあって常連扱いされていた。

「まあね、卵入り焼豚ラーメン2丁‥それに唐揚げつけて」
 人の金でおごってもらうというのにあまり遠慮せずに言った。ヒトミの方に
目を向けると、
「あの‥私、卵結構です‥」
とオドオドしながら言ってきた。

「キライなの?」
「いや、そうじゃないんですけど、毎日食べてるから‥」
「ふーん、おじさーん!一つ卵抜きにして!」
と叫ぶとカウンターの向こうで「あいよー」という威勢のいい声が聞こえてきた。
「これでいい?」
 そう尋ねると、ヒトミは無言のままゆっくりと頷いた。

68 :- 5 -:01/11/10 10:04 ID:iXYPpdN9

 別に明るいというわけではないが、”マリア”に比べればよっぽど照明が明
るいこのお店であらためてヒトミを見ると、そのかわいさにぞっとした。
 肌はまだプルプルしそうなほど弾力があり、化粧の必要性は全くなさそうに
思える。
 この子は私よりも年下で今までこういう世界には足を踏み入れるどころか見
ることさえ拒絶してきたに違いない。この子はきっと純粋培養の中で育ったの
だ。どこでどう間違って”マリア”に行き着いたのだろう?

 出されたラーメン(途中まで作っていたのかものの3分で持ってくる)を食
べる前にヒトミは背筋を伸ばして合掌し、
「いただきます」
と言った。

「本当にありがとうございました」
 ラーメンに口をつける直前にまたヒトミは言った。あんまり言うもんだから
私はウザったくなりつつあった。
「別にいいって。でもこれからはもう助けてやんないから」
「はい‥。頑張ります」
「まあ、あんなことは滅多にないから」
「だといいんですが。また同じことがあると、耐えられないかも。私あんなの
‥しないし‥」
「しないワケないじゃん」
「いや。人前ではできませんよ‥」
「その気になればできるもんよ、って食べ物食べながら話すことじゃないね」

69 :- 5 -:01/11/10 10:07 ID:iXYPpdN9

 ヒトミの代わりにプレイルームに入った時、なるほどね、と思った。
 想像したヤクザ風の兄ちゃんじゃなかった。ネクタイもきっちりした細めの
サラリーマン。年は28歳から32歳の間ってところか。軟弱そうなカラダか
らは想像のつかないような酷い神経を有している。
 ヒトミっていう純粋そうな子には決して耐えられないことだろう。

 エリート風の男が求めてきたプレイはスカトロだった。
 いろんなプレイはあるがこれはかなり理解出来ない部類だ。
 精液と糞のこびりついた部屋に私は辟易しながらもその男のリクエストに
従った。それからはあとくされなく終えた。
 しまりのある筋肉をビシッとしたスーツで纏い、高そうな薄いメガネを2、3
度かけ直す。皺一つない身なりと、何かに常に飢えているようなギラギラした目
から察するに、この男はエリートなのだろう。明日のニッポンを支えるような
人間がこんな最低の地で己の欲望に従順していく。そう想像させたことが一番
吐き気をもよおさせた。
 香水を目一杯かけてもまだ消えない糞まみれの異臭に私はできることならも
うやりたくない、と痛切に感じた。

 その一方で、久しぶりにココロとカラダが分離する悦楽に覚える自分がいた。
 このごろはあまり目的に進むのではなく慢性的に働いていたことに気付く。
 だから思い出させてくれたこの子に少しは感謝している。もちろん、礼を言
う気はないけど。

70 :- 5 -:01/11/10 10:17 ID:iXYPpdN9

 私は音を立てながら麺をすすった。しばらく食べるのに夢中で無言が続いた
がヒトミの方から口を開いた。

「あの‥なんであそこで働こうと思ったんですか?」

 この子なら絶対こういうことを聞いてきそうな予感を御飯を一緒に食べると
いうことになってから感じていた。ああいうところで働く理由は金と一元的に
決まるが、それが必要な根幹の理由は人によって様々だ。それはどれも究極的
で、他の人との理由とは共通点は少ない。

71 :- 5 -:01/11/10 10:18 ID:iXYPpdN9

「それって、何で数ある風俗店から”マリア”を選んだかってこと?それとも
何で風俗店で働いているのかってこと?」

 逆に意地悪く聞き返すとヒトミは少し困った顔をした。
「え〜っとどっちも‥」
 私は苦笑した。
「私あんまり自分のこと言いたくないの。ヒトミちゃんはわかるでしょ?」
「え?」
 きょとんとした目を私に見せる。その目は少しさっきまで働いていたせいか
淫靡の名残りを漂わせている。
「どうしたの?」
「え?いや‥はい、そうですね。わかります」
 ヒトミはドキマギしながら一度目をつぶったあと、静かに頷いた。
「私もあんまり言いたくないですから」
「じゃあ、なんでそんなこと聞こうと‥あ、わかった」
「はい?」
「ケイちゃんに聞いてこい、って命令されたんでしょ?」

72 :- 5 -:01/11/10 10:20 ID:iXYPpdN9

 ヒトミの掴んでいた麺が箸からスルリと落ちる。つゆがピチャリという音と
ともに弾け、ヒトミの手についた。しかし、ヒトミはそれさえも気づかない。
「正解か。ケイちゃんも姑息だね〜」
「いや。あの、それは‥」
「別にヒトミちゃんが悪いワケじゃないよ」
「ち、違いますって」
 その慌てっぷりからはどう考えても図星だ。
 私はすごく恨みったらしく言っているがそんなに嫌悪感はなかった。別にケ
イをイヤな奴だなんて思ってもいないしもちろんヒトミにもそうだ。
 ケイは私がどんな人間であるか興味をずっと持っていたし、いずれは聞いて
くる予感はしていた。
 まあ、こうやって間接的に聞いてくるとは思わなかったが。

73 :- 5 -:01/11/10 10:23 ID:iXYPpdN9

「簡単だよ。エッチが好きだから」
 私たち以外誰もいなかったから堂々と言った。店の人ももう次の客が来るこ
とをあきらめたらしく、中に入っていて姿は見えない。私が信頼されている証
拠でもある。
「それだって‥」
「それに何といってもお金がいっぱいもらえる。言うことないじゃん」
 私は唐揚げを一つ食べた。ヒトミはやや呆然としている。

「大抵の人間はそうじゃないの?ヒトミちゃんはどうなの?」
 ヒトミが「私は‥」と言ってから間が空く。カウンターの向こうの換気扇の
音が妙に耳に届く。
「ああ、別に言いたくなかったらいいよ。他人の動機なんてあんまり興味ないし」
 私は麺をすする。相変わらず、上手いともまずいともいえない味だ。
「じゃあ、なんであのお店に‥?」
「それは何となくかな?しいて言えば、ケイちゃんの人柄が好きだからかな?」
「え?」

74 :- 5 -:01/11/10 10:26 ID:iXYPpdN9

 ヒトミは驚いた表情を見せた。
 ムリもない。”マリア”で働きたい人間はケイとはまずあの暗がりの中での
対面する。吊り上がった猫のような目が色の付いた照明のせいで無気味に光り、
まず恐怖を覚える。そして、ちょっとドスの入った(これは作っているらしい)
声で再び恐怖を感じる。それにケイは一度こう脅す。

「カラダがどうなっても責任は取らないからね」

 多分温室育ち(私が勝手に決めたことだが)のヒトミにはただ怖い人間にし
か見えないだろう。

75 :- 5 -:01/11/10 10:30 ID:iXYPpdN9

「ケイちゃんって見かけによらず、お茶目なところがあるんだよ」
 さりげなくケイをフォローしておいた。今後あの店で働くためにケイのこと
を忌み嫌っているようでは仕事の内容がどうとか言う前に辞めてしまうだろう。
「そ、そうなんですか?はぁ‥」
 ヒトミは理解し難いといった感じで曖昧に頷く。
「ま、温室育ちのあなたにはわからないかもしれないけどね」
 さりげなくカマをかけてみる。
「そうですね‥」
「あ、やっぱりそうなんだ?」
「は?」
「結構、ヒトミちゃんって裕福に育った人間でしょ?」
「裕福って?別に私、そんな風に思っていないですよ」
「ヒトミちゃんて両親から愛されてる?」
「‥はい」
 一瞬作った翳と静寂をすぐに消しながらヒトミは頷く。
「子供の頃、クリスマスとかにプレゼントもらえた?」
「はい」
「お父さんとお母さん仲いい?」
「‥はい」

76 :- 5 -:01/11/10 10:32 ID:iXYPpdN9

 ヒトミの表情が少しずつ消えつつあることがわかった。目線が何かに押し潰
されそうになったようにどんどん落ちていく。
「ごめんごめん、やめよう」
 他人のことに興味はないと言っておきながら何質問しているんだろう?と思
い、これ以上質問するのはやめた。でもそんな矛盾に頭をかしげている心情を
ヒトミは感じることもなく、ただ無表情に私の喉元を見ていた。
「ま、まあでもそんなこと関係ないから。とにかく続ける気あるの?」
「‥‥」
「がんばれる?」
 無言で内部の葛藤と闘っているようなヒトミを今度は少し諭すように聞いた。
 ようやくヒトミは目線を上げた。
「はい。がんばります!」
 ヒトミに感情の息吹が吹き込まれる。
「そんなに気合入れなくてもいいって」
 耳元で大声をあげたので私は思わず自分の耳を抑えた。そして、ほんのちょ
こっとだけヒトミがあんなところで働く理由を知りたくなった。まあ、おそら
く両親が借金をしているからという典型的悲劇パターンだとは思うが。

77 :- 5 -:01/11/10 10:45 ID:iXYPpdN9
 ガラガラガラと私たちの後ろから扉が開く音がした。別のお客さんが来た
ようだ。どかた姿のおじさんと金髪の兄ちゃん。ココの近くで工事でもしてい
るのだろうか。
「おじさ〜ん」
 一向に店に現れない店長を大声で呼ぶと、目をしばたかせながら店長は現れた。
どうやら眠っていたようで少ない髪の毛が”ゲゲゲの鬼太郎”のようにピーン
と数本立っている。
「ごちそうさま」
 私はそのままお金を置いて、ヒトミを促して店を出ることにした。別に恥ず
かしいワケではないが、あんまりこういう人たちに注目されるのは気分がよく
なかった。
「サヤカさん」
 のれんをくぐってからすぐにヒトミは私の脇に肘打ちする。横を見るとヒト
ミは自分の財布を見せ、お札を出す仕草をした。私はヒトミにおごってもらう
約束だったということをすっかり忘れていた。少し赤面しながら手を差し出し、
1500円をもらった。

78 :- 5 -:01/11/10 10:48 ID:iXYPpdN9

 そのまま、私たちは別れることになった。ヒトミはしばらく”マリア”に働
くことになるだろう。でももうこういう風に食事に一緒に行くことはないだろ
う。私が誘うことは絶対ないし、もし誘われたとしても断るつもりだからだ。

「じゃ、さよなら」

 私は「またね」とは言わなかった。
「今度一緒に御飯食べる時は、本当の理由を教えてくださいね」
 私の心根を翻すようなことを、ヒトミは深くお辞儀をしながら言った。朝も
やの中晴れ晴れとした顔を見せるヒトミに対し、私は二度とないと決めつけた
食事の約束をされたようで「何?」と不快さを顔で表す。

79 :- 5 -:01/11/10 10:54 ID:iXYPpdN9

「だから、あの仕事をしている理由、もっと付き合いが深くなったら教えてく
ださい」
「何言ってんの?」
「私、何となくわかるんです。サヤカさんて本当は性を売り物にする人間じゃ
ないと思う。それにお金に執着があるとは思えないし」

 私は取り立て屋の兄ちゃんみたいに腹立ち半分に顔をしかめた。
「それって、ケイちゃんの言葉?」
「違いますよ。確かにケイさんは同じようなことを言ってましたけど、私もそ
う思ってました」
「そんなことないって」
「そんなことないです」
 ヒトミは”結構”ではなく”かなり”ガンコな人間だと修正した。私は一つ
息をつく。

80 :- 5 -:01/11/10 10:56 ID:iXYPpdN9

「わかった。じゃあ、今言うよ。だからもう外では会わないよ。もともとこう
いうのってキライなんだ」
「え?いいんですか?」
 朝がもうすぐやってくる。世界にとっての一日の始まりを見られたことが私
の口を軽くしたのかもしれない。
「一度しか言わないよ。私ね‥」
 ヒトミはツバを飲み込んでいた。2、3度大きくまばたきをしていた。

「愛のないセックスがしたいの」

 どこまで信じてくれたのかはわからないが、これは私の紛れもない本心だった。

81 :  :01/11/10 11:10 ID:iXYPpdN9
-3-以前    >>2-42
-4-(前回) >>48-62
-5-(今回) >>66-80

まだ展開が掴めない段階だとは思いますが、面白いと一人でも言ってくれて
嬉しいです。読んでる側としては「はぁ?」ってところだとは思うのですが。
ということで、また。

82 :- 6 -:01/11/11 23:46 ID:XAYedYgu

-6-

 夢を見た。

 不思議でもなんでもない、昔はいつものように見ていた夢だった。
 そして、それは私が待ち焦がれていた夢。
 私という人格を形成した大切な夢。

 登場人物は二人。
 私と私と背丈が同じくらいの少女。他の人間は今まで一人も出てきていない。

 この世界は永遠に私とその少女だけ。

 遠い彼方に少女がいる。次の瞬間消えるのではないかと思うくらい、存在
が薄い。だから私はまばたきをすることさえ恐れてしまう。
「なんで毎日出てくれないの?」
 私は少女の透明に輝く瞳に向かって聞いた。
 出会えたことの喜び。それとともに生まれる喜びの持続への欲求、消滅への
不安。

83 :- 6 -:01/11/11 23:50 ID:XAYedYgu

 真っ白な大地に真っ白な雲、そしてなぜか真っ白な空。
 空際がはっきりせずに、どっちが天でどっちが地なのか次の瞬間、見誤って
しまいかねないような白一色の不思議な空間。
 少女はその低く浮かんでいる真っ白な雲の上に座って、私を見下ろす。
 ネグリジェのような軽そうな白い服を着て、黒いはずの長い髪が空を覆う色
のない光に照らされて白く輝いている。少女はその髪を風にたなびかせて私の
方を見ながらフフフと笑っている。

「違うよ。サヤカが出て欲しくないって思っているからだよ」

 ポツリとつぶやく声は私の耳を介さずに直接脳に届いたような強い振動をも
たらす。
「私はずっと思ってる!だから!」
 涙腺が緩んだのか、目の前の光景がぐしゃりと歪んだ。
「ホント?」
「うん!」
 少女は背中には羽根があるのか、ふわりと宙を舞うように私の元にやってき
た。私と少女の距離は遠かったはずなのに、一瞬で私の目の前に現れた。

84 :- 6 -:01/11/11 23:51 ID:XAYedYgu

 白なのか透明なのか判断の難しい輝く肌が私を狂わせる。
 少女は口元を緩めるだけで無言のまま私を抱きしめた。一連の静寂の中、パ
サッという長い髪が一度宙に浮き、また落ちる音を抱擁に溶け込まれていく中で
聞きながら要求した。

「ね‥え。キスして‥」
「‥うん」
 少女は処女の匂いを浮かせながら、私の肩を一度掴む。目と目が合って、私
は更なる悦楽の境地に引きこまれる。

85 :- 6 -:01/11/11 23:54 ID:XAYedYgu

 そのまま少女は私にキスをした。

 柔らかい唇。私に巻きついた手。そして相手を通して感じる私の高なる鼓動。
 ココロもカラダも存在の全てを奪われていく。
 高揚しているのに羊水に包まれたような穏やかな眠りに身を沈めようしてい
る、そんな不思議な感覚。

「どう?」
 耳元で囁かれる甘くちょっと切ない声。
 私は「感じる」と素直にうなずいた。

 何のことはない。
 ただのキス。ただのハグ。
 私がいつもやっていることに比べればてんで薄い行為。

 それなのに私は感じていた。
 この子と最後までやったら、私はどんな境地に辿り着けるのだろう?

86 :- 6 -:01/11/11 23:57 ID:XAYedYgu

「‥お願い‥」
「何?」
「エッチしたい‥」

 柔らかい少女のカラダが一瞬だけ固まったような気がした。少女はその私の
願いを拒絶するように私から離れた。
「エッチはしたくない。カラダなんてキライだから」
 抑揚のない声がいつも私を絶望に突き落とす。少女は私を憎物の対象である
かのような蔑んだ目をする。
「でも‥今はキスしてくれた‥」
「別にキスしてないよ。サヤカがそう、勝手に妄想しているだけ」
「妄想‥って」
「だってココは仮想の世界だもん。すべてはあなたが勝手にイメージしてるだ
け。ホントはそんなもの存在していないの」

87 :- 6 -:01/11/11 23:59 ID:XAYedYgu

 じゃあ、その甘い旋律を残す不思議な声も目に映る透明な肌も、このキスの
感触も、触れたカラダの柔らかさも胸の高鳴りも、そしてこうやって性の律動
の感覚も全部ウソだって言うの?

 口に出したりはしなかった。しかし、そんな私の思考を全て見抜いたかの
ように、少女は莞爾として笑った。

「私たちを結びつけているのはココロだけ」

 再び少女は私を抱きしめた。優しくて柔らかくて、私の性感帯さえも揺さぶ
る。でもこれも少女から言わせると”ウソ”で、私が妄想しているだけなのだ。

 私は瞼に浮かんでいた涙を惜しまなく流した。無力に苛まれる涙だった。
「お願い、教えて。私はどうしたらいいの?どうしたらこんな気持ちから解放
されるの?」

 触れたい。
 感じたい。
 キスしたい。

 ココロからそう思えるのはこの子だけ。
 だけど、この子は許してくれない。
 その存在自体を認めてはくれない。

88 :- 6 -:01/11/12 00:01 ID:FPksArfp

「カラダはいらない。ココロが欲しい」
 少女は同じようなことを繰り返した。
 そんなの答えになっていない。だけど、私はうなずくしかなかった。

「せめて‥名前だけ教えて‥」
 私は聞いた。知っているはずなのにまた聞いてしまった。夢の中というのは
時間という概念すらなくて、思考その他、物事が全て輪廻するのだろうか?
 少女は微笑んだ。透明な光に抱合された微笑み。この笑みもウソだって言う
のだろうか?

 だとしたら、この夢の世界に真実なんていうものがあるのだろうか?

 そして少女はゆっくりと口を開いた。

89 :- 6 -:01/11/12 00:05 ID:FPksArfp

 目が醒めるとカラダ中汗まみれだった。まだ夏には早いというのに下着はぐ
しょぐしょに濡れていた。

 深呼吸してからおもむろにパンツの中を自分でまさぐる。汗とは違うねっと
りとした液体が手についた。その手を自分の鼻の頭に持っていく。

「やっぱり感じていた‥」

 少女に埋もれた私の存在が目に焼きついている。何らかの究極の形に思えた
ことも、こっちの世界にくると途端に自嘲に変わる。

 やっぱり私は日本一の変態だ。
 同性にでももちろん異性にでもない。アニメオタクのような2次元のキャラ
にでもない。

 私は無次元の少女に性欲を膨らませているのだから。

90 :- 6 -:01/11/12 00:10 ID:FPksArfp

 壁に掛けられている何の変哲もない時計を見ると、朝の9時を過ぎていた。
 物音が全く聞こえないところから察するにマリはもう学校に行った、もしく
は帰ってきていないようだった。

 自分の愛液の匂いが鼻を襲う。
 朝だというのに私は衝動が抑えられなくなる。ココロとカラダは離れられな
いことを再認識する。絶対あの子の願いは叶えられないと思う。

「ごめん‥」

 誰に向かって呟いたのだろう?
 自分でもわからないまま、カラダの疼きに任せてオナニーをした。
 全身汗だらけのカラダは異常に感じ、目の前のシーツを噛みながら何度も
喘いだ。

91 :- 6 -:01/11/12 00:15 ID:FPksArfp

 まだおぼろげに脳裏に残っている夢の中の残影を想起しながら、私は数分間
の悦楽に溺れた。

そして、

「マキ‥」

 最後に夢の中の少女が言った名前を、淫らに喘ぐ吐息に紛れて呟いた。

92 :  :01/11/12 00:21 ID:FPksArfp
-4-以前    >>2-62
-5-(前回) >>66-80
-6-(今回) >>82-91

呼び方が実際と違うのがつらいところです。

93 :あみ(略:01/11/12 01:22 ID:wJptOtj2
凄くいいですよ!頑張ってください。

94 :あみ(略:01/11/12 01:23 ID:XSl1VzH9
ごめんsage

95 :あみ(略:01/11/12 23:50 ID:g52ciUXi
保全

96 :ねぇ、名乗って:01/11/13 01:13 ID:VjyQdsPr
いちごまの新しい形か?

97 :名無し募集中。。。:01/11/14 01:28 ID:qkJbJF2o
(・∀・)イイ!

98 :あみ(略:01/11/14 13:19 ID:a3LoSKQ3
続き期待!

99 :名無し募集中。。。:01/11/14 16:07 ID:b+KwB1rh
今週号のフラッシュ見た?
真っ白な背景で撮られた後藤がむちゃくちゃここの後藤と似てるなと思っていたら、
【「純白」のバーチャル宇宙(ワールド)への誘い】
と書かれてました。
作者さん、スゲエ!!

100 :ねぇ、名乗って:01/11/15 14:29 ID:dlaOA0m3

そろそろ24時間保全
 

101 :あみ(略:01/11/15 16:35 ID:FG0bFrIq
まだかな〜♪

102 :  :01/11/15 20:37 ID:3HXrLIP+

少し悩んだのですが保全等してもらいたいのでレスします。
短くしたいのでレスが淡白になるでしょうし、気まぐれになるかもしれない
のでそこのところはご容赦ください。
>93-95 98 101 保全ありがとうございます。長めの更新ですがよろしくお願いします。
>96 元々いちごま系の人間ですが、今回はいちごまにはこだわないでほしいです。
>97 どうもっす。 >98 期待に添えられるようがんばります。
>99 元々後藤は白が好きとか言ってましたからね。現在壁紙です(w。
>100 あ、100‥。

103 :- 7 -:01/11/15 20:45 ID:3HXrLIP+

-7-

 マリはいなかった。

 テーブルの上に置いてあるものが私が寝る前に見たものと同じだったこと、
布団がきっちり畳まれていることなどから考えて、マリは帰ってきてさえいな
いようだ。
 そういう日もよくあるのだが、その時には大抵携帯に留守電、もしくはメー
ルが入っている。今回はそれすらなかった。

 まあ、メールを送ったのになかなか届かないということもあるので多分、そ
ういうことだろうと楽観視した。
 電話をしようとも一瞬思ったが、別に帰ってこないことが異常事態というほ
どでもないし、もしかしたら朝からいろいろヤっているのかも?と頭をよぎっ
たのでやめることにした。

 私はマリのいないモーニングをいつも通り、穏やかに過ごした。

104 :- 7 -:01/11/15 20:58 ID:3HXrLIP+

 マリが帰ってきたのは正午を過ぎてからだった。
 コンビニへ行って、鮭とシーチキンのおにぎりを一つずつ買って昼食を済ま
せたばかりだった。もう十分ほどしたら出かける予定だった。
「お帰り」
 目も合わさずに素っ気なく言う私に、
「ただいま」
と同じく素っ気なく返してくる。

 いつもと違いトーンが低かった。朝帰りという負い目でも感じているのだろ
うか。「遅いよ」と一言声をかけようとマリを見ると、その姿に違和感を感じ
た。そしてその原因が服装であることにすぐ気づいた。
 ほころびダブついたジーンズに白のジップアッププルオーバータイプのトレ
ーナー。
 ジーンズは似たようなものがいっぱいあるので何ともいえないがこの少し、
もさっとしたトレーナーは見たことがなかった。昨日の服装とは明らかに違っ
ていたし、何よりマリの好みには合っていないような気がした。
 おそらく彼氏のものなのだろう。全体的にマリのサイズより二周りも大きそ
うなサイズだった。

105 :- 7 -:01/11/15 21:06 ID:3HXrLIP+

 とにかく深く詮索することではないと思った。
 どう見てもまだ食事を摂っていなさそうだったマリに、
「お昼御飯作ろっか?」
と訊ねる。しかし、マリは「ううん」と言った。
「眠いし寝る」
「学校は?」
「今日は疲れたし休む」
「あっそ」

 淡々とした会話の中、すれ違うマリの顔を追う。どことなく沈んだ顔をし
ていた。

 彼氏とケンカでもしたのだろうか?
 単純な思考回路だけどそうとしか思えなかった。

106 :- 7 -:01/11/15 21:08 ID:3HXrLIP+

「じゃあ行ってきま〜す」
 支度を済ませ、隣りの部屋にいるマリに向かって声をあげた。私が出かけ
る時に、マリがいるなんてめずらしいことだったのでヘンな感じだった。

 返事はなかった。多分もう寝ているんだろう。
 昨日はオールナイトだったのかな?なんて下世話な想像もした。だけど具体
的な想像はしたくない。それは親とか姉妹とか近親のそういうシーンを見ると
激しい嫌悪を覚える感覚と同じなのだろう。
「今日は早く帰ってくるからね!」
 一応言ってはみたが、マリには届かなかったようで返事はなかった。

107 :- 7 -:01/11/15 21:19 ID:3HXrLIP+

 太陽がしっかりと大地を照らす時に歩くのは何て気持ちがいいんだろう。
 空気が夜よりも軽くて、歩くたびにカラダをふわふわ浮かせてくれている
ような感じがする。そして夜に行動することがどこか世の中を上から見てい
る神様からコソコソ隠れていることのように思え、恥ずかしくなった。別に
神様なんて信じているワケじゃないんだけど。

「おはようございま〜す」
と私は昼モードの笑顔で語尾の伸びた挨拶をする。
 向こうからも「おはよう」と返事が来た。
「今日も暑いねえ」
「ホントホント。でもココは天国だべ」

 赤い制服に紺のスカートを着た相手は笑っていた。
 背が私よりも小さくてちょっとだけ太っている、この春上京してきた女の子。
あまりに純粋すぎて年上なのについ子供扱いしたくなる。こういう子は私の棲
む世界とは無縁の子なんだろう。大体、オナニーとかをするのだろうか?
 そんなことを考えている自分に気づくと、私は自分の頭をゴツンと叩いた。
 昼モードにまだ完全にはなっていない。

108 :- 7 -:01/11/15 21:24 ID:3HXrLIP+

「どうしたの?」
 フロントに立つ女の子―名前はナツミという―が心配そうに聞く。私は慌て
て「なんでもない」と言った。
「今日もカッコいいね」
 肩口まで伸びた髪をまとめてバレッタで止めた髪型、耳に左右1つずつピア
スをつける。
 私は年以上に大人っぽく見せていた。一方ナツミは濃淡のはっきりしない田
舎臭い化粧をしていて子供っぽい。いや、もしかしたら化粧すらしていないの
かもしれない。

「サヤカって年下には見えないよ」
「私もナッチが年上には見えない」
 そう言うと一緒に笑った。ナツミは「ナッチ」と呼ばれている。自分でも言
っている。最初はヘンな感じがしたがナツミの無意識の自己主張なんだろう。
しばらくするとすぐに慣れた。

109 :- 7 -:01/11/15 21:26 ID:3HXrLIP+

「今日お客さん、いっぱい入ってる?」
 私は受付フロントの内部を覗いた。盛況だったらクリップが付いた伝票が所
狭しと並べられているはずだ。

「まあまあこれでも多い方やなぁ。カラオケブームも去ったからしゃあないわ」

 ナツミに尋ねると、フロントの後ろにある厨房から一人の女性が顔を覗かせ
た。この店の店長だ。髪の毛は基本的には黒くしなければいけない規則なのに
自分は金髪。そして、私たちには金髪を許さないという横暴な店長だ。

「ユウちゃん、もう来てたんだ」
「コラ!店長に向かってユウちゃんはなんや。”ちゃん”付けはやめぇや」
「じゃあ、ユウコ」
「それも却下。なんで17の小娘に呼び捨てにされなアカンねん」

 眉間に皺を寄せて、ユウコは頬を膨らませる。確か20代後半なはずだが年
に似合わず、綺麗というよりかわいいと表現するほうが的確だ。
「そんな顔してるとまた皺が増えるよ、ユウちゃん。もう三十路なんだし」
「オイ!まだ28や。何言うとんねん」
 振り上げる手を私はヒラリとかわし、
「じゃ、着替えてきま〜す」
と言いながら逃げた。

110 :- 7 -:01/11/15 21:31 ID:3HXrLIP+

「おはようございま〜す」
 ナツミの着ているのと同じ、赤色のはっきり言ってダサい制服に着替えた私
はあらためて、挨拶をするとそこにはナツミとユウコともう一人いた。
「お、カオリじゃん。ヒサブリ」
 160cmをゆうに超える長身で、幻惑的な黒い髪の持ち主の女性が見えて、
思わず声をかけた。
「久しぶり。元気にしてた?」
 カオリはどこか抜けている少女で年はナツミと同じ二十歳。そしてナツミの
幼なじみだ。ちょっと前まではよくこのカラオケ”三日月”(スナックのよう
な名前だけどいたって健全)で働いていたが学校が忙しくなったのか最近は月
に2、3回しか入っていない。その2、3回にたまたま私と被らなかったこと
で2ヶ月近くもカオリとは会っていなかった。今日も被っていなかったはずな
ので単に遊びにきたのだろう。

111 :- 7 -:01/11/15 21:36 ID:3HXrLIP+

「それよりさあ、これ見てみ」
と、フロントの下に設置されたモニターを指差した。
 ナツミもユウコもモニターを見ている。
「ちゃんと仕事してくださいよ」
 呆れる私に聞き耳を立てずにナツミもユウコも釘付けになっていた。
 ユウコはヨダレを垂らしかねないくらい卑猥な笑みを浮かべていた。
 ナツミは恥ずかしそうに、でも興味津々らしく顔を手で覆い、「いやだべさ」
と呟きながら、指の間からしっかりとその目はモニターを捉えていた。

「どうしたの?」
 モニターを覗く。そこには重なっている二つのカラダがあった。
 このモニターは部屋を監視するもので、全ての部屋につけられている。もち
ろん、声は聞こえないし、画面も白黒だ。
「ありゃあ、やってるね」
 私が普通に言うと、ナツミはこっちの方を見て、
「恥ずかしい」
と口を尖らせた。

112 :- 7 -:01/11/15 21:39 ID:3HXrLIP+

「しかし、こんな真昼間っからお盛んだね〜。サボリ学生かなぁ」
 ユウコが言うとナツミは、
「でもさあ、両方とも女だったような気がするんだよね」
と言った。
「マジ!レズ?」
 私は一瞬ドキリとした。そして、マキの曇りガラスのフィルターがかかった
顔を思い浮かべる。
 ナツミは立ち上がり、フロントに置かれている”ルーム表”を見た。この表
にはどの時間に、どれくらい、どの層のお客が入っているかを書くことになっ
ている。
「やっぱり、女二人だ」
 ナツミはそれを見るなり言った。
「女っぽい男だったんちゃうん?」
 モニターを凝視したままユウコは言う。男か女かはフロントの人が見て判断
するもので、当たり前だけど「あなたは男ですか?」なんて決して聞かない。
だから、男か女かわからない人種が増えている昨今、間違える時だって多々あ
るだろう。

113 :- 7 -:01/11/15 21:42 ID:3HXrLIP+

「う〜ん、そうかなぁ。確かに二人とも女の子だった気がするんだけどなぁ」
 首をかしげるナツミをよそにカオリは、
「おぉ〜、悶えてる悶えてる」
と、乾いた唇を濡らすように舌なめずりして言った。
「カオリもそんな恥ずかしいこと言わないでよ」
 ナツミが言う。その言葉すら恥ずかしいのか?と私は苦笑し、その純粋さに
少しだけ羨望した。

 白黒で顔とかはよく見えなかったが、やっていることははっきりとわかる。
下になった女の子は下半身を脱がされ、上半身も胸の上までまくられて、乳首
がツンと立っているのがうっすらと見える。

「結構乱暴な彼氏だよね」
 私は言った。
 上の男(ナツミは女と主張するがそうは見えない)は両の手首を乱暴に掴み、
下の女はイヤそうに首を何度も横に振っている。いや、そういうことが楽しい
のかもしれない。つまり男が典型的Sで女がM。
 イヤイヤと言いながら実はそうしないと萌えない人間たちだっているのだ。

114 :- 7 -:01/11/15 21:44 ID:3HXrLIP+

 男は女の下半身に顔をうずめはじめた。女のスレンダーな足が小刻みに痙攣
しながら宙に浮く。くびれた腰がはっきりと見える、かなりエッチな体型の持
ち主だ。

 ふとナツミを見た。イヤと言っていたナツミも結局はモニターを凝視してい
る。多分、彼氏もいないし、もしかしたらオナニーも知らない少女なんだろう
けど、もちろん性欲はある。
 今こうやって未知の世界を見るような視線を注ぐナツミの胸とかアソコとか
を触ってみたくなった。もしかしたら濡れているかもしれない。

115 :- 7 -:01/11/15 21:46 ID:3HXrLIP+

「しかし、汚らわしいよね。こんなコトして‥」
 ナツミは目は一点に集中させながら嘆息した。それを聞いて、隣りにいたユ
ウコはモニターを見つづけたまま、
「エッチは崇高なもんやで。愛するもの同士がその愛を確認するために行う神
聖なもんや」
と呆れ気味に主張した。

「でも‥」
「だから、それを売り物するのは許せんねん。この子たちはおそらくお互いが
好きなんやろう。じゃあ、すばらしいことや。汚らわしいなんてことは絶対ない」

 官能を堪能し、性情が血液の巡りを早めているはずのユウコから生まれる聖
性の水を浸したような言葉に私は小さな憧憬の念を抱いた。と同時にそれは私
のことを100%否定していることだったので、えらく胸を貫いた。

 もし、ユウコの保有する聖なる部分に触れたとしたら、私は跡形もなく溶け
てしまうだろう。そんな日が来ないことをひたすら願った。

116 :- 7 -:01/11/15 21:48 ID:3HXrLIP+

 ピンポーンと市役所や郵便局の窓口でよく聞くような間延びしたチャイムが
鳴った。これはお店の前の扉に設置されたセンサーで、自動扉が開く直前、つ
まりお客が来る直前に鳴るようになっている。
「はいはい、お客さん来たで」
 ユウコがパチパチと何度か手を叩いた。
「いらっしゃいませ〜」
 最初に言ったのは私でナツミが後に続いた。カオリは制服じゃないので、そ
そくさとフロントの奥にある事務室に入っていった。

 そして、ユウコは相変わらず客に構わず、モニターを凝視していた。

117 :- 7 -:01/11/15 21:52 ID:3HXrLIP+

 それからは近年稀にみる忙しさになった。
 別に夏休みってわけじゃないのに、平日昼間にこんなに客が入るのは珍しか
った。私がココを続けている理由の一つとしてラクなこともあったのに、この
忙しさが続くようだとやってられない。

 午後5時まで、私とナツミとユウコの三人でやっていく予定だったのだが手
が回らず結局カオリの手も借りることになった。後日談だが、ユウコはそこの
ところは義理固く、「いらない」というカオリを無視して、一日分の給料をカ
オリに手渡していたようだ。

 いつもは暇なので分業制ではなく、私たち4人でフロントでお客を部屋に入
れ、厨房でオーダーを作り、各部屋に持っていくということを全部しなければ
ならない。
 今日は基本的には私がオーダーを持っていく係りになり、いろんな部屋を飛
び回るようになった。

 ある時、オーダーを持って行き終え、フロントに戻った時に、「ありがとう
ございました〜」というナツミの声が聞こえ、反射的に私も、
「ありがとうございました」
とただ適当に言った。
 このセリフはもうほとんど条件反射だ。
「ナッチ、おつかれ」
 お盆を脇に抱えながら充足感を胸に爽快な汗を拭い、ナツミに言う。フロン
ト業務につきっきりでほとんど足を動かさなかったナツミも汗をかいている。
別に太っているからというワケでもない。

118 :- 7 -:01/11/15 21:54 ID:3HXrLIP+

「サヤカ、あれ」
 厨房に入ろうとする私をナツミは呼び止め、入口の扉を指差した。何?と言
うまでもなくその方向に目線を向けると出て行ったばかりと思われるカップル
の後ろ姿がガラス越しにあった。
「あのお客が‥どうしたの?」
「ほら、さっきモニターで見てた‥」
「あ、あのエッチしてた?」
「う、うん」
 ここでもどこか恥ずかしげにナツミはうなずく。どんな人間だったのかこの
目でちゃんと見てみたかったのでしまったと思った。だからといって追いかけ
て顔を見るわけにはいかない。
「どんなカップルだったの?」
「それがねぇ、やっぱり両方女だったよ」
「は?」

119 :- 7 -:01/11/15 21:57 ID:3HXrLIP+

 後ろ姿を見る限り、身長を含めて体格差があった。だから一度後ろから見た
だけでは普通の男女のカップルに見えた。
「ナッチって人を見る目ないからねぇ」
 私はあまりプライベートまでナツミと付き合いはなかったがそれは正しいと
思う。ナツミはおっとりとした性格のせいか洞察力が人より劣っている気がする。

「何だべさ、それ」
「ナッチ以外見てないの?」
「うん。ユウちゃんたち、忙しそうだったからね。厨房から呼べなかった」
「ふーん。ともかく片付け行ってきます」
「ちゃんと消臭して〜なー」
 厨房の奥からユウコの声が聞こえてきた。
「わかってま〜す」
 私は消臭剤を片手にエッチしていた部屋に行った。

120 :- 7 -:01/11/15 21:59 ID:3HXrLIP+

「なんやってん、今日は‥」
 ユウコのひどく疲れた驚き混じりの声。今日の忙しさを端的に表した言葉だ。
「大変だったねぇ。いやぁ、腰が痛い」
 自分でいれたインスタントのコーヒーを幸せそうに飲みながらナツミは言う。
 どうやら一段落したみたいで、休憩ルームで腰を落ち着かせる時間が作れた。
トラブルもほとんどなく、忙しいだけでその日は終わりそうだ。そして、今日
は夜の仕事がなくてホントに良かったと思った。こんなに疲れてるとまともに
多種のペニスの相手はできないかもしれない。

 カオリは時間がないらしく、つい10分前、一言私に声をかけたあと帰って
いった。
「”昼一”からあんなことがあったから不吉な予感はしててん」
 マイセンのスーパーライトをくわえながらユウコは言った。まだ火はついて
いない。

121 :- 7 -:01/11/15 22:01 ID:3HXrLIP+

「あはは、また来るかもよ」
「なんで?勘弁してほしぃわ。絶対、あいつらやでこんなに忙しかった原因は」

 忙しいのは嬉しいことなんじゃ?と思いつつも、口にはしない。
 ユウコはこういう人なのだ。お店の繁盛なんて願っていない。ただ、ラクに
暮らせればいいのだ。逆にこういうとこういう組織とか金欲にへつらわないと
ころが私は好きだったりする。
「変なカップルだったねぇ」
 ジッポのライターでタバコに火をつけるユウコ。特有の油の匂いが場を包んだ。
「うん、それにね、ホレこれ見るっしょ」
 ナツミはポケットの中から伝票を取り出す。
「あのお客さんの伝票?」
「うん、オーダー見て」
 すると、頼んだものはアップルジュース二つに、ゆで卵が6つと書かれてあ
った。
「ゆで卵6つ?卵は1日2個までやで」
 ユウコは健康志向の主婦のようなことを言う。
「うん、それにメニューにないベーグルまで頼んできたんだよ。そんなの普通
の店にあると思う?」
「変なお客さんだね、確かに」
 私は腕を組みながら首をかしげた。

122 :- 7 -:01/11/15 22:04 ID:3HXrLIP+

「ところで、ナッチ。なんでまた来るかもと思うん?」
 ユウコは聞いた。
「だって、これ忘れていったもん」
 ナツミがポケットから取り出したのは携帯電話。私が部屋を片付けている時
に見つけたやつだ。
「もしかして、例のカップルの忘れ物?」
 ナツミは小さく首を縦に振り、ふと気付いたように今度は首を横に振る。
「だからカップルじゃないべ。女の子二人だもん」

「ナッチが言ったことがホントだったとしても、エッチしてたんならカップル
だべ」
 タバコの煙を吐き出しながらユウコは”ナツミ語”を言った。

「真似せんといてーな」
 今度はナツミが頬を膨らませながら”ユウコ語”を言う。でもこっちは下手
だった。

123 :- 7 -:01/11/15 22:06 ID:3HXrLIP+

 携帯電話が鳴ったのはナツミがいれてくれたコーヒーを飲み干した直後だった。
 「ひゃあ!」とびっくり箱でも見たかのように驚くナツミ。発信源は手に持っ
ていたカップルの忘れ物だ。持っていたナツミがそのまま出た。

「はい、もしもし。あ、はい‥三日月です‥はい‥お預かりしておりますので
‥はい‥はい‥それじゃあ、確かに‥」

 電話を切るのを確認してから、私は聞いた。
「取りにくるって?」
「うん、今日はムリだけどあさってにだって」
「へえ。携帯をあさってまでほったらかすのか。めずらしい。あ、でもラッキー。
あさって入ってるや」
 私は好奇心に胸を膨らませながら言った。
「私も来なアカンなぁ、ゆっくりしてこようと思ってたのに」
 ユウコは私よりも興味津々に言った。

124 :- 7 -:01/11/15 22:10 ID:3HXrLIP+

「別にムリしなくていいよ」
「だって、レズカップルなんてそうはお目にかかれんで。楽しみやんか」
「来るのは一人だけかもよ。そうそうナッチ、その携帯の持ち主の名前教えて
よ。万が一ナッチがいなかったときに当人が来たら困るし」

 するとナッチはルーム表を見にフロントに走る。
「え〜っとねぇ、”ヨシザワ”さんだって、覚えといてね。おー、アレで16か。
大人っぽいなぁ」
「下の名前は?」
「書いてない」
「ふーん‥」

 聞いたことのない苗字だった。おそらく生まれてこのかた、”ヨシザワ”と
いう名前の人間と会ったことはないはずだ。

 しかし、なぜかその名前は脳裏に深く焼きついた。

125 :  :01/11/15 22:21 ID:3HXrLIP+
-5-以前    >>2-80
-6-(前回) >>82-91
-7-(今回) >>103-124

>102 のレスでいきなり文章が変だし。鬱だ‥。
ということで新キャラ登場です。

126 :あみ(略:01/11/16 00:10 ID:ZUR90CF4
お疲れ様です。楽しみに待っておりました。次章も期待しております。

127 :ねぇ、名乗って:01/11/17 00:12 ID:FInoYY40

24h経過保全
  

128 :ねぇ、名乗って:01/11/17 15:49 ID:Y8HiA35r
まってるよ

129 :ねぇ、名乗って:01/11/17 15:52 ID:sigMFM/S
さげ

130 :  :01/11/17 16:27 ID:TpiO28JI
>126 まいどです。”章”というほどでもないんですがね。
>127 ありがとうございます。
>128 はい。お待たせいたしました。
>129 ありがとうございます。sageてくれた方が嬉しいです。

というわけで更新です。

131 :- 8 -:01/11/17 16:28 ID:TpiO28JI

-8-

 ナツミと一緒に御飯を食べに行くのは初めてだった。

 基本的に私はカラオケのバイト仲間には隠している夜の仕事があったし、な
い日でもナツミと終わる時間が一緒になる日はほとんどなかったので、「じゃ
あ御飯一緒に食べない?」という流れになることはなかった。

 今日もナツミが6時上がりで、私は7時上がりと終業時刻は違っていた。
 しかし、6時に上がった時にナツミは「今日空いてる?」と私を食事に誘っ
てきた。レズ疑惑事件があったからか、今日のナツミは何かヘンだった。カラ
ダをソワソワさせ、フェロモンというのか無臭の匂いを出しているようだ。

 たまたま、夜は空いていたので断る理由も見つからずオッケーすると、ナツミ
は1時間タダ働きをしてくれた。ユウコは一緒に御飯に食べ行く私たちに対し
「いいなぁ」と羨ましげに呟いていた。

132 :- 8 -:01/11/17 16:31 ID:TpiO28JI

 私たちは近くの「びっくりドンキー」に入った。ちょっと雰囲気のあるファ
ミレスだ。そこで私は定番のチーズハンバーグ定食、ナッチはそれにプラスし
てミニパフェを頼んだ。

「今日はおつかれさま」
 すぐに出されたお冷やで私たちはカンパイをした。疲れていたのでアルコー
ルを飲みたい気分だったが、ナツミはもしかしたら、
「未成年だからお酒はダメ!」
と言う人間かもしれないと思い、自重した。

「ナッチは初めて?バイト仲間でこういうのって」
「うん、だから何となく嬉しいなぁ」
 ナツミは手に持っていた水を一気に飲み干した。中の氷がコップのグラスと
触れて、冷たい音を出す。勢いついでに通りすがった店員におかわりを申し出
ていた。
「ナッチってさあ、大学生だよね?学校行かなくていいの?」
 週に5回ぐらいも、昼に働いているナツミを前から疑問に思っていた。
「うん、だって暇だもん。バイトしてた方が楽しいし」
「そんなもん?私の友達に大学生いるんだけど、大変そうだよ。毎日学校行っ
てる」
「へぇ〜、そんなのめずらしいと思うよ。周りだって暇を持て余しているみた
いだし‥ってあんまり周りはいないけどね‥」

133 :- 8 -:01/11/17 16:37 ID:TpiO28JI

 自嘲気味にナツミは言った。
 ナツミは友達が少ないのだと察した。顔は結構かわいいし、男ウケしそうだ
が、何となく殻に閉じこまる性格のような気がする。

 出会ってから数ヶ月。
 未だにカラオケ店内以外では付き合いは皆無に近かった。店内ででもナツミ
は自分のことを話したがらないせいか、会話がどこか抜けている感じがしていた。

 ナツミはよく笑う。

 しかし、その笑顔はほんのちょっと付き合えば―バイト中だけの関係程度
でも―わかるくらい中身が何もなく、空っぽの嘆きを咆哮しているだけにも
見える。
 地方(たしか北海道の室蘭という田舎町)出身だし都会の目まぐるしく動く人
や情勢の流れにナツミは常日頃置いてけぼりを感じているのかもしれない。

134 :- 8 -:01/11/17 16:41 ID:TpiO28JI

 それとカオリの存在が大きいのだと思う。
 幼なじみとはそういうもので、依存度が強くなる分、周りに対して排他的に
もなる。
 私もマリという存在のせいで小学生、特に低学年の時代はそうだったような
気がする。
 私の場合は年齢が一つ違うこともあり、ずっと依存するワケにはいかなかっ
たが、もしそうでなかったらこんな風になっていたのかもしれない。

 別にナツミみたいにならなくてよかったとナツミを蔑んでいるのではない。
むしろ、ナツミみたいな純粋さを持っていたかったという方が私の本心に近い。
もちろんナツミの持つ”純粋さ”はそういう依存性から作られているワケでも
ないし、自閉的になるのはさらさらゴメンだが。

135 :- 8 -:01/11/17 16:45 ID:TpiO28JI

「サヤカ!」
 それは突然だった。

 チーズハンバーグ定食が二つテーブルの前に置かれ、一応上品ぽく、ナイフ
とフォークを器用に使っている時に、ナツミは大きな声で切羽詰まった時のよ
うに私の名前を呼んだ。不意をつかれた感じになったので私はかなり驚いた。

「な、何?そんな大きな声を出さなくても聞こえるよ」
 ナツミはナイフとフォークを天に向けながら真剣な目を私に向けた。
 いつものカラの笑顔ではない。値段が高いタイヤキのように頭のてっぺんか
らお尻までしっかり中身が詰まっている。
 何か意を決した風なナツミに呑み込まれるように、私の表情は驚きから緊張
に変わる。

136 :- 8 -:01/11/17 16:46 ID:TpiO28JI

「どうしたの?ナッチ、変だよ」
「ねえ、サヤカ。サヤカって処女かな?」
 こわばった瞳をさらにきつくする。
「はぁ?」
「彼氏とかいる?もしくはいた?エッチなことした?」

 テーブルの横を横切るおじさんも気にせずにナツミはまくしたてた。そのお
じさんの耳に届いたらしく訝しい目を私に向けた。私は気になって仕方がなか
ったので一つ咳ばらいをし、おじさんを離れさせた。

「何?いきなり?」
 ナツミに怪訝な表情で聞く。
「私ってやっぱ変なのかなぁ‥だってナッチ‥男の人と‥その‥ないし‥」
 ナツミは語尾をフェードアウトさせる。ナイフとフォークをテーブルの端に
置き、両手を自分の胸に置いた。
 びっくりドンキー特有のオレンジ色の暗い照明のせいで濃淡のはっきりした
ナツミの表情は心底暗そうだった。

137 :- 8 -:01/11/17 16:50 ID:TpiO28JI

「別に変じゃないと思うよ。そういう子ってかわいいと思うし」
 ナツミの緊迫した面持ちとは対照的に、私は平静に戻す。カチャカチャと音
を立ててハンバーグを6つに刻み、その一つをフォークで刺し、口に含んだ。

 ナツミは私の方を見ずに、俯いていた。
 年輪がきっちり入ったアンティークなテーブルにポタリと涙を落としている
のを見て、私は少しハッとした。

「ナッチね‥何かそういうのってなくって、すっごく怖いんだけど、ちょっと
羨ましいなって思うところもあって‥。ほら‥ナッチ、ちょっと太ってるっ
しょ?だからあんまり男の人にももてなかったし、ちょっと気になる男の子が
いた時もあったけど告白する勇気もなかったし‥」

138 :- 8 -:01/11/17 16:53 ID:TpiO28JI

 ナツミの弱々しい涙声に、不謹慎かもしれないけど少し苦笑した。
 なんだか二人の関係がおかしかったのだ。
 かたや、性を商売にするウリ女、かたや、キスの「キ」の字も知らないよう
な純粋無垢な大学生。普通なら接点は見つからない。
 そして、年は3つほどウリ女の方が下なのに、そっちが相談を受けている。

「セックスってね、やればいいってもんじゃないよ。本当に好きな人とやれば
いい。好きじゃなかったらしない方がいい」

 人に何かを教えるということをほとんどしたことがない私には悩める子羊の
ように救いを求めるナツミをすごく愛しく思った。つい、ナツミよりも何十年
も長く生き続け、ある境地を開いた人間のような口調になる。
 だけど出てくる言葉は私の生き方とは矛盾している。

139 :- 8 -:01/11/17 16:56 ID:TpiO28JI

 ナツミは少し涙が潤んでいた。私は続ける。
「本当はね、純粋に育っているようなナッチが少し羨ましいんだ。だからこの
まんまでいいと思うよ。ゆっくり大人になればいい」
「‥」

 ナツミは黙っていた。二人の間に流れる沈黙に私は早く話題を変えようとユ
ウコの恥ずかしいネタを口にしかけたその時、ナツミは噛みしめるように呟いた。
「何か、すごいね。何て言ったらいいのか‥ココロの中に重くのしかかってく
る‥。サヤカって結構経験豊富なんだ‥」

 ココロの中を覗きこんだかのような言い様に私は少しドキリとした。今まで
の生き方に対し、罪悪感を抱いているわけではないが、純粋な瞳の持ち主のナ
ツミに中身を探られる、とないはずの罪の意識をくすぐられる錯覚を起こす。

「結構‥って、そんなにないよ。数回しか‥」
 本当は3ケタ行ってるけどね。
 私の正体を知るとナツミはさぞ驚き、軽蔑するだろう。こんな年齢逆転の上
下関係は上っ面だけの虚しいものだ。軽蔑されることは慣れているけれど、ナ
ツミにされるとちょっとココロに響くかもしれない。

140 :- 8 -:01/11/17 16:58 ID:TpiO28JI

 ナツミは鼻を一度すすってようやく笑顔を見せた。いつもの空の笑顔とは違
い、中身が詰まっているような気がした。
「ありがと。どこかすっきりした。やっぱりサヤカに相談してよかった。カオ
リにはできない相談だからね」
 それで少し納得した。こういう相談は少し離れた関係にある人間にするのが
一番気楽だ。ちょうど私たちはそんな関係であった。

「じゃあ、食べようよ。おいしいよ、このハンバーグ」
 サイコロ大に切ったハンバーグが刺さったフォークをナッチに向けた。する
と、ナッチは目に溜まった涙をネイルアートなんてしたことのなさそうな自然
色の爪で優しく拭い、大きく頷いた。
 自分のハンバーグを二つに割り、その一つを大きく口を開けて食べた。
 その大口の顔を見て、都会の男だったら引くかもね、と思った。

141 :- 8 -:01/11/17 17:01 ID:TpiO28JI

 それからは楽しい会話が続いた。ナツミはしゃべればすごく楽しい子で、時
に下らないギャグを言っては私を笑わせてくれた。しかし、一度ウケると何度
も同じことを言う子で、終いには自分で笑ったりもする。長くは付き合えない
子だとも思った。
 でもやっぱりいい子だ。年上の人間に使う言葉ではないのかもしれないけど、
素直にそう思った。

 午後9時を回ると、ナツミは時計を気にし始めていたので、
「じゃ、そろそろ帰ろっか」
と促すと、ナツミは「うん」と言った。
 どうやら、9時半に室蘭にいる親に電話することになっているらしい。携帯
でしてもいいのだが、電話代が気になるようでどうしても自宅の電話を使いた
いそうだ。

142 :- 8 -:01/11/17 17:04 ID:TpiO28JI

「じゃ、今日はありがとうね。又、あさって」
「うん、またあさって」
 ナツミの後ろ姿が見えなくなるまで私は見送ろうとした。一度後ろ姿を見せ
たナツミだったがすぐに振り返る。
「どうしたの?」
「さっきの会話でさあ、気になったことがあって‥」
「何?」

 9時となれば、もうすぐ夏の気配が近づいてくるような季節とはいえ、あた
りは真っ暗になる。店や道路沿いに伸びる人工の光が霊のように浮き出して、
私とナツミを照らす。慣れているからどうってことはないが、原始人が見たら
さぞ驚き、腰を抜かすだろう。

143 :- 8 -:01/11/17 17:09 ID:TpiO28JI

「お節介だったらゴメンね」
「うん、だから何?」
「サヤカの友達の大学生って何年生?」
「うん?え〜っと、今年入ったから1年生。ナッチと同じだよ」
 ちょっと考えてから言った。ナツミは今年20だけど1浪しているからマリ
と同じ1年生のはずだ。
「学部は?」
「文学部だったかな?とにかく医学部とかとは違って何やってるのかイマイチ
よくわかんないところ」
「じゃあ、ナッチと一緒だ」
「へ〜、そうなんだ」
 ナツミが文学部であることは初めて知った。
「忙しいってサークルのこと?」
「いや‥勉強しなきゃとか言ってたから、学校のことだと思う」
 あまりお互いの生活に介入していない二人でもそれなりの会話はするのだが、
サークルという言葉は今まで一回も出てこなかったはずだ。

144 :- 8 -:01/11/17 17:12 ID:TpiO28JI

「う〜ん」
 考えこむ仕草をするナツミ。

「それがどうかしたの?」
 別に不安とかはなかったが、眉根を寄せて唸るナツミを見るとやはりちょっ
とは気になる。一歩近づく私に対し、ナツミは口を開いた。
「やっぱり、おかしいよ。どんな大学でも1年生の文学部なんてサークルとか
バイトをしない限り、暇を持て余すもんだべ」
「でもマリ‥って友達の名前なんだけど、『私は特別忙しい』みたいなこと言
ってたし‥」

 マリが疑われているような感じがしてムカッとした。ナツミの言い方はマリ
は私には言えない隠し事をマリは持っていると言っているようなものだった。
 ナツミもそう小さな嫌悪感を持っている私に気付いたようで、
「変なこと言ってごめんね。別にそういうワケじゃないから」
とすぐフォローしていた。
「じゃ、あらためて。バイバイ」

 手を振るナツミ。私も手を振って返した。

145 :- 8 -:01/11/17 17:17 ID:TpiO28JI

-6-以前    >>2-91
-7-(前回) >>103-124
-8-(今回) >>131-144

矢口get
訂正。>>140 の地の文で「ナッチ」となっているところは「ナツミ」です。
こんなところを気にする人はいないと思いますが念のため。
びっくりドンキーが都内にあるのだろうか?と思いつつ更新です。

146 :☆( ´D`)ののたん!☆:01/11/17 21:31 ID:vNwv/qC7
>>145
こんばんわ。はじめて読みました。
すごくおもしろいです!最近の小説にはいいのがないなぁ・・・って
思ってたけど、これは面白い w
ブックマークしときました!がんばってください♪
( ´D`)<ののもいつかでばんありますか・・・?てへてへ

147 :あみ(略:01/11/17 22:46 ID:sigMFM/S
お疲れさまです。

148 :ねぇ、名乗って:01/11/18 14:09 ID:MjmjN0GX
ふむ、おもろいね頑張ってちょ

149 :ねぇ、名乗って:01/11/18 16:01 ID:POIiSqL+
おもしろいです。
引き込まれます。普通と陰の生活の違いがあってイイ!
頑張ってください。

150 :百合哉:01/11/19 01:50 ID:uqoLDFaP
保全

151 :あみ(略:01/11/20 01:50 ID:rPD5p4kW
ほぜん

152 :  :01/11/20 16:46 ID:f+bGaMuR
今日は諸事情のため更新できません、申し訳ないです。保全を兼ねてレスさせていただきます。
>147 >151 まいどです。
>146 自称R-15指定なのでののは見てはいけません(w。ブックマークありがとう
ございます。ののが出るかどうかですが、内緒です。
>148 がんばりまっす。
>149 違いは‥どうなるのかなぁ。
>150 ありがとうございます。
これから多分いろいろありますが、寛容な気持ちでお読みくださいね(w。

153 :あみ(略:01/11/21 01:21 ID:cxBWXRJE
気長に待ってますよ。

154 :- 9 -:01/11/21 19:55 ID:y+XLXqqf

-9-

 家に帰り、インターホンを鳴らしたが返事はなかった。ノブを回してみると
カギがかかっていた。一人でいる時は大抵カギを掛けているので、当然と言え
ば当然なのだが、それにも関わらず、カギがかかっているかどうかを確認して
しまう。

 ポケットから合いカギを取り出して、扉を開けた。部屋の中は真っ暗だった。
 マリはどこか行ってしまったのだろうか?それとももう寝てしまっているの
だろうか?
「た〜だいま〜」
 間延びした調子で電気の点いていない部屋に向かって声をかけたが、反応は
ない。小さな部屋の小さな闇に私の声は吸収されていく。

155 :- 9 -:01/11/21 19:57 ID:y+XLXqqf

 玄関の照明を手探りで探し、点けた。下を見ると、マリのお気に入りの白の
厚底ブーツが玄関の中央にどんと構えてあった。
 最近、デートやショッピング等、外出の際には必ずと言っていいほど、この
ブーツを履いていたはずだから、ちょっと近くのコンビニに行っているだけな
のかもしれない。

 そう解釈しても、心臓がいつもよりよく働き、呼吸が乱れる。マリがいない
ことなんてよくあるはずなのに、今日は何かが違うと、脳の一部が警告を与え
ているようだ。

 全身にじんわりと浮かぶ汗をできる限り拭い、しのび足で家の中に入った。
 別にドロボウがいるとか考えたわけではないが、自然とそうやっていた。
 寝室にしている部屋に足を進める。暗やみの中にしばらくいて目が慣れてき
たおかげで最初は見えなかったものが見えるようになってきた。布団がめくれ
あがっている。そしてそこにマリの姿はない。

156 :- 9 -:01/11/21 19:58 ID:y+XLXqqf

 どこに行ったのだろう?
 布団はぬくもりがあった。つまり、ついさっきまではここで寝ていたことに
なる。ということはやはりコンビニに買出しに行ったと考えるのが妥当だ。
 そう何度も自分を納得させながら、部屋の真ん中にある蛍光灯からまっすぐ
地面に向かって垂れ下がっている線を引っ張った。2、3度チカチカと点滅し
てから、白い光を放ち、部屋全体を照らす。

 やはりマリはいなかった。
 存在は薄々と感じているのに、目ではその姿を捉えることができない。その
矛盾に、
「いない‥よね?」
と、か細い声でひとり言を呟く。

157 :- 9 -:01/11/21 20:00 ID:y+XLXqqf

 その瞬間だった。
「おかえり!」
「わっ!」
 突然後ろから何かが飛び乗ってきた。静けさが生む恐怖でドキドキしていた
私はコナキジジイが現れたのだと思い、一気に恐怖の頂点に登りつめる。
 なりふり構わず、背負い投げのようにその物体を投げた。
「うわっ!」
 コナキジジイがやけに現実的な声をあげた。ドッスーンという音とともに地
面が揺れた。
「だ、誰!?」
 一歩退き、コナキジジイに向かって習ったこともないカンフーの型を作る。
そんな警戒の中、映った姿は長袖長ズボンのもさっとしたパジャマを着たマリ
だった。
「イタタタ‥。まさか、投げ飛ばされるとは‥」
 マリは痛そうに腰を抑えていた。
「マリ‥」
 緊張がプツンと切れて、今度は安堵の汗が出る。
 マリは顔をしかめながら笑っていた。寝癖がひどくメドゥーサのような頭を
しているところを見ると、今日は外出はしなかったのだろう。
「ちょっと〜」
 構えていた手をようやく下ろし、息をつく。マリは腰を抑えたまま立ち上が
り、「ごめん」と反省したフリをしていた。

158 :- 9 -:01/11/21 20:04 ID:y+XLXqqf

 マリにコーヒーを入れてもらい、テレビを点けて私たちは落ち着いた。
 画面には恋愛がどうとかがテーマのドラマが流れている。見たことはないし
内容は全くわからなかったが、オーケストラでも聞けそうな滑らかなBGMを
背に、一人の女性が男と自分とが肩を寄せ合いながら楽しげに映っている写真
を物憂げに眺めているシーンを一目見て、このドラマは恋愛ドラマなんだとい
うことは容易にわかった。

 OLだったら見たくなくても次の日の話題についていくために、こういう話
に興味を持たなければならないのかもしれないが、私には一生無縁の話だろう。

「なんで、隠れてたのよ」
 まだ若干の落ち着きに欠けていた私はコーヒーを一口つけてから恨めしそう
に言った。ブラックだったのですごく苦かった。
「ははは、なんとなく〜。ちょっと面白いかな?って思って」
 マリはボサボサだった髪を邪魔にならないように後ろでまとめていた。
「ずっと隠れてたの?」
「うん。でもサヤカ帰ってこないから1時間以上も暗やみで待ってたんだよ。
ホント待ってる間は何て惨めなんだ、って思ったよ。まあ、苦労は報われたみ
たいね」
 マリの頭には驚きのあまりパニック状態になっている私の映像が映っている
のだろう。ちょっと悔しかった。

159 :- 9 -:01/11/21 20:08 ID:y+XLXqqf

「ったく‥。ホントのホントに怖かったんだからね‥」
 コーヒーは砂糖とフレッシュをたっぷり入れた。マリも同じくらい入れてい
た。二人そろって甘党だ。
「サヤカってカッコよくなって大人っぽくなったけど、やっぱりそういうとこ
ろって変わんないんだね。昔っから怖がりで私の後ろにくっついていてばかり
いたもんなぁ」

 ニヤリと勝ち誇ったように微笑むマリの瞳には懐古的な色が浮かんでいた。
 私の子供時代をよく知っているのはもうマリぐらいだろう。
 長所も短所もマリの記憶の中にある。今もそんなに変わっていないはずだ。

「ま、性格だからね。仕方ないよ」
 観念したように私は言う。
「覚えてる?夜の小学校の探検の話」
「うん。でもあんまり思い出したくない」
 昔、二人だけで誰もいない学校を探検したことがあった。最初は手を繋いで
歩いていたのだが、ある時、いきなりマリが隣りで悲鳴を上げ、手を切って逃
げ出した。それから10分程度私は一人ぼっちになった。マリの悲鳴も手伝っ
て、身の毛がよだち、力いっぱい泣き叫び、喚き散らした。
 その後、それはマリが私を脅かすために仕組んだことだということを知り、
2日間、私はマリを恨んだ。
 あの時の恐怖といったら、今想像しても身が凍る。

160 :- 9 -:01/11/21 20:12 ID:y+XLXqqf

「あの後が凄かったんだからね‥。親からもすっごく怒られるし‥。もうサヤ
カは脅かさないってココロに誓ったもんよ」
「じゃあ、何でやるのよ‥」
 口を尖らせながらブツブツ愚痴を言ったがマリは全く罪悪感がなさそうに、
そんな表情をする私を楽しんでいた。

 それからマリは昔話、ほとんどは私の”ハジバナ”を話しはじめた。恥ずか
しくて何度も「もう昔の話は止めようよ」と言おうと思ったが、マリのボサボ
サな金色の髪を指でくるめたり伸ばしたりして、弄んでいる姿を見るとその口
は閉ざされた。

 私は気付きはじめていた。マリはただ恐怖にのたうちまわる私を見たくてこ
んなことをしたのではないのだと。

161 :- 9 -:01/11/21 20:14 ID:y+XLXqqf

 今日のマリはどことなく憂いに満ちていた。
 部屋に入ったときの説明のつかない動悸は、この部屋がマリが作ったどこと
なく淀んだものに侵食されていると直感的に気付いたからかもしれない。
 マリはその憂いをはぐらかすために昔話に没頭しているように見えた。それ
を止めることはマリの触れてはいけないものを露出するだけのような気がした。

 だから私は付き合い、ただ笑った。
 マリも笑った。
 お互い、牽制し合いながら。

162 :- 9 -:01/11/21 20:15 ID:y+XLXqqf

「ふぅ‥」
 一息ついて、マリは最後に言った。

「昔は良かったね」

「うん‥」
 私はただうなずくしかなかった。

 昨日、マリの身に何かがあったことは確かなようだ。その”何か”も大体は
わかる。でも調べる気は毛頭ない。

163 :- 9 -:01/11/21 20:21 ID:y+XLXqqf

 久しぶりにマリと私は同じ時間に布団を二つ並べて寝ることになった。時刻
はまだ日が変わらない23時。なんて健全な乙女二人だろう。
 輪っか型の電球が目線の先に見える。一度目をつぶると、その輪っかの形が
黒い景色に現れていた。
 この目の裏にある黒い世界は誰しもが持っている小さな宇宙なんだと思った
ことがある。
 端が見えない深遠な黒の中に電球の残影という星が散らばっている。
 少し眼球を動かすと流星群となって動かした方向へ一斉に移動する。
 私はその中に安らぎを見出だすことができる。
 このままその世界を見つづけていれば、今日も健やかな眠りにつくことがで
きるだろう。

164 :- 9 -:01/11/21 20:25 ID:y+XLXqqf

 しかし、今日はそんなわけにはいかない。
 私は隣りにいるマリに声をかけた。
「今日は学校行ったの?」
「うん、行ったよ」
 すぐにマリは答えた。
「その学校ってサークルのこと?」
「え?サークルは入ってないし‥言ってなかったっけ?講義が1限から5限ま
でみっちり入っててさぁ、大変大変」

「そっか。学校って楽しい?」
 少しナツミの言っていたことが頭に残っていた。
「う〜ん、微妙。勉強はつらいだけだから‥。でも友達もいるし‥って今日の
サヤカ、なんかヘンだね」
 自分でもヘンだと思いながら訊いていた。きっとマリが優等生なんだという
ことを確認したかったのだろう。私の中にはマリの像があって、もう大分変わ
ったとはいえ、その中心部分は残っているのだと信じていた。それさえも破壊
されているとなると、いたたまれない気分になるだろう。

 マリの言葉を聞いて、変わっていない部分はしっかり残っていると感じはじ
めていた。
「ごめんね」
「ううん、別にいいよ」
 マリは郷愁を含ませながら言った。お互いのことは詮索しないという暗黙の
了解を破っている私を嬉しく思っているようだった。

165 :- 9 -:01/11/21 20:29 ID:y+XLXqqf

「それでさあ、何で今日そのパジャマなの?」
 今日マリが着ていたパジャマは長袖でどちらかというと春・秋用だ。夏が来
たからということで最近のマリは外出もできそうなTシャツとハーフパンツ、
時には下着一枚でも寝ていたはずだ。それなのにその長袖パジャマを棚から引
っ張りだしてきたという極端の服の変化に違和感を覚えていた。
「うん、ちょっと最近冷え症気味なんだ」
「へ〜、そうなんだ。冷え症ねぇ‥」
「最近大学のクーラーが効きすぎちゃってさぁ、毎日毎日手足ぶるぶるモンよ。
だから寝る時とかはできるだけ長袖にしたくって‥。サヤカも気をつけたほう
がいいよ。大人の女性って多いらしいから」

「ふ〜ん」
「ホント‥」
 マリはそれだけ言って一旦口を閉ざす。私が「何?」と促すと、ポツリとこ
ぼした。

「ホント、大人にはなりたくないね‥」
 私は「うん」と同意するしかなかった。

「さて、寝よっか」
 マリは電気を消した。私は電気をつけておく主義、というか電気がないと寝
つきが極端に悪くなるのだが、仕方がない。
 暗がりの中で、マリは手を私の布団に伸ばしてきた。
 そして私の手を掴んだ。

166 :- 9 -:01/11/21 20:31 ID:y+XLXqqf

 小さくて柔らかかった。
「な、何‥?」
 首をひねり、マリを見る。夜に映える深青色の輪郭はマリのココロを投影し
ているかのようだ。
「今じゃあ、すっかり立場が逆転しちゃったね‥。身長は元々だけど‥精神的
にも‥」
「‥そんなことないよ。見たでしょ?私まだまだ怖いの苦手だし‥」
 私の右手をつかんでいるマリの左手が震えていた。小さくて子供みたいな手
だったけど、昔っから私が感じていたマリの体温は少し安らぎをもたらしてく
れた。
 マリも私の体温から同じことを感じてくれればいいなぁ、と純粋に思った。

167 :- 9 -:01/11/21 20:33 ID:y+XLXqqf

「サヤカはやっぱり彼氏作らないんだ」
 マリは3mほど上の天井に向かって言った。だからその声は直接ではなく、
天井に反射して私の耳に届いているようだった。
「うん」
 私も同じようにして上を向いて言う。
「まだ、”マキ”の夢を見るの?」
 そんな風な会話だから一言一言間が空く。
「うん、実を言うと昨日見た」
「そっか。じゃあ仕方ないね‥」
「うん‥」

 私の脳外から、”マキ”という言葉が聞こえてきて、何かに押しつぶされそ
うになる。

 そして、マキのことを想う―――

168 :  :01/11/21 20:40 ID:y+XLXqqf

-8-(前回) >>131-144
-9-(今回) >>154-167

>153 いつもいつもありがとうございます。
ちょっと予定変更だったり。次回は連休中にでも。では、また。

169 :あみ(略:01/11/21 21:57 ID:TiG+hC63
お疲れさまです。週末まで楽しみに待っておりますので。
そういや、ヽ^∀^ノはラジオで電気点けてないと寝れないって言ってましたね(w

170 :ねぇ、名乗って:01/11/22 12:51 ID:4N1WWAPS
おもろーい!
良い宵

新メンはでるのかなあ

171 :あみ(略:01/11/22 21:52 ID:po8fxRCb
( ´∀`)< 保全。

172 :  :01/11/23 15:16 ID:Atr4Xjyp
>169 >171 そういうエピソードを少しでも入れようと努力してます。飛んだ話ですが、
一応、娘。小説という名目だし、必要かと。
>170 現段階での頭のプロット上には出ていません。出そうと思えば出せるのですが、
あまり登場人物が多くなるのもダメかな?と思っているので‥。ホントは人が足りて
いないんだけど、中学生の女の子はいらないんだよなぁ(w。

173 :- 10 -:01/11/23 15:51 ID:Atr4Xjyp

-10-

――私は”マキ”の夢をマリに話したことがある。

 はじめて見たのは小学3年の時。
 最初はやけにストーリー性のある夢だなぁ、という程度にしか記憶に残らな
かったのだが、ことあるごとに同じ夢を見るようになってから、私はその中の
登場人物が気になるようになっていった。

 マリに話したのはその夢を見てから2ヶ月ぐらい過ぎてからだったと思う。
 最初は取り合ってくれなかったが、毎日毎日、「今日もアノ夢を見た」と言
っていると段々真剣に耳を傾けてくれるようになった。

 ある日、夢の中の少女に名前を尋ねた。
 興味と恐怖が混在しながら尋ねたことを覚えている。それくらい勇気が必要
だった。
 少女の口からは”マキ”と放たれた。不純物のない透明な結晶に包まれたよ
うな眩い一言だった。眠っていた何かがココロの底から衝き動かされる。

174 :- 10 -:01/11/23 15:53 ID:Atr4Xjyp

 きっとこの日から私は変わったのだと思う。
 私は性を、時を、そして次元を飛び超えて恋をした。
 初恋だった。その甘い響きは、幼心に永遠の淡い輝きになるものだと思って
いた。

 しかし、マキはそんな甘酸っぱい言葉が似合う人物ではなかった。
 私たちを愚鈍な人間と言い放ち、私の存在を咎めつづける。天使が着るよう
な真っ白な服を着ながら、悪魔の視線でもって私にこう唱える。

「カラダから生まれる全ての感覚に意味はないの。視覚も聴覚も味覚も嗅覚も
触覚も全部ウソ。ココロだけが真実。だから、カラダなんて捨てて」

 幻想的で魅力的な少女がささやく言葉は見えない鈍器でえぐるような不似合
いなものだった。

175 :- 10 -:01/11/23 15:55 ID:Atr4Xjyp

 夢の中の戯言だと最初は思った。
 初恋だなんて考えること自体愚考だと思った。
 目覚めてから、微かに残っている記憶を拾い集めて考えてみても意味がわか
らなかった。

 しかし、深層心理でそれは正しいんだと叫んでいる自分を、繰り返し横暴的
に見せられたせいか発見するようになる。バイオレンスムービーを見せられて、
底に眠っている自我の殺意の部分を強制的に揺り起こされた気分に近いものだ
ろう。

 虚実のどちらとも取れないマキの言葉は、その言葉の意義を頭では理解して
いないはずなのに、皮膚細胞の一つ一つに深く刻まれていく。いや、むしろ理
解していないからこそ、理論武装をする術もなくストレートに刻まれたのかも
しれない。

176 :- 10 -:01/11/23 15:58 ID:Atr4Xjyp

 やがて、特に夢から覚めたあとの数時間は、自分、マリ、両親、クラスメイ
トなど、私を取り巻く全ての人間がヘドロのような汚濁に染まったものに見え
るようになり、火炎放射器かなんかで全てを焼却したいという衝動にさえ駆ら
れた。

 世界の全てに対する嫌悪感に蝕まれた私を心配するマリには、「ものすごい
低血圧なんだ」と説明した。朝が一番、その破滅的衝動がひどかったからちょ
うどいい理由だった。

 一緒に登校途中、好きな人がどうたら、とかいう話になると私は一切の聴覚
を麻痺させようと努力したこともある。しかし、マリの当時から人より高かっ
た声は抵抗空しく、私の脳に突き刺さる。

 そんな私を、そして、マリをひたすら憎んだ。

177 :- 10 -:01/11/23 16:01 ID:Atr4Xjyp

 ちょうどその頃は、世間では”洗脳”や”マインドコントロール”なる言葉
がメディアに頻繁に登場してくる時だった。
 テレビニュースでそんな言葉を何度も聞くうちに、きっと私も洗脳されてい
るのだと思った。

 ブラウン管越しのコメンテーターは、いかに洗脳が”悪”なるものかを解説
し、アナウンサーやタレントは大げさなくらい顔をしかめながら頷いていたが
私はそんな一方向の結論付けに納得がいかなかった。

 人間は生きていく上で、洗脳されたことのない人間なんていないわけで、そ
れが悪いこととは思えない。

 洗脳された人間が至福に身を寄せながら座禅をし、跳ね回ったり、発狂した
ような大声を上げているシーンをモザイク越しに見て、私はきっとこの人たち
は何かを排除できた人間なんだ、とうらやましく思った。

178 :- 10 -:01/11/23 16:02 ID:Atr4Xjyp

 そんな風に常に葛藤が起こっている状態でいると、どうしようもない別の衝
動に駆られる自分がいることに気づいた。

――私を真の快楽に導いてくれるのはマキしかいない、と。

 その境地に達したのは肉体的に性に目覚める年齢でもあった。
 私のクラスメイトの中にはすでに処女を喪失している子が数人いた。私も情
欲の律動から自分の手をパンツの中に入れ、まさぐる人間になっていた。行為
を終えてから生まれるのは後悔ばかり。ごく普通の自慰とマキへの罪悪感が津
波のように繰返し起こった。

 私は私を恨みつづけた。

179 :- 10 -:01/11/23 16:05 ID:Atr4Xjyp

 それでも私はその行為を抑えつけることができない。自慰はどんどんエスカ
レートしていく。年の割には淫乱な少女だったと思う。

 そのことに対し、マキはいつも何も言わない。
 きっと咎められるのだろう、と覚悟していたのにむしろ微笑む回数が多くな
ったマキがいた。

 目が覚め、夢から抜け出した後でいつもマキはどう思っているのかを聞きた
くなる。しかし、夢の世界はマキが全てを掌握していて、私がマキの気持ちを
聞くことはマキが許可しない限りできない仕組みのようだ。
 今度見たときは真意を聞こうと思っていてもいざ夢の中に踏み込むと全くそ
の意志は通じない。

180 :- 10 -:01/11/23 16:07 ID:Atr4Xjyp

 ちなみにマリに言ったのはここまでだ。
 私は自慰行為に対して、恥辱ではなく自分の肉体に対する嫌悪で持ってマリ
に告白した。
 マリは優等生の部類だったせいか、そういうことを当時はまだしない人間だ
ったらしく、顔を真っ赤にしたのを覚えている。確か「あんまり深く考えない
ほうがいいよ」と当時のマリははぐらかしていた。

 それから1ヶ月して、マリは先に中学生になったので疎遠になった。今考え
れば私がそんなヘンなことを言ったからかもしれない。

 マリに自分の自慰を告白してからしばらくして、夢の中でマキは私に言う。

「ココロとカラダを分けてほしい。カラダはそっちの世界に置いて、ココロだ
けをあたしにほしい」

 マキの言葉はこの時には周囲に決して溶け込まない絶対的なものになってい
た。
 従順にマキの言葉を受け入れようとする私がいた。

181 :- 10 -:01/11/23 16:17 ID:Atr4Xjyp

 そんな中、私は初体験をした。
 きっかけは2つ年上の中学生の男の子が告白してきたことだった。
 告白されてからセックスに至るまで2日とかからなかった。
 今はもうその男子の名前は忘れたが、ネチネチしていて、ずっと私を気にし
ているのに1ヶ月以上も声すらかけられない臆病者だった。はっきり言って嫌
いなタイプだった。

 それなのにセックスに至ったのは愛情云々を度外視したセックスという行
為自体に興味を持ちはじめていたからだろう。
 その男子に震える声で勇気を持って、ただストレートに”好き”と言われ、
私は”セックス”という言葉と直結させていた。ちょっと人よりは早いのか
もしれないけど、そういう存在が生活のトップに昇格しようとする時期だっ
たのだ。

 それともう一つ。その出来事は丁度、マキの存在を認め、ココロの抽出方法
を模索しようと決めた翌日のことだった。その予定が決まっていたかのような
事項の連なりに、私は運命を感じ、きっと願望達成への道標が見つかるのだと
思ったのだろう。

182 :- 10 -:01/11/23 16:20 ID:Atr4Xjyp

 近くの公衆便所の汚物がこびりついた男子トイレでその行為は行われた。向
こうも初めてだったらしくそのセックスはただ痛いだけだった。
 処女膜は乱暴に破れた。
 痛さに必死で耐えているなかで生まれた手や足の痙攣は決して快感からきた
ものではなかった。

 その男の子はセックスという刺激的行為に溺れてしまったのだろう。それか
らは今までの消極的な態度からは一変し、私の体調なんて無視して、己の欲望
に任せて、ことあるごとにセックスを強要してきた。

 手足をしばり、簡易的なSMプレイをしたり、友達を連れてきて3Pしてきた
り、と段々正常じゃなくなる過程を経て、この男の子には最初は持っていたは
ずの愛情を全て性の狂気に変えてしまっていたことに気付いた。

183 :- 10 -:01/11/23 16:23 ID:Atr4Xjyp

 その事実をはっきりと認識した瞬間、普通なら嫌悪を覚えるのだろうけど私
は全くの逆だった。

 生まれたのは猛烈なオーガズム。”昇天”とはよく言ったものだ。
 全身を作る細胞がポップコーンのように爆発し、脳を麻痺させ、強烈な電流
がカラダ中を駆け巡った。そしてカラダが精神の根っこが歪められた欲望の塊
に支配されていく中、ココロだけが反比例するように自由に空を飛び回っていた。

 そして、やっと気づいた。

――これがマキの求めているものなのだ、と。

 幽体離脱とは本質は違うのかもしれないが、それに似た感覚だった。つまり、
カラダとココロが一瞬だけ離れたのだ。

 マキに確認はしないし、できなかったが、出会った頃のような全てを押さえ
つける冷たい瞳がどんどん力を失い、柔らかさを帯びはじめたところを見ると、
きっとこのままでいいのだろうと思った。
 迷いから解放された気分だった。

184 :- 10 -:01/11/23 16:25 ID:Atr4Xjyp

 中学三年間は援助交際のブームにも乗って、いろんな男の人とセックスをし
た。2コ年下の童貞から父親とそんなに変わらない年齢のオヤジまで。
 大学生のいかにも「俺は今セックス全盛期だ」と言わんばかりの軟派男との
セックスは熟達していて確かに気持ちよかった。
 だけど、それもどこか違う。
 やり方とかテクニックとかではない。
 その頃には私は一つの結論を導いていた。

――セックスに愛がなければないほど、私はイクことができる。

185 :- 10 -:01/11/23 16:26 ID:Atr4Xjyp

 それを決定的に認めたのは6つ上の男とのセックスの時だった。
 長い髪を茶色のカチューシャでまとめた一見はヤサ男。しかし、持っている
シンボルは巨大で、子宮が壊れそうなくらい私のカラダを深く貫いていた。
 テクも一品で、抑揚をつけながら徐々に激しくなるリズムが私のカラダを私
のものじゃないかのようにし、ココロは淫らに昇天に昇りつめていく。
 そんな時だった。

「好きだよ」
 荒い吐息の中から生まれたヤサ男の甘いささやきに、私の神経は急速にその
活動をやめた。飛んでいきそうだったココロは一瞬にしてカラダに戻り、ピス
トン運動をする男を冷ややかに眺めてしまったのだ。

186 :- 10 -:01/11/23 16:28 ID:Atr4Xjyp

 汚いカラダをもっともっと汚していく。

 まるで冷たい玩具を扱うようにカラダを壊していく。

 それが究極に近づくほどカラダとココロが乖離していく。

 私は男たちとのセックスに感じているんじゃない。

 そうやって生まれるものはマキの願いに近づけるものであるということを知
っているから感じているんだ。


――マキのために生きているんだ。

187 :- 10 -:01/11/23 16:29 ID:Atr4Xjyp
 

188 :- 10 -:01/11/23 16:31 ID:Atr4Xjyp

「彼氏なんて作らないほうがいいよ、あとでつらくなるだけ。サヤカが正解」

 突然のマリの声に私はカラダをビクつかせた。
 マリが最後に言葉を発してから何分経っただろうか。私はいつの間にか過去
を追っていた。いや、マキを追っていた。

「そう?でもやっぱり羨ましいと思うよ」
 ココロにもないことを私は言う。手は繋がれたままだった。
 むしろ、その握る手は強くなっている。

「あ〜あ、私の夢の中にも”マキ”が出てきてくれないかなぁ」

 その言葉で私は確信した。

 マリは失恋をしたのだと。

189 :  :01/11/23 16:36 ID:Atr4Xjyp

-9-(前回) >>154-167
-10- (今回) >>173-188

本当は9、10は一つだったんですが、長かったこととこれから更新量は落ちちゃい
そうなので、あえて二つにしました。というわけで次回は短め。
ところで、”マキ”と”マリ”を読み違えたりしませんよね?

190 :あみ(略:01/11/23 21:24 ID:gR6W95kv
お疲れさん。間違ってないよ!

191 :名無し募集中。。。:01/11/24 10:30 ID:5wktGm9m
保全

192 :あみ(略:01/11/24 21:49 ID:0BPvrA7Z
定期保全

193 :ねぇ、名乗って:01/11/25 04:21 ID:4Xb7it+U
http://www.akebi.sakura.ne.jp/~kom/cgi-bin/mserch.cgi?string=%8F%AC%90%E0

194 :ねぇ、名乗って:01/11/25 06:14 ID:r4XyybZ2
初めて読んだけど面白い。
まだまだ先は長いのかな。

195 :あみ(略:01/11/26 01:21 ID:0OOTO4L9
寝る前に保全

196 :名無し娘。:01/11/26 15:40 ID:PvtJCIgS
ほぜん

197 :あみ(略:01/11/27 01:31 ID:AOPYfL0Q
保全

198 :ねぇ、名乗って:01/11/27 05:16 ID:7UqK1f4w
保全。

199 :あみ(略:01/11/27 18:53 ID:/i5W7Zjg
hozen

200 :  :01/11/27 21:56 ID:V4HjWHXV

>192 >195 >197 >199 まいどです。書いてるほうで名前のミスがありそうです
がその時はご指摘ください。
>193 この小説は引っかからないはずですが‥。
>191 >196 >198 保全ありがとうございます。
>194 先は‥長いですね。かなり読者を選ぶ小説になりそうですが最後までお付き合い
いただけたら幸いです。

というわけで、get200。

201 :- 11 -:01/11/27 22:09 ID:V4HjWHXV

-11-

 開けっ放しの窓の向こうから聞こえるすずめの鳴き声に誘われて、私は目を
覚ました。今日もなかなかの天気のようだ、とその朝日に包まれた清々しい風
景を見ることなく気付く。
 それでなのか、私は低血圧気味のほうなのだが、今日は朝特有の気だるさに
苛まれることはなかった。
 こういう目覚め方が一番、人として最良なのかもしれない。

 一度背筋を伸ばし、首をひねると隣りには珍しくマリがいた。こちらに小さ
い顔を向け、薄い寝息を枕に吹き付けながら眠っていた。
 そして、すぐさま昨日の眠り入る直前のことを思い出す。
 マリのこと、そしてマキのこと。昨日という夜は確かにあったのだと再確認
する。

 マリはさすがに手を離してはいたが、腕は私の布団に入れたままであった。
 出された手を一度両手を使って触れ、その小ささと柔らかさを感じてから、
マリの布団に戻した。
 安心に包まれたスヤスヤとした寝顔だった。化粧を落としていて、人前には
決して見せられないようなボロボロの顔だったのに、私にはなぜか愛くるしく
見えた。

202 :- 11 -:01/11/27 22:14 ID:V4HjWHXV

 ああ、幼なじみがいる。
 当たり前のことをさも新発見したかのようにそう思った。でもそれはあなが
ち間違いとも言い切れない。昨日まで見ていたマリを私は、幼なじみのマリと
見ていなかったような気がするからだ。

 年を重ねるにつれて作られた透明な氷壁が、ゆっくりと融けていく。そんな
感覚がきっとそう思わせたのだろう。

 やはり、マリは特別な人なのだ、と改めて思った。
 久しぶりの再会の時、「よお」と言ってきて、「よお」と返す。それだけで
よかった。そして、その日から二人暮しがはじまり、今まで続いている。
 その間、こうやって二人で過ごすことに違和感はなかった。
 時間とともに作られた秘密をお互いにたくさん抱えていながら、その秘密を
詮索することなく、それでも結ぶことができる信頼の絆。

 理由とか裏づけとかはいらない。きっと、一般で言うところの血の繋がりに
近い感覚。

203 :- 11 -:01/11/27 22:33 ID:V4HjWHXV

 精神的な別れ、そして今、存在する”時の流れ”で生まれた秘密という名の
歪み。
 それらを包括して、私たちはお互いの存在を認め、敬ってきた。
 だから二人は一緒にいられる。
 そして、これからも一緒にいたいと思う。

 あどけない寝顔を見ていると、マリのカギの開いたココロの内部をもう少し
深く覗きたくなる。それを見て、やがて認め、いつか私のココロも開いてマリ
とまた昔のような共有感覚を築く――。

 それも可能ではないのか?
 そんな淡い願いをした矢先だった。
 ふと気づくと、融ける様子を見せない一つの壁があった。他の壁が融けてな
くなるにつれて、その壁はどんどん浮き彫りになっていく。
 黒くて硬そうで、熱しても叩いてもその形を崩すことはない。

204 :- 11 -:01/11/27 22:35 ID:V4HjWHXV

 その得体の知れない壁の正体を、昨日の夜を反芻しながら考える。
 今回、マリは明らかに助けを求めていた。マリは一番頑なに閉ざしていた秘
密の扉のカギをゆっくりと開けたのだ。私はそのカチャリと開く、小さく透き
通った音を見逃さなかった。

 マリがどんな失恋をしたのかはわからない。こんなに傷ついているのだから、
相当つらい別れ方をしたのだろう。もしくは相当その彼氏のことが好きだった
のだろう。
 私は失恋の痛みというものを知らない。だからどういう風に慰めようか、と
一度考えて、それは経験がないのだから無理だと悟った。

205 :- 11 -:01/11/27 22:37 ID:V4HjWHXV

 ふと不思議に思う。
 マリが彼氏を頑固に隠そうとしていたのはどうしてだろう?
 もちろん再会後の二人には秘密ばかりが間に存在していたから、隠すことは
ごく自然のことなのかもしれない。しかし、こと彼氏に関しては時流とは関係
のないところで意識的にひた隠しにされているところがあった。

 そうだ。きっと、残った壁の正体はこれなのだ。
 マリの彼氏に関しては次元の違った歪みとなっている。
 マリは多分私を”妹のような存在”だと思ってくれているに違いない。「サ
ヤカに私の大事な彼氏を取られるかも」なんていう定番ドラマにありがちな感
情を抱くはずがない。

――私が世の男に興味が全くないことはマリが一番よく知っているから。

206 :- 11 -:01/11/27 22:39 ID:V4HjWHXV

 好奇心という感情ではない。
 いささか顔の知らないマリの彼氏に不信感を持った。そして、壊さなければ
いけない壁だと悟った。
 いけないことと猛省しながら、私はマリのお気に入りであるベージュのハン
プトンズ・トートバッグを開けてみた。
 それは私がそういう詮索する人間ではないと知っている安心感とフられた
ショックもあってか「中身を見てください」と言わんばかりにテーブルの横に
無防備に置かれていた。

207 :- 11 -:01/11/27 22:42 ID:V4HjWHXV

 大学の講義プリントらしきものが最初に目に入った。何枚か見てみたが、汚
い走り書きでただ文字が羅列してあるだけで、どんなことをしているのかはよ
くわからなかった。そのプリントをまとめて出して、バッグの中にちょっと手
を入れてみると、シルバーの携帯電話と手帳に触れた。後ろめたさが増幅する
中、まずは携帯電話の中身を覗こうとしたのだが、「暗証番号を入力してくだ
さい」と表示されてしまった。
 マリの誕生日などを思い出して入力してみたが上手くはいかなかったので、
あきらめた。

 次に本皮ではなさそうな赤い手帳をパラパラとめくってみた。
 手帳としての役割の一つである予定表みたいなものは書かれていずに昨日も
一昨日もその前もずっと白紙だった。どうやらマリは手帳は持っていてもあま
り書き込まなかった人間みたいだ。
 そういえば、小学生の時、大抵の人間は授業の時間割の紙をランドセルを開
けたところにあるスペースに挟んでおいたものだが、マリは、
「そんなの、覚えればいいんだよ」
と勝ち誇ったように言っていたことを思い出した。
 マリは生まれつきそういう予定を書き込むということはあまりしないようだ。

 しかし予定表のページの次の全白紙だったところには数ページに渡って、日
記のようなものがびっしりと書き連なれてあった。

 書く時によって字の大きさも長さも違い形式なんて存在しない。
 日付さえも書いていない”つれづれなるまま”の日記。

208 :- 11 -:01/11/27 22:44 ID:V4HjWHXV

『トシヤの家に行ってエッチした。家に行くのは初めてだったけど、キレイ
だった。私が行くからと急場しのぎで掃除をしたという感じではなさそうだ』

『トシヤの車に乗った。むちゃくちゃ高いらしいけど私にはわからない。ただ
今まで乗ったどの車よりも座り心地は悪かった』

『トシヤと渋谷の街を歩いた。トシヤは背が高いから少しでも近づこうと、持
っている一番高い厚底を履いていったら何回も転びそうになった。でも、トシ
ヤの腕をつかんでいたから助かった』

『トシヤの車でエッチした。普通の路地に駐車してしたので、最初は恥ずかし
かったが、だんだん気持ちよくなってきた。またやりたい』

『トシヤと一緒にエッチなビデオを見た。モザイクがかかっていてそれが逆に
エッチっぽかった』

『トシヤの男友達に会った。みんなカッコよかったけどやっぱりトシヤが一番』

209 :- 11 -:01/11/27 22:46 ID:V4HjWHXV

 「ふぅ」と私は一度深呼吸をした。
 全ての文に「トシヤ」という名前がつく。
 ”トシヤ”というのは彼氏の名前なのだろう。あまりこれ以上日記を熟読す
るのはさすがに気が引けたため、ページを飛ばした。

 結局、手帳にも写真らしきものはなかった。
 私は首を傾げながら、壁にぶらさげてあるクリップボードに目をやる。そこ
には私とマリのじゃれあう写真が乱雑に貼られてある。私はこういうことはキ
ライなのだがマリが、
「私たちの写真を貼ろうよ」
と一度だけした模様替えの時に提案し、半ば強引に写真を撮られたものだ。

 私はその写真に小さな憂いを感じて息をついた。そんなマリの性格上、彼氏
との写真もしくはプリクラは絶対あるはずだと思っていたからだ。
 肩透かしを食らった気分だった。

210 :- 11 -:01/11/27 22:47 ID:V4HjWHXV

 バッグの口を大きく広げてみた。他に目立ったものはピンク一色でできた無
印良品のポーチぐらいだ。確かこの下に手帳が入れてあったはずだ。大丈夫だ
とは思うが念には念を入れるために私はそのポーチを一度取り出し、手帳を戻
した。

 左手で掴んだポーチの中身は単なる化粧道具だろうと思っていたが、その感
触がどことなく違和感を感じた。私は何の気なしに開けてみると、中にはリッ
プグロスやマスカラ等予想通りの化粧道具の他に、コンドームが4つとピル、
そして”B”と彫られた白い錠剤が一緒に入っていた。包装はなかったのでわ
からないがおそらくバファリンだろう。私はこのバファリンをマリは頭痛薬で
はなく鎮痛剤に使っているのだろう、と思った。ピルと一緒に入っているとい
うことからそう推測した。

211 :- 11 -:01/11/27 22:50 ID:V4HjWHXV

 マリが起きた時には、私がマリのバッグを調べた痕跡は完全に隠していたは
ずだ。マリも全く気付かず、跳ね上がった金髪をかきあげながら、
「ふぁよーっす」
と眠たそうに目をこすりながら挨拶をする。
「すっごい、髪」
 私が笑うと、
「髪切ってこようかなぁ。あ、それと黒髪に戻そうかなぁ」
とマリは独り言のようにぶつぶつとつぶやく。
「うん、それがいいよ!絶対それがいい!」
 私は大げさに激しく同意する。

「あ、やめた」
「なんで?」
「だって、サヤカが勧めるから。だからいや」
「何それ、あまのじゃく」

 朝の夏に似合わない冷涼な空気の中、こんなテンポが良い会話が飛び交っ
た。こんな時間はマキの夢とは別にして幸せだと感じるものだった。

212 :  :01/11/27 22:54 ID:V4HjWHXV

-10- (前回) >>173-188
-11- (今回) >>201-211

次から、次から‥‥‥。

213 :あみ(略:01/11/27 23:55 ID:sEwkfXHy
おつかれさん
次から何だ?

214 :  :01/11/28 19:58 ID:1+clGZp9

昨日、ほとんど眠りながら更新してたけど、無事だったみたいね
>213 というわけで何を書こうとしてたのやら‥。

215 :- 12 -:01/11/28 20:01 ID:1+clGZp9

-12-

 先日とは違って今日はウマが合わないお客さんばかりだった。
 ”悪いことは続くもの”とは”マーフィーの法則”にあっただろうか?
 とにかく今日、お相手してきた人間は、二度と会いたくない人ばかりだった。
「ケイちゃ〜ん、今日はもう早退した〜い」
 一度”プレイルーム”を離れ、フロントにいるケイに向かって甘えた口調で
愚痴を言うとケイは優しく頭をこづいた。
「コラ、わがまま言わないの。大切なお客さんでしょ?そういうお客ってお金
をいっぱいもらえるんだから」
「まあそうなんだけど‥でも聞いてよ〜」
「はいはい、あとでね。私も忙しいんだから」

216 :- 12 -:01/11/28 20:02 ID:1+clGZp9

 本当にイヤなやつらだった。
 最初の男はナインティナインの矢部のような変なウェーブがかかったサラサ
ラヘアの軟弱そうな20代後半の人間だった。
 要求は純粋なSMプレイ。
 私が女王様で男が奴隷。言葉とムチで男を痛めつけた。背中にうっすらと内
出血が表れた時、男は発狂したように悦楽の叫びを吐いた。
 私はそれで終わり、と思い安心した直後に、いきなりその男が襲いかかって
きた。

 毒のような息を喉を震わせながら吐き、痛みで全身に浮いていた油汗を私の
肌にこすりつける。その時の目は弱者が虎の威を借りた狐のような下卑た獣の
目だった。
 想像だけどこの男は昔SMプレイでイタイ目にあったのだろう。その恨みつ
らみを私に向けてきた。
 そしてフェラの強要。小さいくせに結構長持ちで髪の毛をがっしりと掴まれ
何度も何度も前後に振られた。当然のごとく顔射され、白濁液がべっとりつい
た頬に唾を吐かれた。

 男は終始無言だった。終わった後も何も言わず、ただ万札を5枚、頭上から
ひらひらと舞い下ろし、私を蔑んだ。
 乱暴に扱われたため抜け落ちていた何本かの髪の毛の上に万札が被さる。一
瞬客だということを忘れてしばこうかと思った。

217 :- 12 -:01/11/28 20:05 ID:1+clGZp9

 次の客はいたって、普通のオヤジ。なぜそうする?と思うくらいテカテカに
ポマードを塗りたくり、ピッチリと9:1に横分けした黒い髪に、黒ブチのメ
ガネを装着した鼻デカオヤジ。
 肌は普段乳液をつけているかのようにツルツルしているが40代後半といっ
たところだろうか。

 このオヤジはまず私を正座させ、延々と説教をはじめた。「何でこんなとこ
ろで働いているのだ」とか「もっと自分のカラダを大切にしろ」だとか、じゃ
あこんなところに来てるあんたは何なのよ、と言いたかったけど、私は「すみ
ません」とただ謝った。
 すると自分がまるで全知全能の神であるかのように満足そうに鼻の穴を広げ
ていた。

218 :- 12 -:01/11/28 20:07 ID:1+clGZp9

 これも推測だけどこのオヤジは同じくらいの年齢の娘がいて、全くこいつの
言うことに耳を傾けなくて常日頃苛立っているのだろう。
 叱りつけたいのだが、その不満を表立って言うと逆ギレされる。それが怖く
てできない。
 だからその不満の捌け口として私を利用している。
 私を自分の娘に見立てて言いたいことを言っているっていうワケだ。

 だけど、そんな精神的な部分とは別にこのオヤジは説教中もチラチラと私の
少しはだけた胸の谷間を見ていた。そして、狭い密室と赤いシェード、そして
ほんの数十分前行われた行為の残り臭が漂うこの空間の中で、妻とのセックス
も飽和状態のオヤジの性欲が膨らまないわけがない。スーツの下からオヤジの
一物が勃起しているのがわかった。

 私が反省したように潤んだ目をする。それがオヤジを触発した。
 残り10分になって愛撫をしてきた。時間のなさも手伝ってか、慌てた愛撫
となりあまり感じることはなかった。
 実の娘にもするのかよ、という軽蔑の目線を向けるもオヤジは気付かずにた
だ私の胸やアソコを揉んだり舐めたりしていた。

219 :- 12 -:01/11/28 20:10 ID:1+clGZp9

 とにかく、すごく気が乗らない日だった。

 今日扱った二人のお客が気に食わないということもあったけど、マリのこと
が不安でしかたないということも理由の一つだった。
 ナツミの言った「どんな学校でも文学部の1年生は暇を持て余すもの」とい
う言葉。あれは真実のような気がしてきた。
 ナツミの言葉は純粋なココロがそのまま反映されているようでかなりココロ
に響くのだ。

 それにナツミがどうこう言う以前から私の中でも「大学生は暇だ」という定
説は中学生ぐらいの時からあった。周りに大学生はいなかったがテレビなどで、
大学生がコンパ(当時はコンパとは言わなかったかもしれないが)やらサーク
ルやらばかりで、授業なんてほとんど出ていない、みたいなドラマを見たから
だろう。

220 :- 12 -:01/11/28 20:12 ID:1+clGZp9

『マリがしょっちゅう帰ってこないのは、決して学校に行っているのではなく、
彼氏と遊んでいるから』

 私は今そう思っているのだ。
 幼い頃のマリを知っている私にはおよそ信じられないことだったけど、あん
なに落ち込むほどの彼氏に依存していたマリを見るとやはり認めないワケには
いかなかった。

 プルルルッと部屋の扉の横に据え付けられたインターホンが鳴った。私はし
まったと思った。先にケイに電話して「今日はもう止める」と言おうと思って
いたのに。このコールは十中八九新しいお客さんのお通りだ。

「はい、あの、ケイちゃん‥」
「次のお客さんだよ、よろしく!衣装はとりあえず普通で!」
 ケイちゃんは私がさっきから愚痴をこぼしていたので「帰りたい」と思って
いることを察していたらしい。先に言ってすぐさま電話を切った。

 あ〜あ、失敗したなぁ。
 しかたない、あと一人だ。
 私は無駄な気合を入れるため、一度自分の頬をパチンと叩いた。

221 :- 12 -:01/11/28 20:15 ID:1+clGZp9

 インターホンが鳴ると3分ぐらいで客がやってくるはずなのだが、なかなか
こなかった。冷房が効きすぎなのか、ほんの少し空いた時間が私のココロに小
さな風穴を開け、その中に冷気がすーっと入っていくような感覚を覚えた。

 仕事場は6畳ぐらいの小汚いところ。ココに足を踏み入れた時、もう大分慣
れたはずなのに、毎日のように嘔吐感を覚える。

 なぜそうなるのかわからなかったけど、最近暇つぶしに読んだ数学書のコラ
ムを見て、何となく理解した。

 ココは”虚数”の世界なのだ。
 実際にないものを人間の業が凝縮した概念だけで作り上げた異空間。
 だからそのひずみの境界線をまたいだ時、カラダに異変を感じる。
 これが嘔吐感の正体。

 そしてすぐそれが止むのは、やがて私という実数のカラダにこの部屋の虚数
が掛けられて私も虚数になっていくからだ。どんな客も同じように虚数にさせ
られて、ようやくヴァーチャルセックスを楽しむことができるのだ。

222 :- 12 -:01/11/28 20:17 ID:1+clGZp9

「こんにちは」
 数分後、やけに弱々しい声がようやく部屋に響いた。
「は〜い」
 どうやらオヤジではなさそうだ。年齢で好き嫌いははっきりさせないけれど、
どっちかといえばオヤジの方が異常な性癖な奴が多いので少しだけほっとした。

 扉をゆっくりと開かれる。
 背は男の人にしては低そう。ちょっと茶髪。鼻がちょっと高く横顔ではかな
り目立つ。

 そして正面を向き、自信なさげにつぶやいた。
「はじめまして‥」

 私は唖然とした。事実であることを疑うように瞳孔は開きっぱなしになり、
口は半開きのまま硬直した。
 虚数の世界に浸されたカラダの中に不適当な抗生物質を注入されたように拒
否反応を起こす。

 相手は元から虚数だったのだ。
 そして、虚数に虚数が掛け合わされて私は実数になった。

――現実にありえない事実。

223 :- 12 -:01/11/28 20:19 ID:1+clGZp9

 私は視覚を否定する。
 私は聴覚を否定する。
 私は味覚を否定する。
 私は嗅覚を否定する。
 私は触覚を否定する。

――いつか、ココロとカラダを引き剥がしてやる。

 カラダはこの腐った土壌の肥料にでもなればいい。
 ココロはマキが住む世界に移動して、永遠にマキに捧げる。そして愛し続
けてやる。

――その為に私は今生きている。

 だけど、どうして‥‥。

 どうしてあなたがそこにいるの?

「マキ‥」

 私は目の前の現実に向かって呟いた。

224 :  :01/11/28 20:21 ID:1+clGZp9

-11- (前回) >>201-211
-12- (今回) >>215-223

225 :あみ(略:01/11/29 21:23 ID:j7Bx4KsP
「FOLK SONGS」デイリー4位 保全。

226 :名無し娘。:01/11/30 17:33 ID:hJ402uzh
保全をしてみよう

227 :名無し募集中。。。:01/12/01 15:34 ID:+6uxHnvR
保全

228 :ねぇ、名乗って:01/12/02 03:54 ID:F+zoi82k

保全

229 :  :01/12/02 17:48 ID:VrSU9nKc

>225-228 保全ありがとうございます。
このままだと倉庫逝きかなぁ。人減ったし。ま、そん時はそん時。

230 :- 13 -:01/12/02 17:52 ID:VrSU9nKc

-13-

「はい?」
 相手は裏返った声をあげた。
「え?」
「あの‥」
「あ‥」

――違う。

 マキがこんなところにいるわけがない。
 私は首を意識的に強く振る。マキは肉体自体を憎む存在なのだ。この世界で
は生きられない人種なのだ。

231 :- 13 -:01/12/02 17:55 ID:VrSU9nKc

「どうしたんですか?」

 声も違う。
 もっと高い声のはずだ。
 顔もよく見ればちょっとだけ違う。といってもマキの顔はよく覚えていないが。
 身長ももうちょっと低かったはず。
 それに髪は腰の辺りまで伸びているはずなのに、この子は短髪だ。
 そしてなんといっても、この子は男だ。
 胸に目をやる。やはりあの大きくて柔らかい胸はない。
 股間に目を落とす。何となくすでに勃起しているような不自然な膨らみがある。

――やはり「男」だ。

232 :- 13 -:01/12/02 17:57 ID:VrSU9nKc

「あ、ごめん。ちょっとあまりにも若そうだったから。年いくつ?」
 客に聞いてはならないことを聞いてしまう。やはりまだ動揺がココロを支配
しているのか。
「え、え〜っと‥ハタチです‥」
 すぐにウソだとわかった。変声期を終えたばかりのような高音と低音が混ざ
った声から察するに、どう考えても私よりも年下だ。

「ごめん、変なこと聞いちゃったね。今日は何をしたいの?」
「あの‥いろいろ‥テクニックを教えてほしくって‥」
「テクニックってセックスの?」
「セックスもそうなんですけど‥女のカラダのこととか‥」

 こういう客はこの店ではめずらしかった。私は「ふ〜ん」と少年のカラダを
ジロジロと見回すと、いたたまれなくなったのか、少年は慌てた調子で口を開
いた。

「あの‥俺、そういうの知らなくて‥。でも最近、彼女ができて、そしたら、
キスまでしちゃって彼女はその後も期待してるみたいなんだけど、俺どうやっ
たらいいかわかんなくて‥それで‥」

「それでやり方を教えてほしい、と」
「はい!」
 私はやれやれ、と呟きながら目をつぶった。その一方で私は抑えきれない胸
の高鳴りが不整脈に波打っていた。

233 :- 13 -:01/12/02 18:00 ID:VrSU9nKc

 マキではない。

 だけど、やっぱり似ている‥。マキはこの世で生きている人間ではないはず
だ。形のないココロだけを追い求めた存在のはずだ。

 しかし、今目の前にはマキと似た人間が私の、そして彼女のカラダを求めて
いる。似ているのに全く違う。

――対極の存在だ。

 似ているとはいえ、この少年に向かって「マキ」と言ってしまったことに後
悔を覚える。そして今なお、今までの客にはない心境を抱いていることに自戒
する。

「じゃあ、とりあえずリードしてあげるから。一通り、やってみよっか?」
 私は誘惑する悪女のような艶やかな声を出したあと、少年を柔らかく抱きし
めた。緊張のせいかカラダが硬直している。ほのかに香る汗の匂いが、そこら
へんのオヤジとは違いかぐわしかった。汗はフェロモンの塊だということを初
めて認識した。

234 :- 13 -:01/12/02 18:03 ID:VrSU9nKc

 私は少年の手をつかみ、ノーブラで乳首がうっすらと立っているのがわかる
ぴっちりしたTシャツの上に持っていった。そして乳首を中心にさすらせた。
 下を見ると、ジーンズの上から勃起しているのがわかる。

「‥名前、ウソでもいいから‥教えて‥」
 しばらく間があったが少年は「ユウキ」と答えた。
「ユウキくんか。いい名前だね。私のことはサヤカって言って‥」
 淫らな余韻を作りながら私はユウキの唇にキスをした。確かキスはしたよう
なことを言っていたから私がファーストキスということはないだろう。
 だけど、私はそのまま舌をユウキの口に入れると、その口から微かに喘ぎ声
がした。こんなに深いキスをされたのは初めてということを言っているような
淫らな吐息だった。

235 :- 13 -:01/12/02 18:06 ID:VrSU9nKc

 一度10cmほどの至近距離で私たちは見つめあった。
 「サヤカさん‥」というユウキの鼻息混じりの声で私は表情を崩す。赤らん
だ頬を一度舐めてから、ジーンズのベルトを外し、ジッパーを下ろす。露出し
たトランクスの前に着いているボタンを外す。すると、細身のカラダ付きとは
不似合いなほど、たくましく、そして、清潔な感じがするペニスが桃色に変色
しながら反り返っていた。

 私はそれを口に含み、やさしくしごく。
 頭上ではさっきよりも大きなうめき声が生々しく聞こえる。カラダは口に入
っているものと同じように硬直している。
 しばらくしてユウキは射精した。
 若さだろうか、ペニスが異常な速さと大きさで脈打ち、精液が飛び出してい
る。私はユウキの精子をほとんど全部飲み込んだ。

 生臭い、苦い、汚い。

236 :- 13 -:01/12/02 18:07 ID:VrSU9nKc

 だけど、ユウキの体温がしっかり包まれていたその液体は、そんな嫌悪感を
払拭させる何かを持っていた。
「大丈夫?」

 カラダ全体に汗が浮いていた。ユウキはそれを腕で拭いながら言った。
「う、上手すぎです‥」
「そりゃあ、慣れてるからね。彼女にこれくらいのこと期待しちゃダメよ」
 教育だなんて言っておいて、てんでそうなっていないことに気付いた。もし
かしたらユウキの彼女が同じことをやっても「サヤカの方が上手かった」と思
ってしまうかもしれない。

 そして、何でこんなにすんなりフェラチオをやってしまったのか、と思った。
 キライだったはずなのに。
「じゃあ、今度は私を愛撫して」
 私は半立ちでまだ透明な液が亀頭の先端に残っているペニスをティッシュで
ふき取りながら言った。エロティックな眼差しを向ける。
「う、うん」
 ユウキは手を震わせながらTシャツを脱がしはじめた。

237 :- 13 -:01/12/02 18:11 ID:VrSU9nKc

 教えながらの愛撫は延々30分続いた。一度射精したユウキの萎えていたペ
ニスが再びはちきれんばかりに立っていくサマをモモの裏側を舐められている
時に目撃した。ハタチを超えた人間ならこうは簡単に復活はしない。

 ユウキはどんどん上手くなっていくのが感部からの感覚でわかる。暖かい舌
でクリトリスをコロコロと転がした時に私はビクッと過敏に反応した。する
と、ユウキは一度私の目をみつめ、優しく微笑んだ後、そこばかりを攻めるよ
うになった。私の性感帯をすぐに察したのだ。

 やがて、私は指導の声を出さなくなった。いや、出せなくなった。私はそん
なに敏感なほうではないしユウキの愛撫も少しは上達したとはいえ、まだ素人
の域を超えていないはずなのに、この痺れる感覚はなんなんだろう?

238 :- 13 -:01/12/02 18:12 ID:VrSU9nKc

 私にとっての究極の前戯を終え、未だ居場所に落ち着けず、そそり勃つユウ
キのペニスを見た。天井を向いたグロテスクな一物は安らげる場所を求めてユ
ウキの荒い息遣いに併せて、先端が上下に揺れている。
 私はそれを上の口にもう一度含んだ。

「サヤカさん‥そっちじゃなくて‥」
 舌で亀頭を舐めまわしながら私は目線を上げ、「何?」と投げかける。

「下にいれたい‥」

 ユウキは感じながらも必死で言った。
 私は一度狡猾な笑みを見せた後、ユウキの言葉を無視して、右手と口を巧く
使い、最初よりも激しくしごいた。

「だから、サヤカ‥さん‥」
 それ以上ユウキは言わずただ神経をペニスだけに集中しはじめた。男にしか
出せない猛獣のような喘ぎ声が何度も何度も部屋中に響く。やがて、ユウキは
2回目なのに水鉄砲のように勢いよく射精した。喉の奥の方にまで当たった。

239 :- 13 -:01/12/02 18:16 ID:VrSU9nKc

「はぁはぁ‥。サヤカさん、どうして‥?」
 ユウキは自分の思い通りにならなかったことに対して、嫌悪というよりも不
思議な気持ちで見つめてくる。さすがに二回も大量の精液を飲みこんだので胃
の中が少しギュルギュルと音を立てた。
「だって、これって練習なんでしょ?最後までさせちゃったら、彼女に悪いじ
ゃん。童貞は好きな人に捧げなきゃ」
 舌に残っているユウキの精液を指で触れ、中指と親指で擦りながら私は言った。
 その手を自分の性器に近づける。下半身はまだイっていない疼きを覚えていた。
 私のカラダとしてはすごい中途半端だったから、あとでオナニーしようと思
った。

「サヤカさんってロマンチストなんですね」
 ”捧げる”という言葉がユウキにそう言わせたのだろう。確かに自分にそう
いう部分が大きいのは認めるが、こんな場所で裸で性欲処理をした直後ではさす
がに似合わない表現だ。
「そう?すごく現実的なことをしていると思っているんだけど」
「う〜ん、そうですね。じゃあ、リアリスティックなロマンチストってことで
‥ってあれ?矛盾してる?」
 私は苦笑した。するとユウキも照れながら続いて笑った。

240 :- 13 -:01/12/02 18:17 ID:VrSU9nKc

 それからしばらくして私は、
「女のカラダの仕組みは大体覚えたでしょ?個人差はあるけど、性感帯なんて
どこも似たようなものだし」
と、”今日のまとめ”のようなことを言った。

「はい、自信がつきました。ありがとうございました」
「愛撫はなかなか上手かったよ。同じことを彼女にしてあげれば、きっと喜ぶ
と思う」
「はい」
「でも一つだけ忠告」
「はい」
「フェラチオは強要しないほうがいいかもね。女の人で好きな人はあんまりい
ないと思うし」
「そうなんですか?結構気持ちよかったんですが‥」

 私は口惜しそうな表情を浮かべているのを見るとどこか滑稽でつい笑ってし
まった。
 ちらりと時計を見る。もうすぐユウキがやってきて1時間が経つ。

241 :- 13 -:01/12/02 18:18 ID:VrSU9nKc

「じゃ、個人授業はこれで終わり。授業料は5万ね」
 ”個人授業”ってモロ、アダルトビデオだなぁ。この部屋のどこかにカメラ
がつけられていて、録られていて、そんでもって売られたりして‥。そしたら、
売れるかもね。あ、でも最後までやっていないから高くはないかも‥。

 そんな馬鹿なことを考えながら服を着ていると、ユウキは財布から万札を5
枚取り出し、私に手渡そうとする。ユウキのような私よりも年下の少年が5万
円を惜しげもなく出すところを見ると変な違和感を覚えたのであまり顔を見な
いようにして受け取った。自分の財布に5万円をしまっている時にユウキは言
った。

「お願いがあるんですけど」
「何?」

「最後にもう一度舐めていいですか?」

242 :- 13 -:01/12/02 18:21 ID:VrSU9nKc

 私の下半身をユウキは物欲しそうに見ていた。うつむき加減の顔は最初に初
めて見たときよりずっと大人びて見え、ドキリとした。

「うん‥」
 私は細い声で頷いた。私の出した音の尾びれには、今まで出したことのない
フェロモンがくっついているような気がして驚いた。
 料金を追加しようとは微塵も思わなかった。

 それにしても、私のカラダの疼きをユウキは知っていたのだろうか?知って
いてそんなことを言ったのだろうか?

 だとしたら相当なフェミニストだ。
 ユウキは無駄のない動作で私のパンツを脱がし、下半身に顔をうずめ、私が
さっき言った通りに優しく舐めはじめた。

 そして、私はイった。

243 :  :01/12/02 18:24 ID:VrSU9nKc

-12- (前回) >>215-223
-13- (今回) >>230-242

244 :あみ(略:01/12/02 21:56 ID:2mit8hW6
おぉー 〔 ´Д`〕が出てきたか・・・

245 :ねぇ、名乗って:01/12/04 00:07 ID:joqx30aq

保全

ユウキか。
彼は今、何を思っているのだろうか。

246 :あみ(略 改め(((☆_☆)/:01/12/04 21:57 ID:tf7t6ljD
保全

247 :ねぇ、名乗って:01/12/06 00:17 ID:olQPOLcQ

保全
 

248 :名無しさん:01/12/06 21:45 ID:tbBsONWX
ほぜん

249 :名無しさん:01/12/07 01:55 ID:zWCg8vrr
期待保全。

250 :(((☆_☆)/:01/12/08 06:01 ID:i2S9RW2s
気長に待つ保全

251 :  :01/12/09 07:01 ID:uFo2PJyd

>>244-250
遅くなりました。もうちょっとペースを上げたいところなんですが‥。
気長にお付き合いください。

252 :- 14 -:01/12/09 07:02 ID:uFo2PJyd

-14-

――今日、夢は見たのだろうか?

 人間は毎日、いくつもの夢を見ているらしい。起きてからも覚えている夢と
いうのはレム睡眠という浅い眠りの時かつ起きる直前に見た夢に限られるらし
い。それが本当だとすると今日も私は何らかの夢を見ていたことになる。

 しかし、マキの夢はそれとは性質が異なるような気がしていた。
 どんなに深いところにいる状態であってもマキは悪魔のような天使のような
手で持って強引に引きずるように夢に現れる。それは私の眠りのリズムを歪ま
せ、衝撃を与える。そのせいで起きたときも余韻が残る。
 つまり夢が外力のせいで記憶に焼きついてしまう。そう解釈していた。

 だからマキが出たことを忘れたのではなくて、マキは出てこなかったと考え
るほうが正しいと思う。リズムが崩れたようなココロの歪みは感じられなかっ
た。
 マキはどう思っているのだろう?今までも聞いたことのないマキの心情を私
は今まで以上に知りたくなった。

253 :- 14 -:01/12/09 07:04 ID:uFo2PJyd

「フロントの前であくびをしない!」
 後ろからの怒声で私は背筋がピンと立った。振り返るとユウコが眉根を寄せ
ながら私を見ていた。
「あ、ごめん。あんまり寝つけなくて」
 カラダが重かった。重い鉱石のような塊がカラダ体中の皮膚のすぐ下に埋め
られているような気持ち悪さを感じていた。

 食欲もなかった。マリがせっかく作ってくれた御飯と味噌汁をムリに食べる
と胃が拒否反応を起こして戻してしまった。美味しいはずの白米や味噌汁の中
のネギが私の内部に入ると毒に変質してしまうみたいだった。

254 :- 14 -:01/12/09 07:05 ID:uFo2PJyd

 マキに対する罪悪感だろうか?
 少なくともユウキとの行為の間、私はマキの要求、そしてマキの存在を完全
否定していた。

 固有名詞を失った性的浮遊体だった私にユウキは「サヤカ」という命を吹き
込んだ。
 その瞬間、淫猥な自我が目覚める。それは「カラダとココロは決して離れる
ことができない」ということを実践しているようなものだった。
 ユウキは実数となった私の体をココロで持って貫いた。温かな桃色の突起物
が私のカラダもココロも夢中にさせた。

 だからこそ教えてほしい。マキはどう思っているのかを。
 私を否定してほしい。そしたら絶対それに従順するから。

255 :- 14 -:01/12/09 07:06 ID:uFo2PJyd

――「自信がつきました。ありがとうございました」

 え?

 声が聞こえた。
 その方向は全くわからなかったけど、とりあえず考えられる方向に振り向く。
「ユウちゃん、何か言った?」
「ん?何も言ってへんで。ていうか”ユウちゃん”はやめぇや」
 ユウコはアクビをしながら言った。私の緊張したココロとは対照的だった。
「ウソ。言ったでしょ?『ありがとう』って」
「何でアンタに『ありがとう』って言わなアカンねん‥ってどうしたん?サヤ
カ?」

 顔を青く変えながらユウコは尋ねていた。
 そんなユウコを消え行く視界の端で見た。
 目の前が白いペンキで塗りたくられていく。その間を割ってある感情の塊が、
弓矢となって私の胸をまっすぐに刺し抜く。
 痛みはない。ただ胸のあたりで刺された音だけがした。

 私は意識を失った。そして別の意識が入り込んでくる。

256 :- 14 -:01/12/09 07:16 ID:lsLfUlE0

 ユウキの喘ぎ声がした。
 ユウキの背中が見えた。裸だった。
 私は傍観していた。
 ユウキの下には長い髪を振り乱した女がいた。
 私とは別の女。
 顔の見えないその女に私はココロの底面をくすぐられる。

 異様なリアルさがカラダの中に埋め込まれた鉱石の重みをさらに増してきた。

257 :- 14 -:01/12/09 07:17 ID:lsLfUlE0

「サヤカ!」
 気が付くと私は休憩ルームで寝ていた。
 ひどく汗をかいていた。視界にはユウコとナツミの青白い顔があった。

 白昼夢を見ていたことに気づく。
「大丈夫?」
 ナツミのあまりの心配顔にこっちが逆に心配になった。私は立ち上がってナ
ツミの頭をポンと叩き、「大丈夫」と笑顔で言った。
 冷房によって冷やされた全身の汗が体温を奪っていく。

 これは余韻なのか、胸にぽっかり穴が開いている気がする。そしてその穴に
空気が通り抜けていく。違和感からその胸を抑えた。
 私はユウキの幻聴を聞いていたことを理解した。
 弓矢が胸に刺さった音を聞いたとき、その胸からは嘆きの声が発散された。
きっと弓の中に感情が込められていたのだろう。
 私は認めたくなかった。それはマキを否定していることになるから。だけど
どんどん重力に押し潰されそうになっている自分のカラダはその感情を認める
方向に進んでいた。

258 :- 14 -:01/12/09 07:17 ID:lsLfUlE0

「もう帰ってもいいで。二人で何とかするから」
 ユウコは私のカラダを危惧して、そう促す。
「違うって。ホント大丈夫だって」
 何かをやっていないと私はヘンになりそうだった。まだ残っている白昼夢の
残像を消し去る術はカラダを休ませることではない。そう気づいていた。
「じゃ、フロント戻りま〜す」
 私はやけに高い声をあげて、私は休憩ルームを飛びながら離れた。

 私は弓矢の傷を癒すように、何度も何度もつぶやいた。

「私は認めていない」
「私はウソなんてついていない」
「私は‥‥恋なんてしていない」

――言葉の空しさが白昼夢をさらにリアルなものへと変えていく‥‥。

259 :- 14 -:01/12/09 07:19 ID:lsLfUlE0

-13- (前回) >>230-242
-14- (今回) >>252-258

260 :ねぇ、名乗って:01/12/10 03:16 ID:CpQ0kQ5F

保全
 

261 :(☆_☆):01/12/10 22:52 ID:/a0jyuJT
遅くたってかまわないよ。
いい作品は時間がかかるもんやで。
とりあえず頑張れ

262 :  :01/12/11 17:28 ID:NcSI/TLp
保全ありがとうございます。おかげでまだこのスレは生き延びそうです。
ストックはまだ残っているのですが、この1ヶ月何にも進まなくて調整
の意味でもゆっくりやってます。

263 :- 15 -:01/12/11 17:30 ID:NcSI/TLp

-15-

 それからは私のカラダに異変はなく、ユウコもナツミも心配そうな顔はしな
くなっていった。
 フロントから休憩ルームを覗く。ユウコがいつも通り腰を落ち着かせて、タ
バコをプカプカ吸っている。
 ただ、今日は格段に上手そうに吸っていた。

「ホントにユウちゃんって客を選ぶよね」
 私の耳下でささやいたナツミ。私は苦笑しながら同意した。

 20分前、1組のカップルが来店した。腕をからめる男と女。いちゃいちゃ
するのは日常茶飯事でもう慣れたものだが、癇に触れたのはその男女はどうみ
てもエンコー関係だったということだ。父と娘ほどの年齢差の男と女が恋人の
ように振舞っている。

 いや、恋人になりきれていないからこそ、”恋人らしい”仕草を大げさなほ
ど見せつけているのだ。そんな二人だったから私はエンコーなんだと確信した。
二人の間に万札が数枚プカプカと浮かんでいるような気がした。

264 :- 15 -:01/12/11 17:32 ID:NcSI/TLp

「ホント、ナッチには信じられないよ。カラダを売るなんて‥」
 ナツミの脱力気味のつぶやきはたまたま近くに来ていたユウコの耳に届き、
ユウコの逆鱗に触れることになった。
 ユウコはそのカップルが入れた部屋にノックするだけで反応も待たずにズカ
ズカと入り込んで、数分後、カップルを店から追い出した。もちろん、そのカ
ップルは怒り心頭のようだったが、出て行ったあとのユウコの顔は満足感でい
っぱいだった。

「まだ、エンコーって決まったワケじゃないじゃん。単なる仲のよい父と娘な
のかもしれないし」
 それはないと感じていながら聞いた。
「ちゃんと聞いたで。援助交際ですか?って」
「な!」
 ナツミがユウコのあまりのストレートな言い方に絶句する。
「否定せんかったからな。『当店では犯罪者の入店を固くお断りしております』
って言って帰ってもらった」

265 :- 15 -:01/12/11 17:33 ID:NcSI/TLp

 いや、おそらくそんな丁寧口調で言ってはいないだろう。おそらく関西弁で
本性丸出しで追っ払ったに違いない。想像するとちょっと口に笑みがこぼれて
しまった。
 一仕事を終え、”勝利のタバコ”に酔いしれるユウコをまた見る。

 なんて、自分に正直な人なんだろう。

 自分の信念をはっきりとさせ、それ以外を盲目的に排除する。ガンコと言え
ばそれまでだが、その融通の利かないところは限りなく尊い。
 彼女と付き合える男なんてザラにはいないだろう。”お高い”というワケで
はなく、歩み寄りをしないユウコを認めてくれる大らかな人間というのがユウ
コと付き合う第一条件なのだ。
 そんなユウコを尊敬の眼差しで見つめると同時に、いつかくるであろう悲し
い予感にビクビクする。

266 :- 15 -:01/12/11 17:34 ID:NcSI/TLp

 私はいつかその信念に弾き返される日は来るだろう。
 ユウコとどんなに親密になったところで、私の背負う過去、そして隠してい
ることに触れた時、その関係はもろく崩れ去ってしまうだろう。
 対処法なんてものはない。ただ、その日ができるだけ遠い未来であることを
願うのみだ。
「さ、仕事しよ」
 私はナツミに促した。
 何となくユウコを見ることさえつらくなっていた。

 今日は基本的に私がフロント業務でナツミがホールでドリンクとかを持って
いく係りになった。もちろん状況に応じては逆にもなるが基本にはこうだ。

267 :- 15 -:01/12/11 17:35 ID:NcSI/TLp

 ある女性が来たのはナツミがトイレに行っているときだった。
 ワインのような真っ赤なノーショルダーのシャツに紺色のスカート、金色の
髪を上手く束ねていてすごく大人っぽい。背丈はカオリより少しだけ低いぐら
いか。

 一人で来る客はめずらしい。たまにはいるがその大抵は世間の荒波に飲まれ
た結果ボロボロになったおじさんか、時間を持て余している中学生ぐらいの男
子、もしくは歌手を目指して歌いにくる希望に溢れた少女(ただしブサイク)
とタイプは決まっていた。

 この女性はどのタイプとも合わない。

268 :- 15 -:01/12/11 17:37 ID:NcSI/TLp

「いらっしゃいませ」
 私は見上げるように言った。
「1名様でしょうか?」
「いえ」
 女性は辺りをフロントの向こう側を見る。

「実はおとといに携帯電話を忘れたんですが‥」
 その背の高く気品のありそうな立ち姿とは違い、声は少しこもっていて子供
っぽかった。
「じゃあヨシザワさん?」
 ”ヨシザワ”という名前がパッと記憶から引き出されて口に出る。
「はい。ヨシザワヒトミです」
「え?」
 ちょっと目の色を変える私をこの女性はめざとく見つけた。
「何か‥ヘンでしょうか?」
 私は「いえいえ」と慌てて謝った。

269 :- 15 -:01/12/11 17:37 ID:NcSI/TLp

 ヒトミという名前を聞いて私は敏感に、”マリア”で働くヒトミを思い出し
てしまっていた。その女性は口元に静かな微笑をこぼしながら黒のサングラス
を外した。
 私はその顔に驚いた。えらく美人だ。そして”ヒトミ”の名前に恥じないほ
どの大きな瞳からは魔力にも似た不思議な光を放っていた。
 驚きの表情をよそにその女性はにこりと微笑んだ。いや確か16歳なはずだ
から少女というほうが正しいのかもしれない。

 私はなぜか”マリア”で働いているヒトミと比較してしまう。どちらも端正
な顔立ちだが少し違う。あっちのヒトミは守ってやりたいようなかわいらしさ
だが、こっちのヒトミは絶対的な自信とともに年不相応なかわいらしさと綺麗
さをミックスさせている。

270 :- 15 -:01/12/11 17:39 ID:NcSI/TLp

「すみませんが免許証とか、身分証明証とかを見せてもらえませんか?」
「はい、高校生なんで‥学生証でもいいですか?」
「え?高校生?」
 目を丸くする。もっと大人びて見えたからだ。
「はい、見えません?」

 ヒトミは実年齢よりも上に見られることに慣れているようで、目を細めて笑
いながらそう言った。
「すみません。学生証でももちろん結構です」
 つい自分より年上の人間に対するように話してしまう。ヒトミは財布の中か
ら学生証を取り出して私に見せた。都内に通う高校一年生のようだ。
 その時ナツミが用を済ましてフロントにやってきた。ヒトミがいることに気
付くとすぐに、「いらっしゃいませ」と声をかけていた。

 ナツミとヒトミは目が合う。ナツミはすぐにわかったようだ。
「あ〜、ヨシザワさん?」
 ヒトミは柔らかな笑みを浮かべながらうなずいた。ナツミは私のすぐ横に立
ち、肘で脇腹をつつく。それでヒトミはおととい、カラオケルームでエッチな
ことをしていた人間だとようやく思い出した。あの白黒のモニターに映ってい
た”男と女”。

271 :- 15 -:01/12/11 17:43 ID:NcSI/TLp

 私はヒトミを一目見てすぐにナツミの言っていたことは正しかったのだと感
じた。
 このヒトミが男に弄ばれる人間とは到底思えない。つまり、ヒトミは女のカ
ラダを弄んでいた人間――つまり私たちが男と間違えていた人間なのだ。

「二人とも美人ですね。お二人目当てでやってくる男の子とかいるでしょう?」
 ヒトミは言った。
「そんな〜、いないですよ。美人だなんてそんなぁ〜」
 ナツミがどこかのオバさんぽく右の手首を振って恥ずかしそうに応えた。こ
れが美人があまり美人じゃない人間に言う少し皮肉が入ったお世辞だとは気付
かないのだろうか。

「いやいや、美人の上にどこか幸せそうな顔してますね。いいことあったんで
しょう?」
 ヒトミがナツミだけを見て言う。すると、ナツミは、
「え?いやいや、あはは」
と下手に口を濁していた。

272 :- 15 -:01/12/11 17:44 ID:NcSI/TLp

 毎日のように顔を合わせる人間は慣れてしまうとまともに見ることはなく、
目に見える変化だけを追いがちなる。ナツミとは毎日とは言わないが、バイト
に入る度に会う。いつのまにかナツミを”空の笑顔しかしない”人間と捉え、
今日もその偶像を、一瞥したナツミの輪郭に結び付けていた。

 ヒトミの言葉を受けて、ナツミをまともに見た。
 確かに笑っている時間が長いような気がした。しかも、いつもと違ってそこ
には何らかの意味が含まれている。ヒトミの言う通り、何かあったとしか考え
られない。

273 :- 15 -:01/12/11 17:45 ID:NcSI/TLp

 私は携帯電話と学生証をカウンター越しに手渡した。
 少し気分が悪かったのはヒトミがあまりにも落ち着き払っていて、浮世離れ
している感じがしたからだ。何か私のココロを全て見透かしているようで、気
に食わなかった。

 だから悪戯心に少し、その冷静なココロに動揺の雫を垂らしてやろうと思っ
た。

「ありがとう」
 ヒトミは軽く礼をする。それに合わせて私は言った。

「また、来てくださいね。あの恋人の方と」

 私はちゃんとレズシーンを見てましたよ、という意味をこめた一種の侮蔑の
目を送る。
 しかしヒトミはそんな私をあしらうように長い首をさらに長くして笑った。

274 :- 15 -:01/12/11 17:52 ID:NcSI/TLp

「はい。また”彼女”を連れてきますね」
 そう言い残し、小さいバッグを肩にかけ、マッドフレームの高級そうな黒の
サングラスを着けながらヒトミは店を去っていった。
 ポーンという間延びしたチャイムが鳴り響く。今日はいつも以上の虚しい響
きだった。

「サヤカ‥?」
 ナツミは負けた、という表情をしている私を不思議そうに見ていた。
「‥‥」
「どうしたの?」
「う〜ん、確信犯だったみたいね‥」

 また、ヒトミは”彼女”を連れてくるだろう。そしてカメラを意識しながら、
私たちに見せつけるようにエッチをするのだろう。

 その時、私は働いていたくないな、と思った。

275 :- 15 -:01/12/11 17:55 ID:NcSI/TLp

-14- (前回) >>252-258
-15- (今回) >>253-274

276 :(☆_☆):01/12/12 21:55 ID:q077QWlv
更新ありがとう保全

277 :(☆_☆):01/12/13 21:39 ID:/icM5KwE
次が楽しみ保全

278 :ねぇ、名乗って:01/12/14 05:11 ID:Jvr2vcG5
あれ?
ヒトミが二人?
それとも。。。

279 :ねぇ、名乗って:01/12/14 10:02 ID:5rAmB7/L
どうもイメージが合わないと思ってたら、そういうことだったか。

280 :名無し娘。:01/12/14 10:54 ID:qpPNGskd
かなりレベルの高い小説だなあ。面白いというより凄い。

281 :ねぇ、名乗って:01/12/15 02:30 ID:aunilOEo
>279
なにが?

282 :ねぇ、名乗って:01/12/15 02:32 ID:QU7MYn2d
>>281
( ´ Д `)<ぼくにはわかる

283 :  :01/12/16 06:29 ID:OnOJ4gvA

市井握手会行ってきました。
寒かった。化粧濃かった。ヲタがうざかった。
まあ、俺も朝一に到着して前の列に構えたヲタなんだけど。
こんな市井小説を書いてる俺が何の罪悪感もないのはなんでだろう?

保全ありがとうございます。ここからは年末までこまめに出していきます。
毎日は不可能ですが。

284 :- 16 -:01/12/16 06:41 ID:OnOJ4gvA

-16-

 その日もナツミは私を食事に誘った。今日は風俗の仕事はなく暇だったが
「2時間ぐらいしか空いていない」とウソを言って断ろうとした。
 しかし、「それでもいい」と言われてしまった。前回は自分を追いこんでい
るふしがあったのに今日はない。
積極的なナツミは見ていてちょっと奇妙だった。
 結局、私は断る理由を逸したこともあって2時間だけ付き合うことになった。

 前回と同じようにナツミは私のバイトが終わるまで1時間ほど待ち、近くの
24時間営業の喫茶店に寄った。なかなかお洒落な店構えで店員の客当たりも
良いとは思うのだがなぜか人が入らない不思議なところだった。そこで、ベー
コンのホットサンドを二人とも頼んだ。
 正面に向き合った時、ナツミは純粋なままの笑顔を浮かべていた。多分、私
のような汚れた肉体では決して作ることができない笑顔だった。
 ふとマリに近いと思った。正確に言うと昔のマリにだ。

285 :- 16 -:01/12/16 06:42 ID:OnOJ4gvA

「何か良いことあったの?」
 私はナツミがいつもとは雰囲気が違うことをヨシザワヒトミが指摘して初め
て気付いた。あのヒトミはそういう人のココロを読み取ることができるのだろ
うか。
 それからナツミの様子を観察したのだが、確かに違うナツミがいた。

 自分の中にこもるようなところを一切見せず、客や私たちと接していた。ナツ
ミにとって笑顔とは自分の陰湿な部分を隠す武器のはずなのに、今日のナツミの
それはどう見てもココロからのもののようだった。

「へへへ〜、わかる〜?」

286 :- 16 -:01/12/16 06:43 ID:OnOJ4gvA

 黒の無地のハンドバッグからナツミは携帯電話を慌てた手つきで取り出し、
その後ろを見せた。
 そこにはプリクラが一枚貼られていた。
 男と女がいた。一人はナツミだろうが顔にカラフルなペンで塗られていてイ
マイチ顔がわからない。
「あ、もしかして?」
 ひらめきとともにナツミを見た。必死で堪えようとするもこみ上げる感情に
はかなわなかったのか、表情を崩した。
「うん‥おとといあんなこと言ってたんだけど‥彼氏出来ちゃった」
 申し訳なさそうに、ナツミは上目遣いをする。
「へえ〜、どうやって?ていうか早くない?」
「いやあ、それがさあ、サヤカと別れてからおウチに帰ろうとしたんだけどそ
の途中にね、ストーカーに遭ったんだべ」
「ストーカー?」

「うん、私をずっと付けて来る人がいてね。電車の中でも、降りて歩いていて
も後ろにいたんだべ。真っ赤なセンスの悪い帽子を被っていたから鈍感なナッ
チでもすぐわかった」
 ナツミは怪談話をしているように私を脅そうとする。怖い話は苦手だし、ナ
ツミはそういう雰囲気を作ることが上手いようだ。
 私はちょっと怯える。

287 :- 16 -:01/12/16 06:44 ID:OnOJ4gvA

「それに一回パッと振り返ったらその赤い帽子の人はサッと後ろを向いたから、
『ああ、ストーカーだ』って気付いたの」
「まさか、そのストーカーが彼氏になったとか?」
 常識では考えられないがナツミはある意味私の常識外の人間だ。

「んなワケないよ。それで私ね、怖くなって走り出したの。一瞬後ろを見たら
その人も走ってきて‥」
「うん」

 なぜか頭の中にはジョーズのテーマが流れてきた。私にとっては恐怖の象徴
なんだろう。なんて貧困な想像力だと嘆きながら、その頭に流れる音楽に怯え
ていた。

「曲がり角をぶつかったらバ〜ンと!」
 私はツバを飲み込んだ。ナツミは自分の前で腕を組む。そして上を見上げる。
「王子様が現れたの」
「はぁ?」
「だから、王子様」
「それがコレ?」
 私は携帯電話に貼られたプリクラを指差すと「コレ」と言われたことに一瞬
だけ怪訝な顔をしてからナツミは大きく頷く。
「ま、つまり彼がね現れて‥」
「なるほど。助けてくれて、それで付き合った‥と」
「うん!」
「なんかドラマチックだね〜。月9のドラマの主人公みたいだ」

288 :- 16 -:01/12/16 06:59 ID:6r+TB/dJ

 そう言うとナツミは照れていた。”月9”というのは完璧なお世辞で、正確
に言うとチープな昼のドラマだと思った。でもこういうほうがナツミらしい。
「どんな人なの?」
 ナツミは「質問して」と言わんばかりの好奇に満ちた目で私に訴えかけてき
たので、とりあえず聞いた。
「うん、優しくてカッコよくて、それで――」
「結構ひょうきんもの?」
 私は口を挟んだ。
「うん、何でわかったの?」

 私は再びプリクラを指差した。
「顔に落書きしてるでしょ?二人で撮った最初のプリクラなら思い出を大切に
しそうなナツミだったら絶対何も書かないはず。じゃあこれは彼がやったって
いうことになる。こんなことやる男なんて結構なひょうきん者だろうし」
「へえ、なんかサヤカって探偵の人みたいだね〜」
「まあね、プロファイリングの勉強してるし」
「そうなんだ。カッコいい〜」
 おいおい本気にしないでよ。大体「プロファイリング」って何なのか知って
いるのか?私だってよく知らないで適当に言った言葉なんだけど‥。

289 :- 16 -:01/12/16 07:00 ID:6r+TB/dJ

 そう呆れる私を無視してナツミはただ幸せそうに笑っていた。どんなへりく
つをこねたってこの微笑みの前には王水をかけたように溶けてしまう絶対的な
ものに思えた。

 私はナツミの幸せを付き合いが短いとはいえ、ささやかに願っていた。だか
ら、こんな明るい顔をするナツミを無条件に微笑んで受け止められるはずだ。

 だけど、私はかつてのナツミのように笑顔を”作っている”自分に気付いた。
それを知られたくなくて一度目をギュッと閉じ、底に湧いている鬱屈したもの
を押さえつける。
 そうやって意味不明の葛藤と闘っていた。
「どうしたの?」
 ナツミは不思議そうに尋ねると、私は「なんでもないと」と首を横に振った。

「もうエッチしたの?」
 私は唐突に聞いた。ナツミは大げさに首を横に振る。
「まさかぁ、キスもまだだよ」
 私は眉をひそめた。

290 :- 16 -:01/12/16 07:01 ID:6r+TB/dJ

「本当に付き合ってるの?出会ってまだ2日でしょ?」
「だって、それにプリクラも撮ったし、電話番号も交換したし‥」
「告白は?したの?されたの?」
「いや、どっちも‥」
「はあ?じゃあまだ付き合ってるって言えないんじゃ‥?」
「でもねでもね、たまたま二人とも昨日予定なかったからデートしたんだよ。食
事して映画行って‥」

 弁明みたいに早口で喋る。拳をグーに構えて力説をしている。
「それでキスは?されなかったの?」
「うん、でも最後に手を繋いでくれたんだ」
 また嬉しそうにナツミは自分の小さな手を見つめながら言った。私はただた
だ呆れた。

 きっとこの男も恋愛経験がほとんどない童貞クンなんだろうなぁ。でもそう
いうやつのほうがナツミにはお似合いかもね。
 そして、もうちょっとナツミを心配しようと妙な母性が働いていた。

 注文したホットサンドはいつの間にかテーブルに置かれていた。それに気づ
き、食べるともうホットではなくなっていた。

291 :  :01/12/16 07:02 ID:6r+TB/dJ

-15- (前回) >>253-274
-16- (今回) >>284-290

292 :-17-:01/12/16 16:45 ID:mZB0aAbr

-17-

 家に帰るとマリがいて驚いた。
 時間的にはいてもいいから驚くべきことではない。私が驚いたのは、すでに
上下長袖のピンク色のパジャマに着替えていたことだ。いや、もしかしたら着
替えていないのかもしれない。今日一日ずっと同じ服を着ていた。つまり外出
を一秒たりともしていないということになる。
 外出好きのマリにはあまり考えられないことだった。

 「ただいま」という私の声にも後ろ姿が上下に揺れるだけで”窓際リーマン”
のような物寂しさが見え隠れした。
 右手にはマグカップを持っている。私はもう一度、今度は若干大きめに呼び
かけると、マリはゆっくり振り向いた。

293 :-17-:01/12/16 16:46 ID:mZB0aAbr

「おかえり」
 そのマリの表情には隠そうとも隠すことができないくらいの翳が宿っていて、
私は一瞬背筋が凍る。いつもの明るいマリの全人格をひっくり返したような気
がしたからだ。

 失恋というものはこうも強力なダメージを受けるものなのだろうか。一昨日
よりも昨日よりもずっとその落ち込みかたは激しかった。それは明日も明後日
も続くのだろうか。そしてどんどん深い闇に落ちていくのだろうか?

「今日は外出しなかったの?」
 マリはうなずく。
「学校行かなくてよかったの?」
 またマリは無言でうなずく。
「体調悪いの?」
 今度は首を横に振る。やはり無言で。

 それからもマリはほとんど口を開かなかった。活字がびっしりと埋まってい
る小説を手に持っているが、薄くよどんだ黒目は焦点が合っているとは思えな
かった。

294 :-17-:01/12/16 16:49 ID:mZB0aAbr

 何となく違うと思った。一度、マリは失意のどん底に落ちている。しかし、
何かが別のさらなる深い底に落としたのだ。
 そう思う理由は説明がつかない。言うなれば、幼馴染としての長い年月がそ
う唱えている。

「マリ‥また、何かあったの?」
 マリは反応した。ほんの少しだったけど、あごが上下に振れ、肩が揺れた。
「あったんだ‥」
「‥‥」
「‥別にムリすることはないから‥。話したくなったら話して。昔みたいに
さぁ‥」
「‥‥」
「とにかく‥早く明るくて元気なマリに戻ってね」
 私はマキのことについて震えながら話した小学生のことを思い出しながら言
った。しかし、マリは結局最後まで無言だった。

 少し聞きすぎたかな、と思いながら風呂に入った。こういう時に詮索するの
は愚かな行為だ。
 再会してからはお互いのプライベートに関してはあまり追求しないようにし
ていたから余計にそう思った。

295 :-17-:01/12/16 16:51 ID:mZB0aAbr

 濡れた髪を完全に乾かす前に、私は寝床についた。
 暗いところは苦手なので電気をつけて寝る。マリが先に寝ている日は暗い
所で寝なければならないので苦痛だけど仕方がない。
 逆に私が先に寝る時は電気をつけたまま寝て、マリが寝る時に消してもらう
ことになっている。

 私が穏やかに眠りの泉に落ちていくときだった。
 マリが音を立てずに私の近くにやってきて電気を消した。私は「マリももう
寝るんだ」と思うだけで目は開けない。
 ほとんど意識がなくなりかけた時だった。

 マリは私の布団をめくり、腹の上にのしかかってきた。体重が軽いとはいえ、
一瞬「うっ」とうめき声をあげる。すると、その声を閉じ込めるように、口に
冷たい感触が走った。

296 :-17-:01/12/16 16:52 ID:mZB0aAbr

 それがキスだと気付くのに若干の時間がかかった。落ちていく意識の底から
上向きの力がカラダ全体を押し上げるように働き、私は目を開けた。
 驚きという、目から火花が出るようなインパクトのあるものではなくボディ
ブローのようなじんわりとやってくるような衝撃だった。
 真っ暗でよくわからないが目の前にはマリの顔がある。

 マリは私の胸のあたりを触っていた。カラダの表面を撫でているという感じだ。
「マリ、何してるの?」
 状況がいまいち把握できていない私は「どいて」と嫌がることなく尋ねる。
 目が慣れてきてマリの表情が徐々にわかるようになる。暗がりの中というせ
いもあるが、寝る前に見た翳をさらに増したような表情だった。

 カラダにようやく衝撃が走った。ここまでされておいて何て鈍感なんだ、と
思った。

 私は服を脱がされているのだ。そしてよくみるとマリも小振りで形のいい胸
を出している。

297 :-17-:01/12/16 16:53 ID:mZB0aAbr

「ちょっと、マリ!」

 黒く渦巻く空気に一層の危機を感じ、私は必死で起き上がろうとするが、マ
リは私の腹に乗っているため、うまく抵抗できない。
 結局そのままブラジャーまで強引に剥ぎ取られ、右の乳首をマリは高速にこ
すりはじめた。
 カラダ中が乳首を発信源に熱くなっていく。一瞬洩れそうになった喘ぎの声
を私は唇を意図的に噛んで飲み込んだ。
 熱が電流を生み、カラダの中を流れる。それが手足に及ぶ前に私はかろうじ
て自由になっている左腕でマリの右腕をつかんだ。

 マリはそんな私の抵抗にも屈することなく、顔を近づけ再びキスをした。今
度はさっきと違い獰猛なキスだ。小さな亀裂からこじ開けるように私の口に舌
を入れてきた。
 そのキスの味はなぜかしょっぱかった。

298 :-17-:01/12/16 16:55 ID:mZB0aAbr

 マリに対する嫌悪とかはなかった。
 襲われているという感覚もなかった。
 ただただ、今の状態を信じることができない。悪夢を見ているようだ。

 次にマリは私のパンツに手を入れてきた。その手は一瞬で性感帯にまで
到達する。そして、すぐにいじりはじめた。
 キスされた時、私は若干感じていた。マリの手で少しだけ濡れたアソコが滑
らかに弄られている。
 キスで閉じられた口が離れたとき、私は思わず女の声を出した。
 マリは上手かった。女同士だからどこが感じるかを知るのは簡単とはいえ、
あまりのソツのなさだ。
「や‥めて‥」
 ムダだとわかっていて私は必死の嘆願をした。男だったらこんな声で言われ
ると逆に欲情を燃え滾らせることになるだろう。マリも同じでより一層しつこ
く攻められると言った直後に思い後悔した。

 しかし、マリは予想に反し、その言葉で動作を止めた。電池式のロボットの
電池が切れたように、硬直した。
 そして、私の胸に冷たい水が落ちた。

299 :-17-:01/12/16 16:56 ID:mZB0aAbr

「マリ?」
 時間が止まった感覚がして私はそのスキをついて逃げ出そうと思わない。
 私もマリと同じように硬直してしまった。

「何でこんなこと‥?」
 私がそう聞いた瞬間だった。マリはアソコに伸びていた手に力を込めた。
そして、ブチッという音とともに、その手を私のパンツから出した。

「痛っ!!」
 私は下半身のあまりの痛みに飛び上がった。
 その力は上になっていたマリを飛ばした。ドッスンという音がする。私は立
ち上がった。

 マリは私の陰毛を毟り取ったのだ。しかも何本も同時に。
 カラダをいろんな風にいじめてきた私だけど、この痛みは初めてだった。

「何すんのよ!」
 数年ぶりに私は尻持ちをついているマリに怒りをストレートに向けた。そし
て、丁度目の前に垂れ下がっていた部屋の電気の紐を私は引っ張った。

300 :-17-:01/12/16 16:58 ID:mZB0aAbr

「何で、こんな―――」
 電気は2、3度点滅した後に完全についた。その光は私とマリを照らした。
肌色になったマリのカラダを見て、私は絶句した。

 マリは泣いていた。もう何日も泣いていたかのように頬に傷のような赤い線
が3Dのように浮かび上がっていた。

 しかし、私を絶句させたのはそれだけじゃない。

 マリは全裸だった。

 そして、そのカラダには無数の傷とアザが生々しく刻まれていた。

301 :  :01/12/16 17:02 ID:mZB0aAbr

-16- (前回) >>284-290
-17- (今回) >>292-300

302 :(☆_☆):01/12/16 21:20 ID:xSVh2Ti9
一日に2回更新ご苦労さんです。
なんやえらい展開に・・・

303 :  :01/12/18 01:48 ID:q1DgNdbh

羊って相当居づらくなってるなぁ。
>302 まいどです。ホント助かります。

304 :- 18 -:01/12/18 01:50 ID:q1DgNdbh

-18-

「マリ‥」
 名前を呼ぶだけでそれ以上の言葉は出てこない。目の前の現実が歪み、頭の
てっぺんから手足のつま先まで震えが沸き立つ。
 マリは決して目を合わそうとせず、尻持ちをついた態勢のまま十字架に張り
付けられたイエス・キリストのように感情を全て失ったまま裸の自分を晒して
いた。

 マリの右手の下にはちりちりの私の陰毛が20本ほどある。それを見て、ま
だひりひりする自分の陰部をさすりながら、マリの同じ部分を見た。

 また、絶句した。

 マリにその毛はなく性器がはっきりと見える。代わりにその部分は赤く染ま
っている。剃刀とかで乱暴に剃られた痕だった。

305 :- 18 -:01/12/18 01:53 ID:q1DgNdbh

 マリは何も言わない。逃げ出そうとしない。でもカラダ全体から訴えている
ような気がした。
「何が‥あったの?」
 マリはピクリと動いた。初夏の風が部屋に吹き込んだようで私とマリのカラ
ダを掠める。生ぬるい風だったがマリの刻まれた傷に染み込んだようで途端に
苦痛の顔をする。

「誰にされたの?」
 聞いてもムダなことを聞いてしまったとやや後悔しながらマリのカラダを凝
視する。

 マリに近づくムチで叩かれたようなネズミ腫れや、カッターで切られたよう
な切り傷。二の腕には縄で縛られたような痕、などキズが多種類ある。そして
何といっても一番目を見張るのが左胸の乳首の上にある焼きゴテのようなもの
で烙印された刻印だ。肌が茶色くただれており、錨というか地図記号の漁港の
文字をひっくり返した感じの痛々しい模様だった。

 私は汚れたカラダを歯を食いしばりながら見続けた。おそらく1人とか2人
とかのレベルじゃないだろう。きっと二ケタ単位の人間にマワされたのだ。

306 :- 18 -:01/12/18 01:54 ID:q1DgNdbh

「ねえ、マリ!」
 横を見て私と目を合わさないマリの顔をつかみ無理矢理私のほうに持ってき
た。顔はカラダに比べるとキレイだ。
 おそらくレイプされたのはおとといだろう。外泊したと思っていたあの日だ。
それまでなぜ気付かなかったのだろう。

 マリの顔と首から下は全く別人のように肌の色が変わっていた。間近にその
肌を見て、ゾンビを見ているような気持ちに襲われた。
 無理矢理合わせたマリの目はほとんど死人だった。その目から決壊したよう
に涙がとめどなく流れている。

「サヤカぁ〜‥」
 理性を失ったようにツバを溜めた口からマリは声を出した。言語障害者のご
とく口元をきちんと動かさなかったためネバネバしたヨダレがとろろイモのよ
うに口から洩れた。

「マリ‥どうしてこんな‥」

「感じるよね?どんなにイヤだって、感じちゃうものは感じちゃうよね?」

307 :- 18 -:01/12/18 01:55 ID:q1DgNdbh

 マリは私の愛液と陰毛がこびりついた右手を狂った雌猫のように舐めた。目
には悲壊の色を帯びている。それは私のココロをえぐるような痛いものだった
が、何の意志も有さない瞳よりはずっとマシだった。
 私は小刻みに顔を上下に動かしながら「うん」とうなずく。

「私‥悪くないよね‥?何度も何度もイっちゃったけど‥悪くないよね?」
「うん、悪くない!マリは何一つ悪くない!」
 私は小さいマリのカラダを力の限り抱きしめた。触れた肌は普通は感じるこ
とがないゴツゴツした違和感でいっぱいだった。
 長い嗚咽はココロの傷を表面上だけ癒しているようだった。

308 :- 18 -:01/12/18 01:57 ID:q1DgNdbh

 密着したカラダとカラダ。
 感情の吐露を終えるとその肌触りに対してどことなく羞恥を覚える。しかし、
マリはそんなことは考えていないようだった。
 自分の中に湧く見えない敵と必死で戦っているように震えていた。

 マリは犯された。
 いくつもの傷をつけられた。
 そして、それでもカラダに流れる性の衝動に、きっと男たちは罵詈雑言を浴
びせたのだ。

「感じてるじゃん。好きなんだろ?」

 頭の中で吐き気がしそうなダミ声が繰り返される。
 貧困な想像力から生まれる簡単な方程式は残酷な過去に私を導いていた。

309 :- 18 -:01/12/18 02:01 ID:q1DgNdbh

「ゆっくりでいいから‥明日でもあさってでも、1週間後でもいいから、何が
あったか教えて‥」
 マリに耳下で囁いた。よく見ると耳たぶもただれている。着けていたピアス
を強引に取られたのだろうか。
 マリは一度胸で大きく息を吸ってから首を横に振った。
「今、言うから‥」
 どんな形にしろ、告白するつもりだったようだ。深呼吸の間隔が小さくな
る。そして、肩、腕、腰、そして胸の刻印と自分の傷を次々に触れていった。
 現実に存在する残酷な事実を再確認するように。

 しばらくして、お互いパジャマに着替えた。電気は中途半端だけど二つの蛍
光灯の内、一つだけを点けた。ぐちゃぐちゃになった布団を部屋の片隅に乱雑
に寄せて、スペースを作った。そこに二人は座り、一緒に温めたウーロン茶を
飲んだ。床は板張りで冷たかった。

 マリはゆっくりと毒を吐き出すかのように、時に苦悶な顔を浮かべながら吐
露しはじめた――。

310 :  :01/12/18 02:04 ID:q1DgNdbh

-17- (前回) >>292-300
-18- (今回) >>304-309
眠いので切り‥‥zzz。

311 : :01/12/18 04:25 ID:9LWo13jy
 

312 :ねぇ、名乗って:01/12/18 04:52 ID:L5MCk5UT
やはり市井には小説がよく似合う・・・
超名作保全

313 :  :01/12/18 08:11 ID:q1DgNdbh

-18-はもうちょっと続きます。眠かった。
>312 小説では使いやすいです、ホントに。

314 :- 18 -:01/12/18 08:22 ID:q1DgNdbh

 竹下通りからから東に歩いて10分のところにある公園で二人は会った。マ
リはサルが木にぶら下がるように小さいカラダを懸命に使ってトシヤの腕に巻
きつき、歩いた。

 しばらくして、トシヤとマリは路地裏の薄暗いところに足を踏み入れた。
 排水溝から洩れ出した水が地面を濡らし、厚底の靴の下でピチャピチャと音
を立てる。
 マリは幾分かの不気味さを感じたようだが、何の迷いもなく歩くトシヤにし
がみつくだけでそんな恐怖は失せていた。

 しばらくするとちょっとした広地に抜けた。草が高く生え、その内側に廃墟
みたいに妖しげに建物が立っている。とにかく周りに人の気配がしないところ
だった。
 繁華しているところから少し歩いただけでこんな寂れた場所があるとは驚き
だった。

315 :- 18 -:01/12/18 08:23 ID:q1DgNdbh

「そこで、トシヤは別れようって言ったの‥」

 マリは胸のあたりをギュッと抑えながら言った。マリにとって、あまりに突
然だった。
 目の前が真っ暗になり、涙でぐにゃぐにゃになった。

 トシヤは「理由は聞かないでほしい」と呟いたあと、背を向ける。マリはも
うとっくに絶望の淵に落とされていた。自重を支えられなくなるほど腰が抜け、
トシヤに一層しがみついた。

 でもマリが味わう絶望の淵はさらに深いところがあったのだ。

「何で?」と振り絞るように聞いたらトシヤは顔だけをマリの方に向け、笑っ
てこう言った。

316 :- 18 -:01/12/18 08:24 ID:q1DgNdbh

「お前を好きなやつが俺の周りにはいっぱいいるんだ」

 これが合図だったかのように突然の人影が現れる。
 それも一人や二人じゃない。獣の群れから生まれる欲望の音色が不協和音を
作って周りをかき鳴らす。
 恐れおののくマリに向かってトシヤはこう吐き捨てる。

「正確に言うとお前のカラダが好きなやつなんだけどな」

 四方八方からガサゴソと荒い息とともに物音を立てる群れが一斉に打ちひし
がれていたマリに襲いかかった。マリはなすすべなく数人の男に囲まれた。

 そして―――。

317 :- 18 -:01/12/18 08:28 ID:q1DgNdbh

 目の前のマリは口を閉ざした。私から顔を背け、唇を噛みしめている。
腐敗したカラダをこれ以上壊されないように腕を巻きつける。

 私はただ立ち尽くしていた。
 続きは――言わなくたってわかる。

 マリはそこで輪姦されたのだ。
 必死で抵抗しても、ナイフでカラダを切り刻まれ、ライターで膝をあぶ
られたり、紐で腕を巻きつけられたりした。そしてペニスで膣をえぐられ
た。何人も何人も。

 そんな想像をさせるマリの失意のどん底に落とされた表情。

318 :- 18 -:01/12/18 08:55 ID:q1DgNdbh

「何回も何回も中出しされちゃった‥」
 しばらくしてからマリは微かな嗚咽を含ませながら、口を開いた。また
じんわりと涙がたまっていく。

「生理‥きたの?」
 マリは首を横に振る。
「まだ‥あれから2日しか経っていないからわかんない」
「検査薬ならすぐ手に入るでしょ。買ってくるから」
 マリは多分犯された後、この家に直行し、それから出ていないはずだか
らそんなものを買いに行ってはいないだろう。
「もし‥できてたら‥どうしよう‥」
 再びマリに震えが襲った。私はマリの左手をギュッと握った。

「大丈夫。精液って混ざり合えば妊娠しないって聞くし‥」
 根拠はあまり知らないけどそう聞いたことはある。レイプされたマリに
この言葉はなぐさめにはならないだろう。だけど、こうしか思いつかなか
った。マリは静かにうなずく。
 私は一つ思ったことをすぐ口にする。

319 :- 18 -:01/12/18 08:57 ID:q1DgNdbh

「そのトシヤってやつは――」
「違う!」
 マリは異常な速度で反応した。
 俯き加減だった頭を上げ、目を見開きながら私を見た。そのあまりの豹
変ぶりと迫力にマリ自身が驚き、握っていた左手を離し、「ごめん」と謝
る。
「いいよ。とにかく明日病院に行こう。その傷‥ちゃんとしなきゃ‥」
 胸の皮膚が爛れて作られた刻印を見ながら言った。

 マリは承諾した。
 私はレイプした顔の知らない男たちを、そしてトシヤを思い浮かべた。
剣を持った私はそれらを串刺しにした。その顔が苦痛を滲ませるまで何度
も何度も貫いた。

 きっと、トシヤはその輪姦した男たちの仲間なのだ。
 マリのことがキライになって仕組んだのだ。いや、元々そのために近づ
いたのかもしれない。

320 :- 18 -:01/12/18 08:58 ID:q1DgNdbh

 マリもそのことに気付いている。
 だけど、トシヤとの甘い日々をココロもカラダも忘れることができない。
99%そうだと知らされても1%はそうじゃないと過去の日々が囁きかけ
る。
 おそらくココロの全てをトシヤに傾倒させてきたマリなのだ。
 どんな裏切りの言葉も「それは違う」と思えるエネルギーを蓄えていた
のだろう。

 しかし、一方で私に救いを求めている。
 トシヤを何とかしてほしいと。
 だからマリの吐露にはトシヤが裏切ったことをはっきりと表面に出して
いた。

 私の中で憎悪のドス黒い炎が燃え立つ。

 トシヤと会ってやる。
 そして―――。

 炎は目的を果たすまで永遠に燃えつづけるだろう。

321 :  :01/12/18 09:00 ID:q1DgNdbh

-17- (前回) >>292-300
-18- (今回) >>304-320

322 :あ名無し娘。:01/12/19 00:13 ID:Zt4t+4SA
一気に読んでしまった・・・
(・∀・)イイ! ッス
がんばって〜

323 :ねぇ、名乗って:01/12/19 03:03 ID:Hah1ynTc

少しずつ核心に迫りつつある予感。
(・∀・)イイ!!
 

324 :ねぇ、名乗って:01/12/19 17:07 ID:Km8kVVO9
トシヤ、どっかで聞いたと思ったらやっと思い出した。
って事は安倍……

325 :  :01/12/20 05:54 ID:VxoKHvYm

結構ギリギリ…。

326 :-19 -:01/12/20 05:57 ID:VxoKHvYm

-19-

 昨日の夜の出来事があって私はイライラしていた。
 朝目覚めても明るいマリはいなかった。それはもしかしたら昨日のこと
は全部夢だったのでは?という愚かな希望を打ち砕くものだった。

 マリはカラダにもココロにも傷を負っている。
 私はどれだけ癒せるだろう?
 約束した病院に行くことをマリは今日になって拒否した。妊娠について
は不安ではあるけれど焦ってもしかたがない。
 それよりもカラダの至るところの傷を何とかしてあげたかった。もしこ
のまま放置しておいて、痕が残ったとしたら、今後別に好きな人ができて、
セックスしようとしても戦争の痕のようなおびただしい傷の数々に男の方
は引いてしまうかもしれない。

 それだけではない。
 マリは一生そのカラダと付き合わなければならないのだ。
 カラダの傷よりココロの傷の方が大事なのかもしれないけれど、ココロ
がたとえ癒されてもカラダに忌々しい過去を想起させるようなものが残っ
てしまえば、ココロは決して癒されることにはならないのだ。

327 :-19 -:01/12/20 05:58 ID:VxoKHvYm

 あれ?
 何を考えてるのだろう。
 私はカラダとココロが乖離したいと思っている。それが非現実的なこと
と知りながら、求めつづけている。
 でも今はひどく現実的に不可能だと否定している自分がいた。
 「ココロとカラダは分離できないんだ」と。

 そういえば、今日もマキが現れなかった。
 目覚めてもう1時間が経っている。
 私は起きるとすぐにマキのことを考える。マキが現れた日はもちろんだ
が、たとえ現れなくても「何で出てこないの?」と夢の中のマキに訴えて
いたのに、今日はしなかった。

 「忘れた」とするのであれば普通ならばごく自然な理由だろう。でも、
私とマキはそれは理由にならない。なぜなら二人はココロでしか繋がって
いないから。
 忘れることはマキとの関係を断絶することになるのだ。

 どうしてだろう?
 ジャムがたっぷり塗られた食パンを手に持ったまま呆然とした。
 マリのことがあったからだろうか?
 それとも――?

328 :-19 -:01/12/20 06:03 ID:VxoKHvYm

――何かが私の中で変わろうとしている。
 わずかずつだけど確実に未来の道はカーブしている。
 その先にあるのは私が思ってもみなかった世界。
 きっと期待よりも不安が大きい。

 私はマリに無理をさせたくなかったので家にいるように指示した。
「やっぱり精神的にもサヤカの方が上なんだよね」
 マリは言った。
「どういうこと?」
「私さあ、サヤカにコンプレックスがあったんだ‥」

 私が出かける直前のことだった。
 積年して重くなった思いを告白するようにゆっくり、そしてはっきりつ
ぶやいた。
 マリの傍にずっといてやろうと思っていたけれどマリは、
「仕事なんなら行ってきて。私は大丈夫だから」
と言ったので行くことに決めた。
 マリは私の仕事の詮索はしないから詳しいことは知らないはずだ。

329 :-19 -:01/12/20 06:07 ID:VxoKHvYm

 もちろん夜に出かける仕事かつ大層な収入を得られる仕事だということ
は知っているから、まともな仕事ではないことぐらいは勘づいているだろ
う。しかし、ここまで汚れた仕事をしているとは思ってはいないだろう。

 いつ暴露してもいいとは昔は思っていたが、レイプされたマリにとって
こういう仕事をどう感じるようになるのか考えたとき、私はもう言うべき
ではないと固く心に決めた。

「コンプレックスってコレ?」
 私は自分の頭のてっぺんに手のひらをかざし、2度ほど手首を振る。
 マリはうなずいた。
「私ね、サヤカに追いつきたくて大っキライな牛乳飲んだこともあったんだ」
「へえ、マリがねぇ」

 マリの牛乳嫌いは筋金入りだ。小2の時なんか給食に出る牛乳を小1の
クラスにいる私のところに毎日持ってきたほどだ。
「でもやっぱり続かなくて‥へへへ‥一度サヤカがキライになった‥」
「‥‥」
「バカだよね、『私の方がお姉ちゃんなんだ〜』って感じで‥。でも身長
だけじゃないんだよね、ココロん中もずっと私より大人だ。私、頼ってば
っかりだ‥」

330 :-19 -:01/12/20 06:45 ID:VxoKHvYm

「そんなことないよ。私、マリがここに来たときすっごく嬉しかった。そ
れからずっとマリに頼りっぱなし。昔も今も――マリは私のお姉ちゃんだよ」
 私はマリの頭を撫でた。

「それ、子供扱いしてる‥」
 口を尖らせて私を見つめた。
 そして、お互い笑った。
 そこには純粋なものだけにはどうしてもならない――世間を知ってしま
った大人としての汚れた部分がある笑顔だった。

「じゃ行ってくる」
「うん、サヤカ」
「何?」
「お仕事、がんばって」
「‥うん」

331 :-19 -:01/12/20 06:46 ID:VxoKHvYm

 私は性を商売にしている。
 時にはレイプのシチュエーションでやったりもしている。
 イメージと本番では違うとはいえ、私はマリが味わった屈辱を擬似体験
し、お金に換金しているのだ。
 チクリと胸の真ん中が蜂に刺されたような痛みを覚える。

――私はマリを裏切っている。

 そんな背徳感がカラダを襲っていた。

 ドアを開けると、ねっとりとした雨が降っていた。

332 :  :01/12/20 06:49 ID:VxoKHvYm

-18- (前回) >>304-320
-19- (今回) >>326-331

333 :名無し娘。:01/12/20 18:45 ID:G6jgfPZQ
保全

334 :ねぇ、名乗って:01/12/20 22:52 ID:6Jl7CZC+
念の為

335 :ねぇ、名乗って:01/12/21 04:11 ID:mwqWwka5

(・∀・)イイ!!
 

336 :ねぇ、名乗って:01/12/21 15:28 ID:i1oJn1GV
保全

337 :ねぇ、名乗って:01/12/22 01:59 ID:/ZrhR3i3
保(略

338 :  :01/12/22 03:58 ID:KsFX8bJU

保全ありがとうございます。いきなりペースが落ち気味ですが、消されないように
がんばります。

339 :- 20 -:01/12/22 04:24 ID:KsFX8bJU

-20-

 雨は何かを溶かそうとしているのだろうか?
 誰かのために泣いているのだろうか?
 それとも何かを告げる合図なのか?

 油じみた驟雨がココロもカラダも滅入らせていた。

 電車の中は湿度が高かった。
 赤や紺の傘の先からポタポタと水が滴っている。人一倍汗っかきそうな
禿げたオッサンはもう何日も洗っていないような汚いハンカチで必死で広
い額を拭っていた。
 そんな日だったからか人の体温がムンと感じていた。

340 :- 20 -:01/12/22 04:25 ID:KsFX8bJU

 今日は休むべきだったと後悔した。
 オレンジやスイカが腐ったようなオヤジの匂いに「気持ち悪い」と思う
のではなく、小さな憎悪の炎がくすぶっていた。

 アンタらと同じ男がマリを壊したんだと。

 男という人類の半分の存在を敵対物として見つめていた。

 ケイは相変わらずの調子で声をかけてきた。こんな時、ケイが女であっ
て本当によかったと思う。
 入ったばかりのころは私もエンコー慣れしていたとはいえ男の一物を乱
暴に咥えさせられたりして、それを単なる仕事としか見ていなく冷ややか
に見守るケイを憎んだものだ。

 そんな時、ケイが男だったら――その同類にそそり立つ下半身を見つめ、
私はさらに憎しみを倍加させることになっただろう。
 今のくすぶりはその時の気持ちに似ていた。

341 :- 20 -:01/12/22 04:26 ID:KsFX8bJU

 仕事場の部屋に入ったときから、私は心臓の鼓動が私というカラダを支
配していた。
 緊張とかではない――私のまだ微かに残っている清潔な部分がこの密室
に拒否反応を示しているのだ。私は水を口に含み、その得体のしれない動
揺を溶かそうとした。

「こんちゃーす。よろしく」

 その客は一見は気概のいい男だった。少しだけ染め上げた髪を上手くウ
ェーブしていて、髪型だけみればホストっぽい。鼻が低いので顔は中の中
といったところか。背も平均より若干低めだ。
「雨の中いらっしゃいませ」
「ああ、雨やったらもう上がってたよ」
「そうなんですか。それならよかった」
 男は私のカラダをジロジロと見る。
 制服がきつめなため、自分のラインがはっきりと出ている。私は少し恥
ずかしげに身をよじる。

342 :- 20 -:01/12/22 04:28 ID:KsFX8bJU

「う〜ん、写真で見るより大人っぽい子やなぁ、立たんかもしれへんなぁ」
 男はちょっと関西弁訛りを出しながらフレンドリーに話しかけてきた。
「そうなんですか?」
「俺な、ちょいロリコン入ってんねん」
 若干の羞恥を持ちながら自分のことをロリコンと正面切って話す男に、
私は逆に好感を持った。

「チェンジ‥しましょうか?」
「いや、いいねん。別に専門っちゅうわけやないしな。それに今日は気分
転換のつもりやったからな」
 少し照れた時のくせなのか頬の辺りをポリポリと掻いていた。
「そうですよね。専門だったらこの店、来ないですもんね。みんなハタチ
以上だし」
「でも、サヤカちゃんはそれより下やろ?」
 カマをかけている言い方だと勘付いたのも経験からだろう。というかそ
ういう客はかなりいる。

「いやいや、そんなことないですよ」
「ウソや」
「ホントです。でも若く見てくれて嬉しいです」
 しばらく考えた様子を見せた後、諦めたように口を開く。
「そっか、俺の目も狂ってきたかな‥。そんじゃあ、はじめていい?」
 私は小さくうなずいた。

343 :- 20 -:01/12/22 04:29 ID:KsFX8bJU

 最初の客がこの人で良かった、と思った。
 この店には歪んだ性癖の持ち主が来ることが多い。
 この男も公言している通り、ロリコンという歪んだ性癖なのだろうが、
その癖は私にとっては大したことではなかった。

 男はコスプレも要求せず、私を純粋に裸にし、愛撫しようとしてきた。
性の玩具としてではなく一人の女性に接するように。本当にロリコンなの
かと思うくらいサド的な要素もなかった(ロリコンの大概はSだ)。

「君のおかげで、対象年齢上がりそうやわ」
 私の胸を揉みしごいているときに男は言った。私は関西弁口調のこの男
に合わせて「おおきに」と言う。

「俺、ホンマはこんなヤツやないねんけどな‥」
「‥‥‥」
 私は演技が入ったトロンとした目で見つめ、男の次の言葉を待つ。
「サヤカちゃんのカラダ見ていると、ヘンな気持ちにならんわ、やっぱ‥」
「‥というと?」
 ”ヘンな気持ち”というのは欲情のことだろうか。男は私の乳首をコロ
コロ転がしていた舌の動きを止める。
「ま、エエがな‥」
 男はためらいまじりにそうつぶやいた。その言動たちは理解できなかっ
た。しかし、これ以上私も詮索する必要もないし、したいとも思わなかっ
たので何も言わないでいると、男は再び愛撫に集中しはじめた。

344 :- 20 -:01/12/22 04:35 ID:KsFX8bJU

「ほな、そろそろしてもいい?」
 男は私を仰向けにし、膝を開かせた。もう全裸だったので恥部が男の目に
ははっきり映っているだろう。
「はい」
「でも大丈夫なん?」
 男の口からそんな言葉が出た。ためらいがそこにはあった。

「え?」
 最初はわからなかったが、男が聞きたかったことをすぐ理解した。
「ああ。大丈夫です。今日は安全日です」
「‥‥‥」
「それに、もし何かあってもお客様には責任は取らせませんから」
「‥‥‥」
「大体、わかるのは数日後のことだし‥そうなったら誰のかわからない
わけですから責任を取らせようにも不可能です」

345 :- 20 -:01/12/22 04:36 ID:KsFX8bJU

「‥そっか、安心した」
 しばらく間を空けて、男はあまり安心した顔色を見せずに言った。い
つのまにか豊かな表情が消えていることに気づく。少し緊張を帯びてい
るようだが場慣れしていないからというわけではなさそうだ。
 かといって理性が消え、凶暴な情欲男に変貌する様子もない。

 しかし、それもどうだっていい。
 男の一転して無表情になったところは気にはなったが、それ以外はあ
まり変わっていなかった。
 最初に言ったとおり、性の対象外なため、あまり欲情していないだけ
なのかもしれない。
 これなら楽勝――普通にセックスして終わるだろう。それこそ、社交
辞令のような薄くて愛のないセックスになるはずだ。

346 :- 20 -:01/12/22 04:44 ID:KsFX8bJU

 そう。いつもなら楽勝になるはずだった。
 しかし、今日は違った。

「そしたら、いれるで」
 男が半立ちになっているペニスを見せたときに、再び拒否反応が起こ
った。胃の中のものが逆流するとともに、頭の中では悲鳴が駆け回る。
 幻聴だとはわかった。しかし、この悲鳴がマリのものだとわかったと
き、狂いそうな昂ぶりが身を襲った。

「どうしたん?」
 目に見えて震え、接触を拒絶しようとしている私を不審そうに見つめ
る。
 その時私はその客が妖怪のような目で私を見ているように見えた。そ
の妖怪は私のココロをえぐろうとさらに手を伸ばす。ネバネバしていて
妖怪の触手のように見えた。

347 :- 20 -:01/12/22 04:46 ID:KsFX8bJU

「そんなに大きくないとは思うねんけどな」
 恐怖に引きつった私を男は演技だと思ったのか腕をつかんで少し強引
に引っ張った。私の中で何かが切れた音がした。
「うわあああ!!」
 私は拳に近くにあった固いものを持って思い切りふり下ろした。
 男の後頭部にあたり、前のめりになって倒れた。

「はぁはぁ‥」
 壁によしかかり横を見ると、鏡があった。裸になった私の全身を映し
出している見える。そこにはあるはずのないカラダ全体に渡った火傷の
あとや、カッターで切り刻まれた傷、そして、イカリの刻印が胸に焼き
ついていてその部分が特別熱かった。

「何これ?」
 やがて、カラダの至るところにあった傷から激痛が走り出す。一つ一
つが意志を持っているかのように痛みが激しく波打つ。

348 :- 20 -:01/12/22 04:47 ID:KsFX8bJU

 目の前に客が気絶している。
 この客が私をこんな目に遭わせたの?

 痛い。
 苦しい。
 死ぬよりもずっとつらい。

 私は地の底から湧きあがるような絶望の悲鳴をあげた。

 まだ頭の中で響き渡るマリの悲鳴と共鳴し、底の見えない奈落へと落ち
ていく―――

349 :  :01/12/22 04:59 ID:KsFX8bJU

-19- (前回) >>326-331
-20- (今回) >>339-347

祝20。規制ウザ‥

350 :名無し娘。:01/12/22 20:05 ID:qAODMSdv
荒れそうなんで保全

351 :ねぇ、名乗って:01/12/23 04:04 ID:Xq9fQsK+

祝20保全
 

352 :- 21 -:01/12/23 06:44 ID:vkWfel+P

-21-

 小一時間経つと私は大分落ち着いた。
 結局、そのまま私は仕事を休むことになった。とりあえずは謹慎だけど、
おそらく解雇になるだろう。
 別にこの仕事自体に特別の思い入れはなかったし、それでよかったのだ
が、ケイの悲しくて「裏切ったね」と言わんばかりの目が私の心を刺した。

 歓楽街を歩く夜の11時。
 私にとってはあまり馴染みのない時間帯だ。
 雨は客の男が言ったとおり上がってはいたが黒い雲の動きが早くてもう
一度降りそうな気配もある。街中は夜通し遊ぶような若者で溢れ、それぞ
れが明日なんて考えていない飢えた顔をしている。
 道端に腰を据え、深遠な夜の空を灰色のフィルター越しに見つめていた
り、道行くサラリーマンやOLの顔を物色している。
 ある人はカツアゲ、ある人はレイプの対象に‥。

353 :- 21 -:01/12/23 06:45 ID:vkWfel+P

 こいつらは鬱屈したエネルギーの塊でできた廃棄すべき人間だ。

 未来を見ることを拒絶し、刹那的な欲望と、何かあったら一気に燃え出
しそうな物騒な衝動とが渦巻き、それを是として生きている。
 きっとマリを襲った連中もこんな退廃的なムードから生まれた人種なの
だろう。

 自分だけが異物なのかもしれないとして少し歩幅が狭くなる。
 離れたところから見たら私だけ浮いて見えるのかもしれない。
 のろのろと頭を抱え、誰からも己の存在を隠すように歩く私にそんな人
種が、君も同化しよう、と誘ってくる。
 単なるナンパの裏側に、あんたも同じ穴のムジナなんだ、と私を弾劾す
るねっとりとした侮蔑の響きがあった。身の毛がよだつ悪魔のささやきに
私はバッグを振り回して追い払った。

354 :- 21 -:01/12/23 06:46 ID:vkWfel+P

 ふと周りを見るとヤクでもやっている発狂人を見るように一般の通行人
が冷ややかな視線を送っていた。もしかしたら警察に通報されているかも
しれないと思い、この場から立ち去るべく足を早めた。
 どうやら私は異物には間違いないようだ。ただ、この嫌悪すべき若者た
ちよりもっとドス黒く煤けた”欠陥種”だ。

 私は深呼吸をした。私の中の毒を空気で浄化させるように。
 そんなことはムダだとわかっていても何もしないよりはマシだった。

 とっとと、家に帰ろう。
 ちょうど雨の匂いが再び世界を覆った。闇の空にぶ厚そうな雲がたちこ
めている。

 私は足をさらに早めて自分の家に向かった。周りは何も見ないでいこ
う――どんなにキョロキョロしたって私より最低な奴はいないのだから。

355 :- 21 -:01/12/23 06:47 ID:vkWfel+P

 しかし、そんな思惑はある人間が壊した。
 ホテル街の性のぎらつく欲情が空気を支配しているところだった。
 あまりの慣れた匂いに私はその一人の存在を見て見ぬフリをすることが
できなかった。

「ユウキ‥」

 夏だというの寒さを覚えた。
 ぽつりと天から降りてきた一滴の雫が頬を掠めた。
 ユウキとその腕にしがみついたユウキよりもずっと背の低い少女が歩幅
を合わせてゆっくりと歩いている。私は二人が周りと比べて電球の数が少
なく建物全体がアラビア風の少し不気味なラブホテルに入るのを目撃した。
二人とも緊張しているようだった。

 ユウキは真正面で立ち尽くしていた私の存在に気づかなかったようだ。
ホテルに入るということに神経を尖らせていたようで周囲の様子など見渡
す余裕もないといった感じだった。

356 :- 21 -:01/12/23 07:16 ID:vkWfel+P

 ユウキの隣の少女は私とは似ても似つかぬ容貌だった。胸もなく腰のく
びれもほとんどない幼児体型をしていて、顔もそれに合わせた童顔。中学
生、いやもしかしたら小学生かもしれない。そして、翳を決して有さない
純粋な瞳を持っていた。
 とにかく外見も内面も私とはまったく異質の人間。

 ユウキの好みってあんな感じの子だったのか‥。

 一瞬意識が遠のき、疲れがどっと出た。擦り切れたぼろきれのような深
くて殺伐とした疲れだった。

 何を考えてんだ、私?

 湧出する疲弊の分子を払い落とすように私は腕を掻き毟った。赤い引っ
かき傷が4本、平行に皮膚に浮かび上がる。
 ユウキは単なる客だったはずだ。ただマキに似ているというだけで他は
他の客と何一つ変わらない。

357 :- 21 -:01/12/23 07:19 ID:vkWfel+P

 ユウキは「彼女がいる」としっかり言ったのだ。それを私は今ただ目撃
しただけだ。私が教えたことをユウキは予定通り実行しようとしているだ
けだ。

 ユウキなんて関係ない。
 関係ない。
 関係ない‥。

 そう自分に言い聞かせながら、深い絶望の沼に足が沈みこんでいく感覚
を覚えていた。

 雨は本格的に降り始めた。
 そんな中、傘も差さずに30分ほど出入りのないホテルの玄関を呆然と眺
めつづけた。
 あまりに幼そうな彼女だったのでフロントで帰されるのでは?という淡
い期待は段々と薄れていった。

358 :  :01/12/23 07:21 ID:vkWfel+P

-20- (前回) >>339-347
-21- (今回) >>352-357

359 :ねぇ、名乗って:01/12/24 05:45 ID:Ya8C4JPo

ん? Newキャラ登場か。

激しく期待 ハァハァ…
 

360 :- 22 -:01/12/24 06:42 ID:sXYxqodz

-22-

 何という曲かわからない。
 だけど甘い匂いを誘う旋律であることは本能的に読み取った。
 そして、同時にやってくる足音が悪意に満ちたものであることも本能的
に気づいていたのだろう。

 ここまで感性が優れていたのは私の脳細胞がまだ未分化だったからだろ
うか。
 足音の主が私を見つめる。
 微かに口元が動いた。私の耳にもちゃんと届いたようだけど何て言って
いるかわからない。読み取る力がまだないのだ。
 私はただ、その”愛さなければいけない人物”とその上に見える輪っか
型の電球を眩しげに見ていた。

 私は意味もわからないまま泣く。喜びとか苦しみとか悲しみとか――全
ての感情を泣くという人間の一番の本能の部分でしか表現できない。
 目の前の人には伝わっているだろうか。これは喜びの表現なんだと。だ
からもっと愛してほしい。その瞳をもっと温かくして、もっともっと私を
見つめてほしい。

 ただ、近くに来てくれるだけで、私の中には愛が生まれる。そして、き
っと向こうも―――

361 :- 22 -:01/12/24 06:43 ID:sXYxqodz

 しかし、その人物の手が喉元に押し当てられたとき、真実の裏側を知っ
た。
 縦50センチ、横40センチの檻の中、私が自由に動き回れる空間。そ
の中を通行許可証である笑顔を私に見せ通過してきた手。
 大きくて柔らかくて、全てを包んでくれそうな手は間違いなく”母”の
もの。

――もっとも私を愛してくれるはずの存在。

 今その手は確実に死へと導いていた。
 泣くことができなくなった。
 苦しさから泣こうとしてもその感情すら止められてしまう。必死で抵抗
しようとするが、手も足も動かすことしか知らない私のカラダは抵抗とは
程遠く、ただ空しく宙を掻くだけだった。
 酸素がなくなる。脳細胞が徐々に死んでいくように真っ白な情景が目の
前に広がる。

 私を動かしているのは生きるという本能ではなく、庇護する立場のはず
の母の手が突然、破壊する存在に裏返りしたことに対する絶望的な憎悪だ。

 そんな感情を脳裏に焼き付けたまま私は白の世界にココロもカラダも埋
められていく―――

362 :- 22 -:01/12/24 06:44 ID:sXYxqodz

 意識が戻ったときには地獄に追い詰めたその腕に抱かれていた。
 汗ひとつ掻いていない。
 さっきまでのことがウソだったかのように、母は笑顔で、「いい子
ねぇ〜」と背中をさする。

 あれは夢だったのだろうか?
 いや、違う。もし夢が存在しているとするならば、この母の笑顔こそが
夢で虚無的なものなのだ。

 母が喉を締め付けたせいか、その日から気管支性肺炎を発症し、嘔吐と
夜泣きを繰り返した。
 母は手厚い看護をする一方で、時折人が変わったかのように私を屑のよ
うに痛みつける。
 私の小さな世界に入ってきた母は私のぶよぶよとした腕をつねる。黒目
が大きい私の目をは虫類のような冷徹な目つきでえぐるように睨む。

 この善と悪の繰り返しは何なんだ?

『”真実”は存在しない』

――それが私の得た、紛れもない”真実”だった。

363 :- 22 -:01/12/24 06:46 ID:sXYxqodz

「すごい寝汗‥」
 閉じられた目の向こう側で心配そうに私に向かって誰かが言った。寝返
りを打つと、背中がオネショでもしたかのように冷たかったので、異常に
早く覚醒する。
 そして、今のが夢だと気づいたのはそれから数秒後のことだった。
 でも普通の想像を含んだ夢ではなくて、きっと――。

「シャワー浴びたほうがいいよ」
 目をあけると、いつものマリがいた。あいかわらず夏だというのに長袖
のトレーナーに腰を紐で縛る薄い生地の長ズボン。

 季節感の外れた日常を見て、現実に戻ったのだと気づき、一瞬吐き気を
覚えてから、ようやく落ち着く。
「うん、今何時?」
「朝6時。起こしてゴメン。うなされてたようだったから不安になって‥」
「ありがと‥。助かったよ」
 マリは頭上の電気をつけた。2度ほど点滅してから私たちを照らす。

364 :- 22 -:01/12/24 06:47 ID:sXYxqodz

「”マキ”の夢?」
 少し恐れているようにマリは聞いた。マリは私にとってマキとは大切な
人物であることを知っている。それなのにそんな風に聞くのは、私がマキ
にココロを傾倒させることがイヤだったからだろう。
 それだけマリは今私を頼っている。

 うれしいようで哀しい。

 私は首を横に振った。
「全然違う夢。それだったらこんな汗かかないよ」
「そうだよね」
と言いながらマリはうなずいた。
 そして、「シャワーを浴びてきたら?」と私を促した後、「私はもう一
度寝る」と言った。布団にもぐろうとするマリを私は呼び止めた。

365 :- 22 -:01/12/24 07:08 ID:YefGdrg6

「今日こそ、病院行こうね」
 布団の中でマリのカラダを揺さぶった。
「イヤ。ていうか行かなくて大丈夫だよ。傷も全部ちゃんと治りそうだし」
「ダメだって。全部完璧に消してもらうの。特にその胸‥」
 今は常に隠されている胸に禍々しく映える刻印を想像すると一番吐き気
がした。

 いくつもの傷があったがあれだけは何か劣悪な意志が込められていると
思っていた。
 あの忌々しい印を消したい――そう願っていた。
「大丈夫だって。人間の自然治癒能力を信じなさい!」
「何、小難しいこと言ってんの?絶対行くんだからね!」

 マリは突然布団をめくり上げた。
 暖かくて悲しい目をする。どこか空虚で高級チーズのようにところどこ
ろに穴が開いていたマリの言葉に急速に意志が吹き込まれる。

「じゃあ、このカラダの事情を医者にどう説明すればいいの?」
「え?」
「私‥このカラダをいろんな人に見せなきゃいけないんだよ‥。そんなの
イヤだ」

366 :- 22 -:01/12/24 07:09 ID:YefGdrg6

 静寂に私はカラダを浸した。
 脳だけがフル回転でマリのココロを探ろうとしている。そして、浮かび
あがるのは後悔の部分。

 レイプされた人間が告訴に踏み切るのはほんのごく一部だと聞く。それ
は自分が晒し者にされるからだ。よくは知らないが警察や裁判でどのよう
なことをされたのか公言しなければならない。

 マリが法廷に立って苦渋に溢れた顔をしながらうつむき加減に告白する
シーンを思い浮かべた。周りは一部に30代くらいの女性の集団が真剣な
眼差しで見つめる以外は数寄物顔でマリを目で舐めまわしている。
 想像で幾人もの無関係の人間がマリを犯している。

 ゾッとした。
 貧困な想像の中ででも血の気が引いた。

367 :- 22 -:01/12/24 07:11 ID:sXYxqodz

「ごめん‥」
 私はココロから謝った。同じ女としてそんな単純な回路を解読できなか
った自分を貶した。本当はココロもカラダも同時に癒していかないといけ
ないのだ。

「じゃあ、寝るね‥」
 小声でマリは言った。私はただうなずいた。
 でも病院には行ってほしい。そんな強いココロをマリに持ってほしい。
 純粋にそう思った。

368 :- 22 -:01/12/24 07:13 ID:YefGdrg6

 シャワールームには小窓がついている。太陽の光はさすがに直接は入ら
ないが窓のおかげで大分明るかった。
 ベトベトした汗を洗い流していると爽快ガムを噛んでいるかのように
すーっと冷たく心地よい刺激が脳をくすぐる。
 冷静さが徐々に生まれ、それが今日の夢のことを想起させた。

 あれは私が創った妄想ではない。
 おそらく過去に現実として起こり、記憶の一番深いところに眠ってい
たものが、何らかの原因で表層にまで蘇ってきたのだろう。
 きっとこの記憶は立つことすらままならない、物心がつく前の私だ。
だから、通常の記憶の引き出しには存在しなかった。

369 :- 22 -:01/12/24 07:14 ID:YefGdrg6

――私は母に虐待されていた。

 夢なんて曖昧なものを根拠にするのは間違っているのかもしれないが、
それは真実だろうと私の中の何かが伝える。
 そういえば私は低学年のころから離婚するまでずっと反抗期だった。
 誰にでもある両親への反発心ではなく、陰にとじこめたような表出す
ることのない悪しき反抗。

 もし、私が表面上に出た半生だけを書き綴り、それを誰かに見せると
する。
 そこで、私は聞く。
「私がこんな人間になってしまったキッカケはなんだったか?」と。
 すると、見た人間全てがこう答えるだろう。
「マキの夢を見るようになったからでしょ?」と。

 しかし、それを私は自信を持って否定できる。
 私のこの現代社会に不適合のココロは決してマキのせいなんかじゃ
ない。

370 :- 22 -:01/12/24 07:15 ID:YefGdrg6

――”先天性”なのだ。

 きっと生まれる前からこんな人間だったのだ。
 母はやはり自分の腹を痛めて産んだのだから一番私という人物を知
りえた人間だったのかもしれない。
 母には「私を抹殺するように」という社会適合者としての本能が働
いたのであろう。一方で我が子に対する母性本能も働く。二つの本能
の対象が私という同じ生物に向けられている母は激しく葛藤する。
 それが私にとっての善と悪を交互に繰り返させる。

 これで今まで母が私を嫌っていた理由の説明が付く。
 今回の夢でその考えは決定的になった。

371 :- 22 -:01/12/24 07:18 ID:sXYxqodz

 シャワーを浴び終え、部屋に戻るとマリは数分間前のことをキレイ
サッパリ忘れてしまったかのようにすやすやと眠りに入っていた。
 寝顔は幼くてかわいくて――どうしても姉というより妹のようだった。
 私はマリに会えて――マリの幼馴染で本当に良かったと思う。
 マリがいなければ今まで生きてこれなかっただろう。きっと喜びとい
う感情を知らずに社会に抹殺されていたに違いない。

 マリは私とこの世界をつなぐ掛け橋となってくれた。

 だからこそ、マリが私の昔棲んでいた闇の世界に落ちていきそうな今
の状態はどうしても許せなかった。今度は私がマリを救う番だと思った。

 マリの為に下手なりに料理を作ろうと小さな台所に向かうと冷蔵庫に
は「今日はゴミの日」と書かれた付箋紙が貼られていた。マリの字だ。

 きっと私宛ではなく自分自身に書いたものだろう。その付箋紙を剥が
して、私はゴミを集めた。
 水色のゴミ袋にはいっぱいゴミが入っている。あまりにも多すぎて、
上手く結べなかった。私は二つに分けて捨てようと思い、もう一袋ゴミ
袋を持ってきて、半分だけ入れ替えた。
 その時私はゴミの中にヘンなものを見つけた。

372 :- 22 -:01/12/24 07:19 ID:sXYxqodz

 黒色のビデオテープだ。ラベルは貼っていない。ヘンだと思ったのは
ケースからテープが10mほど表に出ていたからだ。
 どうみても誰かが引っ張りだした形跡だ。私はビデオの横に置いてあ
るテープを見た。3本が縦に並べられてあった。確か昨日も一昨日もず
っと前も3本だったから、そこにあったものではないことは確かなようだ。

 私は息を呑んだ。
 あんな社会に身を置いている以上、どうしてもそっちのイヤな方向に
想像させてしまったからだ。
 そして、その推測が正しいとすると、マリが狂気に孕んだ行動に出た
のに1日のタイムラグあった理由にもなる‥。

373 :- 22 -:01/12/24 07:20 ID:sXYxqodz

30分後。
「おはよ」
 眠い目をこすりながらマリはやってきた。
「あれから寝なかったんだ‥」
「うん、シャワー浴びると頭が冴えちゃって寝る気にならなかったんだ」
「あ、ご飯作ったんだ。珍しい。結構凝ってんじゃん」
 テーブルに所狭しと置かれたご飯や味噌汁やポテトサラダを見てマリ
は言った。
 私が料理をするとしたら大抵パンで、和食なんてものは作らなかった
から少し驚いているようだ。
「おいしいかどうかはわからないけど」
「うん、毒見してやるか」
「何よそれ。毒見って‥」
 ふてくされ気味に私が頬を膨らませると、マリは笑いながら椅子に腰
掛ける。さっきのちょっとのケンカは忘れてくれているようだ。
 少し私はほっとした。

「あ、そうそう、今日ゴミの日だったんだよね。ちゃんと捨てといたから」
 言ってココロの中で少しガッツポーズ。ごく自然に言えた。
 マリは冷蔵庫を一度見て、付箋紙がないのを確認したあと、「うん、あ
りがと」と言った。

 ビデオテープはとりあえず私の通常使わないバッグの中に入れておいた。

374 :  :01/12/24 07:22 ID:sXYxqodz

-21- (前回) >>352-357
-22- (今回) >>360-373

375 :- 23 -:01/12/25 05:28 ID:uJQUtksL

-23-

 カラオケ店”三日月”は盛況でも不況でもない。

 ただ夏休みだから昼の客は通常よりも多くほとんどが学生だ。4、5人
の部活帰りの生徒がただ騒ぐ部屋もあれば、若くて初々しいカップルが互
いに似合わないラブソングを歌いあったりする部屋もある。

 私は歌が好きだ。
 ジャンルは何だっていい。人の生み出した旋律に合わせて喉を震わす時、
尖っている全ての物、感情を丸くしてくれるような気がする。
 もちろんカラオケでバイトしていたからって歌わせてくれるワケではな
いが、人の音痴な歌声が部屋の扉を通ったときに聞こえたりすると、なん
となく顔をほころばせてしまう。

376 :- 23 -:01/12/25 05:30 ID:uJQUtksL

 でも今日に限っては機嫌が悪くなってしまう。
 カップルを見るたびにココロがズキンと痛む。
 そして、思い浮かべるのは、マキ‥いやユウキかもしれない‥。

 私は認めざるを得なかった。
 ユウキに特別の感情を抱いていることを。
 それを恋とは認めたくない。マキに似ているからその幻影を具体化され
たものとしてユウキを見ているのだと信じたい。
 そうしないと、私が今まで生きてきた数年間を否定することになる。

 マキは出てこない。
 出てくる予兆さえ見せない。
 マキのことを考えるとき、私は不安でしかたがない。こんな感情初め
てだ。

377 :- 23 -:01/12/25 05:31 ID:uJQUtksL

 もしマキを忘れることがあるならば、それはきっと海から飛び出して
しまった魚のように悶え、息絶えることだと思っていた。

 しかし、今は「何とかなるのでは?」という気持ちがある。
 陸に打ち上げられた魚の私はユウキという現実のエキスによってエラ
呼吸から肺呼吸に替え、足を持ち、砂の上を歩いてしまったのだ。ある
とき、陸を歩く魚の私が海を振り返る。
 そしてもう戻ることはできないと悟る。

 私はマキを見捨てたのだろうか?
 でもこのまま陸を歩き続けるわけにもいかないのだ。
 足や肺を取り付けてくれたユウキなる媚薬はもう私の元から離れてい
て、手に入ることはない。これ以上どこに進めばいいのかわからない。
やがて迫り来る突風や太陽の熱射から身を守る術を私は知らない。

 だから、早くマキに出てきてほしい。そして津波でもなんでもいいか
ら海岸に佇む私をさらってほしい。海に戻して、私の足や肺を腐らせて
ほしい。

――そしてまたマキというココロに支配されたい。壊されたい。

378 :- 23 -:01/12/25 05:32 ID:uJQUtksL

「どうしたの?ちょっと顔青くない?」
気がつくとナツミが心配そうに私の顔を見つめる。私は、「なんでもな
い、考え事をしてただけ」と自分の頬を軽く引っ叩いた。

 この店に勤め始めたのは風俗をやってから3ヵ月後。つまりもうすぐ
4ヶ月になる。ユウコは嘘ばかりで埋めた略歴を見て、騙されたのか騙
されたフリをしていたのかわからないが、私と二言三言言葉を交わすだ
けでその場で採用してくれた。

 ココで働くことができて本当によかったと思う。クズな私でも少しだ
け社会に役に立てているような気がしたから。

379 :- 23 -:01/12/25 05:34 ID:uJQUtksL

 私やナツミやユウコは前と同じように食い入るようにモニターを見つ
めている。今日は暇そうだから、ずっと見ててもよさそうだ。
 声が出ない画面からでもちゃんと聞こえてくるかのように下になって
いる女が身をよじらせる。
 その上で女のカラダを弄んでいるのはあのヨシザワヒトミだ。

 私が入ったとき、
「ヒトミちゃん、来てるよ」
 ナツミは卑しそうに客の名前を”ちゃん”付けで言った。前みたいな
恥ずかしそうな表情ではなかった。私が不機嫌なのはもしかしたら入店
するなり、その事実を言われたからかもしれない。

「でもヒトミってやつ、やるなぁ。いじめるだけいじめまくって常に自
分が主導権を持ってるよ」

 ヒトミは俗に言う”タチ”でもう一人の女は”ネコ”なのだろう。そ
れにしてもこんなところでわざわざする必要もないのに、と嘆く。
 本来、こういう至って普通のカラオケボックスでこんなことをすると、
店長の勅命で退店も可能なのだろうけど、いかんせんココの店長はユウ
コだ。
 「止めさせましょう」と進言したとしても、「おもしろいからエエや
ん」と言うに決まっている。

380 :- 23 -:01/12/25 05:37 ID:+fepmkaK

 結局1時間近く私たちはモニターを見ていた。その間、一組も客が来
なかったので誰にも邪魔されることなく一部始終拝めることができた。
 私は慣れているせいか、画面の切り替わらないモノクロポルノ映画を
見た気分で、大した興奮もなかったがナツミはきっと濡れているだろう。
 ちょうど私の耳の近くにナツミが顔を近づける状態になっていたため
呼吸が速くなっていることが容易にわかった。

 ことを終えて、ポケットティッシュで女の弄ばれていたアソコを拭い
ているヒトミを見て、
「ごちそうさまでした」
とユウコは舌で乾いた唇を舐めながら言った。
 女の顔はモニターやカメラの解像度が悪いためよく見えないが、恍惚
とした表情を浮かべているようだった。

 ヒトミはカメラに向かってピースサインをすると、三人とも一度のけ
ぞった。カメラは巧妙に隠されてあるはずなのに、目は確実にカメラレ
ンズを捉えていた。もう一人の女もヒトミに促されるように恥ずかしそ
うにピースサインをする。

381 :- 23 -:01/12/25 05:39 ID:+fepmkaK

「最近のコっていうのはようわからんわ」
 ユウコは肩をすくめてから、事務室の方に帰っていく。
「ああ、もう胸がドキドキしちゃってるよ」
 ナツミがちょっとだけ息を荒げながら言った。
「ナツミはもうすぐ?」
 何の気なしに言うとナツミは最初はよくわからなかったが、徐々に言
っている意味を理解してきたようで、
「いやだ、もう〜。サヤカったら」
と私の背中を恥ずかしそうに叩いてきた。

「でも、これからそのお客さんとご対面っていうのが一番緊張するね」
 ナツミが言った。
「うん。というワケで私は他の部屋を片付けてくる」
 私はヒトミたちと会いたくなかったので、そう言ってフロントを去ろ
うとすると、ナツミが私の袖を引っ張った。
「何が”というワケ”よ。一人にしないで。サヤカもずっと見てたんだ
から。同罪なんだからね」

 口を尖らせながら子供っぽく怒るナツミ。何でイヤだと思っていたの
に、ユウコやナツミに合わせて見物しちゃったのだろう、と少しだけ後
悔する。

382 :- 23 -:01/12/25 05:41 ID:+fepmkaK

 結局、言い返せなかった私はナツミの横に立ってヒトミたちを待った。
近づいてくる足音に合わせて、礼をしながら私とナツミは声を合わせて
「ありがとうございました!」と言った。

 そして、目を上げると、二人の少女がいた。
 背の高めの金髪の少女と、その後ろに少し隠れるように立つ少女。

 前にいるのはもちろんヒトミだ。充実そうに口を曲げた笑みは意味
のない自信と優越感に溢れていて見ていて少し不快だ。目線を少し変え
る。
 そして、私は思わず口からこぼれてしまう。

「ヒトミちゃん?」

 ヒトミの後ろに隠れている少女を見てそう言った。

383 :  :01/12/25 05:42 ID:+fepmkaK

-22- (前回) >>360-373
-23- (今回) >>375-382

384 :  :01/12/25 05:45 ID:+fepmkaK
訂正。
>>377 私はマキを見捨てた→マキは私を見捨てた

385 :名無し募集中。。。:01/12/26 01:52 ID:+ieBExrk
 

386 :- 24 -:01/12/26 05:41 ID:8zzd4nz5

-24-

「え?」
「え?」
「え?」

 3方向から全く同じ疑問符つきの音がほぼ同時に聞こえる。
「サヤカ?」
 不思議そうに尋ねるナツミ。そして、ヨシザワヒトミはすぐさま笑みを
戻す。
「まだ、2度しか会ったことのない客に向かって『ヒトミちゃん』だなん
て、馴れ馴れしいですね」
 そして、そのヒトミに背後に立つ少女は私と同じように唖然としていた。
「いや、馴れ馴れしいってあんまりいい言葉じゃないですね。そうじゃなく
て、私すっごく嬉しいんですよ。あ〜、私日本語下手だなぁ‥」
 ヨシザワヒトミは慌ててそう付け加えていた。私は少しだけ我に返り、
その声の方向を見る。

387 :- 24 -:01/12/26 05:42 ID:8zzd4nz5

「すいません。つい、うっかり‥‥」
 とりあえず笑う。上手く笑えたかどうかはわからない。
「んも〜、ビックリした。サヤカ、今日やっぱヘンだよね」
 ナツミが隣で言う。
「サヤカさんって言うんですか。他に何かヘンなことあったんですか?」
 ヒトミがナツミの方を見て尋ねる。
「それがね、数分間、宇宙と交信したみたいにボーッとしてたの、さっき」
 ナツミは相手が客であっても気が少しでも許せる人間だという直感が働く
と、急にタメ口になる。その相手が年上でも年下でも変わらない。
 純粋といえばそれまでだが、少々失礼な気もする。

「宇宙と交信ですか?おもしろい表現ですね」
「他のバイトの子でしょっちゅうボーッとしてる子がいて、その時、私はそ
んな風に言うんだけど、サヤカもちょうどそんな感じだったんだよ」
「へえ、そうなんですか。でもサヤカさんってそういう人には見えないけど
なぁ」

388 :- 24 -:01/12/26 05:43 ID:8zzd4nz5

 ナツミとヨシザワヒトミ――店員と客という離れた関係であるにも関わら
ず、ちょっとした友達と交わしているような軽いやりとりは続く。
 私はそのヒトミの後ろに隠れるようにして立つ少女をちらちらと見ていた。

 向こうも私のことに気づいているようだ。同じように私をちらちらと見て
いる。そしてこうしてこんなところで出会ったという事実に対して、愕然と
している。
 だから決して人違いではないことを確信した。

 そのヒトミの後ろにいる少女は、”ヒトミ”だった。
 私と一緒に”マリア”で働いている新人のヒトミだ。

「おつりは1248円になります」
 私を肴にした雑談を終え、ナツミがヨシザワヒトミに手渡す。
「ありがと、じゃ、また来るね」
 そう言いながら出ようとするヒトミに対して、動こうとしないもう一人の
ヒトミ。一完歩でヒトミとヒトミはぶつかった。

389 :- 24 -:01/12/26 06:35 ID:8zzd4nz5

「どうしたの?リカちゃん?」

 ヨシザワヒトミは硬直しているヒトミに向かって眉をひそめながら言った。
「う、ううん、行こ。ヒトミちゃん‥‥」
 我に返ったのか、今度はリカと呼ばれたその少女は、一瞬私の顔を再度見
て、ヒトミの前に出て先に店を出た。
「ありがとうございました!」

 ナツミはお決まりの言葉を言う。
 しかし、私はそのお決まりができずに去り行く二人の少女の後姿を呆然と
眺めていた。

390 :  :01/12/26 06:37 ID:8zzd4nz5

-23- (前回) >>375-382
-24- (今回) >>386-389

391 :ねぇ、名乗って:01/12/27 07:27 ID:iliz8PBS
ほぜ

392 :ねぇ、名乗って:01/12/28 00:50 ID:he/ZIKJY
今、一番楽しみなスレです。
作者さん、がんがってくれ。

393 :ねぇ、名乗って:01/12/28 01:08 ID:+Z6sWFLC
>>392
激しく同意!!

394 :ねぇ、名乗って:01/12/28 16:40 ID:FOubDXAI
保全

395 :  :01/12/29 04:25 ID:RFwAJsbP
保全ありがとうございます。
>392-393 励みになります。。。正直、挫折した人多そうで怖かったんで。

396 :- 25 -:01/12/29 04:26 ID:RFwAJsbP

-25-

 事実を理解するのは容易だった。

 ”マリア”で働く”ヒトミ”は偽名でおそらく本名は”リカ”なのだろ
う。ああいう店では偽名を使うのが普通で私みたいに本名そのままを使う
のは珍しいことだ。だからそれは別にヘンなことではない。

 問題はリカがエッチするほど近しい人間の名前を使ったということだ。
 調査したわけではないが、普通偽名を毎日のように使う時、身の回りに
いる人間の名を用いたりはしないだろう。私が”マリ”とか”ナツミ”と
か”カオリ”とかいう名を語るなんて想像しにくいことだ。
 おそらくヒトミには風俗店で働くこと自体を隠しているから、勝手に名
前を使われたことで糾弾されることはないのだろう。しかし、リカは仕事
中、ヒトミという名前を何度も呼ばれる。その時、ヒトミの顔を思い浮か
べないのだろうか。そして、自戒の念に駆られないのだろうか。

397 :- 25 -:01/12/29 04:27 ID:RFwAJsbP

 事実は理解できる。しかし、理由は想像つかない。
 ヒトミとリカがどれくらいの仲か私は知らない。でもルームでの行為、
そして受付の前に寄り添うようにして立つ二人はどう見ても犬猿の仲には
見えない。

 私はリカの気持ちを知りたくなった。元々人の生い立ちとかには興味が
ない人間だったのに、最近はマリはともかくナツミとかリカとか妙に他人
が気になる。

 やはり私は変わったと認めざるを得ない。
 ”恋愛”という言葉にみんなが興味を覚え始める小学3、4年生の時も、
何にも思わなかったし、誰が誰を好きになろうと関係なかった。クラスメ
イトが親の金銭問題で自殺した時も、泣くことはおろか涙腺が緩むことさ
えなかった。そんな人間だったのに。

398 :- 25 -:01/12/29 06:09 ID:RFwAJsbP

 今日はナツミに誘われることもなかった。ココ2回食事に誘われていた
のであるかなぁ、と8割方思っていたので少し肩透かしを食らった気分だ。
 終了時刻になった途端にナツミは
「じゃあ帰ります」
と、そそくさと着替えを済ませ、出て行った。
 そういえば今日のナツミは、時間を気にする仕草を頻繁に見せていた。

399 :- 25 -:01/12/29 06:10 ID:RFwAJsbP

 ああ、なるほど。今日はデートなんだ。
 初々しくていいなぁ。まだキスもしてなかったはず。
 確か男の方も奥手なんだよね。今日あたりキスでもするかな。そしたら、
最後までいっちゃうかもね。だって臆病な人間ほど、ちょっとしたきっか
けでやけに勢いづくことがあるから。

「サヤカ!お客さん!」
「ほえ?」
 脇に固い感触が走ったので横を見ると、肘打ちするカオリがいた。
「あ、ああいらっしゃいませ!」
 妄想を膨らませていたようだ。気がつくとフロントのカウンター越しに
小さくてかわいらしい女の子が3人いた。当然、客だ。
「2名サマですか?」
「見ればわかるやん」
 訂正。かわいい女の子じゃなくて、ただのガキ2人。顔は似ているし、
背丈もちょうど同じぐらい。
 もしかしたら双子かもしれない。

400 :- 25 -:01/12/29 06:12 ID:RFwAJsbP

 ちょっと関西弁が入った憎憎しい言葉とその言葉の主がどう考えても私
より明らかに年下だったことでうっすらと額に青い筋が浮かぶ。
 人数確認はマニュアルだ。それに「でもあとから1人くるので」と言う
客もかなりいるので、当然すべきことだ。
 しかし客と店員という立場なので、不快をあらわにすることはできない。
マックにある「スマイル0円」並のアホくささを前面に出した笑顔でその
客たちの応対をした。

 それから、名前と電話番号を書いてもらって、利用時間を聞いて部屋にい
れた。2人ともマリぐらいの背丈だがそのウチの一人は泣いていたようだ。
赤と青の縞模様で作られたやけに目立つ帽子を目深に被っていたのでよく
顔は見えなかったが、時折「ヒック」としゃっくりみたいな声を洩らし、
鼻をよくすすっていたので、多分そうだと思う。

「ところでカオリいつからいたの?」
 私はガキ2人を204号室に誘導してから、隣りにいるカオリに聞いた。
「は?ちょっと前に『おはよう』って言ったでしょ?ナッチと入れ替わりで」
「言ったっけ?」
 私は首をかしげる。
「ちゃんと返してくれたじゃん。ちょっとサヤカ、今日おかしくない?ボー
ッとしてさあ」
「それはカオリの専売特許じゃん。とらないよ」
「何かそれって私を変人扱いしているみたい」
「自分では変人だと思ってないの?」
「何よそれ」

 ふてくされた表情を見せるカオリに私は苦笑した。

401 :- 25 -:01/12/29 06:13 ID:RFwAJsbP

「ヘンといえば、ナッチのことなんだけど‥」
 カオリはふと気付いたように口を開いた。そして、別に寝不足でもないの
に目の下にクマが入った顔を私に向ける。
「ナッチがヘンなの?」
「うん」
 迷うことなくカオリはうなずいた。
 カオリとナツミは幼なじみで現在は同じマンションの同じ階に住んでいて
(隣同士ではないようだけど)、しょっちゅう交流しているらしい。昔、そ
の話を聞いて
「同居すればいいのに」
と言ったことがあったが、
「一度大きなケンカをしたことがあってね」
とカオリは寂しげに言っていた。

402 :- 25 -:01/12/29 06:14 ID:RFwAJsbP

 幼なじみではあってもソリの合わないことがあるようだ。もちろんマリと
私にもあるけど、最初から同等の立場ではなかったので、上手くやっていけ
ているのかもしれない。
 ソリが合わないといってもお互いをまだ必要としている微妙な間柄なわけ
で、それが「同じマンション、同じ階」という微妙な位置にいるのだろう。
 それが二人にとって一番いいらしい。

「何がヘンなのか私にはわかんないけど、ほらナッチって今恋してるでしょ?」
 きっとカオリもナツミに彼氏ができたことぐらい知っているはずだ。
 私は単純に”恋をしたからナツミは変わった”と決め付けていた。

403 :- 25 -:01/12/29 06:22 ID:RFwAJsbP

「うん、それはいいんだけど、やっぱり何か‥違うっていうか‥」
「大丈夫だって。ヘンっていってもあんなに明るいじゃん。私あんな明るいナ
ッチ初めて見たけど、すっごくかわいいよ」
「うん‥そうだけど‥」
「とりあえず、ナッチは幸せそうじゃん。見守るしかないんじゃない?」
「う‥ん‥」
 渋々納得した様子だったが、やはりカオリにはどこかモヤモヤしたもの
が残っているようだ。
 私はナツミと付き合いは短い。そしてカオリは誰よりも長い。
 信じる、と言われて従うのはカオリだろう。幼なじみにしかわからない
違和感というものがあるのかもしれない。

 少し、カオリの持つ”ヘン”なことを調べようか、と思った。

404 :  :01/12/29 06:24 ID:RFwAJsbP

-24- >>386-389
-25- >>396-403

405 :ねぇ、名乗って:01/12/29 10:00 ID:fW1qNasq
更新お疲れさんです。面白いっす

406 :  :01/12/29 18:08 ID:RFwAJsbP
>405 ありがとうございます。では続きです。

407 :- 26 -:01/12/29 18:09 ID:RFwAJsbP

-26-

「204号室、生中2つ入りま〜す」
 カオリはフロントに取り付けられているインターホンが鳴ったので受話
器を取り、オーダーを受け付けた。そして冗談ぽくエレガのような変な抑
揚をつけて、厨房にいるユウコに向かって言った。私もユウコの方をのぞ
くとユウコはレディースコミックを食い入るように見ていた。
「ユウちゃん、何見てるのよ」
「だから、ユウちゃんって言いなや」
 ユウコはそう言いながら冷えたビアグラスを冷蔵庫から取り出し、ビー
ルサーバーで生ビールを入れ始める。

408 :- 26 -:01/12/29 18:10 ID:RFwAJsbP

「これ、あたしが飲んでいいかな?」
 舌なめずりするユウコに、「ご自由に」と私は投げやりに言い放つ。

 そのオーダーは私が持っていくことになった。フロントの横を通ること
になるのだがそこではカオリが宇宙と交信していた。私は地球から解読不
能の電波を飛ばしカオリをこっちの世界に引き戻す。
「このビールどこだっけ?」
「204号室」
 204という数字だけを記憶に残しながら足を運ばせる。
 ちょっと待て、と思ったのはその204号室の前に立ってからだった。

 この部屋は確か私が入れた―――

409 :- 26 -:01/12/29 18:11 ID:RFwAJsbP

 ノックをする前に部屋の中を覗く。一応の防犯のために、部屋の中は外
から覗き見えるようになっている。
 「やっぱり」と口をこぼしながら、私はノックした。

「お、きたで。結構早いやん。暇やねんな」
 そういう目の前の少女に私は冷ややかな目線を送る。さっき私がこの部
屋にいれた2人のガキだ。日本もここまで落ちたか、とアホな憂いを覚え
ながら、
「お客様、当店では未成年にはビール等アルコール類の販売は行わないこ
とになっています。ご了承ください」
とできるだけ丁寧口調で言った。

「そんな、固いこと言わんといてーな。せっかく持ってきてくれたんやか
らアンタに悪いし、もらうわ」
 めちゃくちゃだ。私は首を振り、
「このオーダー分は引いときますから」
と言って、部屋を出ようとする。
「ちょ、ちょ、待ってーな。この子傷ついてるんやからヤケ酒ぐらい飲ま
せてやってーな」
「あなたたち何歳?」
 しつこい関西弁なまりのガキにもう一度冷たい目を送る。そして、おも
むろにその横の少女を見た。受付時には帽子を目深に被っていた少女だ。
 一瞬覗かせた特徴ある八重歯を見て、私は目を丸くした。

410 :- 26 -:01/12/29 18:13 ID:RFwAJsbP

――私、この子を見たことがある。

「傷ついてる‥ってこの子‥?」

 誰だ?
 私にこのくらいの年代と付き合う環境はない。しかし、確かにその顔を
私は記憶の中に刻んである。
 私はビール2つを片手に持ち替えて、もう一方の空いた手で指差した。
関西弁のガキは大きくうなずく。

「そや、昨日からずっと泣いてんねやで。飲ませてやってーな」
「もしかして‥失恋?」
 私の言葉に涙で頬を赤く染めた少女は過剰に反応する。

411 :- 26 -:01/12/29 18:17 ID:RFwAJsbP

「そうや。だからな、エエやろ?ビール」
「ちょっと、もういいって。アイちゃん‥‥」
 もう一人の今まで全くしゃべってなかった少女が俯いたまま口を挟む。
「アホ、あたしも飲みたいねん。もう一歩やねんから」
 関西弁のガキに合わせるほど余裕はなかった。
「それとはコレとは別ですから。ジュースに替えてきます」
 私はそう言って部屋を出た。

――思い出した‥。

 鼓動が高鳴る。
 失恋という人の不幸を私は期待でもって見つめていた。ビールが二つ乗
っているトレイが小刻みに振動する。
 ビールがグラスからこぼれ出る。白い泡がビアジョッキの側面をゆっく
り伝い、茶色のトレイにゆっくりと落ちていく。

 あのコは確か、ユウキの―――

412 :  :01/12/29 18:20 ID:RFwAJsbP

-24- >>386-389
-25- >>396-403
-26- >>407-411

413 :名無し娘.:01/12/30 03:13 ID:UKSEhS8i
>>386-389

ヤラレタ、あんたスゲーよ。

414 :  :01/12/30 07:20 ID:Y8yFE2e7
>413 ありがとうございます。これからもそう言ってもらえるように
がんばります。今までに一体いくつ伏線を張ったことやら‥。

ここらへん短いのでこまめにいきます。

415 :- 27 -:01/12/30 07:21 ID:Y8yFE2e7

-27-

 仕事も終わり、私は”マリア”に行った。「おはようございま〜す」と
自然に入るとケイがいて驚いていた。
「サヤカは謹慎中でしょ。働かせないよ」
「わかってるって、遊びにきただけ」
「‥こんな店に遊びにくる人間なんて初めてだわ‥」

 ケイは呆れながらも嬉しそうだった。
 私はケイの部屋(つまり事務室)に入り、熱いお茶をもらった。ケイ自
身が淹れたものらしいが、はっきりいって渋くて不味かった。
 一息いれてから、ヒトミがいるかどうか聞くと「いない」と言われた。
別に急ぐことでもないし、いたとしても何を聞けばいいのか上手くまとま
っていなかったので、私はただ流した。

「それよりも、何があったか説明してよ」
 私とケイを挟む木製の白いテーブルをトントンと指で叩きながらケイは
言った。

416 :- 27 -:01/12/30 07:21 ID:Y8yFE2e7

「やっぱり昨日のことはサヤカらしくないし、今日は一転して元気そうだ
し‥ホントよくわかんないわよ」
 私はしばらく閉口した。そう聞かれることは覚悟していたけど、やはり
一瞬気が咎められるところがある。
「今日の私、元気?」
「うん、通常の2倍ぐらい」
 おかしな表現を使うケイについ表情を緩めてしまう。

「ちょっと体調が悪かっただけだよ。寝不足で、頭が混乱してて‥。なん
かよくわかんなくなってた」
 言っててウソっぽいな、と思った。ケイは盲目的に信じたかどうかわか
らないけど、「そっか」とただうなずいていた。
「それよりさあ、ヒトミちゃんの携帯電話の番号教えてほしんだけど‥」
「ヒトミの?なんで?」
「かけたいから」
 当たり前のことを言うとケイは「う〜ん」と唸る。
「基本的には教えないことにしてるんだけど‥」
と一旦釘を刺しておいてから、ケイは私に教えてくれた。あまり従業員間
の連絡は好まないらしい。

417 :- 27 -:01/12/30 07:22 ID:Y8yFE2e7

「ありがと。でも何で教えてくれたの?」
「アンタら、仲がいいみたいだからね。ヒトミったらさあサヤカが謹慎っ
て聞いて、『何とかしてください』って私に懇願してたし」
 ケイは口を開けながらウィンクをした。少し気色悪かったがさすがに半
年も付き合っていると慣れた。
「へぇ〜。まだ代わってやったことに恩義でも感じているのかな?多分、
ケイちゃんが思っているほど仲良くないよ」
「ふ〜ん、サヤカはそうかもしれないけど、ヒトミは相当仲良くなりたが
っているみたいだけどね」

418 :- 27 -:01/12/30 07:27 ID:Y8yFE2e7

 部屋にとりつけられている電話が鳴った。
 ケイは「はいはい」と言いながら重い腰を上げる。その仕草はカラオケ
の店長のユウコにそっくりで本当にケイは20代後半かも、と一瞬思わせ
た(ユウコは確か来年で29だ)。
 電話を終えたケイは申し訳なさそうに私を見た。
「どうしたの?」
 そう私に言わせるまでずっとそんな顔を保つ。
「今入ってる子が生理痛がひどくて倒れちゃって‥。代わりに入ってくれ
ない?」
「‥私、謹慎中なんだけど‥」
「そんなの私がどうにかする!」
 そんなに自慢気に言わないでよ。
 私はヤレヤレと重い腰をう〜んと唸りながらあげた。あ、さっきのケイ
みたいと思った。

419 :  :01/12/30 07:40 ID:Y8yFE2e7

-25- >>396-403
-26- >>407-411
-27- >>415-418

420 :名無し娘。:01/12/30 07:47 ID:FihcB9E8
>>414

まさかヒ(略 がリ(略 だったとは。妄想王だなアンタ(w
雑談スマソ。

421 :ねぇ、名乗って:01/12/31 04:56 ID:IGzalyPp
この小説、昔のモー板小説にあって、今は無くなってしまった「空気」みたいなもの
があって、とても好きです。
続き、期待してます。

422 :あ名無し娘。:01/12/31 05:49 ID:XkcNuO+s
>>421
禿同
頑張ってくれ〜〜〜〜

423 :  :01/12/31 17:40 ID:eDPpm+7z

大晦日ですが更新します。暇じゃないんですけどね。
>420 妄想王って‥(w。俺なんて、既成のイメージしか持ってないですよ。
ま、誉め言葉だと受け取ります。雑談オッケーですよ。
>421 そういうのは意識していない(というかわからない)のですが、ちょっと嬉しいです。
昔かぁ‥‥どういう空気なんだろう?
>422 がんまりまっす。

424 :- 28 -:01/12/31 17:44 ID:eDPpm+7z

-28-

 大丈夫だと思っていた。

 昨日の原因はマリがあんな目に遭わされたからだろうけど、それは時が経
てば自然と消えていくものだと思っていた。現に今日の朝出かける時も、カ
ラオケ店で性欲溢れるハイティーンのカップルを応対した時も、そして、こ
の”マリア”に入った時もいつもと変わらぬ私がいた。
 だから、ケイのダメ元の願いも簡単に受け入れたのだ。

 しかし、この”プレイルーム”に入ったとき、吐き気と動悸はやってきた。
 カラダがこの場所にいることを拒絶している。
 ヘドロのような液体がカラダを侵食させ、息苦しくさせる。ピンク色のシ
ェードが網膜を襲い、狂おしいほどの熱くて臭い匂いが鼻孔をとらえる。

425 :- 28 -:01/12/31 17:45 ID:eDPpm+7z

 汗が全身を包み、気持ち悪さが倍加する。
「どうしたの?」
 店側の都合でチェンジとなってしまって少し不満気だったM字型のハゲオヤ
ジが私の顔を覗きこもうとブリーフだけの汚らしい裸体がドスドスと音を立て
てドアの前に立ち尽くす私の方にやってくる。
 昨日の記憶を断片的に思い出す。私は客を力の限り殴った。そして、私も意
識を失った‥。

 今日は若干の理性を持っていた。
 どっちにしろ今の状況はヤバすぎる。やってくるのは客だ。これ以上”マリ
ア”やケイを困らせたくないってわかっているのに、数秒後近くにあるものを
投げつける自分を想像してしまう。
 私はひどく震えた全身のうち、右腕だけを何とか抑えつけて、バッグから財
布を取り出した。
「あ、あの‥これだけ払いますから‥帰ってくれません‥?」
 私は財布に入っていた札を全部出して近づくハゲオヤジの前に掲げた。

 しばらく考えこんだ後、オヤジはそのお金を受け取った。
「こんなこと初めてだよ‥。金をもらえるお店なんて」
 オヤジはニヤリと嘲笑的な笑みを浮かべる。口が歪んだもので淫欲を根幹と
したいつもよく見る笑みとはまた違っていた。
「いいサービスしてもらったよ、って店長に言っておくよ」
 オヤジは何か誤解しているようだ。ともかくオヤジは着替え終えたあと、部
屋を出た。

426 :- 28 -:01/12/31 17:46 ID:eDPpm+7z

 私は急いで部屋の冷房を”強”にし、風速を”急速”にした。そして天井に
取り付けられているエアコンの風にできるだけ顔を近づける。
 全身の汗が急速に体温を奪っていく。
 しばらくして、私はその場に腰から崩れ落ちた。客のいないこの部屋はまだ
マシだった。残る悪臭もピンク色の光も何とか受け入れられた。

 疲弊したカラダを私はベッドを背もたれにしてカーペットの上に座り込む。
「お金いくら入ってたっけ‥?」
 とりあえず、入っていた札を全部渡した。10万ぐらいは入っていたことを
思い出す。それでも後悔よりは何とか場をしのいだ満足の方が大きかった。
 落ち着いた後、私は部屋に取り付けられたインターホンからではなく、自分
の携帯電話でケイに電話した。
「やっぱ、帰るね」
 しかし、ケイは「ダメ」と言った。次の客が私を指名しているそうだ。私の
写真をもう店内に貼ったのだろうか。

427 :- 28 -:01/12/31 17:48 ID:eDPpm+7z

 さすがに焦る。この場所で落ち着いたのがまずかったと後悔する。
「とにかく、私は謹慎中なんだから!もうイヤだから‥」
 悲壮感漂う私の気持ちもケイは全く察してくれない。それどころか、
「前にも会った客だと思うよ。絶対損はしないって」
と電話越しでも客がよく見せるような卑猥な笑みをしているケイを想像した。
「どういうこと?」
 その返事はこなかった。そして、「切れた」と気づいた直後、目の前のドア
が開いた。

 何かをする前なら断ることは容易だろう。「体調が悪い」って言えばいい。
レイプ願望が強く、そう拒絶する私を掴まえて犯そうとしたりする人間でない
ことを願った。
「こんにちは」
という若い男の声。気弱そうだったので直感的に少し安心が芽生える。
「あの、今日は実は‥」
 申し訳なさそうに低姿勢で声をかける。しかし、その後の言葉は視覚に飛び
込んできた情報で封印された。

428 :- 28 -:01/12/31 17:48 ID:eDPpm+7z

 ある意味、問題のある人間だった。
 逃げようとする足がピタリと止まり、私の目は男の顔の一点に集中される。

「先日はどうも‥」
「ユウキくん‥」

 マキと似ている顔が申し訳なさそうに立っていた。

429 :  :01/12/31 17:51 ID:eDPpm+7z

-26- >>407-411
-27- >>415-418
-28- >>424-428

中途半端で年を越しそうです。来年は5日ぐらいまで家を離れますので更新
できません。dat逝きにならないように(祈。。。

430 :名無し娘。:02/01/01 03:41 ID:Uq8yK/Gc
ヽ^∀^ノ<hozen

431 :名無し娘。:02/01/01 07:13 ID:8SEv7ZfP
たまたま上がってたので、初めて読んだ(携帯だからsage進行のスレは読めない)
あんたすげぇよ
ブクマしといた

432 :ねぇ、名乗って:02/01/01 09:55 ID:tVl6HaVN
今日一気に全部読みました。凄い作品ですね。
張り巡らされた伏線に驚きの連続でした。
最初は気付かなかったけど、>68 ってネタだったんですね(w

433 :ねぇ、名乗って:02/01/01 20:02 ID:gPE8FEY5
>432
それに気づいた時はちょっと驚いたけど、
他の某作品が同作者だと知って納得。

434 :ねぇ、名乗って:02/01/02 11:39 ID:X01eKc0Y
あけおめほぜむ

435 :ねぇ、名乗って:02/01/02 22:24 ID:NxWtF5VH
本格的な、深みのある作品ですね。

436 :ねぇ、名乗って:02/01/03 08:47 ID:Vh1wrzOk
この作品は読み返す価値がありますな。

437 :ねぇ、名乗って:02/01/03 19:07 ID:/Z5JUg+/
1日2回やっときゃ大丈夫か?

438 :ねぇ、名乗って:02/01/04 01:44 ID:cD2yunw6
そんなもんっすかね。

439 :ねぇ、名乗って:02/01/04 17:57 ID:HmSdghmc
作者が帰ってくるまでもうしばらく・・・

440 :ねぇ、名乗って:02/01/04 23:58 ID:oxuifA/t
( ´ Д `)<めざましー

441 :ねぇ、名乗って:02/01/05 04:30 ID:xwb7i9jX
この小説にはLOVE PHYCHEDELICOがよく似合う…

いや、なんとなくそう思っただけ。アッチで知って今日一気に読んだのですが面白いですね。
作者さん頑張ってください。

442 :ねぇ、名乗って:02/01/05 23:21 ID:npzsBp9z
保全

443 :ねぇ、名乗って:02/01/05 23:23 ID:8T4FBR7a
別の小説から流れてきました。
最高!
ほぜむ。

444 :ねぇ、名乗って!:02/01/06 01:36 ID:B1kPxziA
ここの作者さんは別のも書いてるんですか?
ヒントだけでも教えてもらえないですか?

と、いいつつ、日付変わって保全。

445 :ねぇ、名乗って:02/01/06 02:59 ID:7DCgLkoW
>>444
勝手に教えて良いのか分からないのでリンクは貼らないけど、
(狩)板にある、のの、一人暮しを〜っていうスレ。
この小説とは違ってコメディだけどそれもまた(・∀・)イイ!

446 :  :02/01/06 08:01 ID:sfLOm4CE

すいません。帰ってきて寝ちゃいました(やっちゃった)。
何とか生き延びれたみたいですね。これもみなさんのおかげです。

>430 ヽ^∀^ノ<nezoh 悪いぞ。
>431 携帯から読んだことがないので考えなかった‥。でもこれからもsageで
いかしてもらいます。
>432 まだほとんど伏線解いてないのですが‥。まあ、前半の大きな伏線は出
しましたのでそこに驚いてくださったのかな?ちなみに>68は最初で最後の
笑える(?)ネタです。
>433 納得されちゃった(w。あっちのスパイスは出さないように心がけます。
>434 ことよろさんくす。
>435 自分の限界の深さにチャレンジ中です。さてこれからどこまで掘って
いけるか‥。
>436 その言葉、めちゃくちゃ嬉しいです。
>437 なんか全然大丈夫みたいでしたね。気苦労おかけしました。
>438 ついでに保存してくれてありがとうございます。
>439 予定より1日遅れました。スマソ。
>440 ヽ^∀^ノ<そんな時間に起きたのかよ!ってあっちのノリだ‥。
>441 'world'つながりで"free world"は思い出しましたけど‥‥すいません
ほとんど聞いたことないんです。歌詞も全然。
>442 どうもっす。
>443 宣伝してとりあえずよかったと胸をなで下ろしております。
>444 別にリンクいいですよ。数少ない「こっちだけ読んでくれてた人」は
貴重な存在です(w。

のの一人暮らしをはじめる
http://www.metroports.com/test/read.cgi/morning/1005521726/

>445 気を遣ってくれてすいません。あっちはあっちでこっちはこっちで、
自分の中でバランスを保ちつつがんばります。

では続きです。

447 :  :02/01/06 08:02 ID:sfLOm4CE

『のの、一人暮らしをはじめる』ね‥。点が抜けてた‥。

448 :- 29 -:02/01/06 08:57 ID:sfLOm4CE

-29-

 夜の川岸には人がほとんどいない。
 等間隔に設置された黄色灯が私とユウキの歩く、幅2mほどの小さな歩
道を照らす。その遠方はほとんど何も見えなくて、まるで光は私たちを死
地へと導いているようだ。

 文明という名目のもと、人の思い通りに汚してきた空気の隙間を割って
輝く星たちがまばらに見える。

 川は先日雨が降ったからか、そこそこの水量で流れているみたいだ。そ
の中で繁茂した藻の匂いが私とユウキを包み、強く意思表示をする。

 夜の帳に埋もれたユウキのカラダの輪郭はぼやけており、それがどこか
リアリティを乏しくさせ、私をほっとさせた。私はユウキの半歩後ろに位
置し、その後ろ姿とかろうじて見える鼻のてっぺんを不思議な気持ちで見
つめる。

449 :- 29 -:02/01/06 08:58 ID:sfLOm4CE

 ユウキがあの虚空に包まれた部屋に現れた時、私は彼の名を一度つぶや
くだけで、しばらくは何も言えなかった。そして、つい3秒前に感じてい
た男の腐った匂いに対峙する恐怖さえ忘れた。

「ほか行こう」
 他の言葉は何もいらなかった。
 ただそれだけ言うとユウキは小さくうなずいた。ケイに適当な説明をし
ている時もユウキは何も言わずただ俯いていた。

 視覚は夜の闇によって失い、嗅覚は水辺に浮かぶ藻の匂いに支配される。
二人のメトロノームのように正確にリズムを刻む足音だけが聴覚を刺激し、
少し離れた位置にいるユウキに触れることはできず、ただ空気を触っている。

 事業を開き、不況の煽りを受け、金策にも失敗し、進む道を全て断絶され
てしまい、自殺に陥る直前の中年夫婦のように前を見ずに歩く私たち二人。
それは危ういバランスを保っており、少し違う行動をするだけで次元を歪ま
せ、二人の存在自体が弾けてしまうような気がした。

450 :- 29 -:02/01/06 09:03 ID:sfLOm4CE

 喧噪という言葉も静寂という言葉も永遠に似合わない夜のラブホテル街に
自然と足が向く。それぞれが二人だけの会話に執着し、他人のことなどほと
んど気にとめない。糸にならずに点在する淫靡的なまどろみたちは決して異
質ではなく、他人から見れば私たちも同類なのかもしれない。

 遠回りしたみたいだけど、このホテル街は私もよく行くところだった。そ
して、昨日私はこの道を腐敗に汚染され、混乱していた精神状態の時に通っ
た。点でしか存在しなかった意識感情がレーザービームのようにある人間に
向けられた。

 一方通行の戸惑いと絶望の光線。
 私には何の力もなく逆に闇に吸収されていく。
 そんな記憶をすぐ近くの同じ対象物を見ながら思い出していた。
 ユウキが足を止めたのは、予想通り私の記憶にしっかりとあったアラビア
風の古めかしいホテルの前。
 半歩後ろにいた私の方を俯き加減に振り向く。何か言おうとしていたよう
だが、私は一歩前に出て、ユウキの左手を掴んだ。
 私たちは言葉を交わすどころか目も一度も合わせないまま、そのホテルに
入った。

451 :- 29 -:02/01/06 09:06 ID:sfLOm4CE

 中は外とは正反対の少し近代的な様相を呈していた。
 白色の壁には深海に住んでいそうな怪しげな青や金や紫に光輝く魚影と幾
千万もの流星群が飛散しているシルエットが人工の光によって鮮やかに作ら
れていて、私は目を瞬かせた。
 ベッドにはシルクだけで作られたような薄光りのする真っ白な布団とその
上に、きちんと畳まれて置かれた2つの真っ白なバスローブ。その横にはカ
ラオケらしき機材と上にはミラーボールが申し訳程度に置いてある。反対側
には大きそうな浴室があり、間には大きなガラスがある。シャワーを浴びて
いる様子などはベッドからはっきり見える。おそらくマジックミラーにでも
なっているのだろう。

「シャワー‥浴びてくる‥」
 ユウキが重々しそうに口を開いた。少し悶々とした静寂の中、割って入っ
てきた久しぶりの言葉の縦波は過剰に私の鼓膜を震わせる。
 私は掴んでいたユウキの腕をさらに強く掴んだ。今度はユウキが過敏に反
応する。

 目が合う。
 深いユウキの瞳に吸い込まれそうになりながら、私はようやくユウキに笑
みを見せることができた。

452 :- 29 -:02/01/06 09:10 ID:sfLOm4CE

「ちょっと‥話そ」
 言葉と同時に掴んでいた腕の力を緩める。しかし、目はユウキの目の奥
を覗いたまま。
 ちょっとした間の後、ユウキは私の目の圧力に怯えたように目を反らし
てから無言でうなずいた。
 二人同時にベッドに座ると柔らかすぎるスプリングが音をあまり立てずに
伸縮する。

 「お茶飲む?」と聞くとユウキは「うん、俺がやる」とベッドの脇に取り
付けられた背の低い冷蔵庫から缶のウーロン茶を取り出す。一つ私に手渡す
ともう一個の缶のプルタブを空け、半分ぐらいまでゴクゴクと飲み干す。
 私はその間、乾ききっていた喉を潤す程度に口をつけた。水分は粘膜に吸
収され、喉にはあまり行き渡らなかった。

453 :- 29 -:02/01/06 09:12 ID:sfLOm4CE

 「ふう」と一旦目を閉じ、一息ついてからユウキは重々しそうに口を開い
た。
「昨日、このホテルに入ったんです」
 私は両手に大事そうに持っていたウーロン茶を脇に置く。

「知ってる。見てた」
 余韻とか後腐れとかを全く残さない断定的なもの言いがユウキを強く驚か
せる。

「私が歩いていたら、ユウキ君とその横に小さくてかわいい女の子が腕を絡
ませながら街を彷徨っているのが見えた。それで二人とも緊張したように顔
を強ばらせながらこのホテルに入っていくのを見た」
 小さかったけど、語気が段々と強くなっていくのが自分でもわかった。口
調もまるで小説の地の文を朗読しているような感じになった。
 それには明らかに嫉妬心から来たものだ。

454 :- 29 -:02/01/06 09:14 ID:sfLOm4CE

 私は確かな根拠の元でユウキが次に放つ言葉を期待する。
 私のシナリオは再会の瞬間から構築されている。そして次の瞬間、私が製
作した”ユウキ”という登場人物の台詞をユウキは一字一句間違わずに演じ
てくれた。

「あの子とは別れたから」

 その時私はどんな顔を浮かべたのか、ココロの鏡で覗いてみる。テレクラ
に熟達した男が見せるような卑猥で狡猾な笑みだった。
「何で‥?」
 その答えもきっと私のシナリオ通り。ユウキは一度下の唇を舐める。左眉
だけをピクピクと痙攣させる。

「サヤカさんが忘れられなかったから」

『天使の絹衣を纏い、悪魔の牙を持つサヤカに俺は全てを奪われたんだ』

 私の瞳を映す美しい虹彩の光がそんな葛藤を乗せて私の脳髄をくすぐる。

『それは私も同じだよ。
 マキの顔を装いながら現世に降り立ち、愚物であるべきカラダを私の眼
前に捧げたんだよ。あの時、私を矛盾したオーラが包みこみ内部破壊を起
こしたんだ。ユウキはずっと信じてやまなかったマキという唯一の真実を
いとも簡単にブチ壊した悪魔なんだ。
 その代償をどう補ってくれるの?』

455 :- 29 -:02/01/06 09:15 ID:sfLOm4CE

 私の瞳から発散される光はどこまでユウキに伝わったかわからない。だ
けどその後、ユウキはごく自然に私の首筋に手を回し、顔を近づけた。

 キスの直前、ユウキの口から洩れる柔らかな吐息が私の唇に触れる。
 この感触が何かが終え、そして何かが始まるスタートサイン。

 夢でしか見られなかったマキの顔に私は何度も触れる。そこには確かに
マキが見える。吐息が聞こえる。ほのかなカラダの匂いが薫る。

 二つの舌が根元で出会い、お互いが作った唾液を交換する。そのまま私
が下になってベッドに倒れこむ。

 前とは違い、私は最初リードされた。耳や額、首筋、そしてもちろん口
にとユウキは唾液を残しながら暖かくて柔らかい口を押し付ける。キャリ
アウーマンチックな白のカッターシャツのボタンをゆっくりと外され、表
れたマシュマロパッドのホワイトブラの下を下からユウキの右手はまさぐ
り込み、突起した私の乳首を優しく愛撫する。
 それは前回私が教えた通りの順番だった。

456 :- 29 -:02/01/06 09:16 ID:sfLOm4CE

 目が合った。
 男の抑圧的にもなれる筋肉質の肉体に抱擁されながら、野生の獣の眼に
なりゆく自分をユウキの真っ黒な瞳で確認する。
 高鳴る鼓動をお互いに感じ、その脈の波長が完全に一致した直後に、私
は行動に出た。

 柔らかい生地で作られたスラックスの下に膨らんだ股間を服越しに触れ
る。愛撫していたユウキの右手は一度動きを止め、口からは小さな喘ぎ声
が一瞬洩れる。
 私は麻痺したかのように口の片端だけを淫靡に歪ませ、スラックスのジ
ッパーを下ろし、トランクスのボタンを開けた。
 ユウキは顔を少し離し、背筋を反る。

457 :- 29 -:02/01/06 09:19 ID:sfLOm4CE

 あどけない顔から大人の顔を含ませた不思議な表情。窮屈そうにした、
はちきれんばかりに勃起したユウキの息子は弓のようにしなりを作り、透
明な液体を少し弾かせながら表れた。
 私は左手の爪の長い人差し指で亀頭の側面を軽く掻く。すると頭上から
「イタッ!」という声が聞こえるとともに、先端から液体が火山のように
飛び、溶岩となって裾野を下りる。そして掻いていた部分を暖かく濡らす。

 ユウキは上体を起こしてベッドに倒れこんだ。
 合わせて私が上になる。ペニスを口に含み、しごきながら、とっくに洪
水になった自分のパンツをもう一方の手でその濡れ具合を確かめる。

 ユウキの両腿が射精を耐えようと硬直した時、私は一度フェラチオを止
め、顔を上げた。絶頂の瞬間の茶色の目をするユウキの頭上の向こう側に
は、入る時に見た七色の光で作られた星や魚達が目に入る。あまりの鮮や
かさに私は再び目を奪われ、そして、自分のココロと対比した。

458 :- 29 -:02/01/06 09:20 ID:sfLOm4CE

 私のココロはどれだけの色に染められているのだろう?
 きっと人よりもずっと色のない汚れたキャンバスで埋め尽くされている
に違いない。
 私は目という抹消器官から見る様々な色の優美さに憧れていたのだと思
う。しかし、どんなに目がその美しさをとらえても決してココロにまで染
色することはない。

 いつかその可能性をも否定した。カラダという存在の限界を感じ、私は
マキという有りもしない存在を宗教のように陶酔していった。

 ユウキを――いや、マキを見た。

 ねえ、君は――ユウキの正体はマキなんでしょ?
 実際に現れてくれるようになったから、私の夢の中には現れないように
なったんでしょ?

459 :- 29 -:02/01/06 09:23 ID:sfLOm4CE

 マキは私に一つの道を与えているんだ。
 私は本当のセックスを知らないから。
 もし、私のカラダが求める最高のセックスというものがあるならば、そ
れはきっとマキとココロを同化させて行うセックスだ。

 カラダを単なる触媒にして雲の上で一心不乱にお互いの存在だけを求め
合う。

――その儀式を行うための試験に今私は足を踏み入れる。

 一度射精を済ました後でもなお、天に突き出るユウキのペニスを湿地帯
に変わった俗物的なヴァギナでカラダの芯まで深く包み込ませる。子宮の
裏側のもっとも鋭敏なスポットに鍵と鍵穴のようにすっぽりと吸いつく。
私が上下に揺れると足の先から脳細胞まで突き上げる。

 全身が麻痺した。神経は挿入部だけに集約され、他の手や足や目や脳た
ちは盲腸のような全く意味のない進化の過程で不必要になったモノになっ
ていく。

460 :- 29 -:02/01/06 09:25 ID:sfLOm4CE

 そう。
 今、この感覚が人の究極の進化型なのかもしれない。

 進化の過程の集団生活の必要性として作られた倫理や理性は究極的には
邪魔になる。

 欲望だけが自立し支配していく、そんな形。
 幻覚と現実の両方をミックスした世界を見ながら私とユウキは頂点に達
した。

 残像だけが残る曖昧な意識に身を漂わせながら、私の中の決してこの世
には適合しないおぞましい化学物質がユウキの精子によって化学反応を起
こし、白なのか黒なのかわからない灰色のエネルギーがまばゆい昇天に変
化していくのを感じていた。

461 :  :02/01/06 09:28 ID:sfLOm4CE

-27- >>415-418
-28- >>424-428
-29- >>448-460

ホントはここで年末終えたかったんですよね。一応区切りっぽいところなんで。
どっちにしろ朝に更新するものじゃないっすね(w。

462 :ねぇ、名乗って:02/01/06 14:09 ID:ljmRTMGX
応援ほぜむ

463 :ねぇ、名乗って:02/01/06 22:30 ID:/tmhKF2w
( ´ Д `)<マキでーす。保全です。

464 :(☆_☆)人(´∀`):02/01/06 23:35 ID:7gSUs+XN
おかえりなさい。
久しぶりに書き込まさせてもろた。

465 :ねぇ、名乗って:02/01/07 13:34 ID:SrXj1okp
天才。惚れ惚れします。その文才と展開。

466 :ねぇ、名乗って:02/01/07 14:40 ID:SmJwZ7YW
すごい。娘小説超えてるよ、すでに。

467 :ねぇ、名乗って:02/01/07 14:42 ID:SmJwZ7YW
あげてしまった…。ごめん、逝ってくる。

468 :名無し娘。:02/01/07 18:11 ID:MRb3sCTu
狩のほうと同時進行おつかれさまです。
よく作風の違う作品を2つ同時に書けるなあ、と関心します。

469 :ねぇ、名乗って:02/01/08 00:42 ID:UDMRu+os
>>468
関心・・・?

470 :ねぇ、名乗って!:02/01/08 01:37 ID:yTPR4ral
445さん&作者さん
サンクスです。
おかげで楽しみが増えました。

作風がずいぶんと違っててちとびっくり。
両方楽しみにしてますので、ガンガッテ下さい。

471 :ねぇ、名乗って:02/01/08 10:29 ID:g5CL3N2t
タイトルのバーチャルってどういう意味だっけ?

472 :ねぇ、名乗って:02/01/08 10:39 ID:Zq+Jcv3T
すげーとか言いようがない
つーかこのスレ自体キレイだね

473 :名無し娘。:02/01/08 22:50 ID:EyTYNXWw
保全

474 :  :02/01/09 07:05 ID:2ljwNIZf

前回は僕としても会心のほうでして、狂ったように手が進んだ部分でした。
書きあげた時、俺は何者なんだ?と思いました。書いてるとそういう時って
あるんですよね。続き見てもらうとわかるように長くは続かないのですが‥。

>462 応援さんくす。今日あたりヤバいみたいですね。
>463 ありがとー。
>464 心配してました。いつもありがとうございます。これからもお付き合
いください。
>465 言いすぎです(w。読み返してみたら変なところいっぱいあって、
とほほって感じです。
>466 越えてません(w。
>467 確かに上げないほうがいいかも‥。
>468 いや、むしろ違うほうが書けるものですよ。かぶる心配少ないですし。
>469 幹事の間偉いは誰にだってあることです。
>470 がんがります。あっちはさっくり、こっちはじっくりと行かしてもらいます。
>471 一応タイトルは「仮想世界」「虚構世界」という意味なんですけど、
"virtual"を辞書で調べたら「実質上の」とかなんですよね。まあ、でも授業
で先生が"virtual space"のことを「仮想空間」と言ってたのでそのまま採用
しました。
>472 ありがとうございます。スレがキレイなのは不思議です。なんででしょう?
>473 サンクス。保全様は神様です(w。

475 :- 30 -:02/01/09 07:10 ID:2ljwNIZf

-30-

 夏なので7時を過ぎると太陽はとうに地上に昇っていた。
 未知のエネルギーによって起こった内部の反応で私はどのように変貌し
たのだろうか。太陽はどこまでこの姿を晒し者にするのであろうか。
 眩しく光る朝もやに目を覆いながら、私は家路に着いた。

 マリはもう起きていた。明色のカケラもない後姿が目に入り、私は途端
に憂鬱になる。
 しかし今、マリはテレビをつけている。テレビの向こう側には少なから
ず人がいる。声を出して、笑っている。
 私以外の人間を見ているということだけでもマリのココロが癒えてきて
いる証拠なのかもしれないと思い、ほっとすることに努めた。

476 :- 30 -:02/01/09 07:15 ID:2ljwNIZf

 「ただいま」と言うと、振り向いて「おかえり」とお決まりの言葉を発
する。それからは会話は途切れ、テレビの音だけが聞こえる数秒間。マリ
の背中の小ささだけが虚しく胸を拉ぐ。

 先に口を開いたのはマリだった。
「遅かったじゃん。遊んでたの?」
 思ったより軽やかだった。無理しているといえばそれまでだが、やはり
気持ちが楽になる。
「うん、ちょっとね」
「誰と?」
「え?」
 私は一瞬耳を疑う。私だって過去に何回か朝帰りはしていた。そんな時
もマリは少し意味深な笑みを浮かべることはあっても大して追求してこな
かった。こんな問いかけは初めてだった。
「マリ‥ちょっと聞いて」
 出方をうかがうような口調で呟くと、私をなじっているような目線で私
を突き刺す――もう次の私の言葉を知っているかのように。

477 :- 30 -:02/01/09 07:31 ID:2ljwNIZf

 ユウキの顔を思い浮かべた。
 あの表情や温もりがはるかな残像のように胸を打つ。一つの成就がココ
ロの底を流れているのを感じていた。
「何?」
 マリは表情を変えずに聞いた。私は深いため息をつく。

「私ね、彼氏できたの」
 今のマリには”彼”という言葉でさえ大変な刺激物かもしれない。それ
を考慮した上で敢えて私は言った。これからも二人暮しを続けていく以上、
言わなければいけないことだと思ったからだ。気を遣って過ごすのだけは
避けたかった。

 それに、朝帰りをし”女の匂い”を散布している私を見て、付き合いの
深いマリは気づいてしまったのでは?と思ったからでもある。
 あの突き刺すような目はその考えを助長させた。
 元々セックス三昧だったワケだからそんなことはないはずなのだが、や
はり今回は過剰な意識があったのだろう。

「ふ〜ん、おめでと‥」
 そこには最初に発した軽やかさはなかった。マリは感情を押し込めたよ
うに言う。上手に描かれた弓なりの眉がピクピク痙攣を起こしたような動
き方をしている。まるで戸惑いがその眉に集約されているようだった。
 きっと今、マリの脳裏にはトシヤがいるのだろう。そういうことを想像
するだけで私はぞっとした。
「ありがと」
 以降、裏を孕んだ言葉のやりとりはピタリと止まった。ただ、テレビの
スピーカーから流れる笑い声だけが無機質に場を包んだ。

478 :- 30 -:02/01/09 07:43 ID:2ljwNIZf

 私はとりあえずシャワーを浴びることにした。
 ラブホテルでも起きた後にシャワーは浴びたのだが、自分の家のシャワー
とはどこか違い、安心感をもたらしてはくれない。きっとカラダが自分の家の
浴室の匂い、大きさ、水の出る角度、水質に慣れてしまっているからだろう。
 私はお湯の蛇口をひねらずにほとんど水のまま浴びた。冷たく尖ったよう
な水が皮膚の穴一つ一つを刺激する。
 いろんな意味で疲れたカラダが癒されていく。まるで聖水のようだ。

 そんな安らぎが再びユウキとの出来事を甦らせた。
 初めての愛の存在を噛みしめながら行ったセックスを終えた後、ユウキ
は澄み切った美しい瞳でもって「俺と付き合ってください」と告白してき
た。二人とも裸のままシルクカバーの布団に入り、お互いのカラダの温も
りを感じあっていた時だった。

「なんか、順番が逆だよね。エッチしてから告白だなんて」
 私は言った。優しくトゲのない言葉は紛れもなく十代としての純粋なも
の。言った言葉がユウキのカラダや、夜が明け光が差し込んだせいで優美さ
を失った壁に反射して私の耳に届いたとき、一瞬「今の誰が言ったんだ?」
と思った。
 それほど、こんな優しい気持ちを有している自分が不思議で仕方なかった。
 純粋な性の獣に豹変したあとは、こんなにも優しい動物に生まれ変われる
のだということを初めて知った。

479 :- 30 -:02/01/09 07:47 ID:2ljwNIZf

 私はユウキの唇に自分の人差し指をくっつけた。私なりの茶目っけめい
た行動だ。少しユウキは顔を赤らめ、私の指を邪魔そうにしながら「そう
ですね」と口を開く。
「私って最低な女だよ。それでもいいの?」
 ユウキは「いい」と即答する。
「悪いことも数え切れないくらいやってきたよ」
「俺は今のサヤカさんが好きだから。過去とか未来がどうだとか考えるの
は止めたんだ」

 私の手を男の力でがっしりと握ってきた。拒否は断固許さないという横
暴な意思だった。
 腕に痛みと愛情を感じながら、その考え方は危ういね、と憂う――人は
いつまでも過去を背負わなければいけない。未来を見ていかなければいけ
ない。現在なんて1秒すらないんだよ。

 そんな変な思想に辿り着いてから、「そうか」と気づく。
 ユウキはマキの代わりだから――時間という概念を知らない人間なのだ。

480 :- 30 -:02/01/09 07:50 ID:2ljwNIZf

「いいよ、付き合っても。私もユウキ君が好きだから」
 ユウキは顔色を明るく染めると私のカラダを強引に自分に引き寄せた。
筋肉が硬く突っ張ってはいるがまだまだ薄板のユウキの胸に私の頭は押し
付けられた。

 少しベトベトした皮膚の向こう側からユウキの鼓動が聞こえる。昔母が
子守唄を歌いながら私の背中をポンポンと叩いたあのリズムに似ていた。
きっとあの時の母も葛藤に苛まれながら、何とか私に愛の形を見せようと
していたのだろう。

 それから私はユウキの年を尋ねると、ちょっとためらった後で「中学生。
15になったばかり」と答えた。少なくとも高校生だと思っていたから驚
くばかりだった。一応こっちの年齢も言うと同じように驚いてくれてちょ
っと嬉しかった。

「サヤカさんって本名なの?」
 エッチな雰囲気ではなく、ただ寄り添いお互いの鼓動を安らぎの動脈と
して感じている時、ユウキはそう聞いてきた。私は「うん」とうなずく。
「イチイサヤカ。れっきとした本名」
「俺も本名。ゴトウユウキ。ありふれた名前だから困ってるんだ」
 何に困るの?と思いつつ、その質問は口にせず、替わりに温かい胸元に
キスをした。

481 :- 30 -:02/01/09 07:51 ID:2ljwNIZf

 シャワーを浴び終えて、居間に戻ってもマリは再び同じ状態でテレビの
前に座っている。人生の大半を終え、生きがいをなくした老婆みたいに腰
を曲げ、焦点も合わさないで光る画面を見つめている。
 私がシャワーを終えて近くにきていることぐらいわかるだろうに、全く
反応しない。二人の間には見えないガラスの壁があって、音とか気配とか
を全てを遮断されているような錯覚を覚えた。

 それを作ったのは私か、マリか――あるいは両方か。

 時の流れは本当にマリを癒してくれるのだろうか。
 彼女が落ちてしまった深い闇から救いの光を与える機会があるのだろう
か。這い上がる力はあるのだろうか。

482 :- 30 -:02/01/09 07:59 ID:2ljwNIZf

 そんな鬱な気持ちに圧迫されそうになりながら、机の上に置かれた自分
の携帯電話を手に取る。チェックをすると留守電が2件も入っていた。
 簡易留守録なのでセンターに繋がないでもメッセージを聞くことができ
る。1件目はケイで、リカにも私の電話番号を教えておいたという内容だ
った。となると2件目は当然リカだ。

「あの…一緒に働いているヒトミです。今日会えませんか?連絡待ってい
ます」

 2回聞かないと聞き漏らしてしまうぐらいの小声でメッセージが入って
いた。朝早くだったことも忘れて私はすぐさまリカに電話すると、リカは
起きていたようですぐに出た。
 二人が共通して知っている喫茶店で3時間後、落ち合うことにした。
 一度ぐっすり寝ようと思っていたけど仕方がない。

 白基調のTシャツに膝ほどの外用のスカートに着替え、いつもより若干
濃い目の化粧を済ませたあと、家を出た。
 一応マリに「行ってきます」と言ってはみたが返事はなかった。

483 :  :02/01/09 08:04 ID:2ljwNIZf

-28- >>424-428
-29- >>448-460
-30- >>475-482

今までは場面が小間切れに出ていて読みにくかったかもしれませんが、次回か
らはちょっとはまとまった話になりそうです。読みやすいかは別ですが。

484 :ねぇ、名乗って:02/01/09 09:28 ID:4kT/0tRE
>>483
まとまった話イエーイ!
ゆっくり読むのであせらずがんがってくださいね。

485 :468:02/01/09 17:39 ID:ymjZhjvC
>>474
フォローありがとう。
>幹事の間違い
って書いてるけどこれは同じく変換ミスか?

486 :ねぇ、名乗って:02/01/09 17:55 ID:JWKuPDtW
>>485
まあ、あいぼんですから(w

487 :名無し募集中。。。:02/01/10 00:51 ID:ktLNtCKw
いや〜一気に読んじまった。マジで面白かったよ。
ののたんのほうは前から読んでたけど、どっちもすげぇ好きだ。
あんた天才かも!!!

488 :名無し募集中。。。:02/01/10 08:38 ID:C5qcYObo
初めて名字がでたな

489 :ラウンジャー葱:02/01/10 21:54 ID:bVQovoiq
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  〇   。 

490 :ラウンジャー葱:02/01/10 22:42 ID:bVQovoiq
〇  o         〇                           。



             〇
       〇      o


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        〇             。 〇            。
                           。

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             。。  〇        。


491 :ねぇ、名乗って:02/01/11 01:44 ID:XilRgNfm
400もレスがあったから、半分くらい読もうかなと思ってたのですが全部読んでしまいました。
本当におもしろいです。

492 :  :02/01/11 17:56 ID:TNuPAK2p

>>484 あんまりまとまってないかも。まあ数回はこの人らの話です。
>>485 一応‥ネタです‥。
>>486 パクんな!(w。あいぼんちゃうで。
>>487 正直両方(・∀・)イイって言ってくれる人はあんまりいないのでは?
と最初は思っていたので嬉しいっす。
>>488 そうですね。そんなに意味もないのですが、あらためましてスタート
ですって感じにはなってるのかな?
>>491 ありがとうございます。まとめて読むと疲れません?この作品。

では続きです。

493 :- 31 -:02/01/11 17:59 ID:TNuPAK2p

-31-

 夏の陽射しがあまりにも強いため、直射を受けている腕にはジンジンと
した痛みとともに紫外線が吸収されていく。出かけにガブ飲みした紙パッ
クのお茶の分が汗となって肘から手首、そして指の爪の先まで伝う。
 勤めているカラオケ”三日月”の前を通った。窓ガラスの向こうにいる
赤色の服のバイト仲間を探すが誰もいない。今日はまだ暇のようだ。フロ
ントに突っ立っているのも疲れたので厨房の中にでも入っているのだろう。
 そこから10分も歩けば”フランジ”という名の喫茶店に辿り着く。名
前の由来はよくわからないが、機械の接合部分のことだろうか。
 私はココに来ると大抵豚キムチチャーハンや、特製オムライスなどを注
文する。この店の定番というわけではないがゴハン系は特筆して美味しい。
 カラオケのバイトの帰りには、家とは反対側の方向にあるにも関わらず、
わざわざ足を運んでココで夕食を済ましたりもしていた。

494 :- 31 -:02/01/11 18:01 ID:TNuPAK2p

 リカもこの店のことを「知っている」と言ったので待ち合わせ場所にし
た。この店の名前を出したのは私だ。どれだけの深い話になるのかわから
ないが、とにかくこみ合ったトークの戦場は自陣の方がやりやすい。

 ドアの上に取り付けられた二つの青銅色の小さな鐘がぶつかり「カラン
コロン」と鳴る。ちょっと古めかしいこの音が私は好きだ。
 ほぼ無意識に店全体を見回す。3組ほど客がいるが、どうやらリカはい
ないみたいだ。
「いらっしゃいませ、あら」
 長いストレートの黒髪に白いスカーフを巻きつけているマスターの奥さ
んが私に向かって声をかける。そんなに常連というほどでもないのだが、
私の顔を覚えてくれていたようだ。こういう客商売は数回来た客の顔はき
ちんと覚えないといけないのだろう。ナツミの顔と名前が一致するのに3
日かかった私には不適正な職業かもしれない。

495 :- 31 -:02/01/11 18:02 ID:TNuPAK2p

「いつもと違う時間ね」
「はい、今日は待ち合わせで」
と言いながら、もう一度店を見回す振りをするがいないことは、わかって
いる。わかっていても、やってしまうのは私だけじゃなくて、人間の習性
だろう。
「今のところそんなお客さんはいないわよ」
 奥さんは同じように店を見回して言った。
「みたいですね」
 もともと店の人がフレンドリーに話しかけてくるようなアットホームな
店ではない。奥さんとの会話はそれで終わりで、私はコーヒーを頼んだ。

 4人が座れるテーブルに腰を掛けると、すぐに白一色であまりおしゃれ
ではないカップに入ったコーヒーを奥さんが持ってくる。ちょっと猫舌の
私なので、慎重に口をつける。ここのコーヒーは初めて飲んだのだが結構
美味しかった。しかし、一杯600円は少々高い気がする。

496 :- 31 -:02/01/11 18:05 ID:TNuPAK2p

 壁に掛けられている中学の図画工作の授業時に描くような花瓶とりんご
の絵を見ながら座ったがすぐに場所が悪いと思った。入口に背を向けて座
ってしまう体勢だったからだ。
 「カランコロン」という扉が開く音を聞くたびに私は振り向くハメにな
る。2度ほどその扉は開いたのだが、リカではなく、”振り返りゾン”を
くらっていた。
 だから、場所を替えようと思った。顔を上げるだけで入ってくる客の顔
を確かめられるように私は対面側の椅子に座り直そうとして立ち上がる。
 その時、扉の鐘が鳴り、振り返るとリカがいた。

 私はその容姿にはっと息を飲んだ。少なからず想像はしていたが、昼と
夜とではこの少女は輝きが違う。清楚なライトイエローのワンピースに身
を包み、ストレートでちょっとだけ茶色がかった髪は、そこら辺でブラつ
くギャルとはいるべきところが違うとさえ思わせてしまう。
 そして、何より薄幸そうな翳を有する顔つきは、男だったらなりふり構
わず抱きしめてやりたいかわいさなのだろう。

497 :- 31 -:02/01/11 18:07 ID:TNuPAK2p

 なぜこんな子が夜のコウモリさえも不気味がる都会の汚濁地に身を浸し
ているのだろう? そして、なぜ昼になるとこうも清廉な少女に戻れるの
だろう?
 リカはすぐ私がいることに気づいた。ムリもない、私は半立ちの情けな
い姿でいたから。

「おはよう‥」
「お、おはようございます‥」

 私はリカを促してこの喫茶店の奥の方へと移動した。当初は待ち合わせ
場所に使うだけで、別のもっと人気の少ないところに連れていく予定だっ
たが、ココも十分人が少なかったし、何よりあまりにも今日という日は太
陽がまるでゴジラのように地上を焼き尽くす日で、どっちかというと主に
夜に棲息する私にはそれが耐えられなかったので、このままココで話すこ
とにした。
 リカはやや緊張気味に口元を震わせながら、やってきた店の奥さんにオ
レンジジュースを注文した。

498 :- 31 -:02/01/11 18:09 ID:TNuPAK2p

「で、話って何?」
 奥さんが離れるのを確認して私は対面に座るリカに聞く。すると、リカ
は少しきょとんとした顔を見せる。
「え? だって、サヤカさんの方から‥」
「用があるって言ったのは、そっち。私は電話番号を聞いただけ」
 リカは同じことですよ、とでも言いたげにちょっと反抗的な態度を目で
表す。私は余裕ぶって優雅にアフタヌーンティーを飲む貴婦人のようにコ
ーヒーを飲む。出されてからもう大分時間が経っていたので、慎重になら
なくてもいいぬるさだった。

「ま、話の内容は同じだと思うけどね。リカちゃん」

499 :- 31 -:02/01/11 18:21 ID:TNuPAK2p

 ”リカ”の部分を強調して言うと、リカは過敏に反応した。
 微妙に紅く頬を染める。私の視線がき裂の入った感情に入り込み、痛み
を覚えたのか、胸の辺りを無意識に触れていた。
 コーヒーソーサーには茶色の輪っかが作られている。その上にカップ
を乗せるとコトリと音がした。やっぱ高貴な人間にはなれそうにはない
な、と苦笑した。

「‥すいませんでした」
 いろんなことを全部ひっくるめるようにリカは謝る。私は飄々とした顔
で「何で?」と聞いた。
「だって、偽名を使って‥」
「私だって偽名だよ」
「え? ウソ? だってカラオケの店でも――」
「っていうのはウソ。本名」

 リカはからかう私を柔らかく睨みながら唸る。ちょうどやってきたオレ
ンジジュースを半分ぐらいまで一気に飲んだ。どうやら相当喉が渇いてい
たようだ。

500 :500:02/01/11 18:22 ID:TNuPAK2p

祝500。

501 :- 31 -:02/01/11 18:24 ID:TNuPAK2p

「でも、私みたいな人は少ないって。普通は偽名だよ。店に張ってある他
の従業員の名前見た? ”ミルク”ちゃんとか”クルミ”ちゃんとか。ど
う見たって偽名じゃん」
「そうなんですけど‥」
 渋い表情で私を見るリカに対し、私は目をコーヒーカップに落としなが
ら言った。

「‥で、どうなの? 自分の恋人の名前を耳元で囁かれながら、男のアレ
を咥える気分は?」

 コーヒーに映し出された自分の顔を見ながら、下卑た言い方をしたこと
に対して苦笑する。私は真昼間から、私たちのいる腐敗した世界にリカを
引きこむ効果を期待した。しかし、そんな必要はないのかもしれない。リ
カは清純そうなカラダを纏いながら、その実、昼でも公然とエッチを見せ
つけるような人間なのだから。

502 :- 31 -:02/01/11 18:26 ID:TNuPAK2p

 リカは遠目でもはっきりわかるくらい顔を赤らめた。
「ヘンなことこんなことで言わないでくださいよ。男の‥だなんて‥」
 リカは慌てながら周囲を見回す。私はちょうど店を一望できる位置にい
たので周りには誰もいないことを知っていた。さすがの私でも誰か人がい
たら、そんなことを言ったりはしないだろう。

 リカは少し額を伝った汗を補うようにストローに口をつけた。
 しかし本当に恥ずかしそうだ。私からすれば見られているのを知ってい
ながら、淫らなカラダを晒し、イっちゃうほうがよっぽど恥ずかしい。

「やっぱ、恋人なんだ。ヨシザワヒトミさんとは」

 私はレズがどうとか、あまり偏見や先入観を持たずに聞いたつもりだ。
男は女、女は男しか好きになってはいけないという古代からの一般観念は
持っていなかったからナツミみたいに嫌な顔をすることは決してない。

 リカのストローを咥える口がピタリと止まった。二、三度瞬きして私を
見つめるその瞳は戸惑いの涙を表面に湧出していた。それは決してトゲの
ある言い方をし続ける私に対するものではない。

503 :- 31 -:02/01/11 18:50 ID:TNuPAK2p

「どうしたの?」
 思わず優しい声で聞いてしまった。
「‥恋人って言えるのかなぁ」
 リカは物憂げに横を見る。相変わらず強い陽射しが外では放たれている
ようで、暗い眼差しは撥ね返される。少し焦りながらリカは顔を元に戻し
た。

「言えるんじゃない? 別に女同士だってそんなにヘンなことじゃないよ」
「ううん、そういうことじゃなくって‥」
 私は少し身を乗り出す。リカには聞く気マンマンの態度に見えたらしく、
少しのけぞる。ちょっと私らしくないことをしたな、と反省する。
「別に言いたくなかったらいいよ」
 リカは少し笑った。久しぶりの微笑みだ。暗い泉に埋もれていたところ
からちらりと垣間見えるような微かな光が私をほっとさせる。リカは表情
を小さく変化させるだけで人のココロをくすぐる能力があるようだ。

504 :- 31 -:02/01/11 18:51 ID:TNuPAK2p

「サヤカさんっていっつもそんなこと言ってるけど、ホントはすっごく聞
きたそうな顔してる」
「そう?」
 今度は私が顔を赤らめる番。自分でも意識はしていたが、まさかリカに
見透かされるとは思ってもみなかった。
 リカは「はい」とうなずいたあと、その表情を闇に落とした。

「私はヒトミちゃんのことが好きなんです。でも‥ヒトミちゃんは私のこ
とが好きかどうかわかりません‥」

 出だしはまるで恋愛相談だ。
 何でこんなことを言わせているのだろう? そして、何でリカは言おう
としているのだろう? リカは刺さったトゲを一つ一つ抜くように痛みを
時折浮かべながらぼそぼそと喋りはじめる―――。

505 :  :02/01/11 18:58 ID:TNuPAK2p

-29- >>448-460
-30- >>475-482
-31- >>493-504

クッキーきかなくなったのかな?名前欄にいちいち打つのがメンドイです。
かちゅ等は使わない人間なんで‥。次回はなるべく早めに更新します。

506 :名無しさん:02/01/11 19:02 ID:0K5HNsfz
よかったです!
あっちの方もがんばってください!

507 :ねぇ、名乗って:02/01/12 00:51 ID:OtRTN0PE
萌える展開になってきた

508 :  :02/01/12 07:57 ID:zALsDFvu

>506 続きがんばります。
>507 そんなには萌えないかも‥。

509 :- 32 -:02/01/12 08:01 ID:zALsDFvu

-32-

 リカの両親が交通事故で突然命を失ったのは2年前。リカがまだ中学生
の時だ。一人残されたリカは叔父さん夫婦に預けられるが、相性は良くな
かった。
 もともと、リカの父とその叔父とは仲が良くなかったみたいだ。リカは
その夫婦と子供に、食事がないとか目には見えにくい虐待を受ける。
 それでも私を引き取ってくれたんだ、と大抵のことは従うリカ。
 決定的な嫌悪が生まれたのは、叔父さんがリカのカラダを求めてきたこ
とだ。

 吐露するリカは唇を噛んだ。苦痛に満ちた言葉たちが一旦停止する。

 私も波長を合わせるように苦痛の表情を浮かべる。そこは飛ばしていい
と言おうとした矢先、リカは再び口を開く。

「家出を決意したのは、叔父さんが私にちょっかいを出していることを叔
母さんは知っている、という事実を知ったとき」

 私の肩がビクリと震える。灰色に褪せたリカの瞳が私のココロを射抜く。

510 :- 32 -:02/01/12 08:08 ID:zALsDFvu

 リカの叔母は叔父がリカに関係を強要していることを知っていながら、
見て見ぬフリをしたのだ。
 「理由はわからない」とリカは言う。
 しいて言うなら、叔父と叔母の夫婦関係はもう長いことなくて、愛自体
も皆無に近かったから。叔父がすることに嫉妬さえも生まれなかったのだ。

 しかし、女としての共鳴みたいな部分はあるはずだ。男に陵辱を受け、
泣哭する女を同じ女性として救おうとする気持ちは叔母にはなかった。
 そこにリカは絶望を覚え、家出という行動を起こした。

 街でリカは防御手段を知らない赤子のように見るもの全てに脅えながら
見つかるはずもない出口を求めてさまよう。
 しばらくは密かに貯めていた小遣いがあったから、食べ物は普通に食す
ことができた。とりあえず風があまり当たらない民家の間とかを寝床にし
た。最初は全く寝られずに夜から朝に変わる空をただぼんやりと眺めてい
たが、三、四日も経てば、寝つけるようになった。

511 :- 32 -:02/01/12 08:11 ID:zALsDFvu

 しかし、二週間も同じような生活を続けていると資金も底をついてくる。
下着も替えなんてものはなく、カラダが異臭に満ちているのが自分でもわ
かる。何度もリカは鼻に手の甲を押し当て、その体臭に顔を歪めた。
 ひもじさから眩暈がする。だけど、家には帰りたくない。警察官やパトカ
ーを見ると叔父夫婦は捜索願を出していて私を探しているんじゃないかと
思い、逃げ出す。そうじゃなくても保護という形で捕まるかもしれない。

 そう常に警戒心を抱きながらふらふらと歩くリカ。すれ違う人間はリカ
を汚い物を見るように卑俗的な目でねめかく。そんな視線が段々怖くなり、
さらに逃げ出す。人気のないところを探しながら、行く当てもなく路頭に
迷う――そんな生活が続いた。

512 :- 32 -:02/01/12 08:16 ID:zALsDFvu

 事件が、そして運命がやってきたのはある月が輝き、遠くで鳥が薄気味
悪く鳴いている夜の一時。
 公園のベンチの下で眠っているリカをある力が引っ張りだした。
 女とはいえ、異臭が匂い立つリカを獲物とする人間はいないと思ってい
た。しかし、それは甘かった。リカを女として見る奴がまだいたのだ。

 それは今のリカと同じ放浪者。社会の軋轢に飲まれ、家や家庭を失った
人間から見ればホームレス歴2週間のリカはまだまだ社会の匂いが染みつ
いている輝きを放つ者。
 そして、男たちには俗世を離れた人間にも決して消えることのない性欲
を保持している。その捌け口をリカのカラダに求めた。飢えた獣のような
目が6コ。
 逃げなきゃ、と思うも虚しく、両手両足をざらついた手で掴まれ、一人
の白髪の男が黒ずんだ顔に近づけてきた。リカは自分の体臭をさらに上回
る異臭に吐き気がした。その男は唇に噛み付いた。男にとってはキスだっ
たのかもしれないが、それはリカが今まで経験してきたキスとは全く異質
のもので何の魅力も感じられない粗暴的なもの。痛さがじんわりと感じて
いく中で血が唇から滲み出ているのがわかった。

513 :- 32 -:02/01/12 08:19 ID:zALsDFvu

 「助けて」なんて叫ぶ気力もない。一枚しかないパンツを男たちの手で
破られ、倒されてベンチに後頭部を打ちつけた時に最終的な絶望を感じた。
朦朧とした意識の中、夜の空が視界の大部分を占める。想像を絶するほど
遠くにある星は涙で掠れていった。

 しかし意識が消える直前に、カラダ全身で味わっていた屈辱の感触が離
れた。
 疑問に替わる前に、耳からは乱闘劇がすぐそこで起こっていることを知
らせる音が聞こえる。目を開け、自由になった上体を起こすとそこには月
の幻惑的な光に照らされて立っている人間がいた。
 そしてリカを襲った男3人はその人間を中心に地べたに這いつくばって
いた。

514 :- 32 -:02/01/12 08:33 ID:zALsDFvu

「そのヒーローがヒトミだったんだ」
 聞き入っていた私が、ちょっと口を挟むと幸せそうにリカはうなずいた。

 ヒトミは「大丈夫?」と言いながらやってくる。
 腰砕けの状態のリカは立つことができずベンチを懸命に掴みながら立と
うとする。
 リカはその時逃げたかった。王子様の到来はリカに運命を感じると同時
に、現在の落伍者としての自分を見せたくないという感情が生じたからだ。

 そんな思いも虚しく、ヒトミはリカの前に立つ。
 そして手を差し延べてくる。
 月の光だけが頼りの世界ではどんな華美な服を着ていても、黒を基調と
した妖しげなものに替えさせられる。ヒトミの服も皮膚の色もそうだった。
 しかし、一つだけそんな世界に屈しないものが差し出されたヒトミの手
にあった。

515 :- 32 -:02/01/12 08:43 ID:zALsDFvu

「あ‥」
 二人同時に気づいた。ヒトミは一度手を引っ込めて、笑いながら舐める。
「相手の歯を殴ったからね」
 舐めた口からポタポタと流れ落ちる血。倒れている男たちの返り血では
なく、紛れもなくつい少し前までヒトミの中を流れていた血だ。月の光を
喰い、不気味な赤色となって映えていた。
「う〜ん‥結構出てるね」
 他人事のようにヒトミは言った。
 尋常ではない――そう思い、引きつるリカは恐怖と絶望で使い物になって
いなかったカラダを懸命に揺り起こしてヒトミのその手に触れた。
「手当て‥しなきゃ‥」
「大丈夫だって。舐めときゃなおる」
 舐めて治る範囲の血の量ではない。蒼白なリカは自分の服をビリビリと
引き裂いてヒトミの腕にきつく巻きつけた――。

516 :- 32 -:02/01/12 08:44 ID:zALsDFvu

「なるほど。王子様だね」
 ナツミの時と同じく恋人のことを”王子様”と表現した。
 誇張されているところはあるだろうけど、要するにヒトミは自分のカラ
ダを傷つけてまでリカの窮地を救ってやった命の恩人というワケだ。
 リカはうなずく。”王子様”という言葉を含羞なく受け入れたのはリカ
が自分で言ったとおりロマンチストで、よほどヒトミが好きだったからだ
ろう。

 ヒトミは汚いボロ雑巾のようなリカを戸惑いなく受け入れた。それがリ
カにとって一番嬉しかったことだと言う。

「その時は、ヒトミちゃんが女の子ってわからなかったんですけど、後で
女だって知って、戸惑うどころか逆に好きになっていって――」

517 :- 32 -:02/01/12 08:48 ID:zALsDFvu

 その心状を何となくながら理解した。リカにとっては、叔父、そして放
浪者とことごとく性欲の対象にされた”男”という種は自分の体内に精子
をただぶっかけるだけに存在するものと当時は見えたのだろう。そして対
照的に”女”を求める意識が強くなったのかもしれない。

「しばらくいていいよ。殺風景な部屋だけど」
 ヒトミは自分の家に連れていき、軽いノリで言う。
 一旦拒否するも、ヒトミの優しさと美しさに、結局リカは甘えることに
なる。
 ヒトミは一人暮らしで高校一年生。親はアメリカに住んでいて金持ちだ
から毎月、相当のお金が振り込まれるので金銭面には苦労しない。リカは
その家に彷徨える子羊として迷いこんだ。

 同棲ではなく同居――もっと的確に表すのならば居候。
 そんな二人はやがてカラダを重ねるようになった。
 私とマリのような普通の友人の域を越えない同性の同居になれなかった
のは出会いがあまりにも劇的で、リカは悲劇のヒロイン、ヒトミはヒーロ
ーなる図式が即座に成立していたからだろう。

518 :- 32 -:02/01/12 08:52 ID:zALsDFvu

 ここまで長々と聞いていて、私が知りたかったことはまだ一つとして到
達していない。

 なぜ、二人は恋人と言えないと思うのか。
 なぜ、リカは”マリア”で働くことになったのか。
 そして、なぜリカは”ヒトミ”の名を騙ったのか。

「で、それからどうなったの?」

 そんな疑問を一切合財まとめて、そう聞いた。
 リカはコップの下の外気とオレンジジュースとの温度差によって表面に
作られた水滴を”∞”の形になぞる。

 そして、私に催眠術をかけられたように、ゆっくりと喋りだす。

519 :  :02/01/12 08:55 ID:zALsDFvu

-30- >>475-482
-31- >>493-504
-32- >>509-518

終わり方が前回と似ているけど気にしない‥。

520 :名無し:02/01/12 12:54 ID:yagliMCl
>>519
気にならないよ。あと保全のageさせてもらいます。

521 :名無し募集中。。。 :02/01/12 13:50 ID:dmjCnvll
( ´ Д `)<んあ?保全はsageでもできるよー

522 :ねぇ、名乗って :02/01/12 17:29 ID:F1mey+i7
まさにMr.Moonlight(w

523 :ねぇ、名乗って :02/01/13 09:23 ID:RyKt7GPx
うんうん。で?それからそれから?
うぁー続きが気になるっ!!

524 :ねぇ、名乗って:02/01/13 12:36 ID:/t1qMRDR
>>399
>気がつくとフロントのカウンター越しに
>小さくてかわいらしい女の子が3人いた。当然、客だ。
ってあるけどあと1人は誰?ネタにけちつけるようでスマソ。
ちょっと気になったので。

525 :名無し募集中。。。 :02/01/13 21:52 ID:3/8GnNV1
( `.∀´)y-~~<保全よ!

526 :名無し:02/01/13 22:11 ID:WF/PHyhI
>>524
多分ミスやろう。

527 :ねぇ、名乗って :02/01/14 08:46 ID:C7DW8lb8
保全しる

528 :名無し募集中。。。:02/01/15 00:58 ID:Elm0nZVs
保全

529 :名無しさん:02/01/15 03:49 ID:vPFjjcM9
(0^〜^0)<保全かっけー!

530 :_:02/01/15 14:21 ID:Mz4omprq
保全

531 :ねぇ、名乗って :02/01/15 23:32 ID:L/Ovla9D
( ´D`) <保全れす。

532 :  :02/01/16 02:21 ID:/5aBHewu

もうちょい待ってください‥。保全、感謝します。。。

533 :名無しぼん:02/01/16 07:00 ID:23fdEm4n
>>532
こっちでもお礼いっとこうw保全
今日はあっちが忙しかったからねえ
お疲れさん!

534 : ◆KOSINeo. :02/01/16 17:50 ID:e6o2YIdf
>作者さん
小説総合スレッドで紹介&更新情報掲載しても良いですか?
http://tv.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1000493808/
スレの存在はご存知でしょうが、再確認させていただきます。

535 :名無し募集中。。。:02/01/17 00:00 ID:SjeSkoJE

 全

536 :名無しぼん :02/01/17 03:32 ID:J3iuQYok

 田

537 :名無し募集中。。。:02/01/17 11:32 ID:FPs4WZge



538 :名無し娘。:02/01/17 22:34 ID:/vOEAv9P
12時間

539 :名無し募集中。。。:02/01/18 03:25 ID:6d8vszlD
hozen

540 :nini,:02/01/18 04:51 ID:CuRWj7qw
作者さん、桜井亜美愛読してます?

541 :ななし:02/01/18 08:42 ID:r8VKy5dx
茶でも飲みながら待ってるよ

542 :名無し娘。:02/01/18 20:27 ID:OUCbDHYA
保全

543 :名無し:02/01/19 03:00 ID:zolR6YQe
保全しとこっと。

544 :524:02/01/19 10:31 ID:Lz1Cuvq1
>>526
ミスですか。保全sage

545 :  :02/01/19 16:32 ID:UCkv6K8l

やや遅れました。あっちを終わらせたこととは関係なくただ詰まっていました。

>>522 一応、意識しました。一応ね。
>>523 遅くなりました。あっちでもありがとうございました(でいいのかな?)
>>524 下の方が書かれたようにミスです。直前に訂正したので‥つい。
>>526 おっしゃる通り。
>>533 ありがとうございました。楽しむ要素は少ないですがこちらもお付き合い
ください。
>>534 もちろんいいですよ。いつも感謝しています。ていうかここで書く以上ど
こでどう紹介されようが文句は言えないとは思うんですけどね。
>>540 かなり影響されてます。そういえば某サイトにも書かれてました。。。ま
あ読んだことがある人ならわかるか‥。
>>541 冷たい茶になったかもしれません。すみません。

その他「保全」感謝します。おかげでスレが消えるか気にせずに考えることがで
きました。
では続きです。

546 :- 33 -:02/01/19 16:41 ID:UCkv6K8l

-33-

「ヒトミちゃんは私を”モノ”みたいに扱うようになりました」

 私は無反応で細い肩を震わすリカを見つめる。涙で潤んだ瞳の裏側には
リカ自身にもよくわかっていない感情が形成されているのだろう。薄いル
ージュを引いた唇が小刻みに揺れる。

「いや、元々そうだったのかもしれないです。エッチなことをヒトミちゃ
んはしょっちゅうしてきます」

 一度、リカは息を大きく吸い込んだ。場を包むコーヒーの苦味のある香
りはリカに勇気を与えたのだろうか、一気にまくし立てるように喋る。

「でも、それは常に一方的で‥‥私からは決してヒトミちゃんのカラダに
触れさせてもらえないんです。ホントはヒトミちゃんの白く透き通った肌
とか、潤んだ瞳とか乱れた髪とかを見てみたい。それに‥悶え声とか立っ
た乳首とか濡れたアソコとか‥そんな淫らに感じるヒトミちゃんを‥私に
支配されるヒトミちゃんを見てみたい‥。でもヒトミちゃんは激しく拒絶
するんです。ちょっとそんな素振りをしようとすると私をより一層苛め
ます、行動や卑猥な言葉で」

547 :- 33 -:02/01/19 16:45 ID:UCkv6K8l

 私は黙ったまま、リカの言葉を記憶に留め、整理した。
 ヒトミから放たれるオーラのようなものは触れたもの全てを圧倒する。
まだ2、3回しか会ってはいないが私はヒトミに対してそういうイメージ
を漠然とながら持っていた。
 リカの話を聞いてそのぼやけたヒトミ像の輪郭が妙にくっきりとした。
ヒトミの性癖と言ってしまえばそれまでだろう。サディスティックな欲望
だけがヒトミを支配し、マゾヒスティックな部分は完全に遮断する。後者
の部分はヒトミにとって憎しみ以外の何物でもないのかもしれない。

「ある日、ヒトミちゃんが寝ている時に私はキスをしてしまったんです。
ヒトミちゃんが頑なに拒みつづけていたから、私がリードしたいって欲が
反比例して生まれたんだと思います。衝動に駆られて‥ホントどうかして
たんです、あの時の私は‥」


548 :- 33 -:02/01/19 16:48 ID:UCkv6K8l

 一度リカは私を見た。ちゃんと聞いているのか確認したかったのだろう。
聞いているよ、という意志として「うん」と頷くと、リカは過去への後悔
からか力無く微笑み、再び目線を下に落とす。

「ヒトミちゃんはキスにも気づかずに眠ったままでした。だから服を脱がし
てヒトミちゃんの胸に触れました。真っ暗だったから色とか形とかはわから
なかったんですけどとにかく柔らかくて温かくて‥どんどん理性がきかなく
なりました。自分の顔をヒトミちゃんの胸にうずめたりもしました。あんま
りにも気持ちよくて、嬉しくて私はそのままその場で眠ってしまいました。
次の日、私は殴られました。その時のヒトミちゃんは‥もう前にも後にもな
い鬼のような形相でした。そして、全てが変わったんです‥」

 口が止まったリカ。まぶたには涙が溜まっている。店内の音楽や向こうに
いる人のひそひそとした声が消え、リカの息を飲む音さえもはっきり聞こえ
るようだった。今私の耳はリカの創り出す音だけのために機能していた。静
寂に浮かぶ悲調の叫びが私のココロを急く。

 汗ばんだ手を擦り合わせながら私は「どう変わったの?」と促した。積悪
にもたれたリカは口重に話を再開する。

549 :- 33 -:02/01/19 16:55 ID:UCkv6K8l

「‥ヒトミちゃんはより暴力的になりました。エッチしている時に殴ったり、
手錠とか縄とか変な道具を使うようにもなりました‥。今までそんなコトは
なくて愛撫するときはずっと優しかったのに‥」
「‥‥」
「とうとうヒトミちゃんは私を性の奴隷にしてきました‥。見知らぬ男の人
を連れてきて‥それで‥」

 リカはそこまで言って唇を噛みしめた。ヒトミの狂態に怯えるリカに私は
息を呑む。口を閉ざすその先の言葉と連想させてマリが映し出される。リカ
もマリと同じように幾人もの男にレイプのようなことをされた。

 でも決定的に違うのは―――

「リカちゃんにとってそれは裏切りなの?」

 私の突然の問いかけにリカはハッと顔をあげる。その拍子に両方の目から
温かそうな雫が2、3滴テーブルにこぼれ落ちる。
 そしてリカはこれ以上落とさないようにゆっくりと首を横に振る。
 私は「やっぱり」と音は出さずに口だけを動かした。

550 :- 33 -:02/01/19 16:58 ID:UCkv6K8l

 その行為は傍から見れば、残忍なことに見えるがヒトミというサディステ
ィックの塊の人間にとっては、恋人を他人を使ってレイプすることさえも愛
情の一種なのだ。
 リカは特にそれを知っている、というか思い込んでいるから完全に否定で
きない。だからヒトミから離れられることができない。

「じゃあ、”マリア”に働きはじめたのもヒトミの指示?」
 リカはうなずき、
「どうせならもっと稼げるほうがいいね、って‥」
と小声で言った。

 リカの言ったこの言葉は私の脳内でヒトミの声色に変換された。自分の恋
人を貶める究極的なサディスティック行為。その”恋人”であるリカは震え
るカラダに”愛”と”憎”を刻む。どちらもヒトミにだけ注ぎ、葛藤し、両
者衰えぬまま昇華している。

「リカちゃんが”ヒトミ”の名を使ったのはリカちゃんの意思?」

 私はリカが首を縦に振るのを待った。リカは一度ツバを飲み込んで予想通
りのことをした。苦衷の中、底から沸き上がる震えは強さを増しているよう
で一生懸命カラダを強ばらせていた。


551 :- 33 -:02/01/19 17:01 ID:UCkv6K8l

 リカが”ヒトミ”の名前を用いたのは、ヒトミへの精一杯の抵抗とプライ
ド、そして自分の葛藤を正当化するためだ。

 一つは自分のカラダを”ヒトミ”とし、愚鈍な男たちに弄られるのは自分
ではなく、ヨシザワヒトミなのだと偽る。そして、”ヒトミ”という名の人
間はこんな男たちに服従する卑しき存在なのだ、と罵る――そんな憎しみ。

 もう一つは”ヒトミが性に屈し、マゾ的な部分を見せている”と自分のカ
ラダを使って表現する。そして、ヒトミにその”感じる”ことへの偉大さを
示そうとする――そんな愛しさ。

 ヒトミには何一つ伝わらないことだとしても、後に弾劾されるべきことだ
としてもリカはそんな愚鈍な行動をやめるわけにはいかなかった。

 ヒトミと偽ることで、”ココロはリカでカラダはヒトミなんだ”と強制的
に分離させる。本物のヒトミでは決して得られなかった快感と欲求を、
”二人”で満たしていく。

 その狂気じみた願望の本質は私と似ている。人の関わりを避け気味だった
私が出会ってからこうして今でも付き合いがあるのはそういうインスピレー
ションをココロのどこかで感じていたからかもしれない。


552 :- 33 -:02/01/19 17:05 ID:UCkv6K8l

 ヒトミが求めているもの。
 リカが求めているもの。
 それはきっとお互いであるにも関わらず、その二つの欲求は競合しあい、
反発する。
 私は事情を聞いて慰める気はさらさらないし、もしあったとしても不可能
だろう。リカにとってこの苦しみは一つの真実なのだから。
 リカもそれを分かっている。真実は真実と認知しているならばそれを歪曲
することはできない。

 リカは私にきちんとした答えを求めているわけではない。ただリカの投げ
かけを受け止め、そっくりそのまま返すだけだ。
 私はリカの震えが収まるまでずっと待つことにした。

 約1時間後、リカは顔を見上げ、私に「もう大丈夫」という意志の笑顔を
見せた。それは偽りのものには違いなかったが、ココロに鬱積した苦渋を私
に吐いたのだ。その空っぽの笑顔の中には本物の喜びが埋まっていくことを
ただ願った。


553 :- 33 -:02/01/19 17:07 ID:UCkv6K8l

 私たちは喫茶店を出た。コーヒー一杯で長いこと居座っていた悪しき客だ
ったにも関わらず、奥さんは「また来てね」と言ってくれた。社交辞令とは
いえほっとした。

 昼が似合わない汚れきった二人がかんかんに熱せられて見えない蒸気が立
ち昇るアスファルトの上を歩く。ロールプレイングゲームの毒エリアを一歩
一歩進むように前に進めば進むほど生命力が失われていく気分だ。
 行く当てもなく歩いていたので、リカに「どこか建物入らない?」と言お
うとして「リカちゃん」と呼びかけた。すると、リカは私の方を向き、
「もし、まだ暇でしたら私の家に寄っていきません?」
と言ってきた。

554 :- 33 -:02/01/19 17:11 ID:UCkv6K8l

「近いの?」
「電車で二駅ほどです。歩いてでも着きます」
 私は少し考える。リカの家はつまりヒトミの家ということだ。ヒトミがい
るかもしれない。
「ヒトミちゃんはいませんよ。昨日から出かけているんです。明日にならな
いと帰ってこないって言ってました」
 見透かしたようにリカはこう付け加える。
「それじゃあ行こうかな。でも歩きはイヤだ。電車で行こう」
 舌を出し、真っ青の空と強烈に照りつける太陽に目配せをし、暑さをアピ
ールした。リカは太陽の光を遮るように額に手をかざしながら「そうですね」
と言い、微笑んだ。昼下がりにふさわしい少女としての爽然さを巻きつけた
ような笑顔だ。これは私にはもうできない笑顔で決定的にリカと私の違う部
分だと思った。

 そして、私たちは最寄りの駅に方向転換した。

555 :  :02/01/19 17:13 ID:UCkv6K8l

-31- >>493-504
-32- >>509-518
-33- >>546-554


556 :名無し募集中。。。 :02/01/19 19:56 ID:CWNoPPJW
更新乙カレー。

557 :名無し募集中。。。:02/01/20 04:18 ID:Gt5NXvCq



558 : :02/01/20 09:41 ID:u/M5Jfnf
更新ヤター
相変わらず続きが気になってしょうがない。

559 :名無し募集中。。。:02/01/21 01:33 ID:lFUnN0/L
期待sage

560 :名無し募集中。。。:02/01/21 08:26 ID:hupDyRQA
リカに何故か恐怖を感じる

561 : :02/01/22 00:08 ID:se+nxXOb
保全

562 :名無し募集中。。。 :02/01/22 15:20 ID:Jl1Z03rf
ほぜむ

563 :  :02/01/22 18:17 ID:2ZT5xgGk

保全ありがとうございます。っていつも言ってますね。

>560 俺は全員怖いです(w。

では続きです。

564 :- 34 -:02/01/22 18:20 ID:2ZT5xgGk

-34-

 交通量が多い国道沿いの高層マンションに私たちは入る。リカによると、
昼はうるさいけれども、夜になったら結構静かになるらしい。しかもリカた
ちの部屋は10階でその部屋からの車の騒音は遥か遠くの音にすぎないらし
い。
「おじゃまします」
 誰もいない部屋に向かって私は言った。別にヒトミがいるかも、と思って
言ったことではない。そういう癖なのだ。しかし、リカは「ヒトミちゃんは
いませんって」と念を押していた。

 部屋の中は結構汚い。台所に置かれたまだ洗っていない御飯茶碗と鍋。リ
ビングルームに入ると、ファッション雑誌や漫画本がライトグリーンの背も
たれのほとんどないラブソファの上に散らかって置いてあり、さらに向こう
のテーブルにも同じように本、そしてなぜか綿棒が散らばっている。ソファ
の反対側に秘書室にでもありそうな回転椅子が違和感たっぷりに置かれてい
る。その上にも畳まれた服が山積みされている。

565 :- 34 -:02/01/22 18:23 ID:2ZT5xgGk

「ヒトミちゃんは結構きれい好きなんだけど、私が”散らかし屋さん”で‥」
「片付けるの手伝おっか?」
 あんまり人のことは言えたものではないが、これはかなり汚い。「すいま
せん」と言いながらリカはピンク生地に幾何学的な模様が入ったバンダナを
拾い、頭に巻きつけていた。本来のかわいさのおかげか若くておしゃれな奥
様のような雰囲気を醸し出していた。

 私は床に落ちている下着などを拾い、適当なスペースに固めて置く。
 この部屋がリカの性質で蔓延していることにやや驚きを覚えていた。少な
くともリカの前では絶対的な抑圧者であるヒトミの部屋だから、リカの匂い
はほとんどないものだと思い込んでいた。

566 :- 34 -:02/01/22 18:27 ID:2ZT5xgGk

「この部屋のどこで寝てるの?」
 私は呆れながらリカに聞いた。こんなに散らかっていては寝る場所なんて
あるようには見えない。
「ああ、あっちです。もう一つ部屋があるので‥」
と言いながらリカが指差す方向には扉があった。どうやら2LDKのようだ。
 特に理由もなく「見ていい?」と聞くと、リカは「いいですよ」とうなず
いたのでその扉を開けた。
 セミダブルのベッドが中央に構えてあるのがまず目に飛び込んだ。どうや
らここで二人一緒に寝ているようだ。また、部屋の端にはおしゃれのかけら
もない白色のパソコンが置いてあった。他にも大きなタンスがあったりして、
そのせいか妙に狭く感じられた。


567 :- 34 -:02/01/22 18:34 ID:2ZT5xgGk

 ピピッという音がして振り返る。どうやらリカがクーラーの電源を入れた
ようだ。噴き出す冷気は埃っぽかったらしく、まともに顔に浴びたリカはゴ
ホゴホとセキをする。
「使ってなかったの?」
「いえ、使ってるんですが最初はいつも汚い空気が出ちゃうんですよね」
「フィルターとか掃除すれば?」
「はい、今度」

 こうやってあとあとに物事を延ばそうとする人間はえてして、部屋を汚す
タイプだ。今は私という来客が来ているから当然なのかもしれないが、リカ
の性格が垣間見えた気がして、少し顔が綻んだ。
 そんな緩んだ顔をパチパチと軽く叩きながら、ここへ来てからずっと緊張
をしていたことに気づく。ヒトミがいないとわかっていてもその漂う気配に
警戒していたのだろう。もしかしたら、向こうの部屋を見たかったのもヒト
ミがいるのでは? と思っていたからかもしれない。


568 :- 34 -:02/01/22 18:37 ID:2ZT5xgGk

 リカはとりあえず座るスペースを作ろうとソファの上に積み重なって置か
れた雑誌をどかす。しかし、その雑誌もすぐ横のテーブルの上に置いただけ
ので、殆ど片付けにはなっていなかった。そんな風に無意味にせわしなく動
くリカを傍目に私はきょろきょろと散らかった部屋を眺めた。

 黒くて無骨な17インチテレビの上の物体が目に入る。手紙ぐらいの大きさ
のフォトスタンドだ。中にはリカとヒトミが小さい枠の中で寄り添うように
頬と頬をくっつけながら微笑んでいる写真が挟まっている。
 さらに周りを見渡すと、簡易的なクリップボードの上には同じように二人
で映っている写真が部屋のアートとして8枚ほど貼り付けられている。
 見れば見るほど戸惑う。ヒトミの狂気的な性質はまったくと言っていいほ
ど感じられない。女同士ということを除けば、どうみても幸せいっぱいの恋
人同士。

 そして、ここは聖なる愛の巣。散らばる物たちが至極平凡な生活感を漂わ
せる。
 実際に目視する甘い情景と告白された辛い状況とのギャップを感じながら、
私はカーペットに散らばる紙切れなどのゴミを拾ったりした。

569 :- 34 -:02/01/22 18:40 ID:2ZT5xgGk

 一段落し、リカも落ち着きはじめると私はラブソファの中央に座った。一
番最初にリカが作ってくれたスペースだ。目の前のテーブルに積まれていた
本の一番上を取ると、それは「プチバースディ」と書かれたローティーン向
けの月刊誌だった。表紙と裏表紙がピカピカとした素材で少女漫画のような
イラストと飾られた文字が所狭しに書かれている。これだけで大分コストが
かかっていそうだ。

「これってリカちゃんの趣味?」
 表紙をリカに見せながら聞いた。リカはテレビのリモコンを手にとり、テ
レビの電源をつけようとしていた。私が持っている雑誌を一瞥したあと言う。
「あ、はい。でもヒトミちゃんもたまに見てますよ」
 リカは私が持っている雑誌を一瞥したあと何の気もなく言う。
「へぇ‥」
 パラパラとめくると占いや運勢に多数のページが割かれており、また彼氏
のタイプだとかベストな髪型だとかのフローチャートが至るところで見られ
た。リカもヒトミも16、7だとしてこの雑誌の対象年齢はもっと低いはず
だ。リカはともかくヒトミもこういうものを見て、今日のラッキーカラーは
緑だとか信じたりするのだろうか。


570 :- 34 -:02/01/22 18:45 ID:2ZT5xgGk

「ねえ、リカちゃん‥」
 私が呼びかけた時だった。玄関から鍵を開けている音がした。
「あれ、ヒトミちゃん‥帰ってきちゃった?」
 リカは腰を浮かす。
「マジ‥?」
 一度玄関の方を振り向き、顔をしかめながらリカと同じように腰を浮かす。
そのあと、隠れるところは? なんて慌てるがよく考えたらヒトミから逃げ
る理由は何一つないことに気づき、来るなら来いという気持ちでソファにド
スンと腰を据えた。

「た〜だいま〜。お客さん来てるの?」
 ヒトミの声を聞いてソファから立ち上がり振り向く。
「こんにちは。お邪魔しています」
 自分でもフシギなくらい礼儀正しく会釈をした。
「どうも。もしかして掃除手伝って‥って、ああ確か‥カラオケの‥」
 ヒトミは一度部屋を見回してから私を見る。ワンテンポ置いて、ようやく
私の顔に見覚えがあることに気づいたようだ。少し眉を寄せ、目をパチクリ
させて名前を必死で思い出そうとしている。


571 :- 34 -:02/01/22 18:47 ID:2ZT5xgGk

「はい、サヤカです。イチイサヤカ」
「そうそう、サヤカさん。もしかしてリカちゃんと友達だったんですか?」
「まあ、あんまり付き合いはないんですけど。今日はたまたま‥」
 ”たまたま”の部分を強調した。しかし、ヒトミは私の微妙な主張など気
にも留めない感じだ。
「そうなんだ。何でリカちゃん、あの時言ってくれなかったの?」
 ヒトミはリカの元に駆け寄る。バンダナの上から頭を撫でる。そして、柔
らかそうなほっぺを一度細い指で優しく突く。まるで小さな子供を扱うよう
な行動だ。
 ヒトミは至って正常の人間に見えた。レイプだとか、暴力だとかとは無縁
の永遠の美少女。
「ほら、だって‥あんなコトした後だったから‥恥ずかしくって」
 リカは恥ずかしそうに自分の指をいじりながらヒトミを見つめるがその目
は淡い緑色に輝く。それも欲求に全てを傾倒させたいという毒々しいもので
はなく、ただ純粋にヒトミに寄り添いたいという安らぎを求める少女として
の目だ。

「あんなコト‥ってどんなコト?」

572 :- 34 -:02/01/22 18:50 ID:2ZT5xgGk

 さらにリカは恥ずかしくなったのか顔が赤みを帯びてくる。ヒトミから目
を離し私を見た。するとほぼ同時にヒトミも私の方を見た。
 大きく私のココロさえも覗けるような大きな瞳。日本人らしく高くも低く
もない整った鼻立ち。口紅もつけていないのに淡い桃色をしている柔らかそ
うな唇。
 全てが合わさって感じるのは絶対的な”美”の存在。

 私は一瞬、その玉殊のように輝く容姿に吸い込まれそうになる。

 しかし、その吸引を止めたのは当のヒトミだった。
 完璧なる無表情の顔を上品かつ淫靡という常人には不可能な笑顔に歪ませ
る。リカの言った通り、限りなくサディスティックで、支配的な至福感が漂
っている。

「こんなコト?」

 ヒトミは素早くリカの唇にキスをした。
 深いキスだ。1秒、2秒、3秒‥と時計の針は時を刻む。まるで精気を吸
い取るような濃厚なキスが目の前で起きていた。

 唇が離れた時、リカはヒトミの甘くて黒い罠にはまったような恍惚な表情
を浮かべていた。その表情のまま私をちらりと見た。焦点の合わない瞳がゆ
らゆらと揺らめきながら私を刺す。

573 :- 34 -:02/01/22 18:53 ID:2ZT5xgGk

――驚いた。

 キス一つでこんなにも変わるものなのだろうか。クーラーが効いていて涼
しいはずなのに、汗がカラダの表面に滲む。

「リカちゃんったら風俗店で私の名前を使って働いているんですよ」
 ヒトミは俯いているリカをよそに回転椅子に、背もたれを前にして座った。
あまり反応が強くなかった私に対し、口端を再び歪める。

「あ、やっぱり知ってたんですね」
「何が?」

 リカの味方の立場を取っていたからか、余裕たっぷりのヒトミが気に入ら
ない。顎をしゃくりながら私は軽くメンチを切る。

「リカちゃんが多種多様の男に抱かれている淫乱な女だってこと」


574 :- 34 -:02/01/22 18:57 ID:2ZT5xgGk

 ヒトミも私のくすぶる感情に触発されたのか、強い口調を発する。もう最
初に見た”美”を包んでいる人間ではない。冷たい支配性が私を貫く。私の
中にある小さかった火種が勢いを増す。

「あなたがやらせたんでしょ? リカちゃんは嫌がっているっていうのに」

 語気が荒々しくなった。リカはその間に、「もういいから」と呟いたよう
だが私の言葉に消されてしまう。

「そんなことないですよ。私はリカちゃんの全ての気持ちを知ってるから。
リカちゃんって私だけじゃ飽き足らず、いろんな人と寝たいってずっと思っ
ていたんですよ。だから紹介してあげたんです」

 淡々と話すヒトミの言葉は非常識極まりない。もし二人が恋人だったら
――いやそれ以前に血の通った人間であれば到底ありえない言葉だ。私はヒ
トミに向ける憎悪の目を強くさせた。普通に考えたらヒトミはリカを断じて
愛してはいない。しかし――、


575 :- 34 -:02/01/22 18:58 ID:2ZT5xgGk

「リカちゃんが思うわけないじゃん。バカじゃないの?」
 言った自分に強がりの部分が垣間見える。強がりは負けの前兆だ。
「嫌がってはいないよね? リカちゃん」

 ヒトミはリカを見ながら立ち上がる。そして、今まで座っていたところに
呆然と直立しているリカを座らせた。糸をつけられた操り人形のようにリカ
はヒトミにされるがままに椅子に座る。ヒトミはその椅子をぐるんと回した。
半回転してリカのカラダは私と向き合う。そして、淡白な表情のまま首を縦
に振った。

 私は唇を少し噛む。敗北とは認めたくないが、ヒトミの余裕の仮面を剥が
せることは到底不可能だと悟った。”ヒトミは普通ではない”とヒトミと出
会ったたった二、三回の歴史が常識を覆す。


576 :- 34 -:02/01/22 19:01 ID:2ZT5xgGk

「ところでどういう関係なんですか? リカちゃんとは?」

 ヒトミの言葉に私はギクリと腰を浮かす。
 ヒトミはどこまで知っているのだろう? 返答に窮し、ぎゅっと喉を締
め付けたが、ヒトミは私の答えを待たずに、「ちょっと待って」と言い残
し、台所の方に向かい冷蔵庫を開け、鍋にいっぱいの水を張り、塩を少量
加え、ガスコンロに火をつけた。

「へへへ‥ゆで卵‥。今無性に食べたくなって」
と言いながらヒトミは戻ってくる。

「リカちゃんから聞いてないの?」
「うん、あんまりリカちゃんの交友関係って知らないんですよ」
 ヒトミは言った。
「リカちゃんのことを全部知ってるんじゃなかったっけ?」
「そんなこと言いましたっけ?」
「うん」
 初めて勝ったような気がしてつい顔がほころぶ。
「そうですね。じゃあ99%知ってるって訂正してください」
 そんな私をさらりと交わすヒトミ。続けて、

「でもまあ大体わかりますけどね」

 ヒトミは私の背後にやってきた。ソファに座っている私は顔だけを後ろに
向ける。

577 :- 34 -:02/01/22 19:05 ID:2ZT5xgGk

「ソープ嬢なんでしょ?」

 私の反応を待つ前に後ろからソファを挟んで私の下半身に手を入れてきた。
 自分の身に危険が及ぶなんて思ってもいなかった私がその咄嗟の行動に驚
いている間に、ヒトミの長くて細い指はきっちりパンツの中に入り込み、私
の性器まで到達していた。

 女とは思えない強い腕力で私の腰だけを自分の元に引き寄せる。ちょうど
バックに入る前の”く”の字にさせられる。
「あ‥」
 私は一瞬の喘ぎ声とともに、顔を上げた。
 ヒトミは細く女性的な指を獰猛なヘビのように扱う。その荒々しさは、指
だけでイカされた手練れたホスト風の男の顔を思い出させる。確か3ヶ月前
ぐらいのことだ。小さな屈辱と歪んだ快感が最終的に得たものだった。
 それと今似ている。およそ女性が作る動きとは思えない乱暴さだ。

 必死の抵抗の最中、私の視界にはリカの顔が映った。キスの余韻なのか空
疎に包まれたままの表情からは全く感情が読み取れない。ただ生命のない壊
れた人形がぼーっと私の下半身を眺めている。きっとこのままだとあのホス
ト風の男にさせられたように最後までイってしまうのだろう。リカの見てい
る前でそれだけはしたくなかった。だから私は喘ぎ声を隠すように、「やめ
ろ!」と低く唸った。

578 :- 34 -:02/01/22 19:07 ID:2ZT5xgGk

 すると、ヒトミはその動きをピタリと止め、入れていた指を抜いた。性感
が手や足などの抹消部を支配する直前のことで、軽く痙攣していた私は自重
を支えられずに、ソファの前でひざまづいた。
「や〜めた」
 荒い息を立てながら首を曲げる私に対し、ヒトミはこの空間を司る人間の
ように私を見下ろしていた。まだ途中だったからかしびれはすぐに治ってい
く。私は立ち上がり、怒りに任せて、ヒトミの頬を拳を握り締めながら殴っ
た。

「やめて、サヤカさん!」
 手元で放たれる衝撃音と一緒に、後ろで座ったままリカは久しぶりに叫ぶ。

 リカに対する罪悪感。
 ユウキに対する背徳心。
 支配されそうになった私のカラダに対する自虐。
 そして何より、そんな場を悠然と作ってしまうヒトミに対する決定的憎悪。
 いろんな情動が拳になってあらわれた。


579 :- 34 -:02/01/22 19:09 ID:2ZT5xgGk

 しかし、ヒトミはそれすらもあざ笑うように、まったく表情を変えない。
私の拳は当たったのか? そう疑問に思いながら左手で右の拳に触れると痛
みが走った。
 私の拳が確実にヒトミの顔を捕らえていた証拠だ。

 ジンジンと感じる右手の痛みと、何も変わらないヒトミの冷たい瞳――矛
盾した空間に佇む私の胸の鼓動は異常に速くなる。

「サヤカさんのプライド、しっかり感じました。すみませんでした。予想通
りリカちゃんとは違うみたいですね」

 ヒトミは深く頭を下げ、謝罪した。笑みはないとはいえ怜悧に固めていた
表情が融けているところを見るとそれはココロからのものだと教えている。


580 :- 34 -:02/01/22 19:11 ID:2ZT5xgGk

「何のプライドよ‥」
「サヤカさん、恋人いるんでしょ? しかも最近できたアツアツの。私恋人
持ちにはあんまり刺激を与えないようにしてるんです」

 ユウキのマキに似ている甘い顔を思い出す。その残像の向こう側で余裕そ
うに目を細めるヒトミには、会ったことのないはずのユウキの顔を思い浮か
べているような気がしてゾッとした。

「それに今サヤカさんの周りってすっごくいろんなことが起きていますね。
大変でしょうが頑張ってくださいね」

「‥なんでわかるの?」
 ヒトミには私の背後で苦しむマリの顔さえ見えている――恐れや悔しさを
押さえつけるように上の歯と下の歯を強く合わせた。信じられないことだが
ヒトミには何かを見通す力があるようだ。そういえば初対面なはずのナツミ
を一目見るなり「うれしいことがあった?」と言っていたことを思い出した。


581 :- 34 -:02/01/22 19:18 ID:2ZT5xgGk

「なんとなく。具体的なことはよくわからないですけどね」
 ヒトミが私には絶対勝てない神のように見える。それは私が最初にイメー
ジしたヒトミ像を超えたものだった。
「ただ、リカちゃんの考えていることははっきりわかりますけどね。例えば
今は‥」

 ヒトミは付け加える。私は「何?」と尋ねる。リカもカラダを乗り出す。

「リカちゃんは今、私とサヤカさんと3Pしたいって思ってるんです。
どう? 変態でしょ?」

 リカは赤面していた。
 事実のようだ‥。

 失望と絶望が私を打ちのめす。

 リカ側に立とうとする少し前の私はもういなかった。

582 :  :02/01/22 19:23 ID:2ZT5xgGk

-32- >>509-518
-33- >>546-554
-34- >>564-581

ここのタイトルをつけるとしたら”リカちゃん人形”でしょうか。
-32-は”Mr.Moonlight”なんでしょうけど。


583 :名無し募集中。。。 :02/01/22 21:25 ID:BD++zbtp
更新乙カレー
よすぃ子スゲー(w

584 :名無し:02/01/22 22:34 ID:IWnm4KP1
超優良スレ認定。
有料にしてもいいくらい。

585 :名無し募集チュ♥:02/01/23 01:52 ID:GTqK3pPq
>>584
座布団一枚。

586 :名無し募集中。。。:02/01/23 08:40 ID:Ly41irgY
>>584
オレは払わんぞ(w

587 : :02/01/23 21:34 ID:WJrl9Zik
保全

588 :名無し募集中。。。:02/01/24 10:49 ID:6+bYyOLY
保全

589 :名無しさん:02/01/24 21:15 ID:LgUHuzEc
( `.∀´)<保田よ!じゃなくて保全よ!

590 :名無し募集中。。。:02/01/25 05:18 ID:c71g+vb/
ほ ぜ ん

591 :某所の多田です!:02/01/25 16:05 ID:5EMTseJC
店長!保全ですね?
はい!分かりましたですはい!!

592 :名無し募集中。。。:02/01/26 03:25 ID:ML05LD53
保全

593 :  :02/01/26 05:47 ID:4LQFkY1u

安倍の妹、使えるかも‥。

>583 かなり超越した人間になっちゃってます(w
>584 では上記の口座に振り込んでください。
>585 ははは
>586 じゃあ僕が払いますから読んでくださいね。
>589 写真集おめでとうございます。

では続きです。

594 :- 35 -:02/01/26 06:00 ID:4LQFkY1u

-35-

 ヒトミは私とヒトミとの間にあったラブソファの背もたれをポンポンと叩
き、私に目を向けさせる。
「どうぞ、座ってください‥ってちょっと待ってください」
 どうやら私がヒトミを殴った時にソファの位置がズレたようで、ヒトミは
前のテーブルと平行になるようにして直した。そして再び手のひらを見せ、
私を座るように促した。

 「ありがとう」も言えず、私はヒトミを警戒心でもって見つめる。ヒトミ
がもう何もしないことは何となくわかってはいたが、ついさっき味わった屈
辱が背中を見せることを多分にためらわせる。そんな心情に気づいたのかヒ
トミはソファから離れ、リカに近づく。私はヒトミの横顔を見ながら腰を下
ろした。
 「大丈夫?」なんて声がリカから出る。ヒトミはそんな心配気なリカに
「大丈夫」と言い、バンダナが巻かれた頭を軽く撫でている。

595 :- 35 -:02/01/26 06:05 ID:4LQFkY1u

「ごめん」
 私は殴った拳の痛みを感じながら言った。謝罪なんて気持ちは毛頭ないが
殴ったことは事実だからだ。
「いや、全然大丈夫ですから。殴られるようなことをしたんですから。それ
よりも私に構わずくつろいでってくださいね」
 まるでホームパーティーの主催者のような言い回しをした後、リカに
「じゃ」と言い、隣りの部屋に行こうとする。
 クーラーの音が静かになった。どうやら十分室温が下がったみたいだ。し
かし、私のカラダは火照っている。殺伐とした空間は私の緊張の糸を張りっ
放しにする。

「あ、ヒトミちゃん!」
 そんな糸をぷつりと切ったのはリカだった。リカは隣りの部屋のドアノブ
に触れようとしていたヒトミを呼びとめた。ヒトミが振り返ると、「お鍋!」
と台所の方を指差しながら叫んだ。


596 :- 35 -:02/01/26 06:14 ID:4LQFkY1u

 私もその方向に目を向ける。するとぐつぐつという音が聞こえてきた。ど
うやら鍋の中の水はもう沸騰しているようだ。
「ああ〜、忘れてた!」
 ヒトミはヤケに低音の慌てた声を上げると同時に、台所に飛んでいった。
火を止めると同時に鍋からはモクモクと白い湯気が沸き立つ。

「これじゃあ、カチコチだよ‥」
 がっかりとした様子でその湯気の中の卵を上から覗く。そして、さらにが
っかりと肩を落とし、涙を拭うように右の人差し指で目の下をこすっている。
 ヒトミは湯切りしたあと、卵をボウルにいれ、それを右手に、左手には牛
乳パックを持つ。「リカちゃん、手伝って」と言うとリカは「うん」とうな
ずき、台所に向かった。

 リカはコップを三つとヒトミの左手にあった牛乳を持ってきてテーブルの
端に置く。リカにはいつの間にかいつもの気配が戻っていた。テーブルに投
影されたリカの顔は生きた笑顔だった。
「食べてってください。おやつなんです。小皿は今持ってきますから」
 リカは前かがみになり、テーブルに置いてあった雑誌類を床に置きながら
私に話しかける。


597 :- 35 -:02/01/26 06:20 ID:4LQFkY1u

「リカちゃ〜ん、醤油どこだっけ?」
 台所にまだいるヒトミから声が飛ぶ。
「あ、え〜っと下の戸棚の中」
「そうだっけ? う〜んと‥ないよぉ」
「あったって」
 リカは再び立ち上がり台所へ向かう。そしてヒトミが探している戸棚を覗
いて手を出して、「ほら」と醤油を見せた。
「端っこの方にあったんだ」
「うん」

 二人は醤油とゆで卵4つと小皿3つを持ってやってきた。
 私は今のやりとりにまた固めようとした真実が歪められた気がして唖然と
する。
「どうしたんですか、サヤカさん? ゆで卵、キライですか?」
 リカが不思議そうに尋ねる。
「いや、別に‥」

 とりあえず口を濁した。数分前では想像もつかなかった光景が繰り広げら
れている。少なくとも先ほどまでの全てを抑えつけるようなヒトミやそんな
ヒトミに魂を抜かれたように呆然とするリカはいない。そんな二人を許容し
ていた空間もいつの間にか冷房の効いた心地よいものに様変わりしていた。

 そんな変化についていけない私は一人取り残されている感じがした。

598 :- 35 -:02/01/26 06:24 ID:4LQFkY1u

 リカは枕に近い花柄のクッションを持ってきて、そこに正座する。ヒトミ
も後からやってきて、回転椅子に座り、嬉しそうに袖をまくる。
「食べてってくださいね」
 ヒトミは私の前に置かれた卵を見ながら言う。私は無言で頷いた。

「ヒトミちゃんたらおやつはゆで卵しか食べないんですよ。おかげで私も毎
日ゆで卵生活」
 リカは殻を向き、光沢のある白身を二つの親指でこすりながら愚痴混じり
に呟いた。
「でもリカちゃんも結構好きになったでしょ?」
「元々キライじゃなかったよ。逆にキライになったかも? 飽き飽きしちゃ
って‥」
「そんなこと言ったって卵食べるのはやめないからね」
「わかってるって。ヒトミちゃんから卵をとりあげることがどんなことか私
が一番よく知ってるもん」


599 :- 35 -:02/01/26 06:31 ID:4LQFkY1u

 ヒトミはゆで卵のてっぺんを箸で穴を開け、その中に醤油を数滴入れる。
染み込むのを確認してから大きく口を開き、一口でゆで卵を食べた。手元に
はもう一個ある。4つ持ってきたゆで卵のうち、2つはヒトミのものらしい。

 なんだろう、この二人は‥?

 甘い日常を見せられてつくづくそう思った。
 リカはヒトミにとっては始終、奴隷にすぎない人間なのだと思っていた。
ヒトミは奇妙な能力でもってリカの存在を全て掌握していて、だからリカは
ヒトミから離れた時、その魔法のような力が薄れ、ふっとつらくなるのだと。

 しかし、それは違う。
 ヒトミとリカは対等の恋人同士なのかもしれない。
 主従関係が生まれるのは性欲が二人を支配したときだけ。普段の生活の中
では二人はお互いを尊敬し合っている。ヒトミはリカを掌握しているわけで
はない。だから、この部屋にはきちんとリカの匂いが含まれていたのだ。
 そんなことがあるのだろうか――キチガイじみた性生活と恋人としての日
常生活を分けることが。

600 :- 35 -:02/01/26 06:36 ID:4LQFkY1u

 私はリカを一瞥する。ゆで卵をビーバーが木を削る時のように前歯を使
って細かく齧っていた。
 滑稽な姿に思わず苦笑した。それを見たヒトミはリカの方を向き、同じよ
うに苦笑した。穏やかにただその光景を見られることが幸せだというよう
な恋人を見る目をしていた。

「ヒトミちゃん、私どうしても聞きたいことがあるんだ」
 2つ目のゆで卵も同じようにして食べようとしていた。「何ですか?」と
至福の瞬間を邪魔されたせいか、スネた子供のように口を尖らせている。
 幼稚すぎてさっきまでのヒトミとのギャップを感じる。もう戸惑いを超えて
ヒトミという個体が何者なのかすら怪しくなってきた。それくらい混乱してい
る。ヒトミにされたことの不快な色は違った色素を混ぜられ、ぼかされよう
としていた。

601 :- 35 -:02/01/26 06:40 ID:4LQFkY1u

「リカちゃんを愛してる?」
「はい、大好きです」
 まるで私の問いを知っているかのような即答だった。キリスト教徒が神に
誓う時のように背筋をピンと伸ばし、私を見つめていた。

「‥だってよかったね。リカちゃん」
 脱力気味に私はリカに声をかけた。リカは言葉を出さずにうなずいた。何
か言いたげな顔にも見えたが私は無視する。

 私には理解できないことが多すぎて整理できていなかったから、今のリカ
の求める何かを私は拾い上げることさえできない。考えれば考えるほどそれ
は愚慮だと感じる。

 それくらい矛盾に満ちていた。そんな中、認めるしかない一つの真実をリ
カとヒトミを見交わしながら噛みしめた。

 二人は愛情と憎悪を融合させた、れっきとした”恋人同士”なのだと。

602 :  :02/01/26 06:45 ID:4LQFkY1u

-33- >>546-554
-34- >>564-581
-35- >>594-601

書き忘れましたが保全サンクスです。


603 :名無し募集中。。。:02/01/26 18:09 ID:VePJ02bw
乙カレ−です。
だいぶ下がっているのでいったん保全ageます。

604 :名無し募集チュ♥:02/01/27 03:07 ID:JVBgS5tL
オツカレーション

605 :名無し募集中。。。 :02/01/27 10:43 ID:bXzh7CvC
>二人は愛情と憎悪を融合させた、れっきとした”恋人同士”なのだと。
なんかこのフレ−ズが好き。



606 :( `.∀´):02/01/27 19:14 ID:V6nMmkSM
保○

607 :お疲れ:02/01/27 19:23 ID:1MjJXwOF
更新キター

608 :( `.∀´):02/01/27 23:13 ID:vPD07Buq
寝る前に保

609 : :02/01/28 01:38 ID:aNZo/Lv5
保全

610 :  :02/01/28 04:02 ID:/iCBrx8Y
午後の保田

611 :( `.∀´):02/01/28 19:24 ID:P8JaKxHN
起きてから保

612 :名無し募集中。。。:02/01/29 19:05 ID:VUXig1MZ
hozen

613 :( `.∀´):02/01/29 22:11 ID:79qkbO0a
( `.∀´)の、( `.∀´)による、( `.∀´)のための保全

614 :( `.∀´):02/01/30 07:56 ID:IeHwM1zO
( `.∀´) < ( `.∀´)

615 :名無し募集中。。。:02/01/30 22:06 ID:phUcqPAS
保田

616 :  :02/01/31 08:32 ID:wLEdWzD+

ちょっと待ってくださいね‥‥。作者。

617 :まってます:02/01/31 17:48 ID:f5lbI7dO
まってます

618 :( `.∀´):02/01/31 18:30 ID:DQEYbMkY
( `.∀´)<いつまででも待ってるわよ!

619 :( `.∀´):02/02/01 00:37 ID:164o6CnV
( `.∀´)<もう少し重要なポジション与えて欲しいわね!

620 :( `.∀´):02/02/01 15:46 ID:X9NST+D0
( `.∀´)<午後の保田よ!

621 :( `.∀´):02/02/01 23:45 ID:1PPNrCrX
( `.∀´)<テレホタイム突入の保田よ!

622 :名無し:02/02/02 14:32 ID:gf5RnbRZ
>>618-621
ワラタ


623 :( `.∀´):02/02/02 17:32 ID:ftT7wz1L
( `.∀´)<♪ゆうや〜けこやけ〜の、保田〜け〜い〜♪

624 :  :02/02/03 14:40 ID:Abytn76n

こんなに間の空いたのは初めてですね。
本当は次の日しようと思っていたのですが、カラダ痛くって‥。

保全も力入ってきましたね(w。ありがとうございます。
保田はあんまり出番ないっすね。ここでは。

>605 ありがとうございます。本作のいしよし部分のテーマみたいなもんですね。
   続きはもうちょっと細部に迫ります。

では続きです。   

625 :- 36 -:02/02/03 14:45 ID:Abytn76n

-36-

 これ以上居ても迷惑だと思い、帰る旨を伝えた。
 ヒトミは「せっかくだから夕御飯でも食べて行きません?」と誘ってき
たが丁重に断った。すると、ヒトミの提案でリカが最寄の駅まで送ってく
れることになった。小さい子供じゃないのだから、とは思ったがちょっと
ヒトミがいないところでリカと話したいこともあったので付いてきてもら
うことにした。

 帰宅ラッシュ時間に入っていて横の車道は混雑している。窓の向こうに
映るライトバンに乗った男性がイライラをハンドルにぶつけたりしていた。
私たちはその横の比較的幅が広い舗道されたアスファルトの上を、車の動
く速さよりも速く歩いた。

 リカは赤のミュールを履いてきたため高い音が鳴る。雑踏の中でも隣で
リズムよく鳴る足音は妙に私の耳に届いた。いつしか、私の中でも同じリ
ズムを刻み、パタパタとした私の足音とリカの足音はぴったり重なってい
った。

626 :- 36 -:02/02/03 14:47 ID:Abytn76n

「今日はいろいろすみませんでした。それにありがとうございました」
 角を曲がり大通りから離れた小道にさしかかった時に、リカがあらため
るようにして言った。足の回転が遅くなり、足音が乱れる。

 ”すみません”は愚痴を聞いてあげたこととか、「今日はいない」と言
っていたヒトミがすぐにやってきたことだろう。ワザとなのか本当に偶然
なのかわからないがどっちだって同じだ。ヒトミと出会ってしまったこと
は変わらないのだから。
 しかし、何に対して”ありがとう”なのだろう?

「私、何にもしてないけど。ただリカちゃんの話を聞いただけ。そしてた
だ私が混乱しただけ」
 深い意味は含ませずに言った。しかしリカには、少しつっけんどんとし
たものに聞こえたらしく、歩きながらうなだれた体勢で「すみません」と
呟く。
「うん」
 そんなちょっとした誤解を解くこともなく、私はただ相づちを打った。


627 :- 36 -:02/02/03 14:49 ID:Abytn76n

 無言のまま私たちは駅に向かう。足音だけがリカが私の後ろにぴったりと
付いてきていることを知らせる唯一の情報となっていた。
 再び、私とリカの足音が上手くハモる。そのことに気付き、意味もなく数
えはじめること10回。11回目はリカが立ち止まったようで、私の足音だ
けになった。12回目は私の足音までも消えた。

「どうしたの?」
 振り返ると、リカの頭のてっぺんの生え際が見えた。
「‥‥」
「ねえ」
「‥私って二重人格なのかもしれません‥」

 リカは突然顔を上げ、私を涙目で見る。太陽の当たらない小道にいたせい
か、リカの元々陰暗とした顔つきにさらに陰が塗りつけられている。どうや
ら本気で悩んでいるようだ。

「何でそう思うの?」
「だって、どっちもホントですから。私はヒトミちゃんを憎んでいるし、
愛しています」

 私は意図的に冷ややかな目線をリカに送る。リカが少し恐々としたよう
に顔を引きつるのを確認してから、リカに近づき、肩を軽く叩く。

628 :- 36 -:02/02/03 14:51 ID:Abytn76n

「いいんじゃない、それで」
 リカは私の開き直った言い方に反抗する。
「何でですか? だっておかしいですよ‥そんなの‥」

 私は昔に植え付けた記憶を掘り起こす。
「アンビバレントって知ってる?」
「アン‥ビバレント‥ですか?」
 リカは首をかしげながら反復した。
「うん。両面感情って意味。ジレンマといったほうがわかりやすいかな。こ
ういう感情は誰でも持ってるものらしいよ」


「どういう意味なんですか?」
 藁にもすがる思いでリカは食いつく。私は再びくるりと振り返り、駅の方
角に足を進める。リカは私より大きな歩幅でもって私の横に付く。
「つまり憎しみと愛ってのは表裏一体ってことかな?」
 どこかの宣教師のような言葉を宣教師らしく言うと、横にいたリカから
「え?」という声が洩れる。
「コインみたいなもの。物事に表があるならば絶対裏がある。その二つは
決して引き裂くことはできない。そこに愛があるなら確実に憎しみは表れ
る。同じ分だけね」


629 :- 36 -:02/02/03 14:57 ID:Abytn76n

 たとえば独占欲は一人を自分だけが手に入れたいという究極の愛の形の
一つだ。しかし、それは周りを徹底的に排除するという憎しみの形も受け
持つ。

 独占欲に限らずどんな愛情の形だって――愛情には必ず相反する憎しみ
がどこかに存在する。その”どこか”とはその愛情を捧げる対象とその周
辺もしくは自己に調和をとって注ぐものだ。

 リカはきっとヒトミという存在を独占したいのだろう。愛があれば大小
の差があるとはいえ必ず独占欲がある。しかしヒトミはそれを満たしては
くれない。誰かに浮気するという方法ではなく、リカからの接触を拒絶す
ることで、リカは独占欲を徹底的に拒否されている。
 つまり愛情の一つとしてもたらされるべきものの欠如が今のリカを混乱
の渦に巻き込ませている。

 リカは外がまるで見えない頑丈な箱に閉じ込められた状態にいるような
ものだ。そのため、リカは憎しみの対象をヒトミとリカ自身以外の誰にも
ぶつけることができない。リカはヒトミに憎しみを向けることを問題にし
ているが、おそらくはヒトミよりも自分自身に憎しみを向ける割合が大き
いのだろう。よりネガティブになり、自分を虐げてしまう。

 一方のヒトミはその箱から離れたリカには見えないところで自由に飛び
回っている。リカはヒトミに独占されていて、ヒトミは決してリカに独占
されないという一方的な享受関係――そこが他の恋愛とは違うところであ
って、ヒトミという絶対的な存在にもなりうる力を持つ人間が相手だから
こその悲劇だ。

630 :- 36 -:02/02/03 14:59 ID:Abytn76n

「だから、それでいいと思う。リカちゃんの本質は他人から見たらヒトミち
ゃんを愛してるってことに繋がっているように見えるよ」
「そうですかね‥」

 リカは少し安心するようにビルとビルの間にある小さい空を見上げる。夕
陽のせいで赤茶色に焦げた空だった。その自然の輝きはリカの黒めの肌を赤
褐色に帯びさせている。

 リカは確かに二重人格になりうる要素をもってはいるが、私は少なくとも
今はそうではないと思っている。そもそも二重人格というのは無意識の中に
抑圧され充足されずにいた欲求が乖離されて独立し別の人格を通して意識の
表面に突出し、その願望を充足させようとする状態のことだ。

 だから”ヒトミを先導したい”という欲求を頭ごなしに抑圧され続けてい
るリカはこのまま人格が独立することがあるかもしれない。しかしその”先
導したい”という感情が一人歩きしていない以上、リカは一つの人格を保っ
ていると言える。

631 :- 36 -:02/02/03 15:02 ID:Abytn76n

 だが、ヒトミはどうか?

 自分の恋人を男にマワさせたり、風俗に働かせたりさせるなんて、それが
たとえ恋人が望んでいたことだとしても理解できない。

 ヒトミは口では「愛している」と言う。そして、リカは「愛されている」
と感じている。だから恋愛関係は成立している。しかし、実際はリカを確実
に崩壊の一途に導いており、その危険性をヒトミは認識していながら推し進
めている。

 ヒトミはリカを愛し、そしてまた違った意味でリカを憎んでいる。

 リカと違うのはそのベクトルが次元の違う形で存在していることだ。
つまりリカに向ける愛情と憎しみはその対象物が根本的に異なっているよう
に感じるのだ。

 ある意味二重人格だ。二つの反目する感情で持って、ヒトミはリカを締め
付けている。ヒトミが何を抑圧されているのかわからない。愛情は世間一般
とさして違わないが憎しみはもっとリカの深いところを突き刺していて、愛
情と変換されるものでは決してない。

632 :- 36 -:02/02/03 15:03 ID:Abytn76n

 リカはそんな性質のヒトミに合わせているにすぎない。
 どこからその憎しみが生まれるのだろう? やはりリカの何かがヒトミ
に憎しみを創り上げていると考えるべきなのだろうが、私には想像もつか
ない。ヒトミにとってリカは単なる奴隷といってもいい存在なのに。

 もちろん、それは私の思考の範疇内の解釈であって、ヒトミから見れば
その憎しみは十分愛情の裏返しいうアンビバレントなものなのかもしれな
い。愛は憎しみよりも種類が豊富だから、私が認められない領域の愛の形
を求めているのかもしれない。

 サドとかマゾとかを超えた何かを――。


633 :- 36 -:02/02/03 15:10 ID:Abytn76n

「ところでサヤカさんって本当に彼氏いるんですか?」

 リカは少し落ち着いたのか、私の顔を覗き込むようにして興味津々に聞
いてきた。今まで自分のことばかり喋っていたので少しは話題を私のほうに
移して抵抗しようと思っているようだ。夕陽が大地によって遮られはじめ、
いよいよ夜の気配を帯びてきた。

「まあね。つい最近っていうか昨日できたばかりだけどね」
「へえ〜、うらやましいですね。仕事のこと知ってるんですか?」
「もちろん‥ていうかお客さんだったんだけどね。妙に波長が合っちゃっ
て‥」
「ますますうらやましいなぁ」
 恋する乙女のような淡い輝きがリカの瞳に映る。

634 :- 36 -:02/02/03 15:22 ID:Abytn76n

 私は多分リカが思うほど幸せではないと思う。こうやってユウキと離れ、
ユウキのことを想う時、胸を掻き毟られるような焦燥に駆られる。それは
今ユウキは浮気しているのでは? という嫉妬めいたものではなく、ユウキ
という人間は現実に存在しているのか? というキチガイめいたものが原因
だ。

 おそらく今こうやってユウキに向ける感情が私に存在していたこと自体が
不可思議なことなのだろう。
 私とユウキにはまだ1回のセックスでしか確固たる交わりはない。たった
1回で全てをわかった気になるのは愚かなことだ。しかし、セックスの意味
を限りなく低いものとしてぞんざいに扱ってきた私は、例え回数を重ね、ユ
ウキの存在を確かめ続けたとしても、その不安は常に付きまとうだろう。

 それに仕事はどうするべきか。頭の悩むところだったりする。
 しかし、そうやって迷いながら進んでいくことこそが人並みの幸せとも言
える。私にもそういう普通の幸せを得る権利が与えられたのだろうか。それ
とも元々あったのだろうか。
 今まで生き方と矛盾する感情の到来に戸惑いながら、期待している自分が
いた。


635 :- 36 -:02/02/03 15:24 ID:Abytn76n

「あ、電話」
 リカは自分のサイドポーチから音が鳴っているのに気づくとチャックを
開け、携帯電話を取り出した。
「もしもし、うん‥うん、隣りにいるよ。だってまだ駅着いてないもん」
 どうやら相手はヒトミのようだ。
 私は電話に夢中になりながら歩いているリカを心配しながら横について
歩く。このまま一人で歩いていると赤信号の横断歩道さえも渡ってしまい
そうだ。
「え? うん、わかった。それじゃ‥」
 少し寂しげにリカはボタンを押した。
「ヒトミちゃん?」

636 :- 36 -:02/02/03 15:27 ID:Abytn76n

 私はわかっていながら尋ねる。二人だけの話だったら私はそのまま無視
するつもりだったがリカの口ぶりや、電話中、一瞬私のほうに目をやった
仕草などから察するに私が関係していることは間違いないようだから、電
話の内容を聞いておきたかった。

「うん、ヒトミちゃんの携帯の番号をサヤカさんに教えてって‥」
「ああ、なるほどね」

 私にも好都合だった。次にヒトミと連絡を取る時には、できればリカを
通さないでおきたかったからだ。ヒトミもそう思っていたようだ。

 しかし、わざわざ電話してくる必要はないのに、と思い首をかしげた。
 リカが家に戻ったら私の電話番号を教えてもらい、私に直接かければそ
れで電話番号の交換は成立する。これが一番、簡単な方法なはずだ。

637 :- 36 -:02/02/03 15:31 ID:Abytn76n

 私は自分の携帯電話を取り出す。
「じゃ、教えて」
「うん‥」
 なぜか感情を押し殺したようにゆっくりとリカは数字を言った。私は言
われた数字を打ち込んで通話ボタンを押す。
「もしもし。あ、うん。教えてもらったから。今日はありがとう。それ
じゃ‥」
 ヒトミが出て、軽く礼を言ってからすぐ切った。向こうは「リカちゃん
をよろしくお願いします」と言っていたが、見送ってもらう立場にいる私
にその言葉は少しおかしいだろう、と首をかしげた。

 ふとリカを見ると、うつむきながら少し睨んでいた。小さな獣が弱いな
りに精一杯の鋭い目つきをしているようだ。日の当たり具合のせいか、リ
カの目の下にはクマみたいな陰ができている。
「どうしたの?」
 臆することなく不思議そうに尋ねた。リカは「ううん、なんでもないで
す」と言い、目線を勢いをつけて反らした。

638 :- 36 -:02/02/03 15:35 ID:Abytn76n

「あ‥」
 私はリカの平らな横顔を見て思わず言葉を漏らす。
 ヒトミが電話をかけてきた理由に気付いた。
 ヒトミはリカのこんな些細なことでさえも広がる嫉妬の姿を私に見せつ
けたかったのだ。まるで首輪をつけられたサルのようにヒトミは思いのま
まにリカを操っている。

「行きましょう。駅はこっちです」
「うん‥」
 リカのピンと張った背中を見ながら私は歩きだす。
 リカの感情を遠隔操作できるとアピールするヒトミの徹底した行動に私
はため息をついた。


639 :  :02/02/03 15:42 ID:Abytn76n

-34- >>564-581
-35- >>594-601
-36- >>625-638

訂正。>637 反らす→逸らす まあこの程度の誤字は腐るほどありますけどね。



640 :名無し募集中。。。 :02/02/03 16:33 ID:GdIVTH2m
更新お疲れさんです。
ヒトミ、すんごい策士だ(w

641 :  :02/02/04 02:45 ID:f5Znft4O
ヒトミ・・・・




ぁぁぁぁぁぁ・・・・・・(・∀・)イイ!!!
ヒトミがじゃなくて、この作品が。

642 :名無し募集中。。。:02/02/04 17:05 ID:w+/bT8jC
狩のののの作者と同じだったって今日気づいたよ・・・
どっちにもはまってたよ。

作者(・∀・)イイ!

643 :名無し娘。:02/02/05 10:52 ID:Y2qV76d2
保田(・∀・)イイ!


644 :( `.∀´):02/02/05 22:21 ID:80FH09MS

|( `.∀´)ゞ<まだかしらね?
| ⊂  ニュッ・・



645 :( `.∀´):02/02/05 22:27 ID:80FH09MS

|( `.∀´)ゞ<まだかしらね?
| ⊂  ニュッ・・



646 :( `.∀´):02/02/05 22:29 ID:80FH09MS
連続レススマソ。
決して作者さんに催促しているわけではありません。

647 :  :02/02/06 06:13 ID:pDkDJzJR

>638 の最後の1行は書き込む寸前に直したものなんだけど、ミスったなぁ。
やっぱ余裕をもって更新すべきですね。

>640 ヒトミがどうなっていくかは今後のお楽しみ
>641 ありがとうございます。息苦しい話ですがよければお付き合いください。
>642 宣伝せざるをえなかったのは僕の力不足だと思っています。でもどっ
ちも(・∀・)イイ!と言ってくださる人がそれなりいるとは正直あまり思って
いませんでした。
>646 連続レスは控え目にしてはほしいのですが、催促はしてください(w。

では続きです。矢口写真集発売記念。


648 :- 37 -:02/02/06 06:16 ID:pDkDJzJR

-37-

 家に帰ればそこには必ずマリがいる。
 見慣れた道をとぼとぼと歩く私のココロに描かれるのは扉を開けた後に見
えるマリの姿だ。背中の折れ曲がったリストラ直後のサラリーマンのような
姿が何度も何度も浮かんでは消える。そんな風にして堆積されていく暗愁な
気持ちも度を過ぎると、現実的なことを麻痺させるようで、マリは「おかえ
り!」と快活な声で私を迎え入れてくれるという妄想がむくむくと膨らんで
くる。そんな架空の偶像に縋りつきつつも、一方でそんなことはレイプ事件
以前にもなかったことだという現実的思考も当然残っており、この相反する
偶像が勝敗の決まっている闘いを起こし、私をさらに暗鈍とさせる。


649 :- 37 -:02/02/06 06:19 ID:pDkDJzJR

「おかえり!」
 しかし、扉を開けるとマリの笑顔と快活な声が、妄想を超えて私を迎え入
れた。その近寄ってくる小さな姿を足の先から頭のてっぺんまで見つめると、
瀕死だったその妄想は、聖水を飲んだ勇者のように息を吹き返し、しっかり
と有形なものに変容していく。

「た、ただいま‥」
「グッドタイミング! ちょうど出来たとこだったんだ!」
「何を?」
「いいからいいから」
 マリは私の背後に回り背中を押す。そのまま、ダイニングルームに連れて
行かれると、料理が所狭しと食卓に並んでいた。冷凍食品でかためられたお
手軽料理のようだが、色彩が豊かでおいしそうだ。

「おいしそうでしょ?」
「うん」
「食べて」
「うん」
 素直にうなずきながら目の前の椅子に座る。対面にはマリが薄いキャミソ
ールの上にエプロンを着たまま座った。身長に合わず足首までの長さのエプ
ロンは私が愛用しているものだった。

650 :- 37 -:02/02/06 06:21 ID:pDkDJzJR

「食べて」
「うん」
 私は促されるままに目の前のカニクリームコロッケに口をつける。
「どう?」
「うん、おいしい」
 お世辞ではない。他の料理に少しずつ口をつけてみたが全部結構おいしか
った。それは料理が上手いだけではなくて食卓の向こう側に座っているマリ
が笑っていたからというのもあるのだろう。

「ホントおいしいよ。特にこの肉団子」
 片栗粉のせいでネバッとした団子を食べたあと、ごはん粒のついた箸を上
げる。マリは肘を食卓につけたまま目を細めた。

 まるで幸せの到達点であるかのように。


651 :- 37 -:02/02/06 06:28 ID:pDkDJzJR

 ふと細くて冷たい一筋の空気が鼻の頭を掠めた。それは奇妙な偏頭痛を起こ
し、私は眉間を寄せた。
「どうしたの? まずかった?」
 心配気に身を乗り出すマリの顔とその周りの壁やテーブルが一瞬ねじれたよ
うに歪む。声には電波障害のような雑音が入る。まるで傷が入った映画のフィ
ルムのようだ。
「ううん、おいしいよ」
 動揺を隠すように私は小刻みに首を揺らす。目の前にいるマリはあまりにも
純粋すぎて、その分やけに薄っぺらくて剥れやすいことにようやく気付く。
 ここは幻想ではない。現実なのだ。
 夢見ごこちにいたような気持ちが吹き飛ぶ。

 台所の換気扇の音が聞こえる。
 後ろのクーラーの音が聞こえる。
 しかし、それ以外は私の食べる音しか聞こえない。マリは動く肖像画のよう
に微かに目や口を動かすだけで全く音が生まれない。

652 :- 37 -:02/02/06 06:31 ID:pDkDJzJR

 何かが違うと思った。
 マリは笑っている。過去を清算した穏やかな笑顔だ。それは私に不気味さ
を与えていた。マリが味わった屈辱はこの先何があったって払拭できるもの
ではない。しかし、目の前にいるマリはそんな過去をたった半日で忘却の海
に深く沈め、穏やかに昇る幸せという朝日を待っていた。

 何かと似ていると思った。
 その”何か”はすぐわかった。今日のリカだ。ヒトミにキスをされて、そ
の後、しばらく精気を奪われたかのように忘失と立ち尽くしていたリカと似
ているのだ。 

653 :- 37 -:02/02/06 06:33 ID:pDkDJzJR

「ホント大丈夫?」
 マリは笑顔を保ったまま、リカとマリの像を重ね合わせている私に聞いて
きた。奈落に突き落とされたマリは本来ならば自分の力で一歩ずつ崖を登っ
ていくしかない。しかし、マリは今、自分の力を使わずに”タケコプター”
を使って一気に頂上に登ってきたみたいな――まるで時空さえも飛び越えて
きた人間のような感じがした。

「マリこそ‥何かあったの?」
 漠然とした恐怖に引きつりながらも、私は笑顔を作って聞いた。
 明らかに私の描く復活の過程とはかけ離れている。私は虚像の幸せを構築
しようとするマリに動揺を悟られないように注意する。

 裏技を使うには何か新しいことがなければならない。時間の流れに身を任
せるだけでは決して見つからない。
「別に何にもないよ。でも‥」
「でも‥?」
「幸せのカタチを見つけたような気がするんだ」
 マリは立ち上がった。そして平らげて空になった食器を下げようとする。
「どこで見つけたの? それでマリは立ち直っ――」
「お願いがあるの」

654 :- 37 -:02/02/06 06:35 ID:pDkDJzJR

 マリは慌て口調の私の言葉を遮った。神妙に表情を硬くして椅子に座って
いる私の元にやってくる。
 1秒ほどの静寂。クーラーと換気扇の音だけが低い音を立てて鳴り響き、
心地良いはずの適度な冷気が、私の内部を凍らすまでに至ろうとしている。

「キスして」

 独特のキーンとした張り詰めた流氷に亀裂が入る瞬間の音のような高い声。
 マリは立っている。私は座っている。
 しかし、身長差がある分、目の高さは近かった。やや高い位置にあるマリ
の瞳が有機的に輝く。しかし決して透明にはきらめかずに、何か生きるため
のパーツを一つ失ってしまったようなまどろんだ輝きだ。
 マリはゆっくりと私の右手首をつかみ、エプロンの裏の自分の左胸に持っ
ていった。

655 :- 37 -:02/02/06 06:38 ID:pDkDJzJR

 冷たい肌触りと体格相応の形の良い胸の弾力の向こう側で心臓が強く速く
脈打っているのがわかる。中指と薬指の先には皮膚に凹凸があることを示す
感触が走る。例の錨の刻印だ。皮膚が爛れたこの傷は一生治らないと知らせ
る深さとグロテスクさを有する。
 驚嘆と狼狽から顔を背けた私の横顔に向かってマリは、凍りかけた内部を
壊しかねない氷の亀裂の響きを再び発する。

「そしたら立ち直れるような気がする」

 カラダ中の細胞がこの尖ったフレーズをリフレインする。私がこの数日間
マリに対して切に願っていた言葉だ。曖昧に逃げて、拒否するつもりだった
気持ちがぐらつく。マリの心拍数が増していることが手から伝わる。それは
私だけに向けたマリの全衝動のしるしだ。

「今度は不意打ちとかじゃなくて‥きちんと目を見て、優しくしてほしい‥」

 マリをもう一度まっすぐ見た。
 盲目にその灰色の輝きを私に捧げている。ほとんどの感情を排除し、た
だ一心に見つめた結果、生じるのは天秤に乗っているかのような不安定な
笑顔。それは哀しいぐらい冷たく、私を不純物の入った黒い氷の世界に吸
い込んでゆく。

656 :- 37 -:02/02/06 06:40 ID:pDkDJzJR

 よくテレビで”自己啓発セミナー”と銘打った集会に参加し、宗教にはま
り、だまされていると傍目には見えるにも関わらず、何の迷いもなく数百万
単位の金をいかがわしく髭をたくわえたその宗教の祖に捧げる人間の顔に見
える。

 昔はその笑顔をブラウン管を通して見ると、少し羨ましいという気持ちが
あった。”洗脳”された人間は混沌とした鬱積を捨て、至福が全てを包み、
その結果、安定しているのだと思っていたから。

 しかし今は違う。目の前で、しかももっとも付き合いの深い人間が同じよ
うな状態に陥っているのを見ると、安定とはかけ離れた、次の瞬間全てが崩
壊してしまいかねない危うい状況なのだということに気付いた。

 テレビの向こうに映る洗脳された人間はいくつもの環境から得て、いくつ
もの方向に糸を張り、支えるはずの自我を、その宗教一つだけに向けている。
 もしその全てを傾倒してきた教祖がまがいものだと気付かされる――つま
り一方向の糸が切断されると自己を完全に失ってしまう。まるで支点が砕け
た天秤のように、残るものは何の存在意義のない魂。


657 :- 37 -:02/02/06 06:43 ID:pDkDJzJR

――マリは何に全ての自我を置こうとしている?

 それが”裏技”を使うための条件なのか?
 もし、私がキスの要求を断ればマリはどこへ飛んでいく?
 制御の効かなくなったタケコプターは光でも闇でもない世界に飛ばしてし
まうのではないか?
 自我が喪失し、調整の効かない性格破綻に陥るのではないか?

「ねえ、お願い‥」

 マリの催促は砂漠で彷徨い喉が枯渇した人間がオアシスでようやく水を
得た時のような驚くべき速さで脳内に吸収されていく。

 無下に「できない」とは言えなかった。
 それくらいマリは狂気に身を浸しているように見えた。

 マリにとって私は自我の置き場所なのだ。たった一人のための絶対主とい
ってもいい。そしてそのたった一つの置き場所を失わないように強く深く、
私を求めようとしている。こういう立場に立ったことのない私はひどい重圧
とともに狼狽した。私自身、そういう絶対的な人間にはなれないタイプだと
知っている。マリの笑顔は私というまがいものの人間に全てを委ねた脆すぎ
る幻想なのだ。

658 :- 37 -:02/02/06 06:51 ID:pDkDJzJR

 しばらく悩む間もマリの鼓動は落ち着く様子を見せない。私も苦しくなり、
まるで心臓が水を求める魚のようにのたうちまわり、加速度的に鼓動を速め
ていく。

 マリは”求める”といってもヒトミとリカのような性交関係を私に望んで
いるわけではないはずだ。

 現実とマリが創る幻想が交わり、競合する。空間が歪み、私は目をしばた
かせる。そして、その時に生じる亀裂の裂け目から映し出されるのは、遠い
昔のマリとの過去だ。

 物心がついた時から隣りにはマリがいた。二人の間に構築されているもの
は他者ではなく自己としての愛情。本当の家族よりも深い血の濃さ。精神的
遺伝子の同化。一心同体。双子のようなシンクロシニティ。
 そんな歴史が私を”求める”全ての要因だ。


659 :- 37 -:02/02/06 06:59 ID:pDkDJzJR

「一回だけだからね」
 これが正解だとは思えない。しかし拒否したときのマリの予測できない変
化が怖かった。私はしぶしぶ願いを受け入れ、立ち上がると椅子がズズズッ
と床を引きずる音が聞こえた。マリにしてみれば当然だったのか顔色一つ変
えない。

 目の高さが逆転する。マリの大きな目はまばたきさえせずに私の顔を見つ
づけている。マリは顔を横に向け、私の胸のあたりに耳を押し付けるように
して抱きつく。短い両腕が私の背中で交差してくる。私はマリの頭のてっぺ
んを一度撫でたあと、押し付けられたマリの頭に優しく腕を巻きつけた。

「サヤカってやっぱあったかいね‥」
「マリも‥あったかいよ‥」
 私はマリの金に染められた髪の毛を梳く。
「昔はずっとこうやってサヤカの鼓動を感じながら生きていたのにね‥。い
つの間にか忘れちゃってた‥」
「うん、そうだね」
 頷くしかなかった。少し震えているのは過去への憧憬か現在への後悔かわ
からない。おそらくどちらともなのだろう。

660 :- 37 -:02/02/06 07:05 ID:pDkDJzJR

 震えが収まると同時にマリは顔を上げた。焦点がまとまっていない虚ろな
目はキスを求める仕草の一つ。
 肌はかなり荒れていた。ココ3ヶ月ぐらいで極端にボロボロになっていっ
たのだと思う。しかしよく考えると、その前がキレイだったかなんて覚えて
いない。
 毎日のように寝食を共にしながら全然マリを見ていなかったような気がし
てしまう。
 私は今までマリのどこを見てきたのだろう? 今の私にはマリの笑顔の似
顔絵を描くことはできない。ただ目が二つに鼻が一つ耳が二つに口が一つの
人間共通のデフォルトデータしか浮かばないのだ。
 こんなコトがないときちんとマリを見つめられなかったことに後悔を覚え
る。

 マリは目を閉じた。カールされたまつげが私に向かって伸びている。私は
肩を強く握り、ゆっくり唇を近づけた。細い呼吸を繰り返していたマリの唇
を覆う。
 私も目を閉じた。感覚はお互いの唇だけに集められた。さっきから響いて
いたクーラーや換気扇の機械音さえ耳の外側に押しやった。
 欲望に満ちた男たちのとも、ユウキのとも違う、まるで感情が交換しあう
ようなキスだった。そして、なぜか異常に冷たかった。

661 :- 37 -:02/02/06 07:08 ID:pDkDJzJR

 弾力のあるマリの唇が名残惜しそうに離れる。マリの表情を知りたくなっ
たのか目を開けた。するとマリも目を開けていてこちらの瞳を覗いていた。

 枝分かれのないマリの感情が私だけに注がれる、ピアツーピアの存在。愛
情や友情とかとは違う。無から生まれた純粋な、それゆえに凶器になるほど
鋭く尖ったココロが見え隠れする。

 世界中に私とマリしかいなくて、二人の共有感覚だけがその場を支配する。
どちらかが消えればもう一方も抹消されてしまう危うい空間だ。

 この共有感覚が昇華して辿り着く先には永遠という言葉が待っている。し
かし、それはどこか漆黒に満ちていて恐怖にも姿を変えてしまうものだ。私
はココロのどこかに安全装置が備え付けられていたのだろう。無意識にブラ
ックホールのように私が”私”として認めるパーツの全てを吸い込もうとす
るマリの瞳から目を逸らした。


662 :- 37 -:02/02/06 07:15 ID:pDkDJzJR

「これでいい?」
 狼狽めいた口調で私は言った。不思議な戦慄が調子を硬くする。
「うん、ありがとう。何か目の前の世界が変わった気がする」
 私とは正反対に柔らかさを乗せてマリは言った。顔や目は見ることができ
ない。見れば究極的に脆く儚い空間に逆戻りするような気がしたから。しか
し、多分マリはキス以前よりも吹っ切れた――レイプされた事実なんて記憶
の最も深い部分からノミで強引に削り取ったような、ひどくバランスの傾い
た笑顔をしていることは想像がつく。

 途端に後悔が訪れた。いつの間にか、マリのまるで決壊したダムの奔流の
ような感情が私の精神の斜面をえぐり、異常をきたしていたのだ。敢然とし
たつもりの行動は実はマリの思うがままの愚かなものだった。

 もう後戻りはできない。
 おぼつかない闇の中でマリは決して闇の中でさえも輝くことのない幻想の
光を手に入れた。例えそれが幻想だと知らされても、行き場を失った信者の
残党と同じように手離すことはないだろう。

「お風呂入る?」
 マリは聞いてきた。滲み出る幸福を噛みしめた満足感は私にとっては残忍
以外何物でもない。
「ううん、今日はいいや。朝にでもシャワー浴びる」
 私は平静を取り繕って言った。
「じゃあ私は入るね」
 マリは部屋を出た。

663 :- 37 -:02/02/06 07:19 ID:pDkDJzJR

 マリが部屋からいなくなったことにほっとする自分を少し嘲りながら、一
度深呼吸をした。
 私ができることはマリを見守るぐらいしかないのだ。マリはどんな幻想を
持っていようと、その幻想が崩壊しようと、私には具体的な手助けはできな
い。無責任かもしれないが、そう思わないと自分を支えられなかった。カラ
ダの中心を焼き付けるような罪悪感と闘うほうが幾分かはマシだった。

 私は布団を敷いた。太陽の匂いがして生暖かい。マリが干したのだろう。
家には小さなベランダがあるが西向きで夕日のエネルギーを吸収してくれる
ことになっている。夏だからそのパワーは偉大だ。

664 :- 37 -:02/02/06 07:22 ID:pDkDJzJR

 私は布団の中に入ってからすぐさま飛び起き、携帯電話を持ってきた。
 しばし怖ぶる気持ちを抑えて電気を消し、布団にもぐる。真っ暗になった
空間から携帯の液晶部分が光る。私が突き落とされた闇に映える一筋の光。
その先にはある人の名前が電話番号と共に表示されている。

 声が聞きたい。
 できれば、会いたい。

 焦燥感、寂寥感がムクムクともたげてくる。こんな感覚は初めてだ。
 マリとキスなんかしたからか、恋人を持って初めての一人の夜がそうさせ
るのかわからない。

 でもこの気持ちは夢でも幻でもない。真実だ。

665 :- 37 -:02/02/06 07:26 ID:pDkDJzJR

 生き生きと尾を左右に振る魚を掴む時のように携帯電話を両手でがしりと
持ち、通話ボタンを押す。
 6回もコールが鳴ってから恋人は出た。
 この6回はとてつもなく長く感じ、焦りの汗が手のひらに滲んだ。

 「もしもし」と言うと「もしもし」と返ってきた。
 「元気?」だと聞くと「元気」と返ってきた。
 誰にでも英訳できそうなくらいの幼稚な会話たち。

 それでも、凍ったココロにゆっくりと確実に滴る温かいものを感じずに
はいられない。
 目を閉じると電波越しに映るユウキの顔が目の裏側に焼きついていた。

 マキと似ていて――でもマキと似ていない温かい表情。

 ユウキは私のことを本当に愛しているよね。
 私は‥私もきっと愛している。
 今真っ暗な部屋にいます。布団に染み付いた太陽のぬくもりだけが頼り
であとは何にも見えません。
 私って怖がりなんだ。だからホントは叫びたいんだ。目をつぶって逃げ
出したいハズなんだ。
 でもね、ユウキがいるから。
 ユウキという”恋人”がいるから――

 暗闇でもあんまり恐怖は感じません。

666 :- 37 -:02/02/06 07:29 ID:pDkDJzJR

 無言の数秒間に自分の気持ちを確かめるようにして、そんなまるで中学生
の淡い初恋のような感情――それは決して中学生時には味わえなかった永遠
の輝き――が流れ込んできた。
 ユウキには伝わっただろうか。
 伝わらなくてもいい。でも私のココロに伝わったことだけは確かだ。私は
生きているのだと知った。愛を知っている人間なのだと知った。
 幸せだと思った。

「ねえ、サヤカさん」
 静寂をユウキが破る。
「好きだから‥お願いがあるんだけど‥」
「何?」
 私は予知能力があるわけではない。だが、なぜか言いたいことは言う前に
わかったから驚きはしなかった。そして結論はもう出ていた。
「お店‥辞めてほしい‥」
「うん、辞めるつもり」
 即答に向こうは驚いていた。でもすぐに「よかった」と安堵感を滲ませた
声が聞こえてきた。

「だからね‥会いたい‥今すぐに」
 私はぼやけた感じで言った。
「俺も会いたい」
 ユウキははっきりと言った。

667 :- 37 -:02/02/06 07:35 ID:pDkDJzJR

 なぜかユウキと話していると”絶望”というキーワードが胸を襲う。出会
いは確かに普通ではなかったし、私の中には相変わらず”マキ”という少女
がいることは事実だけど、それのどこが絶望なのだろう?
 何かが私の月並みの幸せを邪魔しようとしているのだろうか。

 とにかく世界の終わりが目の前に来ていて、その崖の近くで見つめ合って
いるような気がする。
 一歩先さえも確実な幸せはない。
 だから、私は”今”を弛まず大事にしている。
 だからこそ、私はこんなにも刹那的にユウキを求める。

 二人にあるのは”今”だけ。

――次の瞬間、闇に包まれ引きちぎられようと、後悔しないように、深く
深くユウキを求める――。

668 :- 37 -:02/02/06 07:40 ID:pDkDJzJR

 私は電話を切って、急いで服を着替えた。
 ちょうどその時マリがカラダに湯気を立たせながら風呂から出てきた。痛
々しい肌が目に入ったため少し目を逸らす。
「どっか行くの?」
 きょとんとした目をするマリ。
「うん、ちょっと‥」
 レイプという事実、そして明らかにマリは私を虚無の光として縋りつこう
としている事実を眼前に突き立てられている状況で、マリにきっぱりと言う
ことはできなかった。
「彼氏のところ?」
 しかし、マリはすぐ察したように聞いてきた。少し演技じみた軽い調子だ
った。

 私がためらいがちにうなずくと「いってらっしゃい」と優しい口調で言っ
てきた。そこにどんな葛藤があったのかはわからないが、焦っていた私はそ
れだけで救われた錯覚を覚える。
「じゃ、行ってきます」
 マリを一人にして私は家を飛び出した。扉を閉めるともう頭の中にはマリ
はいなかった。

669 :- 37 -:02/02/06 07:44 ID:pDkDJzJR

 ユウキと近くの公園で会った。

 すぐに抱きついてキスをした。

 私を取り巻く憎悪と愛情、現実と幻想を一切合財飲み込むようにしてほと
んど無言のままセックスをした。

 月と星が永遠に溶け込んだ闇の中で輝き、私の淫猥なカラダと不安定なコ
コロを妖艶に照らしていた。


670 :  :02/02/06 07:49 ID:pDkDJzJR

-35- >>594-601
-36- >>625-638
-37- >>648-669

『冷たいキス』かな?
う〜ん。書き込むのに1時間半かかった‥。


671 : :02/02/06 16:49 ID:HMqM6Vbj
更新お疲れさまです。
保全します。

672 :川σ_σ|| ◆MeLon8lc :02/02/06 18:54 ID:KcpZRfgo
ドキドキしながら読ませて貰ってます。
川σ_σ||<ミュソも( ^▽^)ちゃんの友人役で出ないかなぁ

673 :ねぇ、名乗って:02/02/07 04:42 ID:YASg84uF
更新おつカレー保全

674 :ねぇ、名乗って:02/02/07 07:42 ID:Rbddj3/z
おもしろい!
今、シアターに次いで第2位の小説です。
でも、あっちはちょっとマンネリ化が進みつつあるから
追い抜きそうな勢いかも・・・。

675 :  :02/02/07 10:41 ID:Q3cteirS
>>669
美しい。

676 :  :02/02/07 20:08 ID:16zia3kH

レスありがとうございます。作者です。
まだ1000までまだ300以上あるのですが、新スレに移行するつもりです。

理由としては、このまま計算してみると1000を超えるか超えないかぐらい
なんですよね。ぴったりに終わればそれに越したことはないのですが、
超えてしまったらちょっとまずい(恥ずかしい)かな、と思いました。
それと、スレ容量が大きくなると倉庫逝きになると風の噂で聞きまして、
1000がどうとか考える以前に逝っちゃうのでは?と思っておりまして(スレ
サイズ出てるし‥)。
なら一層のこと、ここでこのスレの終了宣言しとけ、と決断しました。

新スレ(氏にスレ使うかも)はこのスレが生きていたら、ここからリンクを
付けますし、氏んでたら総合スレに宣伝しに来ます。これからもよろしく
お願いします。

時間がないのでこれで。。。


677 :( `.∀´):02/02/07 22:48 ID:hhwED1aO
( `.∀´)<新スレができるまで保全よ!

678 :名なし:02/02/08 19:27 ID:JNkf9HZA
>>376
それまで首を長くしてまっています。


679 :名無し募集中。。。:02/02/09 15:39 ID:kgZnuwyh
一応保全

680 :( `.∀´):02/02/09 18:30 ID:4m0DKU1l
ほぜむ

681 :川σ_σ||<This is ◆unmeizGE :02/02/09 23:55 ID:1oXTXwZD
ほぜミュン☆

682 :名無し募集中。。。:02/02/10 02:40 ID:dhGLVbKl
その通りだよ。
でもそれでもやめられないんだよね>>22

683 :名無し募集中。。。 :02/02/10 10:34 ID:gZWxr7rv
これまでの主な登場人物をまとめてみました。以下順不同。

イチイサヤカ 風俗店「マリア」のホステスであり昼はカラオケ店「三日月」でアルバイトもしている。
       現在は「マリア」の方の仕事は休職中。天使の絹衣を纏い、悪魔の牙を持っている。
・ケイ  「マリア」のマスター。本人は28歳というが実際は20歳前後と推測される。
・マキ サヤカの夢に出てくる少女。ユウキに出会うようになってからあまり出なくなった。
・ヤグチマリ 学生。サヤカの幼馴染であり同居人。最近付き合った彼氏とその仲間にレイプされる。
・ナツミ サヤカと同じカラオケ店で働いている。最近彼氏が出来た。生娘。
・カオリ ナツミ・サヤカと同じく「三日月」で働いている。ナツミの幼馴染。時々宇宙と交信している。
・リカ 「マリア」でヒトミ≠ニ名乗り働いている。2年前両親が交通事故のために亡くなったために
     叔父夫婦に引き取られるも、叔父に陵辱を受け、嫌気がさし家出。
     公園で暴漢に襲われている所をヒトミに助けられる。以後ヒトミの家で暮らしている。
・ヨシザワヒトミ 高校生。リカの彼氏=B以前、リカが暴漢に襲われている所を助けて以来リカの
         王子様=Bリカと同居中。
・ユウコ サヤカ達が働くカラオケ店「三日月」の店長。
・ゴトウユウキ マキにそっくりな少年。現在サヤカと付き合っている。
・アイちゃん 生意気な関西弁のガキ。サヤカの働くカラオケ店に友達と一緒に来店。
・アイちゃんの友達 ユウキにふられたために傷付いている。ラブホテルにユウキと一緒に入った。




684 :( `.∀´):02/02/10 10:38 ID:vYadNGNB
>>683
乙カレー
ついでにほぜむ

685 :683:02/02/10 14:05 ID:c4Hoek7o
改めてみると683は見ずらい。


686 :( `.∀´):02/02/10 22:06 ID:8xga9NvN
定期保田

687 :( `.∀´):02/02/11 09:35 ID:3CmhzYnZ

     イツマデモ  マッテルヨ  ゴルァ  
                           プンプン
    ( `.∀´) ( `.∀´) ( `.∀´)    ( `.∀´)
    | ̄ ̄ ̄|─| ̄ ̄ ̄|─| ̄ ̄ ̄|─□( ヽ┐U
〜 〜  ̄◎ ̄  . ̄◎ ̄   ̄◎ ̄   ◎−>┘◎



688 :大杉勝男:02/02/11 11:15 ID:VlmhftCf
「思えば私の人生は、良き人との巡り逢いに支えられ、
ファンの皆様方の暖かいご声援に後押しされた19年だったと感
謝しております。
最後にわがまま、気ままなお願いですが、
あと1本と迫っておりました両リーグ200号本塁打.。
この1本を皆様の夢の中で打たせていただきますれば、
これにすぐる喜びはございません。」

ということで保全sage

689 :688:02/02/11 13:50 ID:kjWnPIdk
22年間お世話になったこのマウンドに 別れを告げる事になりました。
皆さんの御声援に応えるよう 情熱を持って投げてまいりましたが
皆さんの御声援に応える 投球が出来なくなり 限界を感じ 引退致します。

思えば私の野球人生は 多くの恩人との出会いの連続でした。
出会いがあるたびに たくさんの事を経験し 学ばして頂きました。
この学んだ事を私の財産として これから生かしていきたいと思います。

プロ野球でなんとか成功したいという夢を持ち この世界に飛び込んで来た私が
この歳までプレーできた事を誇りに思います。

テスト生で入団した私が これだけ長い間現役を続けてこれましたのも
球団を初めとし 諸先輩 スタッフ チームメイト そしてファンの皆様のお陰と思っております。
感謝の気持ちで一杯です。ありがとうございました。

私の現役生活は今日で終わりですが 野球人生はまだまだこれからです。
今後 私が学んだすべてを 若い人達に伝えるため
コーチとしてユニフォームに袖を通すつもりです。

私にはまた新たな夢が出来ました。
現役時代同様 情熱を持って取り組んでいくつもりです。
今後ともカープを 私を よろしくお願い致します。
本当に長い間 御声援ありがとうございました。

横浜ベイスターズの皆さん 私の引退セレモニーを
最後まで見届けて頂きまして 本当にありがとうございます。

690 :683=688=689:02/02/11 15:37 ID:ZtERBDgL
上のコピペ長くてスマン。
復習を兼ねて人間関係を自分なりに整理してみた。あまりうまくまとまってないけど
なにかの参考になってくれたらうれしいです。

◎=良好 ○=普通 △=微妙 ?=不明
サヤカ  → マキ =◎ 夢で感じさせたくれた
     ← マキ =? 夢の中で愛撫をしてくれたが、サヤカが好きかどうかはわからない
     ⇔ ケイ =○ 店長と従業員というよりは友人に近い。
     ⇔ マリ =◎ 幼馴染で大親友。
     ⇔ ナツミ=◎ ただのバイト仲間だったが、一緒に食事に行き親睦が深まった。
     ⇔ カオリ=○ ただのバイト仲間。
     ⇔ リカ =◎ 最近親しくなり始め、家にもおじゃまするようになった。
     → ヒトミ=△ ヒトミがサヤカに対して何をしたいのかわからない。
     ← ヒトミ=? 表面的には好意を装っているが実際は何を考えているのかわからない。
     ⇔ ユウコ=○ 可もなく不可もなく。
  リカ ⇔ ヒトミ=◎ 一見すると鉄板。

691 : :02/02/11 17:35 ID:0l7dTJwo
hze

692 :( `.∀´):02/02/11 18:55 ID:xpweVqIg
( `.∀´)<>>688,689は激しくスレ違いよ!


693 :( `.∀´):02/02/11 23:52 ID:KOVLGQHV
いまよ!せんげっとぉぉぉよ!
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄(´´
             )      (´⌒(´
  ⊂( `.∀´)⊂⌒`つ≡≡≡(´⌒;;;≡≡≡
        ̄ ̄  (´⌒(´⌒;;
      ズザーーーーーッ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄
               (´;;
  ⊂( `.∀´)⊂⌒`つ (´⌒(´

はやすぎたようね・・・
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   
  ⊂( `.∀´)⊂⌒`つ; (´⌒(´

はぁ〜、どっこいしょっと・・・・・・・・・
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  
    ( `.∀´)⌒ヽ
     U‐U^(,,⊃'〜... (´⌒;;

なに見てるのよ、照れるじゃない!
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ポ         ポ
ン   ( `.∀´) .    ン
   (´;) U,U )〜 (;;).
(´)〜(⌒;;UU (´ )...〜⌒(`)


どうかずれませんように・・・

694 :( `.∀´):02/02/12 22:34 ID:YbQvKgBn
なんだかAA荒らしをしている気がするので控えめ保全

695 : :02/02/13 10:53 ID:l9hW56h8
保全

696 :保全:02/02/13 19:08 ID:8UAVlaHm
保全

697 : :02/02/14 19:36 ID:r6UhcckG
h

698 :( `.∀´):02/02/14 22:44 ID:MT/4Pu8h
控えめ保

699 :名無し:02/02/15 16:31 ID:2aZJtaW2
保全

700 :ねえ、名乗って。:02/02/15 22:46 ID:g+6PoDg+
>>683=688=689
新手の荒らしか?

701 :ねえ、名乗って。 :02/02/16 16:56 ID:uklw7D7O
保全sage

702 :683:02/02/16 17:01 ID:jVZvfUjW
>>700
ただ保全て書くよりはなんか書いたほうがいいかなあと思って書き込んだだけ。
はたからみたらうざいだけですね。スマン。


703 :( `.∀´):02/02/16 23:57 ID:b19cH6Mm


704 :名無し募集中。。。:02/02/17 05:26 ID:D8g9Pxex
hozen

705 :名無し募集中。。。 ::02/02/17 13:44 ID:84FvUsnW
保全

706 :( `.∀´):02/02/18 00:03 ID:rd9gYgKg
h

707 :( `.∀´):02/02/18 22:27 ID:/7qFVX5l
o

708 :作者:02/02/18 22:57 ID:TzP0qypQ
z

709 :( `.∀´):02/02/18 23:11 ID:/7qFVX5l
e

710 :( `.∀´):02/02/19 04:44 ID:rxg4Imoj
n

711 :名無し:02/02/19 15:25 ID:rOhj8oPP
保全

712 :( `.∀´):02/02/20 21:26 ID:qNJA5Jzy
CD発売おめ保全

713 :( `.∀´):02/02/21 21:31 ID:FixYT1jR
次のセンターはヤッスーキボンヌ保全

714 :( `.∀´):02/02/22 23:14 ID:3+Rusz8J
( `.∀´)<今日のMステはヤッスー祭よ!

715 :名無し:02/02/23 15:41 ID:bLXpU84l
( `.∀´)写真集発売決定記念カキコ

716 :( `.∀´):02/02/23 22:29 ID:OIL0o4nC
( `.∀´)ノ□<一人3冊以上買いなさいよ!

717 :( `.∀´):02/02/24 11:55 ID:twwCn9pF
(#`.∀´)ノ凸<今日は昼から酒盛り保よ!

718 :名無し:02/02/24 15:29 ID:iZfpJtAr
がんばれ( `.∀´)

719 :いちびりヤグたん ◆145cmgdM :02/02/24 16:07 ID:CwK2lIrk
(〜^◇^)<写真臭は2冊予約したよ!

720 :( `.∀´) :02/02/25 18:25 ID:X3BCXApD
写真集発売日まであと5日!

721 :ねえ、名乗って。:02/02/25 21:43 ID:lQdB59na
正直、再開するとは思えん

722 :( ^▽^):02/02/25 21:59 ID:jt5y466H
>>721
( ^▽^)<するよ!

723 :名無し募集中。。。:02/02/26 00:06 ID:Js9ZUzoD
もうだめぽ

724 :( ^▽^):02/02/26 21:21 ID:Il7EUEap
>>723
( ^▽^)<するよ!

725 :  :02/02/27 06:34 ID:3mNupUm3

おはようございます。このスレの作者です。
長いこと休んでしまい、申し訳ないです。
休載する予定はなかったのですが、手直ししてたらこんなにも間が
空いてしまいました。

ということで、今日の夜か明日にでも更新しようと思っています。
前に宣伝したように新しいスレに移行します。
ですがここで一つ問題が‥‥。
途中だったので適当な氏にスレを使うつもりでした。ですがさっき、誰かが立
ててくれた同名スレを発見しちゃいました。しかもご丁寧に前スレ付きで。

僕としては氏んでるやつを使いたかったのですが、やはり立ててくれたスレに
書いたほうがいいのでしょうか? やっぱ立ててくれた人に悪いかな。


726 :名無し募集中。。。:02/02/27 06:45 ID:KhcO/xfn
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!

で、スレのことだけど、好きにしていいんじゃない?

727 :ねぇ、名乗って:02/02/27 10:46 ID:Za/PgbVB
>>725
ある意味あれも氏にスレだと思われ(w

まぁあるんだからそれ使えば良いんじゃないの?
ガンガレ!!

728 :( `.∀´):02/02/27 20:16 ID:ddOu0NgN
ヤス━━━━━━( `.∀´)━━━━━━━!!!
なんで氏にスレ使いたいのかよく分からないけど、作者さんが立てたら?


729 :  :02/02/27 22:39 ID:he9VwkhN

氏にスレのめぼしは付けていたんですが、やっぱあれも氏にスレみたいなんで
そっち使います。立ててくれた人、ありがとうございます。

そして長いこと保全してくださった方、ありがとうございます。

http://tv.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1014538551
にて再開します。コアな話になると思いますが、よろしくお付き合い
くださいませ。

>>728
いろいろ思うところがありまして。

730 :名無し娘。:02/03/01 16:35 ID:Fr/GjHFf
ほぜん

731 : :02/03/03 16:08 ID:YBGAmmno
( `.∀´)

732 : :02/03/05 01:29 ID:FdVRy/5v
h

733 : :02/03/09 20:40 ID:+pCkaSC2
o

734 :名無し募集中。。。 :02/03/14 00:02 ID:IQqZDZ2b
保全

735 :名無し。:02/03/14 17:45 ID:s7EH430u
なんで保全してんのさ。
荒らされる前にdat逝きにすべきでは?

736 :ななし:02/03/16 11:56 ID:HPaaGwys
h

737 :名無し娘。:02/03/17 22:15 ID:zXPIJUMe
o

738 :名無し募集中。。。:02/03/18 05:04 ID:Uuk9rKaa
z

739 :名無し募集中。。。:02/03/19 09:09 ID:Q83VaVZf
e

740 :K太郎:02/03/19 09:24 ID:sPkTZA0r
n

741 : :02/03/19 16:56 ID:uYOTrgPT
@ノハ@
( ‘д‘)

742 :名無し:02/03/20 03:01 ID:Ymd0uES4
http://page.freett.com/nono2004/モーニング娘。-ハロモニ-辻焼きそばで泣く.mpg
イリア用

743 :nanasi:02/03/20 03:51 ID:RVz462p3
http://csx.jp/~dosankoasami/dream_Movin' on.mpg

744 :nanasi:02/03/20 03:53 ID:RVz462p3
http://csx.jp/~dosankoasami/dream_My will.mpg

745 :名無し募集中。。。:02/03/20 14:16 ID:kyQwOrvM


746 :かく:02/03/20 20:29 ID:v3G3lwX3
くか

747 :名無し募集中。。。:02/03/21 21:01 ID:DA0q94aE
 

748 :chicken:02/03/23 15:21 ID:DGwid6nB
すみませんちょっと借ります。

749 :  :02/03/23 15:40 ID:mdUiXwkK

ダメ

750 :  :02/03/23 15:41 ID:mdUiXwkK

(;´D`)<……。

751 :co:02/03/23 20:05 ID:DGwid6nB
k

752 :chicken:02/03/23 20:24 ID:DGwid6nB
k

753 : :02/03/23 22:41 ID:0C/y0bjr
q

754 :名無し募集中。。。:02/03/24 05:21 ID:giNtVmmi
test

755 :名無し募集中。。。:02/03/24 05:21 ID:giNtVmmi
てすと

756 :報告:02/03/25 15:18 ID:FdpwNmek
このスレが1番下まで下がっていました

757 :名無し募集中。。。:02/03/25 15:22 ID:FbsChgBG
もうdat落ちさせとけや

758 :名無し募集中・・・:02/03/25 16:54 ID:YCtia5YF
DREAMもいっかいお願いしたい

759 :名無し募集中。。。:02/03/28 14:00 ID:IUQHxg/e
n

760 :名無しさん:02/03/29 17:35 ID:Pw1Qd7Ku
 

761 :名無しさん:02/03/30 00:26 ID:MBmXr8bd
 

762 :名無しさん:02/03/31 00:23 ID:2JD6mvrb
 

763 :名無し募集中。。。:02/04/06 10:32 ID:C3INYMEe


764 :名無し募集中。。。:02/04/06 10:33 ID:C3INYMEe
預言

765 :名無し募集中。。。:02/04/07 20:32 ID:cTE5mWsx
4112

766 :a:02/04/08 17:24 ID:9u7XEZUc
おわだまさこ       お   だ   さ  こ
                \ / \ /
          →      わ   ま
                / \ / \
かわしまきこ       か   し   き  こ


767 :名無し募集中。。。:02/04/08 23:07 ID:8NZrFmYz
ここを保全してるのは何か意味があるのか?

という俺の書きこみも保全になってしまってはいるが。

768 :名無し募集中。。。:02/04/10 21:51 ID:7N6Y4XEi
預言

769 :名無し募集中。。。:02/04/12 21:41 ID:+er58q1T
預言

770 :名無し募集中。。。:02/04/12 21:42 ID:+er58q1T
あと13日

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